自分はRAISE A SUILEN推しなんですが、今回のライブはやばすぎましたね。アリーナの二列目で大はしゃぎでした。ギターの朝日六花役の小原莉子さんのヘドバンが見れて、私は満足です。
これからのライブは恐らくRAS以外はライビュ参戦になると思いますね。お金が無いので。
「お待たせしました!ブレンドコーヒー二つとパウンドケーキ、ショコラケーキです!」
「ありがとうございます、羽沢さん」
高校生の頃より長くなった髪を揺らしながら、笑顔で商品を提供する羽沢さん。前からキューティクルな方ではありましたが、薄化粧と髪の変化のせいか、可愛さに加えて綺麗さも一段と増している気がする。
私達は今、目的の場所――羽沢珈琲店に来ていた。最近、レポートだったり、教育実習の準備だったりで行けていなかったので、久々に来てみたかったのだ。
彼女の仕事姿を横目に、コーヒーをひと口すする。やはりと言ったところか、久しぶりに飲んでも凄く味わいが良く、私の口に合う。私の前に座っている彼も、最初こそ、温まったコーヒーグラスで暖をとっていたが、今では美味しそうにコーヒーに舌鼓を打っている。
そんな幸せそうな彼の顔を見ると、こちらまで心が温まってくる。
零れそうな彼への感情を、コーヒーと一緒にそっと飲み込んでいると、当の彼がパウンドケーキにフォークを入れながら、
「さっきの子、紗夜の後輩?」
と、問いかけてきた。彼女が私の名前を知っていたことが気になったのだろう。別に隠すことでもないので、素直に答える。
「えぇ。まぁ、高校は違いましたけど」
「あー、バンド同士で交流があったとか、そんな感じ?」
彼がケーキを頬張りながら、納得したようにウンウンと頷く。
「それもありましたが、彼女は私の先生です」
「あー、なるほ……は?先生?後輩じゃなくて?」
頷いていた頭とモグついていた口を止め、今度は不思議そうに首を傾げる彼。私と違って感情豊かで、羨ましいな、と密かに思う。
「……ってことは、あの子は紗夜より頭が良いってことなのか」
フォークを口に入れ、モゴモゴ何事かを呟いている彼。何故今学力の話なのかは分かりませんが、とりあえず行儀が悪いので注意することにしましょう。
「もう子供じゃあるまいし、口に咥えながら話すのは、はしたないのでやめてください」
コーヒーカップをソーサーに置きながら、叱るように言う。やはり彼にはまるで、下の姉弟のように接してしまう。
私に叱られた彼は、少しだけしょんぼりとした後に、咥えていたフォークを静かに皿の端へと置いていた。
「ごめんごめん。あの可愛らしい子が、まさか紗夜より頭が良いなんて思わなかったから、驚いてつい、な」
「はぁ……?まぁ、次は気をつけて下さいね」
また頓珍漢な話。今学力なんて関係ないのに、彼は一体何を勘違いして……あ。
「まさかとは思いますが……。あの子は決して教師ではありませんからね?」
「え、でもさっき紗夜が『先生だ』って……へ?」
……やっぱり。彼はどうやら『先生』という単語をそのままの意味で捉えてしまっていたようね。私が教育学部なのもあるので、仕方ないにしても、ちょっと鈍感過ぎる気がします。
「先生とはそういう先生ではなく、私の"お菓子作り"の先生ですよ。そもそも教師なら、平日のこの時間帯じゃ、まだお仕事中だと思いますが」
「た、確かにその通りだ……」
間違えた恥ずかしさを紛らわすためか、コーヒーを一気に飲み干す彼。少しだけ彼に対して嗜虐心が芽生えるが、ここはグッと我慢する。ここで追い打ちをかけて空気を壊しても、どちらもつまらない思いをするだけだ。
「私の説明不足もありますし、あまり気落ちしないでください」
だから、この話題はここで切るのが吉。彼へと慰めの言葉をかけつつ、右手をあげる。
「羽沢さん」
「はい!ただ今!」
私の呼びかけに、羽沢さんは直ぐに応じて駆け寄ってきてくれる。その度に揺れる長い髪は、彼女目当てで来ているのであろう、カウンター席に座っている常連の男性客達の目を釘付けにしていた。
「ご注文ですか?」
「はい。彼へとコーヒーのお代わりをお願いします」
かしこまりました!と、元気良く立ち去っていく彼女の後ろ姿を見送ってから、彼へと視線を戻す。
「あなたがいつも、美味しいと言って食べてくれるクッキーだって、卵焼きだって、全て彼女が一から丁寧に教えてくれたからこそ、作れているものなんですよ」
