波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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 遂に三年に渡った宇宙戦艦ヤマト2202も最終章、楽しみですね!
 そんな中、本編完結より一足早くガトランティス侵攻後の旅を描くというチャレンジです……。
 本編では武蔵は銀河系中心部へと向かっているとの噂がありますが、今作はifルートということで。
 全26話予定です。長くなりますが、1話は短めのプロローグです!


第一章 壮途編
第1話 「新たな旅路へ」


 時に、西暦2205年。

 ガトランティスの脅威は去り、地球は平和を取り戻しつつあった。

 行き過ぎた軍拡路線を縮小した地球軍は、これまで後回しにされていた武蔵の改修作業を開始、探査船として、武蔵は生まれ変わろうとしている。

 そして今日は、宇宙戦士訓練学校の卒業式が行われていた。

 

 

「おめでとうー!」

 3人で囲むダイニングテーブルには、手作りの料理が所狭しと並べられている。

「えへへ……ありがとうございます、柑奈さん……」

 パチパチと手を叩く彼女に恥ずかしそうに返す今日の主役。

「義弥さんも、何か言ってあげたらどうですか?」

 彼女の隣で黙りこくっていた武蔵の戦術長、有賀義弥の脇腹を肘でつつくと彼は「あっ、ああ」とたどたどしく返した。

「そうだな。卒業おめでとう、美佳」

「ん……ありがと、お兄」

「そういえば美佳ちゃん、今なら答えてくれるかな」

 兄妹の会話を聞き終えた柑奈は身を乗り出すようにして美佳を見る。

「何をですか?」

「そんなきょとんとした顔しなくても……宇宙海軍を志望した理由、前聞いたときは『卒業する時までのヒミツです』って答えてくれなかったでしょう?」

「そうでしたっけ? そう言ったなら今答えますね」

 美佳の言葉に頷くと、2人は彼女を見つめた。

「……ガトランティスが地球に来てる時、私とても心細かったんです。唯一の家族のお兄は、フネにのって遠く行ってるし、家には私一人だし。でも、何が嫌だったかといえば、お兄が帰ってこないかもしれないっていう不安と戦うことだった……。お兄がいなくなったら私は本当にひとりぼっち」

 話すうちに、彼女の視線が落ちていく。

 無理に話さなくても、柑奈がそう言おうとした時、美佳は「だから!」と立ち上がり、兄をまっすぐ指差した。

「だから、お兄と同じフネに乗っていればこんな思いしなくていいし、柑奈さんとも一緒にいられるって思ったんです!」

 自信満々に言い放つと、呆然とする2人を気にすることなく美佳は続けた。

「正直、地球を守るとか、宇宙の平和だとか言われたところでスケール大きすぎてピンとこないんですよ。私、地球から出たことないし、地球どころか日本から出たこともないのに宇宙の平和語られたって絵空事でしかないってもんですよ」

「えー、美佳ちゃん?」

「大体何もかもお兄が『お前のために』って勝手に軍に入っちゃったのが悪いんだからね。一人残されるこっちの身にもなれって話! 分かってるのお兄⁉︎」

「それは……ごめん」

 ビシッと指差す妹に、義弥はただ謝るしかなかった。

「よろしい」

 満足そうにニヤリと笑う美佳は腰に手を当て、さらに続けた。

「だから今度は私が勝手にしたの。お兄だって勝手にしたんだし、別に文句ないでしょ?」

「ああ、俺は文句ないよ。それで、美佳の配属先はどこなんだ?」

 彼の問いに「あーそうだった」とポケットの中をまさぐる。

「じゃーん!」

 2人の顔の前に軍の命令書を突きつけると、それを2人が読む前に自らその内容をドヤ顔で語り始めた。

「配属は船務科、そして第二レーダー手兼任の準第一艦橋要員として選ばれましたー!」

「そうなんだ……って、レーダー手兼任⁉︎」

「そうですよ柑奈さん、お兄や柑奈さんと同じ第一艦橋勤務です!」

 驚きで口が開いたままの柑奈の横では義弥が食事をつまみながら、妹に話しかけた。

「ヘマだけはするなよ」

「うっ……一応、学年主席なんだからね!」

「なら、なおさらだな」

 彼の言葉にさっきまでの威勢はどこへやら、彼女は小さくなって席に着いた。

「まあ、そんなに脅さなくてもいいじゃないですか。今はガトランティスと戦ってるわけじゃないんですし、武蔵の任務で戦闘に巻き込まれることなんてあまりないと思いますから」

「分かってる。今のは美佳への注意喚起だよ」

「なに、お兄はそんなに私が信用ならないの?」

「ああ、新人クルーは何をしでかすかわからないからな」

「ぐっ……否定はできないけどなんかそのヘラヘラした顔がイラッとくる……!」

「どうどう美佳ちゃん、落ち着いて」

 拳を震わせて口の端をひきつらせる美佳を柑奈が諭し、当の義弥は我関せずといった様子で「ん、これ美味いな」などと料理の感想を述べる。

 こうして、春の夜は更けていく。

 

 食事を終え、片付けを妹に任せた義弥は夜風に当たるため少し外に出ていた。

 自らの乗艦する艦に家族が乗る。

 その事実は彼に十分すぎるほどの重圧を与えていた。

 艦の防衛を担う戦術長としての責任が、ここに至ってようやく彼の肩に重しを乗せた。

「ここにいたんですね」

 声に振り向くと、柑奈が彼に向かって歩いてきていた。

「この季節、夜は風が気持ちいいです」

「そうだな。気分転換にはいい」

 視界の向こうには任務から帰還したと思しき駆逐艦数隻の衝突防止灯の光が見える。

 時間断層がフル稼働していた時に比べれば軍艦の往来はその十分の一程度まで減少し、波動砲に頼るアンドロメダ級、ドレッドノート級、護衛艦などに代わって波動砲をもたない駆逐艦の建造が増えていた。

