波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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お久しぶりです。
令和初投稿でしょうか、長らくお待たせいたしました。
新生活や仕事などで中々時間が取れずすみません。
今回でジルバ編は完結となります。物語を章で分けた場合の話なので全体としては折り返す前ですね。
それでは12話の前にあらすじからどうぞ。

前回までのあらすじ
 赤き石に導かれて、青く美しい星ジルバへと降り立った武蔵。
 しかしジルバでは王政による極端な経済格差が起こり、都市部から離れた人々は明日生きるとも知れぬ身であった。
 そんな彼らを救うべく、一部の人々は軍の艦艇を奪って蜂起、王を打倒するために戦いを始める。
 革命の戦いに対し、王は大量破壊兵器による虐殺を始めようとしていた。それを看過できなかった武蔵のクルー達は戦闘への介入を決断して革命のための戦いに参戦するのであった。


第12話 「勝利の条件」

 砕け散る。

 地に降り注ぐ巨大な石。

 先程まで壁として立ちはだかっていたモノは、土埃をあげながら崩れ去った。

 けたたましいエンジン音を轟かせながら現れたその艦は、人々にどう見えているのだろう。

 地を抉り取った翼を浮かせて横倒しだった艦体を起こした武蔵は、ゆっくりと艦首をあげて青空を登っていく。

「波動防壁、避弾経始低下。艦体損傷なし。間に合いました……」

 胸をなでおろす柑奈。

 洋上では衝撃波を巻き起こして艦が沈んでいく。

「反乱軍の艦艇と正規軍艦が相討ち、反乱軍旗艦は正規軍の艦を砲撃しながら洋上へと逃れていきます」

「……いや、違うな」

 海上に艦首を向ける途中、艦の様子を確認した有賀が言い放つ。

「逃れるためなら速度が遅すぎる」

 振り返った有賀は、艦長に呼びかけた。

「かの艦が追っているのは恐らく逃走した国家元首です。追撃を」

「ダメだ。そこまで我々がやる訳にはいかない」

 モニターに映された人々は、武蔵が粉砕した城壁の隙間から街へとなだれ込んでいた。

「これが、圧政の終わり……」

「革命の結末を見届ける事もないだろう。ここから先、この星の歴史に我々は邪魔なだけだ」

 直後、海面から水柱が立ち上り、ついで海から宇宙へと登るミサイルが観測された。

「ミサイル、進路変更……目標は……本艦です!」

 丹生の震えた声の直後、更にレーダーが反応を示す。

 それは宇宙からの刺客、革命の報せを受けた軌道警備艦の降下を教えていた。

「上空の艦、総数7、距離2万」

「艦尾魚雷、迫るミサイルを迎撃。主砲発射準備!」

 排煙と共に風をきって飛び出す3本の魚雷がミサイルを爆炎に沈めると、艦橋の窓には恒星を背に迫る艦の姿が映る。

「どうしていきなり武蔵に……」

 モニターを見ながら呟く棚橋に、カレンは横目を流しながら口を開いた。

「艦長はさっき、ここから先の歴史にこの艦は不要だと言ったわ。けれど、あの時飛び立った時点で、この艦はもう歴史の一部。そしてこの艦が来てすぐに革命が起これば私たちの入れ知恵だと思うのが定石。違うかしら」

「本当に我々が入れ知恵をしていたなら準備期間が短すぎる……それくらいは――」

「それは武蔵の能力を、私たち人間の力を知っているから出る答えよ。私たちはこの星にやってきた異星人。まだ見ぬ力があると見られてしかるべきだと思うわよ」

 一ノ瀬の言葉を遮ったカレンは「でも」と付け足した。

「悪いことばかりじゃない。おかげで、私たちが守ろうとする物に火の粉が降りかかることはない」

 微かに仰角をあげた武蔵から放たれた陽電子砲は空を切るが、迫る艦にはかすりもしない。

 7隻の艦隊は武蔵を囲むように進路を取り、それに合わせて武蔵も主砲を指向させる。

「……泰平」

 横目で指示を出した有賀は、まっすぐ前を見つめる。

 徐々に大きくなる警報音と共に近づくのは、周囲を囲む敵艦から放たれたミサイル。

 青空に飛び散る破片、爆炎から落ちてくるのは――艦。

 艦首から堕ちゆく武蔵は、ゆっくりと回りながら海へと向かう。

 海面の直前で艦底を下に向けた直後、白波の中にその艦は消え去った。

 刹那、巨大な爆発が起こると水面には灰色と赤の欠片が浮かんでいた。

 

 

「――これは勝利ね」

 眼前に広がる群青の世界の只中で、カレンは静かに口を開いた。

「どう見てもこれは苦肉の策だ。勝利なんかじゃ……」

「いいえ、私たち……ううん、あなたたちの勝ちよ、義弥」

 嘆息する彼に笑いかけると、彼女は席を立つ。

「あなたたちクルーは、無辜の人々が殺されることを良しとしなかった。だから、飛んだ」

「確かにそうです。それで、あなたの言う勝利って……」

「この艦は人々を守るために囮になった。離脱する武蔵を敵が狙った時点で、彼らの狙いは武蔵にあり、人々にはなかった。今も、着水した敵は私たちを探している。どう? この時点で武蔵は勝負に勝っているのよ」

 得意げに話す彼女に反して、クルー達の顔は暗い。

 仮に彼女の言う通りだったとして、海に堕ちた武蔵に、果たして何ができるのだろう。

「大丈夫。私がこの艦を指名したのは、運がいいからだもの」

 

 