「紗夜の料理スキルは全てあの子から受け継いだ物なのか……。じゃあ、これも彼女が?」
既に先程の恥ずかしさは微塵もないらしく、彼は自分の元にあるパウンドケーキを指差しながら、興味津々な顔つきでそう言った。
「そちらのパウンドケーキは、羽沢さんのお父様が作られているものですね」
「まぁ、喫茶店のメニューじゃ、作り慣れてるマスターの料理を出すよなぁ……」
少しだけ残念そうな顔をする彼。
「……ですが、こちらのショコラケーキは羽沢さんが作ったものですよ。一口食べてみますか?」
「マジ?食べる食べる!」
そんな顔から一転、まるで餌を目の前にした大型犬のように身を乗り出して目を輝かせる彼。心無しか、尻尾を振っているように見えるのは気の所為でしょうか?
「しょうがない人ですね」
彼に少しだけ笑いかけた後、フォークでショコラケーキを一口大に切り込んで、フォークに乗せる。そしてそのままフォークを渡すべく、彼の手元に合わせるように、少しだけ腕を上げる。
「いただきまーす」
しかし、彼はその行為を勘違いしたようで……。フォークを受け取ることも無く、そのままケーキにかぶりついていた。
「お待たせしました〜!お代わりのコーヒー……あ、ごめんなさい、お邪魔しちゃいましたか……?」
そして狙っていたかのようにコーヒーを提供しに来る羽沢さん。今の状況を、彼女から見たら、ただ『あーん』をしているバカップルにしか見えないだろう。そう考えた瞬間に、顔がボッと燃え上がったように熱くなるのを感じた。
「ち、ちちち、違いますよ!羽沢さん!誤解です!」
「か、彼氏さんですもんね!お付き合いされてますもんね!そういう事もしちゃいますよね!ご、ごめんなさい!!」
弁解しても既に時遅し。顔を真っ赤にした羽沢さんは、トレイを抱き抱えて厨房へと走り去ってしまった。
「おー、これめちゃくちゃ美味いな」
それを見ていたのにも関わらず、何事も無かったかのように、美味しそうにケーキを咀嚼する彼。何故でしょうか、その光景は先程までは心が温まるものだったはずなのに、今見てみたら、段々と心が凍てついてきているような気がします。
「貴方のそういう所はやっぱり嫌いです」
「なんで!?」
驚愕する彼を傍目に、私は明後日の方を向いてコーヒーを一口啜った。
――――――――――
「ところで、紗夜ってなんでうちの大学入ったんだ?」
注文した品を全て食べ終え、満腹感に浸っていると、彼がそんなことを言ってくる。ちなみに、羽沢さんの誤解はお皿を下げに来てくれた時に解いておいてある。解いておかないと、今後この店に入り浸ることすら怪しくなってくる所だったから。
「……なんですかいきなり」
「いや、さっき先生がどうとかって話してたじゃん?だから気になっちゃってさ。ほら、紗夜なら、ギターの専門学校とか、音楽学校とか行きそうだなって」
そう言われて、少しだけ振り返る。
高校生のとき、確かにギターの技術もそれなりのものは持っていたし、どんな困難があっても、自分の力や周りの力でちゃんと乗り越えてきた。更に、そうして培った技術を、本番で際限なく発揮できていたと思う。
しかし、それはあくまで高校生にしては。
もっと上を――頂点を目指すにはまだまだ足りない。そもそもほとんど独学のみで頂点を取るなんて、それこそ日菜みたいに才能に満ち溢れている限りある人のみだ。だから、ちゃんとした音楽の専門学校で本気でギターを学びたいと思った。Roseliaが――メンバーが大切だったから。
それでも、この道を選んだのは――。
見つめてくる彼の視線を正面から受け止める。彼ならどんな話でもちゃんと聞いてくれると分かっていながらも、少しだけ躊躇しながら言う。
「聞いてもなにも面白みはありませんが?」
「面白みとかじゃなくてさ、少しでも多く紗夜のことを知りたいんだ」
恥ずかしいことを、なんの恥じらいもなく言ってのける彼。彼らしいといえば彼らしいですが、私の方が恥ずかしい思いをしていることにそろそろ気付いて欲しいところです。
その恥ずかしさを払拭する為に、一つ咳払いをしてから話を続ける。
「そこまで知りたいのなら、仕方がありませんね……」
よしっと小さく拳を握る彼。……そんなに私の話を聞くのが嬉しいことなんでしょうか?
