波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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いやぁ、前回の投稿から1カ月近く経ってしまいましたね。
どうもお久しぶりです、皆さまこの作品の事を覚えていらっしゃるでしょうか(笑
ええ、ちょうどお仕事が忙しかったり単純に案が浮かばなかったりして書けませんでした。申し訳ありません。
そんな17話ですが、どうかお楽しみいただけたら幸いです。

あらすじ
 ボラー連邦に襲われたガミラス艦の生存者救出をアカギのクルーに頭から否定されてしまった武蔵のクルー達。
 特に、自分が決めたことすらも家族から否定されていた来島は苛立ちを隠せないようであった。
 満身創痍の武蔵は、単艦でのバラン星への航海は危険だとの判断からアカギに護衛されながらの航海となった。
 予定通りバラン星へ救出したガミラス人達を無事に送り届けた武蔵は修理を終えようとしていた。


第17話 「弔いの花」

 基地の光を背に、アカギとガミラス艦に別れを告げた武蔵は修理したての艦体ですぐに数光年を飛び越える。

「エンジンの調子は良好だな」

「誰かさんの指揮のせいでエンジン丸ごとレストアしなきゃいけなくなったおかげだ」

「それは謝ればいいのか……喜べばいいのか……」

 泰平の言葉に微妙な顔を浮かべる有賀。

 その視線の端に、艦橋を後にする棚橋の姿が見えた。

 ここ最近、彼女は暗い顔で艦橋を出る事が多い。

「なんかあったのかな」

「さあ?」

 首を傾げた泰平ではなく、棚橋が出て行った扉を見続ける有賀であった。

 

 

展望室

「……はぁ……はぁっ…………っ」

 手すりを掴んだままうずくまる棚橋の呼吸は荒く、頭皮に爪を立てて身体を強張らせていた。

「なんで……なんで今更、こんな……ことを……」

「棚橋さん、大丈夫ですか?」

 背後から聞こえた声に振り向くと、棚橋の身体から力が抜けた。

「どうしたんですか?」

「いえ……なんでもないです、佐伯さん」

「なんでもないって事はないんじゃないですか?」

「大丈夫です。ちょっと昔の事を思い出しただけですから」

 引き止めようとする柑奈にそんな間も許さず、棚橋は足早に去っていった。

 ずっと、頭の中を覗かれているようだ。

 ――気味が悪い。

 

