えー、前回の戦闘シーンに全力を注ぎすぎてほぼ書けませんでした。
というわけで遅くなりましたが、ご安心ください、ちゃんと16話です。
それではあらすじからどうぞ。
前回までのあらすじ
惑星アケーリアスを探す武蔵は、道中サルガッソー宙域でガミラスの救難信号を受け取り、不利を承知で救出作戦を敢行した。
その結果、バラン以後別行動を取っていた深宇宙探査船アカギの波動砲に助けられるかたちで危機を脱する。
今後の旅程協議のため武蔵へと移乗したアカギのクルーには、今回の武蔵の行動について一言申したいことがあるようであった。
「バカなんですか、あなた方」
武蔵の応接室に集まったアカギのクルー、蔵中瑞穂は開口一番そう言い、有賀を睨む。
「戦術長は分かっていたはずですよね? こんな無謀な作戦を――」
「武蔵単艦で十分遂行可能な作戦でした」
「あなたには聞いていないんですよ、砲雷長」
互いに睨み合う2人を制した艦長達はほぼ同時に嘆息する。
「うちの蔵中が申し訳ありません。彼女はどうやら、あなた方の行動に納得できていないようです」
「アカギから通達があった時点で、それは承知していました。それでも我々は、あの場にいた生存者を見過ごす事はできませんでした」
淡々と言葉を告げる近藤から目をそらす蔵中。
「それでもわたし……納得できません」
絞り出すような声に見つめた有賀は、感情を表に出さないように声を出す。
「無謀な作戦を決行したことですか」
「あれが作戦だなんて認めたくもない。5人を救うために、一体何人が傷を負ってどれだけの犠牲が出るのか分かっていての判断ですか。助けた後、その5人はどうする気だったんですか。後先考えない行動は勇猛ではなく無謀です」
「外部のあなたには言われたくありません。偵察機を出して生存を確認しておいて、それでいて見捨てろなんて人道面に反します。機械的な危機判断だけで人の命を左右するのは間違っています」
珍しく食い下がる来島の瞳はいつになく鋭く、何かを抱えているようであった。
「お言葉ですが、そういう直情的な考えで危機に陥ったのはヤマトの記録でも明らかです。そんな事をしていればいつか身を滅ぼします」
蔵中の指摘はもっともであり、以前は来島も同じ考えだった。
彼女自身、まだ心のどこかでそんな正論に納得しかかっている。
「それでも、人命救助が最優先です」
視線を上げ、強く言い放った彼女は立ち上がると、そのまま部屋を後にした。
有賀のアイコンタクトを受けた柑奈が彼女を追うように会議室を後にしようとすると、扉の横で医務科の制服に身を包んだ少女が立っていた。
「あなた、何か報告?」
「あっ、すみません……だいぶ前からいたんですけど、入るタイミングなくて……」
「そっか。今なら入っても大丈夫だよ」
「ありがとうございます。あ、砲雷長なら、あちらに」
お互いに笑顔で告げると、報告のための端末を胸に抱きしめて彼女は扉を開けた。
「失礼します」
「奈波?」
彼女にいち早く気づいた美佳が声を出すと、彼女は少し驚いた顔で美佳を見る。
が、すぐにやる事を思い出すと早歩きで艦長の元へ向かった。
「保護した5名についてですが、大きな傷もなく順調に回復しています」
「そうか、ありがとう」
「それと……」
艦長から返された端末を受け取った彼女は蔵中の方を見ると、柔らかい笑みと共に口を開く。
「今回の戦闘では軽傷6名、死者はいませんでした。では、失礼します」
閉められた扉に背中をもたれた奈波は、大きく息を吐き出す。
「……心臓が飛び出るかと思ったぁ……」
そんな独り言を呟きながら、彼女はゆっくりと医務室へと歩き出した。
一方、会議室の中ではしばしの沈黙の後、冴島がそれを断ち切る。
「これからの武蔵の航路予定はどうなっていますか?」
人気のない通路。被弾しているために節電モードになっている艦内では、そういう道は薄く照らされているだけであった。
誰もいないそこから、硬いものを殴る音が聞こえてきた。
「……?」