「私が最初に教師に興味を持ったのは、高校二年生の冬でした」
「割と最近なんだな」
その時のことを繊細に思い出すために、コーヒーをゆっくり飲みつつ、雨のように溢れかえる記憶を整理する。
「はい。その時、一番年下のメンバーが高校生になるので、勉強を教えたのがキッカケですね。宇田川さん……ウチのドラムの子は、全くと言っていいほど勉強ができなくて、それはそれは大変でした」
あの日の苦労が、今となっては良い思い出だけれど。
「やっぱ紗夜って、お姉ちゃんだからか、なんだかんだ面倒みが良いよな」
「そんなことはありません。あの時はどちらかというと、姉みたいな立場だから、という訳ではなく、Roseliaの練習の一環として教えていたって感じでした」
「紗夜らしい……」
彼の言葉に心の中で賛同する。本当、あの頃の私は今とは違った意味で私らしかった。
「多分ですが、他人に教えることによって、自分のスキルも上がる。そう思ってやっていたんでしょう」
「やけに他人事のように言うな」
「あの頃の私は、今の私にとっては他人ですから」
日菜にコンプレックスを持っていた私、ギターを辞めようとした私、――Roseliaで頂点を目指していた私。あの頃の私は全て、今の私を構成する一部であっても、決して今の私自身では無い。
「その頃の私は、あくまで教えることに興味を持っていただけでした。本当に私が教師を目指そうと思ったのは、高校三年生の夏前――文化祭が終わった後ですね」
昔から変わらない控えめなクラシックが、まるでタイムスリップしたかのような錯覚を与えてくる。あの頃の私も、勉強や生徒会の手伝いで疲れた時は、よくこのお店に寄っていた。
「この時も、やはりメンバーの子のお世話をしていた時でした。白金燐子さん……キーボードの子ですね。彼女が私に聞いてきたんです。『氷川さんは卒業したら何をしますか?』って」
「なんて答えたんだ?」
「……なにも、答えられませんでした。結局私は、人にとやかく言いながらも、Roseliaで頂点を目指す、ということ以外の将来を何も考えていなかったんです」
彼のいたたまれない顔にそっと、大丈夫、と微笑みかけ、コーヒーカップをソーサーの上にそっと置く。
「彼女は、『音楽学校でヴォーカルのことを、ピアノ以外の楽器を学びたい。そうすれば、もっと良い演奏ができる』と、言っていました。ピアノコンクールで金賞を取るほどの実力者なのに、それに驕らず、他の方向へと興味を広げて、上を見続けていました」
コーヒーの表面は、私の心の写すかのように、ゆらゆらと揺れていた。
それでも、私にとって嫌な話のはずであるのに、何故か胸の内のわだかまりはなく、寧ろ落ち着いていた。
「彼女は人前が苦手な性格だから、勝手に臆病だと無意識に決めつけていたんだと思います。それでも彼女は、夢に対しては、他人の心に対しては臆病じゃなかった。寧ろ、公私共に積極的に行動に移せる、勇敢な人でした」
――今思い返すと、出会ったばかりの時の彼女からは考えられない程、彼女は成長していたのですね。
思い出の中の白金さんを心の中で賞賛する。
「そんな彼女が、私に教えてくれたんです」
その時の彼女の言葉は、今でも昨日の事のように思い出せる。何も返せなかった私に対しての励ましなどではなく、彼女の言葉には確固たる意思が宿っていた。
