この時期はどこも暖かくなり始めたあたりでしょうか。
時期の挨拶はともかく、第11話です。長めにかけたかなと思っていましたが、ペースとして文字数見たら「あれ、少なくない?」となってしまいました……。
前回までのあらすじ
赤い石に導かれて地球に似た美しい星、惑星ジルバに上陸した武蔵。
ジルバの外交官を名乗る青年と行動を共にする有賀たちだが、彼は何者かに追われているようだった。
有賀は、彼が呟いた言葉の意味を探していた――。
第11話 「自由への楔」
「わたしは、仮初めの平和に叛旗を翻す者です」
――なんだよ、それ。
艦橋の窓から夕暮れの空に飛び立つコスモゼロを眺めつつ、有賀は肘置きの拳を握りしめた。
「都市を囲む城壁の向こう側に広がる物を見ても、この都市が美しいと言えますか」
艦に戻るや否や、近藤はコスモゼロに望遠カメラの装備と出撃用意を指示した。
彼の言葉の真相を確かめるため、異文明の理解のために。
夕暮れの街、壁際の家には電気の光が漏れ始めている。
壁を超えたゼロのカメラには、黒い大地しか映っていなかった。
「なんだ、何もないじゃないか」
ほっと胸をなで下ろす有賀だったが、柑奈の視線は厳しい。
「カメラをサーモグラフに切り替えてください」
何かを捉えた柑奈の指示からしばらくして、画像が地表の温度を見せた。
「ホットスポット……ですかね?」
地表の温度は夕暮れとは思えないほどに暖かく、そして――同じように形作られていた。
「やっぱり……」
立ち上がった柑奈は画像を拡大してその形状を切り抜いた。
「このサーモグラフの赤い部分、それは全て人間です。生きている、人間です」
ワイプに映されたコスモゼロからのライブ映像は暗視モードに切り替わり、少しずつではあるが動く人影やいくつか作られたテントの存在が確認できた。
陽は落ち、闇と静寂に支配されたこの星の外気温は5度を下回る。
蝿のたかる死体の山に行っては肉を切っていく人たち、痩せこけた子ども、赤子を抱いて寒さに震える母親。
城壁に近づけば女子供問わず射殺され、時折与えられるわずかな食糧と引き換えに男たちは労働を強いられる。
そして、まるでゴミのように放り出される父親の遺体が帰ってくる――。
「こんなのって……」
来島の声は震え、映像をただ見つめる近藤の表情は険しかった。
「とても……美しいなんて思えやしない……」
歯をくいしばる有賀は拳を握りしめる。
「これが、この星の実情……美しい街の、裏側……」
「美しかっただけだ。無辜の人々の犠牲の上に成り立つ街。選民思想が目に見えるじゃないか」
柑奈に答えた有賀の言葉に頷いた近藤は、横目で一ノ瀬を見た。
「一ノ瀬、彼を呼び出してくれ。コードはさっき渡した通りだ。コスモゼロを呼び戻せ」
星空に光るエンジンと機体の光が、海に浮かぶ巨大な艦へと戻っていく。
けたたましく鳴る通信機に手を伸ばすと、彼はにやりと笑いながら声を発した。
「見ていただけましたね。この星の闇、黒い大地の真実を」
『確かに見ました。しかし、これを見せてどうしようというのですか』
「それはあなた方次第。……次の朝焼けと同時に、我々は行動を開始します。それでは、あなた方の決断を」
『待て、それは――』
彼らなら、恐らく。
背後にそびえる艦影に身体を溶かし、彼は闇へと消えた。
賽は、既に投げられている。
武蔵/艦橋
刻一刻と迫る時間。
白んでいく静寂の中で、丹生の声と共に艦内はにわかに慌ただしくなる。
「総員、第1戦闘配備。機関長、緊急発進用意をお願いします」
「機関正常、回転数上げ。いつでも出せるよ、航海長」
「ありがとうございます。有賀は大丈夫だな」
「当然だ。来島、主砲のエネルギーは」
「大丈夫です。気象長、日の出まであとどのくらいですか?」
「日の出は艦内時間で約30分後。一ノ瀬くん、何か通達はあった?」
「いえ、未だ何も。技師長の方はどうですか?」
「こっちも何もない……静かな朝……。艦内、艦外共に異常ありません。いつでもできます、艦長」
「わかった。だが、ひとまず動きを見ないことには我々も動けん。現時点で我々は、本艦の自衛のため以外の戦闘は行わない。いいな、有賀」
「了解です。あなたはここにいていいんですか、カレンさん」
「好きでいるのだもの、気にしないでちょうだい?」
笑顔で答える彼女から目をそらすと、ゆっくりとジルバの太陽が顔を出し始めていた。
輝く水面、美しい青空。しかしその奥に見える広大な陸地には――。
警報音が止んだ艦橋に、レーダーが何かを探知した音が響き渡る。
「本艦8時から11時の方角で爆発反応!」
丹生の声に窓の外を見ると、城壁の内部の建物から煙が立ち上っていた。
数は5本。マップに照らし合わせると、どれも軍施設であり民間人への被害は極限まで抑えられていることが分かる。
「本艦周囲の艦艇、主砲を本艦へと向けました」
光学映像で観測を行っていた柑奈の報告を受けた艦長はしかし、動じる事なく艦の外を見つめていた。
市街地ではビーム砲らしき光線が空を裂き、雲を消しとばして大地から黒煙が立ち上る。
煙の中から現れた全長300メートルを超える戦艦がその姿をあらわした。
