登場人物の情報量が少ないですが、おいおい出てくるので楽しみにしていてください。
どうぞよろしくお付き合い頂ければと思います。
10月4日 ガレニア共和国ゼーレムント────
ブリーフィングルームは今や軍服姿で一杯になっていた。全ての目が────例外なく全ての目が────モニターに釘付けになっている。
それはどこかの定点カメラからの映像だった。建物の屋上に備え付けられたカメラでさえも全貌を掴めない程の巨大な物体を、カメラは捉えている。その巨大な物体が、カメラの方を向いた。
月を背にした巨大なそれが無造作に銃を構える。人間の持つ実銃を何十倍にしたかのような、銃のお化けのその筒口がカメラの下の建物を────
映像は途切れた。画面は清潔なテレビ局のスタジオに戻り、女性キャスターが何事かまくし立てる。
暁月・ダースマン少佐はようやく、自分がキャスターの解説など聞いていなかったことに気づいた。彼は目を擦り、そうして凝り固まった首周りの筋肉を解すべく首を捻った。自分の背骨を伝う乾燥した音と快い感覚に満足したあと、彼は再び視線を上にやった。しかし彼の視線はモニターを捉えはしなかった。彼は開いた扉と、そこから大股で歩いてくる男に目をやった。
「全員揃っているか」男は低く錆びた声をあげた。誰の返答も待たず、男は続ける。
「モニターにも映っている通り、我が国は国籍不明の武装集団から攻撃を受けている」部屋の中の数人が、呆れたとでも言うように目をぐりっと上に向けた。
「君たちの反応は至極もっとも、私にだって理解はできる」男は部下の反応をまるきり気にかけていないようだった。「しかしどこが宣戦布告してきたわけでもない以上、これがケルドニア軍であるとは断言できない」
ケルドニア────“忌々しいお隣”。祖父母に育てられた暁月少佐は、その国名を聞くやいなや、祖父母がその国について語る際の不愉快そうな顔を思い出した。不愉快そうな顔をして、それでいて彼らはその話を何度も繰り返し幼い暁月少佐に聞かせた。七十年前の戦争。主義主張の食い違いなのか、どこかの利権絡みなのか、それは幼い暁月少佐の理解できるところではなかった。そして今、再び戦争は起ころうとしている。
男はモニターを指さした。丁度前の定点カメラの映像が再び流れている。「この」男はボールから手足を生やした三流キャラクターをそのままスケールアップしたような、問題の何かを指さした。「大型兵器に関しては、現在軍本部で解析を進めている」ろくな結果は出ないだろうがな、とは言わなかった。ただでさえ月で逆光になった不鮮明な映像から重要な情報が得られるとは、誰も思っていないに違いなかった。
「現在、第6、第8、第9師団との連絡が取れていない。現時点では、国防軍は彼らが壊滅ないしそれに近い被害を受けたと仮定して行動する。ケルドニア軍の進軍速度は不明だ。少なくとも我々は、敵が無防備の首都を攻撃する事態は何としても防がねばならない。これより第3師団の行動を説明する」男はレジュメを渡されて、ようやく本題に入る気になったようだった。
「まず機甲部隊。第五機甲大隊、第二十四歩兵連隊、第十二支援中隊、第二十二火砲支援中隊は七番高速ゼーレムント西出口で待機。第八機甲大隊、第二十七支援中隊は…」
指示は延々と続いた。今暁月がいるこのゼーレムント基地は、ガレニア共和国国防軍の基地の中でも大規模な部類に属する。やや南東に位置するウィドム基地、ゼーレムントの北、首都レインズシティの郊外に位置するレインズシティ基地とを結ぶ直線は、首都とその東の地方を守る最終防衛ラインと言える。この3つ基地の陥落が、そのままガレニア共和国の敗北と言っても過言ではない。
「…最後に、MCS部隊」男の目線が、見慣れないであろうパイロットスーツ姿を捉えた。軍服姿が三十人ほどいる中の八人だけが、戦闘機パイロットの耐Gスーツと宇宙服の間の子のような奇異な格好をしている。
「MCS部隊はこのまま待機、必要に応じて戦域に投入する。以上」
「冗談じゃない」誰かが低く呟いた。若い男の声だった。「俺たちはどこの所属になるのさ」
「それは今から説明する」男は何食わぬ顔で続けた。「MCS部隊以外の人員は解散。各部隊に伝達、速やかに準備を始めるように」
「さて」正体不明の男は退室する最後の一人を見送ってから扉を閉め振り向いた。「先ほどは雑な説明で済まなかった。聞かれてどうなるという訳でもないが、一般部隊に期待させるのも心苦しいのでな」
「期待させる事がですか」前に呟いた声と同じだった。その童顔のパイロットは怪訝な顔をしている。
「そうだ」男は頷いた。「結論から言おう。ガレニア共和国国防軍は君たちを敵の正面にぶつけようとは考えていない。君たちMCS部隊は国防軍陸軍中枢隊に配備となり、ヤバい戦場の殿やら待ち伏せ攻撃やら、クソみたいな任務を全国津々浦々でやることになる」
更に続けた。「正面切って戦うような運用をするには、現在のMCS機体の数はあまりにも足りない」
「了解しました」暁月は言った。「現状では、我々の任務は待機ですか」
「恐らくすぐに変わるだろう」男は言った。「未来を嘱望された新兵器の最初の作戦は」言葉を切る。そして宣言する。「ゲリラ戦だ」自嘲するように────
1話です。続けると思います
ご指摘があればお願いします
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