医務室

「重傷者はこっちだ、早く運べ!」

 着水の衝撃で散らかった機材を整えながら、怒号と共に次々に運び込まれてくる怪我人をさばいていく。

「奈波!」

「美佳ちゃん……⁉︎」

 非常灯で薄暗い中を走ってきたのだろう。肩で息をして、顔に少し擦り傷を残した彼女は、微かに笑みを浮かべる。

「貸して。1人より2人だよ」

「いや、でも……美佳ちゃん、船務科……」

「こう見えても初期応急処置の実技は首席ですぅー。まあ任せてよ、奈波に比べたら基礎的なことしかできないけど……無いよりはいいでしょ?」

「……うん。じゃあ、トリアージの優先度4の人達からお願い。血は出てるけど命には関わらないから」

「オッケー、任せて!」

 床に転がる人達を避けて駆け出す美佳の背中を見送り、彼女もまた踵を返す。

「大丈夫ですよ、すぐに処置しますからね……ちょっと痛いですよ」

 優しく語りかける彼女の声は、今が戦闘中なのだと忘れさせるようであった。

 

 

第一艦橋

「現在、船体傾斜25度。どうする、義弥」

 泰平の問いに有賀は一つ息を吸うと、「決まってるだろ」と笑いかける。

「俺たちがもう勝負に勝っているなら……あとは戦いに勝つだけだ」

 輝く水面、その上空では洋上から飛来するミサイルを迎撃する大型艦の姿があった。

 その水面に、不意に白線が伸びる。

 等間隔、扇状に6本まっすぐ伸びたそれは、艦から立ち上る2本の水柱によって消える。

 二つに割れ海に消える2隻と、第2波から間一髪逃れ浮上した護衛艦。

 それを追うように海を割り、纏う水滴を振り払って現れた武蔵は、左右に向けた砲口を轟かせた。

 安定翼を開き、まっすぐ宇宙に向かう武蔵。

「追ってくる敵は無視してこのまま宇宙に出る」

 背後から迫るミサイルを艦尾の魚雷で撃ち落とすと、武蔵はすぐに安定翼を閉じた。

 飛来した弾丸に貫かれた装甲から火が噴き出る。

 それでも艦は青い光を引いて、空に開いた穴に突入した。

 唖然とする艦隊の乗組員たちは、地上に目を向けて嘆息した。

 真実を知った国民達は王の打倒を喜び、強制労働させられていた男たちは家族と再会を果たす。

 武蔵が破壊した城壁から内部に入った貧困層の民は、忘れかけていた普通の食事を与えられていた。

 革命軍の勝利を確信した彼らは投降を宣言し、数時間に及ぶ戦闘は終わりを告げた。

 その後の未来を予測はできない。

 しかし、悪政の歴史はこの星に残り続けるだろう。その歴史がある限り、過ちは起こるまい。

 

 

 武蔵が出現したのは、星系のはずれ。

「ふぅ……」

「お疲れ様、美佳ちゃん」

 壁にもたれて座り込んだ彼女の隣に座った奈波が笑顔を見せる。

「うん、ありがと」

 目の前には人1人いない通路が広がっていた。

 ワープアウトから約2時間、けが人の処置を終わらせた彼女達は、やっとの休息となった。

「水飲む?」

「あ、いるー……ありがとね、奈波」

「ううん。でもよかったね、命に関わる怪我がなくて」

「んっ……ん……はぁ……そうだね。はぁーお腹すいたー」

「ふふっ……じゃあ、報告終わったら何か食べに行こっか」

「いいねー」

 直後、彼女達の耳に艦内放送の音が聞こえてきた。

『船務科、有賀美佳。至急第一艦橋へ』

「……えぇーっと……なにかしたっけ……」

「勝手に持ち場離れてきた?」

「いや、それはないよ…………多分」

「うーわー……」

「じゃあ、食堂で待っててね、すぐ終わらせるから!」

 満面の笑みで駆けていく美佳。

 先程は頼れる背中だった彼女の背中が、今は少しだけ頼りなく感じられた。

 

 

第一艦橋

「これで良かったんだよな」

 静寂な星の海を眺めながら、有賀はしみじみと呟いた。

「自分の決断には自信を持て。間違っていないと信じなければ、悪い方にばかり頭が回る」

 肩に触れる大きな手。

「艦長……」

「大丈夫だ。最適な判断だった」

 はにかんで艦橋を後にした艦長に次いで、柑奈が彼のもとに歩み寄る。

「なんか、ちょっと優しかったですね。艦長」

「そうだな……」

 窓の端には損傷を直すべく駆り出された甲板員の姿が見える。

「後1時間で通常艦内シフトに移行します」

 丹生がアナウンスする声を受けて、泰平たちの肩の力も抜ける。

「有賀美佳、入ります」

 エレベーターから出た美佳に「今行くね」と立ち上がった丹生を横目に、柑奈がふと首を傾げた。

「そういえば、カレンさんって……」

「ワープアウトからすぐにどっか行きましたよ。よく分からない人ですね」

 嘆息交じりに返した来島の頭に手を置いた柑奈は、まるで妹でも見るような目をしていた。

「な、なんですか……」

「ううん。ちょっと柔らかくなったなーって思って」

「……私だって、たまにはそう……あの、頭撫でるのやめてもらっていいですか」

「ん?」

「はぁ……」

 頭を抱える来島。

 慌てて取り繕う柑奈の姿に思わず笑みがこぼれた。

 革命の戦いを目の当たりにした有賀は、この平和なひと時を噛みしめる。

 どうかいつまでもこの時が続けばいいのだと願い、艦は星の海を征く。

 にわかに輝きを灯す紅い石の指し示す先に何があるのか。

 今の彼らはまだそれを知らない――。

 

 ――第12話 「勝利の条件」――




ありがとうございました。
次回は第13話、折り返しです。次のヤマトが始まる前に完結させないとですね。
それではまた次回お会いしましょう!
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