†MULTIPLE AIGIS†SPECIAL Ξ THE HAPPINESS DIZAIA 作:てゐと
ドタッ!!バンっ!!
粗暴な音をたてて自室に戻ってきた完殺…わかなは放心していた。そして思い返す度に胸の奥で何かが割れる感触が彼女を襲っていた
わかな「どうして…?訳わかんない…!!」
眼鏡を投げ捨てて怒りと悲しみを露にして部屋の私物へ八つ当たりする。それで気持ちが晴れるわけないのに、それで真実が虚実になるわけじゃないのに、頭では解っていてもあふれでる慟哭を止めてくれたのは時間だった…
数時間後…。わかなは自分の部屋を見る影も無くズタズタにするとシャワーを浴びながら三角座りですすり泣いていた…。
わかな「初恋だったのに…敵だった…、初恋だったのに…女だった…、初恋だったのに…」
何度も呪文のように同じ頭文句から言葉を放つ。しかしある程度落ち着いたのかシャワーを止めて部屋に戻っていった…。ちょうどその時、電話が鳴ってビクリと驚いた。
わかな「…べ…紅袖…」
ガタガタと震えながら机から電話を落とすわかな。もはや拒絶反応だった
わかな「い…いや…どうして…!?まだ…まだ時間は…!!」
???「どうしました?そんな面白い顔をして」
わかな「あああああっっ!!!!!」
真後ろからの声に机のナイフを投げて拳銃を乱射するわかな。しかしそこには誰もいなかった
紅袖「いやですねぇ、敵じゃありませんよ、私ですよ~」
わかな「紅袖さん…!ま…まだ時間は残ってます!次の手もあるんです!!」
紅袖「わかってます、わかってますよ。あなたは時間がかかるだけが欠点のいい子…ですよね?そぉんな怯えた目で見ないでくださいよぉ、私が悪辣非道な畜生みたいじゃないですか!ぷんぷん」
わかな「いえ…そんなことは…すいません…その…取り乱して…」
紅袖「まぁとりあえず服を着ながらでいいですから聞いてください。今回は頑張ってるあなたに餞別をとどけに来たんですよ」
わかな「餞別…?」
紅袖「えぇ、これです」
わかな「そ…それは…?」
紅袖「最初は痛いですけど徐々に慣れます。これを使ってでも完遂させてくださいね」
渡されたのは…赤い薬液の入った注射器…。明らかに普通ではないのは火を見るより明らかだった
わかな「え…そ…の…」
紅袖「いいですか?一番薬が効きやすいのは血管です。血管にアルコールを流せばどんな酒豪でもすぐ酔っちゃいます」
わかな「話が見えないです…。こんなもの無くても私はっ!!」
紅袖「わかってますよ。ですから強要はしてません、お守りとして持っててくださいな」
優しい言い回しで渡される謎の液体…。わかなはおそるおそるそれを手に取る
紅袖「いい子です。いやぁ良かった良かった、もし出来なさそうなら私が皆殺しにして」
わかな「それだけはっ!や…やめておいたほうが…」
紅袖「まぁ確かに…。巻き込みすぎると後処理が面倒ですし…」
わかな「(…やっぱりダメだ…。やっぱりゆきのを殺すしか皆さんを…アデアさんを救う方法は…)」
紅袖「では、期待してますからね?」
わかな「必ずゆきのを…!」
わかな「(…。アデアさんを護るためにアデアさんが邪魔をする…。どうすれば…)」
ゆきの暗殺まで、後…二日…
アンペルト「ライラ、ちぃとは落ち着けや」
ライラ「けどよぉ…」
アンペルト「わしらが今行くじゃろ?そうしたら厄介じゃ、アデアの邪魔にしかならんわ」
ライラ「感かよ」
アンペルト「感じゃ」
ライラ「かっこつけかよ…いい年してよ」
アンペルト「うっさいわい。しばらくは非常食でも食って我慢じゃ、アデアがあんなタンカ切っとんじゃ。わしらは信じて待つだけじゃ」
ライラ「…。わーったよ!俺もアデアを信じて待つ!これでいいだろ!」