デウスーラと似た背後をしたその艦には他の艦には少ない目に見える砲塔が多数搭載され、長大な主翼からはタンクと思しき装備を懸架している。
旗艦の隣に浮上した100メートルほどの艦艇4隻は2隻を後方、2隻を前方に展開して、迎撃のため出てきた艦を市街地から遠ざける動きをし始めた。
反乱軍と正規軍の戦力差は圧倒的であったが、武蔵は静かに推移を見守り続けた。
正規軍は、戦闘能力が未知数である武蔵が洋上で静観しているためか洋上から進軍してくる形跡はなく、全て武蔵周辺海域で止まっている。
「徐々にですが、正規軍の戦力が削られ始めました。本艦付近の海域、距離2000メートル付近にジルバの正規軍艦艇が集まり始めています。総数は現在15」
丹生の報告の直後、爆煙をあげて着水した艦艇が白波を立てながら沈んでいく様が見てとれた。
武蔵艦橋の前をゆっくり進軍する小型艦艇は、武蔵の後方から回り込む友軍と共に海域で止まる艦艇の撃破にかかる。
その刹那。
「都市部中央の塔中腹に8ポイントの熱反応……これは……なに」
扇状に放たれた8本の中光の矢は、山形の軌道を描いて大地に突き刺さる。
それは即ち――。
――虐殺。
巻き起こる爆発の下で、一体どれくらいの人がいなくなったのだろう。
8つのキノコ雲が土を抉り取る。
「……っ、艦長!」
席から立ち上がった有賀は「……意見具申」と一言入れた。
「戦闘行為であれば静観するという方針には賛成ですが、これは既にその域を超えています」
一呼吸置いた彼は、数多の想いを込めて。
「……行くべきです! この艦の力は、失われるいわれのない人たちを守るために使う、その行為が間違いだとは思えません!」
まっすぐな、あまりに純粋な言葉に来島はうつむく。
この艦の安全を考えるのなら、この戦いは静観して逃れるのが最適解。自ら火に飛んでいくのは愚の骨頂。
しかし。
いつか、有賀に言われた言葉が頭をよぎる。
「――今は素直になれなくていいさ。君なりの生き方をすればいい」
彼の横顔を見た彼女は大きく息を吸い込むと、席を立ち艦長を見つめた。
「……艦長」
居住まいを正した来島は胸に手を当てて口を開く。
「私は、戦術長の意見を支持します。無為な戦いは避けるべきですが、私はこの戦いを無為なものとは思わない。見た責任も、知った責任もありますから」
近藤が考えるように俯いた直後、再びレーダーに警戒音が鳴り響く。
「塔に再び熱反応が8つ、発射まで25秒!」
「……迷っている暇はないか」
艦内に警報を鳴らした艦長は、立ち上がりクルーを見つめながら声をあげた。
「迎撃用意! 現時刻をもって、本艦はこの戦闘へ介入する!」
「了解! やるぞ、砲雷長」
「分かってます」
重々しく左へ旋回する武蔵の砲身。
回転数が上がり、唸りはじめる波動エンジン。
動きを止め、その砲身から放つ光の矢は魔の塔を貫いて稲妻と共に空を切る。
「緊急発進!」
空高く水柱を吹き上げた武蔵は、艦に纏う水を振り払い黒煙の立ち込める街へと舵をとる。
翼を広げたその艦を堕とさんと浮上し、追随してくるジルバ艦へミサイルを放った武蔵は、艦体左舷のロケットアンカーを可変させる。
「全砲塔左舷へ。ロケットアンカー、射出」
艦体に焼きつくほどのエンジンの炎と共に地に向けて飛び立つ鉄の塊は、地面を抉りながら空の艦を繋ぎ止める。
強い慣性に引っ張られて艦が敵に腹を向けた瞬間、姿勢制御ロケットを使って空中で無理やり静止させた。
「撃てええええぇぇぇ!」
9門の砲身から解き放たれた陽電子の束が武蔵へ迫る艦の装甲を溶かし、抉り、貫き、破壊していく。
海に、大地に、浮上せんとする僚艦に堕ちていく敵艦を見送る事もなく武蔵は錨を抜き、仇討ちしようとする敵艦から逃れるために加速していく。
その攻撃は民を守るということなど考えられず、ただ武蔵を撃ち墜とさんとするだけのもの。
艦体に直撃するエネルギー弾によって爆煙をあげたまま高度を落とす武蔵。
「左舷第2デッキに被弾!」
「ダメージコントロールは正常に作動しています。作戦行動に問題ありません」
「わかった。波動防壁は使うな。転舵反転、城壁へと向かう」
艦長の指示とともに姿勢制御ノズルを出して方向を整えた武蔵は、地上から50メートルほどの高度で補助エンジンの出力を上げた。
「泰平、高度を上げろ。このままじゃ城壁に……」
「いや、このままだ。このままの高度を維持しろ!」
武蔵の後方に回り込んだ敵艦からの砲撃に晒されつつも直進を続ける。
下方の敵に弾が当たらないことにしびれを切らした敵も次第に高度を下げていき、数隻は地面と接触して爆散。
運良く制御ができた敵が武蔵の艦橋を狙うも、武蔵は艦を横倒しにする事で直撃を免れる。
青い陽電子砲が敵艦の艦底部を貫くも、眼前には城壁が迫ってきていた。
静かな街に轟く号砲は、新たな世界の始まりを告げる狼煙。
この星につけられた傷は、自由への楔となるか。
多くの命消える中で、切り拓かれる未来は、果たして――。
――第11話 「自由への楔」――
ありがとうございました!
なんか、終わらせ方がファフナーっぽくなってきましたね。
次回はこの戦闘の続きからスタートです。果たしていつ書き終わるやら……。
それでは、次回もよろしくお願いします!