青色の眼鏡の心   作:揚げやきとり

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第2話 僕と家で君は来客

「どう? 萌え袖」

「とってもかわいいと思うよ?」

「どうして疑問形?」

「戸惑ってる……のかな?」

 

 

「そっか。満足した」

 

 

 君が着替えから戻った。

 

 本当に満足したように笑顔になる君。そこまでぱっと笑顔になれるのは、もはや特技だと思うんだよね。

 しかもとっても可愛いとくるんだもの。笑わせたくなる僕の気持ちにも理由がつくよね。

 

 ちょっとかわいすぎてつらい。背中合わせて一緒にゆらゆら揺れたい。

 

 頭の中がぐるぐるするくらい、たいへんよい。

 

 

 

 君が着ている、袖の長い、僕の好きなオレンジ色のセーター。

 何故だか分からないけれど、リンゴが食べたくなってきた。苦手だけど。

 

 あれ? 苦手だったっけな。

 

 そういえば君はリンゴの皮むきが苦手だったよね。

 

 ――あれ? ちょっと前にむいてたっけ。苦手じゃなかったかな?

 やっぱり頭はこんがらがってる。

 

 

 

「その手、触らせて」

「いやらしいこと考えてる?」

 

 

 え。

 

 

 ちょっと驚いた僕の目の前で、自分の体を自分で抱きしめる君。

 あぁそうか、遊ばれているのか。と気付くのは、もう少し後のこと。

 

 

 僕はずっと純粋でいたいんだから、そういうことは言わないで。

 それくらいなら、まぁ、別にいいけどさ。

 

 子供か、って言っちゃうよ? いいの?

 

 

 君はあんまり気にしなさそうだけど。

 

 

 

 

 僕はこのとき、ちょっと驚いて言ったんだ。

 

「そんな事あった?」

 

 あごに手を当てて君が言う。

 

「ないね。一度も」

「だよね。よかった。ちょっとびっくりしちゃった」

 

 

 真面目に驚いたのに、そんな事には気づいていない様子の君。

 

 君はおどけて言った。

 

 

「そういうお年頃?」

「それ、僕のせりふ」

 

 

 

 

 今日の天気は曇り空。

 ここは僕の部屋。清潔に掃除してあるのは、洗面台の隣に置いてあるほうきのお陰。僕はあいつに感謝してたりする。ただのほうきだけど。

 嫁がくるから、いい匂いにしたい。なんて思ったけど、

 君は偽物の匂いなんて嫌いだろうから、今日の朝ご飯はぽんかん。僕にはちょっとすっぱかった。

 

 

 

 部屋に入った瞬間、君はくるりと振り返って、言った。

 

「キミ、今日の朝ご飯は?」

 

 ……ばれた。

 

 

 

「ぽんかん」

 

 名探偵に見つかっては、犯人も自首するしかないよね。

 

 君になら捕まってもいい、なんて言ったら、なーるしくん、だなんて呼ばれてしまうんだろうか。

 

 

 ちなみに君になら捕まってもいい。

 

 

「香り焚き?」

「その言葉は違うけど、君の言う事はあってる」

 

 

 君も一緒なら、どこだっていいよ。

 じつは、わりとまじめに。

 

 

 そこまで見破られてしまったとは。

 というか『香り焚き』ってなにさ。

 

 まぁ、気付いてくれるなら、それはそれで。

 

 

「キミは芳香剤とか嫌いだもんね」

「嫌いなのは君じゃなかった?」

「え?」

 

 

 さっきの僕の驚いた顔は、きっとこんな感じだったんだろう。

 冷や汗が浮くような素の驚き顔、おどけた感じ付き。わざとらしい。

 

 わざと表情を似せて小馬鹿にしてるんだよね? 知ってるんだから。

 

 

 でも、そこがいい。またいい。すごくいい。くぁわいい。

 

 

 なんて思っても、僕の心は正直だ。隠せるものも隠せない。

 おどける君の顔が可愛いなんて言ったら照れるだろうな。

 

「おどける君の顔が可愛い」

「うが」

 

 ほらね。

 

 

 

 

 そして、今日は隣に座ってくれる君と話をする。

 くだらない話。でもいい。

 

 

「今日は何をする?」

「ババ抜きがしたい」

「やだ」

「けち」

 

 僕が提案したババ抜きは、速攻却下されてしまった。

 でも、『やだ』って台詞が可愛かったから許す。

 

 

「じゃあ、腕相撲をしよう」

 

 今度案を出して来たのは君だ。自然とからかい言葉が出てくる。

 

「手が触りたいなら言えばいいのに」

「手が触りたいって言ったのはキミでしょ?」

「そうだったっけ」

 

 

 僕が君の手を触りたいと言った、らしいが……僕は覚えてない。真面目に。

 それを君も分かっているようで、どうにか思い出させようと記憶をたどっているように君は少し考えるしぐさをして、手をぽんと叩く。そして、言う。

 

「ほら、萌え袖のくだり」

「くだりって言わないの」

 

 

 そうそう、そんなのもあったね。

 

 

 

 なんて思ってたら、君が少し不服そうに言った。

 

「触りたいわけじゃないんだけど」

 

 

 僕の返答で会話は続く。

 

「はいはい、そうね」

「信じてないね?」

「僕が触りたいから信じない」

「このがんこおとこちゃんめ」

「そういって触らせてくれる君も好き」

「……反則」

 

