波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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皆さまお久しぶりです!
5月だというのに真夏日ですね……ヤマトlllでしょうか、誰か太陽制御装置を……というのは冗談ですが、暑いので皆さん熱中症には気をつけてくださいね!
さて、今回は平和なお話です。それでは、あらすじからどうぞ!

あらすじ
 宇宙に命をもたらす星。
 太古の昔、アケーリアス文明が残した種まく方舟を探す旅を続ける武蔵の、ひと時の平穏。
 最初の武蔵の旅から3年。近くで親友を見てきた彼女には悩みがあった。


第13話 「遠い記憶、乙女の心」

 深夜零時。

 新たに来る年に湧く艦内の中で、静けさに満ちた観測ドームに入った彼女は、流れていく星空に目を細める。

 今この時は電灯を消し、宇宙を見る事ができるこのドームの中で唯一輝くのは、道を示し続ける紅い石。

「かーんな」

「水月……どうしたの?」

「あけましておめでとう」

 彼女が差し出したモニターの画面では2206年に表示が変わり、「Happy New Year!」の文字が浮かび上がった。

「うん、おめでとう」

「なんか浮かないねー」

「そうかなぁ?」

 首を傾げながら、柑奈はじっと紅い石を見つめる。

「ほら、またそうやって」

「この石みたいに、誰かが私を導いてくれないかなー……なんて」

「なんでサクッと告白しないの?」

「ぅえっ⁉︎」

 上ずった声をあげる柑奈の肩を掴むと、水月は続ける。

「いい? 正直言って超じれったいの。2年もずぅーっと片思いで、気持ち知りたいとか思わない⁉︎」

「いやー……別に……」

「なんなのそれ……2年も……いや、4年くらい? 一緒にいて有賀さんから何もアクションしてこないってことは、じっとしてても進展しないんだよ!」

「だから、私は別に進展させようとは思ってないんだけど……」

「じゃあその間に誰かにとられてもいいの⁉︎」

「誰かって、誰」

「…………誰かは、誰かだよ」

 しばしの静寂ののち、咳払いをした水月は「とにかく!」とより一層強く彼女の肩を掴む。

「柑奈がその辺りはっきりしないと、私たちが気が気じゃないの!」

「私……たち……?」

 しまった。

 そんな心の声がはっきりと聞こえるほど動揺した顔で固まる水月に首を傾げる。

 瞬間、再び行動を始めた水月が恐ろしい早口でまくし立てる言い訳を聞き流しながら、柑奈は――。

「やっぱり……はっきりさせた方がいいのかな……」

 

 

「お兄、いる?」

 その声に開いた扉の向こうでは、首を傾げる兄の姿。

「どうした?」

「久しぶりに非番重なったからさ、家族水入らずってことで」

「そうか」

 妹を部屋に招き入れると、コーヒーを淹れて彼女に手渡す。

「ありがと」

 笑顔を見せて口をつける。

「…………うぇ……にが……」

「はははっ、まだまだ子供だな」

「うるさいっ! もぅ、なんでミルクも砂糖もないの……?」

「美佳の為に用意はしないぞ」

 ニッと笑ってコーヒーを口にすると、美佳はふとため息をついて「それで」と切り出す。

「お兄、ちょっと聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「いや……大した事じゃないんだけど……」

「なんだよ、それ」

 彼女の隣に腰掛けると、美佳は肩に頭を乗せてまるで独り言のように呟いた。

「お兄は、柑奈さんの事どう思ってるのかなーってさ」

「……いい母親になりそうだなって」

「……ふーん、そう、母……親……は、ハハオヤ⁉︎」

 距離をとって目を点にする美佳に「何をそんな反応してるんだ?」と冷たい目を向ける。

「柑奈はしっかりしてるし、優しいし」

「子供にもそうだろうなーとか?」

「そうそう。よく分かったな」

「いやお兄、何その超分かりやすい考え。えっ、まさか本気でそれしか思ってない?」

「そうだけど」

「……えぇ……?」

 更に距離を取る美佳。

 その目は軽蔑もあり、ただただ引いていた。

「おい、なんだその目」

「……ううん、なんでもない」

 しばらくして兄の部屋を後にした美佳は、頭を抱えて深いため息をついた。

「……まだ、時間かかりそうだなぁ……」

 兄の部屋の扉をしばらく見つめて、美佳は歩き出した。

 ――でも、ゼロじゃない。

 そんな事を思いながら。

 

 

数日後

「見せたい場所って?」

 非番の日、水月に呼び出された有賀と柑奈は、広大なレクリエーションルームに新しく作られた区画の前に立っていた。

 スペースが有り余っていたレクリエーションルームのおよそ半分を仕切って作られたそこは、手書きの文字で「心落ち着かせる空間をお届けします!」と書かれた紙がセロハンテープで貼り付けられている。