アンペルト「とはいえ、電話も外出もできんのは中々堪えるのう。どうじゃ?部屋を荒らさず戦闘訓練でもやるか?」
ライラ「嫌だ。だりぃし親父には俺の幻実が効かねぇじゃんか」
アンペルト「ステゴロじゃ不満かい」
ライラ「親父の拳骨がどれだけ痛いか一番良く知ってる俺が言うんだぜ?ったりめーだろ」
アンペルト「…、能力に頼ってばかりじゃといつか痛い目に会うぞ、わしもそうじゃったけん」
ライラ「親父が?まっさかぁ!それに俺の幻実は親父以外にゃ見破られたことないだろ」
彼が、ライラが絶対の自信を持つ特異能力「幻実(げんじつ)」とは、ゾロアークが持つイリュージョンの突然変異した特異な能力だ。なんとただの幻影物を当てたり当たっただけで痛みを伴う。さらにこの痛みは倍増する、そしてあまりにもリアルなため現実と幻想の区別がつかなくなり、次第に錯乱へ陥る。それが「幻実」であり、義父であるアンペルト以外にはまず見破られない。実際にベノもシャーヴァルも気付かず騙されていたことがあるほど精密である
アンペルト「わしは付き合いが長いからじゃ。じゃからこそわかる。最近のおどれは能力に頼っとる。現にわしと小細工無しでやれんのがなによりの証拠じゃ」
ライラ「それは関係ねぇだろ!」
アンペルト「(すぐに挑発に乗る…まだまだガキじゃな…)なんじゃ?それとも臆病なだけか?わしが怖いか?」
ライラ「あったま来たぜ!!親父がぶん殴られてぇならお望み通りにしてやるぜ!シップは自前で用意しろよ!!」
アンペルト「上等じゃ!その根性叩き直したるわ!」
笑いながらキレる息子を軽くあしらうアンペルト。内心では微笑ましく思いながら殴りかかる拳にカウンターを決めたりとかなり本気で相手していた
ライラ「っなろ!こんのぉ…!クソ親父!!」
アンペルト「誰がクソ親父じゃ!!」「いってぇ!!」
ライラ「っつ~!本気で拳骨しやがったな!?もう勘弁しねぇぞ!!」
アンペルト「最初から本気だせやボケ!」
お互いに一歩も引かずに殴り会う二人。意外にも部屋はまったく荒らしてない辺り小細工無しのガチのケンカだ
アンペルト「はっ!やればできるやんけ」
ライラ「うっせぇ…!後ろにさがってるだけだろボケ…!」
アンペルト「ようやく気付いたんか」
ライラ「俺にマーシャルアーツ教えたの誰だよ…!親父だろうが!」
アンペルト「教えたらそのまま進歩しなかったおどれの責任じゃけぇの!」
ライラ「っー…!」
言葉がでない。本心を突かれてライラは下唇を噛み、拳を握りしめる
ライラ「っ…たしかにそうだがよ…!俺には幻実がある…!親父じゃなきゃ誰にだって俺は無敵なんだよ!」
悔しさと怒りに身を任せてドアを蹴り開けて外に飛び出すライラは一心不乱に一人になるために走り続けた
ライラ「誰も!誰も俺の事わかっちゃくれねぇ!」
アンペルト「っ~!はぁ…。やってもうたのう…」
自分への怒りを抑えてその場で座り込むアンペルト。こんな時に限って息子との大喧嘩をしてしまったのが悔しい。
アンペルトは生まれてから物心付いた時には一人だった、そして彼が人間年齢でいう11の時に当時6才ほどのライラと出会い、親と子の関係になった。兄ではないのは単純にアンペルトが教育するために兄では説得力がないため親になったため
それからというもの、彼らは苦楽を共にし。生きてきた。だがライラが病気になり、アンペルトがそれを治すために窃盗を繰り返したが、ベノたちの手によって捕縛。アンペルトの願いによってライラは救われ、アンペルトは牢獄へ、ライラもそれを追おうとしたがベノによって二人は兎組へ配属することを条件に貧しさから解放された
歳で言えばもう思春期であり、反抗期。親を知らず、兄弟もいないアンペルトには重い課題だった…