角から覗き込んでみると、手から血が出るほどの勢いで壁に拳を叩きつける来島の姿があった。
「……好き勝手言ってんじゃないっての!」
「何をしているの?」
「っ⁉︎」
驚いた顔を見せた直後、来島はすぐに視線を落とす。
「相当怒ってるんだね」
「これは……違います……」
迫ってくる柑奈から避けるように後ずさる。
「手、見せてみて」
「……別に、何もありません」
「ウソつかないの」
背中が隔壁につく。
後ろに隠した手は柑奈に掴まれ、擦りむけてかすかに血が滲む指が挙げられた。
「なんでもないですから……ほっといてください」
「それはできないかなぁ」
身動きの取れない彼女に笑いかけると、柑奈は優しく手をとる。
「こんなになってるのに、放っておくなんてできるわけないでしょう?」
「だから、ほっといてくださいってば……」
「でも逃げない」
「それは……逃げたところで、居場所無いですし……」
「何かあったんだよね。よかったら聞かせてくれる?」
その表情にほだされ、諦めたように嘆息した来島は静かに彼女の手を握り返した。
「……わかりました。でも、大したことはないですよ?」
今まで彼女がしなかった柔らかい笑みに思わず表情が緩む。
2205年4月
「……これでよし」
「理沙、ご飯できたわよ? 下りてらっしゃい」
「わかった、お母さん」
扉の外から聞こえた母の声に答え、階段を降りる。
父は政府省庁で、母は医者として働いている彼女にとって、今日は久しぶりの家族団欒。
ガトランティス戦役以降は父の仕事も増えていたが、それがようやく落ち着いたのだそう。
「明日からは長くなりそうだ」
父の言葉に目を向けると、母は「そう」と答える。
「じゃあしばらくは2人だけかしら」
「……私も、明日から任務」
目をそらしながら小さく答えると、心なしか視線が険しくなった。
「あなた、軍はやめなさいって――」
「あーそう。でも決めたの!」
少し苛立った口ぶりで返した彼女は、少し気持ちを落ち着けて続ける。
「私、もう決めたから」
「次は長いのか」
口を開いた父に目を配るが、父は彼女を見てはいない。
「2年の予定。マゼランのもっと奥を、武蔵だけで」
「そんな任務、行かなくていいんじゃない? あなたはもっと」
「安全な場所なんてない。地球にいたって生きにくいだけ」
「でもね理沙、あなたには色々声もかかっているでしょう?」
「全部蹴った。居場所を決める権利くらいあるでしょ」
「あなたには少しでも安全な場所にいてほしいの。だから地球で……」
「私を掌握できる場所に置いておきたいだけ。それは私の為なんかじゃないことくらい分かってる。私もバカじゃないんだから、いつまでも騙せると思わないで」
席を立ち足早に階段を上る彼女は、部屋の扉を閉めると机の上の写真に目をやる。
2199年、冥王星。
彼女の兄は、希望の名を知る事なく命を散らした。
イスカンダルからの使者も、人類の希望を背負って旅立ったヤマトの名も知らず。
今の地球を、今の彼女を彼が見ればなんと言っただろう。
「ごめん、お兄ちゃん。私じゃダメなのかな」
写真に語りかけて深いため息をつく。
兄と共に地球のために戦いたかった。けれどそれは叶わず、今度は兄の代わりに家族を守ろうとした。
しかし、それもまたその家族に拒絶されてしまった。
「……じゃあ、何しろっていうの……」
――翌朝、彼女は何も言わないまま家を出た。
「だから、居場所はここしかない、って言ってました」
有賀の部屋でことの顛末を話した柑奈は、腰掛けたベッドに指を沈めて肩の力を抜く。
「それで、そちらはどうだったんですか?」
「ああ、またしばらく糾弾されたよ」
「頑なですね……」
ため息をついた後、有賀は続ける。
「でも情報も貰った。俺たちを襲ったのは銀河系で覇権を広げているボラー連邦だ」
「銀河系? どうして銀河系で覇権を広げてる国がこんな天の川とマゼランの狭間で……」