 

 おどろいた。

 

 珍しく、嫁が照れた。

 好きだなんていつも言っているが、不意のそれは格別なんだろう。

 萌え袖に照れた頬、ストレートの髪からはみかんの匂いがする。嬉しい。

 

 

「珍しいね。君の髪もオレンジの香りがする」

「……っちょっと、待って」

 

 

 『今日の君の香水もぽんかんかな?』なんて言おうとしたけど……、

 

 

 僕の好きなみかんに合わせてくれるとこ、とっても嬉しいから。

 そこにはあまり触れないでおくよ。

 

 そーして、僕が気付かないであろうくふう、それにちょーど気付いちゃった、ってときの不意の照れ顔が恐ろしいほど――ああ、かわいい。

 

 

 

 

 だけど照れた君なんて珍しいから、もっと試してみる。

 

「好き」

「まって、まってってば」

「照れた君もかわいい」

「ま、まっ」

「ぎゅうー」

「やめ」

 

 どちらが悪いかと言えば、どちらかというと隙を見せた君が悪い、なんて。

 君の体に手を回して、そのまま抱き包んでやる。

 

 よめのかおり。

 

 

「……こうさん、するからっ……」

「へへ。だめ」

 

 流石にいじめすぎて、君は黙り込む。

 赤面が止まないから収集が付かなくなったんだろうね。

 

 でも、一番かわいいのはそういうところ。

 

「そういうところが、一番すき」

「……おぼえてろよ」

「そういうこと、言う?」

「うるさいっ」

 

 

 

 時間が経ったら、君の心臓の音がやんだ。

 もう少しいちゃいちゃしたかったけど、そういう事言ったら後で怒られるよね。

 

「もう少しいちゃいちゃしてたかったな」

 

 まあ、言うんだけど。

 

 

 ぺしっ。

 

 君の小さな手が僕のおなかを叩く。いたい。

 

 

「いたい」

「あっ、ごめん」

「じょーだん」

 

 冗談で『じょーだん』って言ってみる。

 

 

 ぺしっ。

 

 叩かれた。

 

 

「いたいいたい」

 

 ぺしっ。

 

 

 君の手が、余計に1回多く僕のおなかを叩く。

 僕は不満げに感想を述べてみる。

 

「ちょっと、今のは反則じゃない?」

「おあいこ」

「そっか」

「うん」

「じゃあ、何も言えないや」

 

 

 僕の対応が気に入らなかったようで、君はこう言ってきた。

 

「この眼鏡しゃいぼーいめ」

 

 しゃい、ねぇ。

 どうだろう。

 

 

「シャイじゃないよ?」

 

 君の顔を覗き込む。なるべく、逃げ場をなくすように。

 

「ふあ」

「シャイ、じゃない、よ?」

 

 こんどは耳の近くで囁いてみる。

 

 

 

「声だけはいいから、君はこれで落ちちゃうんだよね」

「……また、まけた」

 

 

 顔を隠した君の指の間から、真っ赤に染まった顔が見える。

 

 アイスバーで当たった時みたいな気分だよ。

 

 

「えへ、うれしい」

「どうして恥ずかしがらないの? まさか遊び半分?」

「そうだけど、そうじゃないよ」

「説明して」

 

 

 僕はちょっとごまかしてみる。

 

「遊び半分だけど、遊び半分じゃないよ」

「説明になってない」

 

 

 僕がごまかさないで伝えてみる。

 

「遊び半分だけど、照れる君も好きだから。本気、半分くらい」

「うが」

 

 

 さっきから照れてばっかりの嫁。萌え袖なんか、萌え嫁にはかなわないね。

 

 ……だなんて、君に伝えてみたんだけど。

 

 

「そう思わない?」

「たらしめがねちゃんめっ……!」

 

 

 うがーっ、て叫びながら、君が僕のおなかに飛び込んでくる。

 ちょっと痛いけど、嫁が可愛いから、ちょっとだけ痛みが柔らかくなった。

 

 

 和らいだ、か。でも、柔らかくなった、でもあってるよね。

 

 君の肌は柔らかいから。特にほっぺ。かくべつ。あんまり触らせてくれないけど。

 

 

 

「そう言って、嬉しいくせに」

「うるさいうるさいっ」

「いいんだよー、照れるのはあたりまえだしねー」

「誰のせいだと思ってる!」

 

 

 素直じゃないなあ。

 

 ということで、もう一度――君の耳のそばで。

 

 

「すーきー、だぁーっ」

「やぁーめー」

 

 

 抱きしめていたら、君のほほから熱が移ってきてしまった。

 

 

 

「ぜっさん、君のせいでおさまらないよ」

 

 まだ真っ赤な顔を押さえつつ、睨むように見てくる君。

 

 さっき囁いた時の心臓の鼓動は、もう和らいでしまっていたから。

 そんな理由で、もう一度囁いたけど……やっぱり、君の心臓は素直だね。

 

 

 でも、ちょっとやりすぎちゃったかな、と思って頭を撫でてやったりする。

 

 

 

「そっか。じゃ、そろそろ手を触らせてくれる?」

「まだ覚えてたの?」

「もえそで、もえそでー……」

 

 

「この、もえめがねちゃんめ」

 

 しってるよ。

 

 

 

 え。もえめがね?

 もえるのは君のほうじゃなくて?

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