ライラ「…とは言ったけどよ…。この壁があるから出れねぇよなぁ…」
深いため息をしてしぶしぶ庭を散歩するライラ。命令上では外出禁止と他のメンバーとの合流禁止が命じられているため部屋に戻る以外に手はない
ライラ「どーすっかなぁ…この壁出てるってことは地下もダメだろうなぁ…」
ライラは確かにまだまだ他の組と一緒に見ても若く、青二才な面が目立つ。だが種族柄こういうときには頭の回転が早い。この状況でも湯水のようにアイディアが思い浮かぶ
ライラ「…!アデアだ!アデアならわかってくれるよな!」
早速部屋に向かうライラ。いざ命令違反の上で入るとなると相手がアデアでも緊張してしまう
ライラ「やっべぇな…こんなプレッシャーかかるもんなのかよ…」
おそるおそるインターホンを押して中へ連絡する。数秒もたたないうちに返事が帰ってきた
アデア「誰だ」
一瞬ビクッとなる。インターホンからはドスの効いたアデアとは思えない冷酷な声。その一言が先ほどから感じていたプレッシャーを放っていたのがアデアであると第六感が警告した
ライラ「あ…アデア…?俺だ、ライラだけどよ…。すまねぇ…、こんな時に限って親父とケンカしちまった…」
アデア「…」
帰ってこない返事。緊張感が煽られていくのがわかる
ライラ「入れてくれなんて言わねぇ…。ただ…俺はどこへ行けばいい…?命令違反なのはわかってる!だけ「黙って」」
恐ろしいほど冷たい一言でライラは死んだように黙ってしまう。まさかアデアからこんな態度をとられるとは思っても見なかった
ライラ「ぁ…っ…」
言葉がでない。今俺がインターホン越しに話してるのは本当にアデアなのか…?これは夢…?それとも幻…?わかんねぇよ…。アデアじゃねぇだろ…
アデア「…。ライラ。いつまでそこにいるの?」
消えてくれとも言わない冷たさが身を切る。いつものアデアなら誰かがこういうことを言うと怒る。なのに、それをアデアが言うのがすごく怖かった…
ライラ「…すまねぇ…」
それだけしか言葉は出なかった…
ゆきの「…アデア…」
アデア「ゆきの…心配しないで…。今からライラの真意を確かめるから…!これは一か八かだけど…」
ライフ「気をつけてね、確証は無いけれど…私までのメンバーは味方だと思ってるわ」
アデア「僕も同じだよ、でもそれは確実ではない。このかはいつでもゆきのを殺せただろうし…アンペルトもライラも出身が出身だからね。それに人数が増えることは分かっていたはずだしそれなら早々にゆきのを始末してるよね」
ライフ「すると…やっぱり私から後に入ったメンバーが怪しい?」
アデア「そうとも限らない。全員に疑いはある。だけどライラが味方なら…アンペルトも味方になる」
ライラ「どうすりゃいいんだ…どうすりゃ…」
その時、足音が一つ多く聞こえた、振り返るとそこには…
ライラ「なっ…」
アデアが鏡月を片手にゆっくりと歩いてきた。その眼は冷たく据わっている
ライラ「アデア…?!」
頭の中が真っ白になる。これは現実なのか?それとも幻影?普段は自分が他者へしていることが鏡に映すように帰ってきた気分だった
ライラ「なんだってんだよ!おい!!お前本当にアデアなのかよっ!?」
アデア「そうだとしたら?」
ゆっくりと抜刀される鏡月。ライラはじりじりと後退りながら一定の距離感を保つことが精一杯だ
ライラ「(…本気じゃねぇのか…?)なぁ、アデア」
アデア「…」
ライラ「なんで峰打ちしようとしてんだ?手加減か?それとも最初からやる気ねぇのかよ…?」
アデア「…」
ライラ「答えねぇのか…。それじゃあやることは一つだぜ?」
後ろを向くとなく、アデアを見ながら跳び、ライラは逃げ出した!