「明日から他のクルーにも解放するんだけど、一足早く見せてあげようと思って」

「解読作業で忙しいのによく作れたな」

「基礎設計は柑奈だったり、技術科員も多いですから。私だけじゃないです。。それに技術科だけじゃなくて色んなところが協力してくれたので、負担は少なかったですよ」

 専用コードを打ち込み、扉が開く。

 そこに広がっていたのは、一面の雪景色。

「……すごいな、これ……」

 艦内とは思えないほどに鮮明な映像で映し出された、地球の冬。

 冷静に考えてそれがホログラムである事は分かっても、人工降雪機で心地よく肌に当たる雪の冷たさや、温度管理された上での冷感がとてもリアルに冬を感じさせた。

「設計以上にできたね、水月」

「そうでしょ?」

 得意げに胸を張る水月は、周りの景色を見つめながら続ける。

「有賀さんや美佳ちゃんからの相談もあって、このリラクゼーションルームを作る事は決まったので、あとは医務科の先生とかに相談しながらですね。そこは柑奈の仕事だったよね」

「うん。でも私はそこまでで別の仕事してたから、あとは水月達のおかげだよ」

 2人、讃えるように笑い合う。

「じゃ、私はこれで。そこにベンチもあるしごゆっくりどうぞ」

 いたずらっぽく言い部屋を後にした水月。

「環境設定冬なのに何がごゆっくりなの……?」

「らしいと言えばらしいけどな……」

 とはいえ凍えるような寒さではなく、むしろ心地の良い気温に設定されているのもあり、2人はなんとなくベンチに腰掛けた。

 端の方で縮こまり俯く柑奈を横目で見た有賀は、少しだけ近くに寄ってみる。

「柑奈、どうした? 調子悪いのか?」

「あっ、い、いえ、なんでも」

 ――ダメだ。

 数日前、柑奈は水月と美佳に言い寄られていた。

 無理をして言う事でもないのだが、彼がどう思っているのか気になっていた柑奈は直前まで気持ちを決めていた。

 ――……言えない……。

 ここで気持ちの弱い自分が嫌になる。

「前、美佳に聞かれたことがあってさ」

「美佳ちゃんに?」

 突然口を開いた有賀を向くと、彼は柑奈の方を見て続ける。

「柑奈のこと、どう思ってるかって」

「……どう、答えたんですか……?」

「いい母親になれそうだな、とか」

「……! …………⁉︎」

 不意に顔が熱くなる。

 恐らく彼にそういう気持ちは無いだろう。

 それでも、彼女にとっては。

「いや、あの……それ、は……」

 有賀の顔を見られないどころか言葉すら出てこない。

「…………反則、です……」

 小さく呟いたが、彼にはきっと聞こえていない。

「その後美佳に呆れられて、『それなら柑奈さんに心配かけさせないで』って」

「本当ですよ……あの時のこと、まだ根に持ってますから」

「うぇ、本当か?」

「はい」

 意を決して有賀の目を見つめた柑奈は、頬を赤らめて今できる最大限の笑顔を向ける。

 

「有賀さんは私にとって、誰よりも……何よりも大切な人なんですから」

 

「……⁉︎」

「私、待ってます。じゃあ、お先に失礼しますね」

 レクリエーションルームを出た柑奈は、扉が閉まると同時に深く息を吐いた。

「聞かなかったんだ、答え」

 腕を組んで待ち構えていた水月を見ると、ふと視線を落とす。

「きっと、義弥さんは私のこと、なんとも思ってないから」

「それは違います」

 声の方を向くと、美佳が少し安心した表情で立っていた。

「お兄、なんとも思ってない人をあんな風に言いませんよ。あんな、優しそうな顔もしませんから……」

 一息置くと、彼女は満面の笑みを浮かべる。

「あとはお兄次第です。でももし、その時は……」

 壁に映し出される映像が切り替わり、雪が青空に変わる。

 爽やかな景色を背に手を後ろに組んだ美佳は、柑奈に顔を近づけた。

「よろしくお願いします、“お姉ちゃん”」

「……美佳ちゃんみたいな妹なら、大歓迎かな」

 優しく髪を撫でる。

 その手は暖かく、いつかの母の温もりを感じられるようだった。

 ――お母さん……うん、お兄が言った意味、分かったかもしれない。

 いつかの、遠い母の記憶。あの日、地球に降った赤い流星が消し去った優しき日々。

 そんな日に想いを馳せて、部屋に戻った彼女は静かに涙を流すのだ。

 

 ――第13話 「遠い記憶、乙女の心」――




ありがとうございました。
今回は1話使って恋愛話でした。
次回からはまた少しだけ重たくなるので、程よいバランスになっていれば幸いです。
それではまた次回、お会いしましょう!
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