「多分、地球が邪魔なんだよ。地球を侵略するためには同盟国のガミラスも邪魔だ。だからその戦力を削ぐために待ち伏せを」
「回りくどい事しますね……」
そうだな、と相槌を打ちながら立ち上がった有賀は慣れた手つきでコーヒーを淹れて柑奈に手渡した。
「ありがとうございます……ん、なんか今日は私好みの味……」
「やっと柑奈の好みに行き着けたか。長かったな」
「それは……えっと……」
「いつも部屋に来てくれるからな。柑奈が好きな味のものを出したいだろ」
「はぁ……その……」
きょとんとした顔で小首を傾げる彼女に、有賀は笑いながら返す。
「大切な人の好みには合わせたいかなって思ってな」
「……は、はい……えっ⁉︎」
ビクッと体を震わせる柑奈。
「そんなにびっくりするような事は言ってないと思うけど……これからもずっとこんな感じでいられたらって思う」
「えっと、あの……その……それは……」
「この前の、返事のつもり……なんだけど」
ちらりと彼女を見ると、顔を赤くしたまま固まっていた。
次の瞬間、バッと立ち上がり居住まいを正して大きく息を吐いた彼女は、少しだけ落ち着いた表情で彼を見つめ返した。
「……どうか、よろしくお願いします」
カップを置いて有賀に近づいた柑奈は、彼の髪を撫でながら微笑む。
「さっきの返答だと、プロポーズみたいですよ?」
「柑奈がいいなら、俺は構わないけどな」
同刻/艦長室
帽子を取った近藤とテーブル越しに向かい合った一ノ瀬の視線は厳しかった。
「なぜ言わなかったんですか」
「アカギのクルーも口にしなかったことをこちらから言うこともあるまい」
極めて落ち着いた口調の近藤に対して、一ノ瀬は苛立ちを隠せないようである。
「本艦に送られてきた通達の内容は、5分以内に本艦から応答のない場合は撃沈されたものとみなし波動砲をもって10分後に該当宙域の敵および障害物を掃討するというものでした」
「彼らなら撃つと確信していたよ。ただの脅しではないとね」
「アカギのクルーと、この武蔵のクルー双方を騙すような……」
「敵を欺くならまず味方からっていう言葉を聞いたことはないか?」
「ええ、それは聞いたことありますが……」
「ではそういうことだ。バランまではアカギと同行しつつ修理にあたり、その後は赤い石に従って旅を続ける方針は変わらないし、この件をわざわざクルーに開示する必要もない。まあ、箝口令とは言わないがな」
快活に笑う彼の姿に言葉をなくした一ノ瀬は、前に出されたカップに口をつけた。
先程のような鋭い視線は消え去り、落ち着いた雰囲気になった一ノ瀬の名を呼ぶ。
「すまないな一ノ瀬。負担をかける」
「いえ。……艦長や戦術長ほどじゃありません」
はにかむ彼に笑いかけ、近藤は外を映すモニターに目を移す。
そこには純白の艦の姿が鮮明に見えていた。
アカギ艦橋
「手負いの艦と共にバランまでなんてよく受けたものですね」
脚を組んで振り向いた蔵中の声は相変わらず若干の怒りを孕んでいた。
「ボラー連邦の追撃は考慮には――」
「もちろん入れたよ。でも彼らの追撃は無いと考えた。理由は銀河系にできた新たな国家の存在だ。その国家は地球の勢力圏を避けるように、しかしボラー連邦を遮るように覇権を広げている。ならば目下の敵は地球でもガミラスでもなくその国家だからな」
モニターを点灯させた冴島は帽子をかぶり窓の外に映る星を見つめた。
「さあ行こうか。武蔵と共に」
アカギと武蔵のメインエンジンが点火し、速度を上げる。
バラン星へと方向を変えた2隻はゆっくりと星の海を進む。身体の傷を癒しながら、救った命を故郷に帰すために。
暗くなった武蔵のドームでは、赤い石の表面を文字列が流れていくのであった。
――第16話「選択」――
ありがとうございました!
前回までと比べると大したことない感じでしたね(当社比)
次回からちょくちょくクルーの過去話が出てくる予定です。気をつけて書きます(笑)
Special thanks
深宇宙探査船アカギ
輝秀(@alexnopapadayo)さん