 それでも兵器としての波動砲は有用であり、自国防衛のためとはいえ、いまだ主戦力の艦艇が波動砲を搭載していることに対する反対は飛び交っている。

「次は長くなるみたいですね」

 うんと伸びをして、柑奈は遠くを見つめた。

「2年だったか。確かに長い……それを思うと、美佳が同じ艦に乗っているのはありがたいとすら思うよ」

「家族はやっぱり近くにいるのがいいですから」

「ああ。それに、美佳は柑奈にも懐いてるからな。いてくれると助かる」

「っ……ありがとう、ございます……」

 柑奈の顔が少し赤くなった事を義弥は知らない。

 ただ次の瞬間に吹いた風が、月明かりに照らされた彼女の髪をなびかせてその横顔をあらわにした時、不意になんとも言えぬ感情を抱いて目をそらしただけだ。

「……気づいてないんだ、お兄」

 2人の間に入る事なく呟いた美佳は、深いため息とともに風呂場へと向かった。

「いい加減気づけっての、バカ兄」

 ひときわ苛立った様子でそんな言葉を吐きながら。

 

 

地球/ドック

 男は、改装を加えられている自らが指揮する艦を見つめながら、手すりに寄りかかる。

「また、お前に乗る事になるとはな」

 あの探査任務を思い出し、近藤はしみじみと言葉を発した。

 波動砲薬室のハッチから、痛々しいまでに破損した突出ボルトがクレーンで持ち上げられている。

「――」

 記録では読んでいた。拡散波動砲テスト時、予期せぬ負荷でエネルギーが逆流して暴発したと。

 エンジンへの回路を遮断し沈没は避けられたが、波動砲口は大破し死者も複数出たと。

 再出撃に際し、武蔵への波動砲再装備の案もあったが、これは技師長、戦術長、情報長の強い反対により棄却され、波動砲そのものが撤去される事となった。

 ゆっくり降ろされる突出ボルトに代わり上げられてくるのは、薬室内を埋めるような大型の探査システム。

 ようやく、探査船らしい装備がつけられた。そう思うと、無意識に吐息が漏れる。

「艦長?」

 声の方を向くと、私服姿で首から証明証をぶら下げた女性が立っていた。

 見覚えのないその姿に怪訝な顔をしながらよく観察する。

 数秒の後、彼女の正体がわかった。

「……ああ、船務長か」

「えっ、まさか分からなかったんですか?」

「乗組員は艦内服姿で覚えてしまっていたからな。あまりに見違えたもんで驚いた」

「それは褒め言葉として受け取っておきますね」

 はにかみながら、艦長とは少し距離を置いて彼女もまた武蔵を見つめた。

「そういえば、有賀くんの妹さんは今日卒業式でしたね」

「勤務先は武蔵だろう。わたしの希望もあったが、手を回したのは君だと聞いたよ。第二レーダー手兼任とは」

「イスカンダルへの旅路で、ヤマトは士官候補生をレーダー手として起用していました。学校主席の彼女なら十分職務を果たせると思っています」

「そうか。それにしても、ヤマトへの希望が多い中彼女だけが武蔵を希望するとは、中々どうして」

「それはきっと有賀くんが理由です。妹さんなりに、お兄さんのことを考えているんですよ」

 ――私も、あの子のために。

 丹生もまたそんなことを思ったが、口にはださなかった。

 ただ優しく微笑むその顔が、何より雄弁にそれを語っていた。

 

有賀家

「――くしゅんっ」

 湯気が満ちる浴室で、唐突にくしゃみがでた。

「んー……ちょっと寒かったかな? お湯の温度……?」

 お湯から手を出して温度を確かめてみたが、特に冷たいというわけでも室温が低いわけでもない。

 首を傾げながら肩を沈めると、彼女は深いため息をついた。

「お兄と同じ艦に乗れたのは嬉しい……だけど、レーダー手兼任かぁ……」

 レーダー手は艦の周りの敵や障害物の位置をモニタリングする役目というのは分かっている。

 それだけに、報告を一つ間違えると艦の生死に関わるのだ。

「ちゃんとできるのかな……」

 ついに口まで湯船へと入れて、水面にぶくぶくと泡を立てる。

 不意に顔を上げた彼女は、お湯を叩きつけるように顔に当てて湯船の中で小さく拳を握った。

「悩んでても仕方ないよね。できる限りやるだけだもん!」

 誰もいない中立ち上がりながら宣言したその時、脱衣所の方から。

「美佳ちゃん、湯加減大丈夫?」

「へっ? あっ、あぁー……はい、大丈夫です、柑奈さん……」

「そっか、なら良かった」

 静かに湯船に戻った彼女は、お湯のせいか恥ずかしさからか少し顔を赤くしていた。

 ――いつからいたんだろう……もしかしたら聞かれてたかも?

 そんなことを思いながら、彼女は身体を温めていた。

 その頃、リビングに3台並べて置かれた端末にはほぼ同時に同じ送り先からのメッセージが表示された。

 それは出撃の時を知らせる一報。

 武蔵は、再び旅立つ時を迎えていた――。

 

 ――――第1話 「新たな旅路へ」――――




 読んでいただきありがとうございます。
 1話は導入、新たなクルーと武蔵の改装のみに注力しました。
 実験艦というか探査船みたいな装備ですが、銀河も探査船の予定だったとか。
 2話以降不定期になるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。
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