ライラ「俺が意味ねぇこと好き好んでやると思ってんのか?」
アデア「…逃がさないよ」
脱兎のごとく走り出したアデアはあっという間にライラの目の前まで迫っていた!しかし予想していたのか焦ることなくアデアをあしらうライラ。先程までの焦りや慟哭が感じられないほど冷静だ
ライラ「(アデアのスピードに合わせてわざと間合いを近くしてやれば鏡月はそうそう振れねぇだろ…!)」
付かず離れず、鏡月が大太刀であることとアデアの早さを逆手に取った戦法だった。ここで手を抜くはずもなく、ライラはスピードを落としたアデアに合わせるように距離を取り、鏡月の間合いを潰す。そして隙を見つけてアデアの手から鏡月を弾くと足先に力を溜めて蹴り抜いた!
ライラ「狂気乱武!!(きょうきらんぶ)」
赤黒い衝撃とともに壁に叩きつけられるアデア。ライラは改めてファイティングポーズを取る
ライラ「まだやるか!?こんな無駄なこと!」
アデア「…。いや、ライラの真意はわかったから」
立ち上がったアデアの眼はいつもの優しい瞳に戻っていた。そこでライラも自分が何らかを試されていたことに気付いた
ライラ「聞かせてくれよ。何があったのかをよ」
アデア「わかった。その前に部屋に来てほしい」
ライフ「…?」
ゆきの「どうしたの?」
ライフ「何か聞こえない?時計かしら?」
ゆきの「どこから?この部屋には確かに時計があるけど時刻によって音が鳴るタイプよ?」
ライフ「…。それなら用心したほうが良さそうね…!」
身構えた瞬間に爆発する扉!そこに立っていたのは…
わかな「…」
仮面をつけ、いつもと違う服装と髪を隠した完殺…わかなだった。もちろん見た目も相まってゆきのたちはアデアがあえて言ってなかったためその正体に気がついていない
ライフ「下がってて!ゆきの!はあっ!!」
素早く格闘で完殺と対峙するライフ。互角に見えて完殺の動きがすこし甘い
わかな「(本当は…こんなことしたくない…。でも…ゆきのを殺さなければ皆さんが…アデアさんが…)」
ライフ「あなたは誰!?どうしてこんなことを!」
わかな「…(あなた達を救うためなんて…簡単に言えたらどれだけ楽になれるか…)」
仮面に隠れた顔は悔しさのあまり歯を強く食い縛っていた。
次回 †MULTIPLE AIGIS†SPECIAL Ξ THE HAPPINESS DIZAIA episodeⅢ 第五章
「おいっ!どうなっているんだ!!」
紅袖「…なんのことでしょうか?」
「ゆきのの暗殺だ!まだ終わってないそうじゃないか!!あれだけの金を払ったのによくもこんなギリギリに!間に合わなかったらどう責任をとってくれるんだ!!」
紅袖「行けませんわぁ…そんな物騒なことを口に出されては…」
「私たちは焦ってるんだ!ゆきのが死ねば!どれだけの金が入ることか…!!」
紅袖「重々承知ですもの。ですのでご安心なさってくださる?我々の暗殺成功率が裏世界から一つの権利を奪ったというプロパガンダをお忘れですか?」
「わかっている!あのデストロメア以上だと言うのもな!」
紅袖「困りますわね。撤回してくださる?あんな皆殺しだけが取り柄のライオンシュレッダーと一緒にしないでくださいな」
「撤回など必要ない。お前たちは同じだ。仕事をして金をもらう。そこに職の番別などあるものか」
紅袖「…それもそうですね。お仕事は大事ですもの。ところで…契約の際の注意事項って覚えていらっしゃいますか?」
「突然何を…」
紅袖「仕事のやり方に文句をつけるな、ですよ」
スパッ
紅袖「ではごきげんよう。死人のあなたに言っても仕方ありませんが…ハルサキの皆さんはルールを破ったため連帯責任で全員死んでいただきますね」
「死人?いったい何さっきから…」
ポロッ…ドサッ
紅袖「おやおや、体が死を受け入れるのに随分時間をかけましたのね。首を切断しましたのに。まぁいいでしょう。あの子もどうせ失敗するでしょうし。仕方ありません。奥の手ですかねぇ…?」
お疲れ様でした。剣盾編もがんばります!