『氷川さんは……すごい……と思います。曲がったことをせず……ただ他の人を思いやりながら……的確なアドバイスをくれて、他の人を最大限に……活かしてくてます』
『だから、氷川さんは……教師とか、向いてるのでは……ないでしょうか?子供を……正しい方へ導く事が、氷川さんには出来る……と思います』
「――私にしては単純だとは思いますが、彼女のその言葉が、教師を目指すキッカケになったんだと思います」
話し終えて、コーヒーカップから視線をあげると、何かを反芻するかの如く黙り込む彼と目が合う。彼の目を見た途端に、何故か分からないが、胸の内がスっと晴れたような気がした。
そう感じた途端、代わりに恥ずかしさが込み上げてくる。自分の過去を他人に打ち明けた事なんて、初めてだったから。
「な、何か言ってください。そもそもこの話は貴方からしたものですよ」
恥ずかしさを紛らわすために、人差し指を上に立てて、注意するように言う。それに対して先程まで考え込むような表情を見せていた彼が、不敵に笑いだす。
「その仕草、マジで教師みてぇ……。紗夜センセ」
「……」
流石にイラッと来たので、無言でカバンと傘を持って席を立つ。代金は既に支払ってあるので、あとは帰るだけ。長居するのも、羽沢さんに悪いですからね。
「さて、今日はこの後レジュメをまとめて、講義の復習を……」
「ちょ!ごめんごめん!冗談だって!」
後ろでガタガタと騒がしい音がするが、気にせずカフェの扉を開ける。
「ありがとうございました〜!紗夜さん、また来て下さいね!」
丸テーブルを拭いていた羽沢さんが振り返って、笑顔で手を振ってくる。それに対して微笑みかけながら、小さくお辞儀をする。
「えぇ、また来ますね」
「また、彼氏さんと一緒に、ですよ!」
「……出来たら来ますね」
彼女の返事を待たずに、後ろ手で扉を閉める。
「……雨、止んでいたんですね」
先程まで窓を打ち付けていた雨が嘘のように止んでおり、雲も少しずつだが減っているようにも見える。そう言えば、夕方から晴れると天気予報で言っていましたね。完全に忘れていました。
晴れだした空を眺めること数秒、カランっと心地よい音と共に、見知った人物が姿を現す。
「貴方は、何度人を待たせるんですか?」
「今回に限ってはお前が勝手に出ていったんだからな?」
「嫌だと言っていることを何度もやってくる貴方が悪いです」
付き合い始めて一年弱。最初こそ本当に怒りながら繰り返したこのやり取り。今ではこのやり取りなくして私達の関係は成り立たないのでは、と思うほど定着してしまった。
大学生になってから、自分でも分かるくらい私は変わった。高校生の頃は、こんな大学生にはなりたくない、なんて思っていたのに。
それでもいざなってみると、意外にも私の生活にすんなりと馴染んでくれた。
こんな変わり方を教えてくれた彼は、もしかしたら、私の人生の教師なのかもしれないな、と心の中で感謝を述べる。
「それで、この後はどうしますか?」
「んー、正直特に決めてない」
「貴方って人は……」
……こういう所だけは絶対に見習いたくない教師ですけどね。
割かし長く書いてしまったので、適当に流し読みして頂いて結構です。(後書きで言うやつ)
次回が後編、最終話です。