西暦2193年/火星宙域

 砲火の飛び交う中を、赤と黄の派手な塗装の駆逐艦が掻い潜る。

 肉薄した緑の艦の横腹を魚雷で貫いたそれは急上昇をかけてその場を後続の赤い戦艦に明け渡す。

 遥か遠くに輝く青い星を守るために集まった勇姿は徐々にその数を減らし、様々な国の言語で聞こえていた通信もいつしか英語と日本語が増えていった。

 戦況は押されている。それでも一方的に蹂躙されているわけではない。

 ――まだ戦えている。

 その想いだけが彼らの士気を支える。

 残骸と岩石が漂う戦場を駆ける艦は徐々にガミラスの防衛線を押し上げていた。

「よし、離脱して後続に託すぞ。今度は下だ!」

 威勢のいい声とともに急激に軌道を変えた磯風型は大きな楕円を描くように再び離脱していく。

 次いで上昇機動をかけた時に見えたのは、艦首から陽電子砲を放つ主力艦隊の姿。

「実弾か陽電子砲じゃないと敵の装甲を貫けないなんて……」

「人間は所詮太陽系から出たことのない井の中の蛙だったって事だ」

 棚橋に答えた艦長は、それでも冷静に指示を出してガミラス艦隊へと突入していく。

 弾幕を縫って、艦尾の翼が消し飛ぼうと駆逐艦はさながら戦闘機のように一撃離脱を繰り返す。

「あの図体ならこの速度には追いつけないみたいだな」

「わざわざ追いかける必要がない、と見られてる可能性もありますけど」

 そんな会話とともに急旋回をかけた艦は本隊を見下ろした後でガミラス艦隊の背後からさらなる戦果を狙う。

「ヤツらのケツに火つけてやろうぜ!」

「若い女の子の前でそんな事言わないでくださいよ艦長」

 軽口を言いながらも的確にエンジンを狙う。

 バレルロールで迎撃を回避した駆逐艦は、立ちこめる黒煙を煙幕の代わりにして即座にそこを離脱する。

 ――が。

「背後に高速艇……クリピテラ級!」

「まずいな……振り切れるか?」

「結論だけ言います。無理です」

 上部の光線砲が消し飛び、艦橋に火花が散る。

「そうか」

 妙に冷静な艦長は棚橋の手を掴むと、強引に艦橋から出した。

「か、艦長……?」

「いいか、どんな事をしても生き残れ。それだけだ」

「艦長!」

 扉が閉じた刹那、強い慣性で壁に身体が叩きつけられる。

 次に目が覚めた時には、闇と静寂が待っていた。

「いったた……」

 片腕を押さえながらも、彼女は冷静であった。

 ――電気が消えてる……酸素も多分多くない。って事は……船外服が必要……。

 あたりを見回して船外服を見つけた彼女は手早くそれを着ると、非常電源を入れる。

 いくつかの点滅を経て赤く照らされた通路。

 艦橋へと続く扉を開けると、背後の紙や破片、血痕の一切が外に向かって放り出される。

「…………なに……これ……」

 そこにあったのは、全損した窓から広がる無限の闇。

 人一人の姿なく、弱々しく光るモニターだけが見える。

 窓には溶けた跡、しかし機材に傷はなく……。

「みんな……どこに……」

 そんな、分かりきった疑問だけが浮かぶ。

 頭を振ってその問いを振りほどくと、彼女はすぐに航海士席へと向かった。

「エンジン……正常。通信機はダメ……スラスターは下の一つしか動かない。でも下の一つなら大丈夫。あとは……ん?」

 パネルの隙間から覗く白いもの。

 思わず手に取ると、それはこのフネに乗るときに撮った集合写真であった。

「……」

 何気なく裏返す。

 ――何があっても、生きろ。

「……命令違反は、重罪ですから」

 エンジンを噴かした駆逐艦は残り少ないスラスターを使って向きを変えると、海を持つ火星に向かって加速した。

 

 

武蔵/観測ドーム

「……ん?」

 にわかに輝きを増す赤い石。

 振り返った水月は、その向こうにある画面へと視線を向ける。

「外部アクセス……? 一体どこから……」

 パネルを操作してアクセス元を探すが、何度やっても結果は同じであった。

 武蔵を中心に表される空間が示される。その光点は――

「……艦内から、外部アクセス……何かのエラー?」

 

 

下士官部屋

 疲れ切った様子で戻ってきた奈波の姿を見た美佳は2段ベッド上段から降りる。

「お疲れ」

「うん……ありがと」

「最近忙しそうだね」

「またカウンセリングが増えててね。入れ替わり立ち替わりいろんな人が……」

「そっか」

 頷きながら袋を開けたチョコレートを差し出す。

「食べる?」

「食べる〜」

 力の抜けた声で答えた彼女にそれを渡すと、美佳はその隣に座った。

「今度はなんでだろう。リラクゼーションルームはちゃんと……」

「なんか、昔の事を思い出すんだって。一回来た人は同じ症状で来ないから、多分入れ替わりで。みんな、頭の中を覗き込まれてるみたいで気持ち悪いって……」

「頭の中……」

「気象長の棚橋さんも来たし、一応艦長には報告したけど……美佳ちゃんも何かあったら教えてね。戦術長の事でも、技師長の事でも」

「……うん、分かった。約束するよ」

 奈波に笑顔で答えた美佳は、まるで小動物のように板チョコを頬張る彼女を尻目に自分のベッドに戻った。

「おやすみ、奈波」

「うん。おやすみなさい」

 

 

士官部屋

「外部からハッキング?」

「そうみたいなんです」

 マグカップを手に、有賀と柑奈はいつものように彼の部屋にいた。

 水月から聞いた事を伝えると、彼は考え事をするように視線を落とす。

「ハッキングか……」

「けれど、アクセスされたのは異星文明との接触用に入っている歴史ブロックみたいで」

「……それってどういう……」

「セキュリティの一番弱いところなんです。記録は現在の戦力がバレないようにガミラス戦役の直前までですが……スキャニングされているのは1940年代、なんですよね……」

「なんでそんな300年近く前の……武蔵のデータは?」

「全く手付かずで……」

 ――何が目的なんだ……?

 有賀は更に頭を捻らせる。

 武蔵への侵略だとするのなら、ヤマトの航海で古代進と森雪が記録したように艦そのものを狙うはず。

 しかし今のところ武蔵のシステムにエラーはなく、狙われたのはあくまで地球の歴史に関する部分だけ。

 ――と、彼はふと思い出す。

「そういえば、艦内で増えている昔の事がフラッシュバックする症状についての原因は分かったのか?」

「それもまだですね……先生はきっとストレスだろうって。ここ最近はマトモに星に停泊してませんし……というか銀河間空間で星ありませんし」

「次の星まで一週間……何か対策を考えないと……」

「そうですね……」

 有賀に頷いた柑奈は、ふとカレンダーを見て何かを思い出したように「あっ」と声をあげた。

「義弥さん、私、ちょっとやる事があるので今はこれで失礼しますね」

「わかった。また後で」

 

 

武蔵/展望室

 窓から宇宙を見つめていた彼女は、窓に映る自分の顔から目をそらす。

 一体、どうして生きているのか。

 何度めか知らないそんな問いを投げかけながら、写真を見つめた。

 何故そんなことを思い出したのかは分からないが、彼女にとって彼らが大切な存在だったのは言うまでもない。

「棚橋さん」

 その声に振り向くと、船務科を示す艦内服に身を包んだ少女がいた。

「有賀さん……」

「浮かない顔してますね」

「そんな事は……多分、ないわ」

 咄嗟に手で隠した写真を僅かに視界の端に捉え、美佳は彼女の隣に並ぶ。

「今日が、命日でしたか」

「……!」

「聞きました、奈波から」

 短くそれだけを言う美佳に「そう」とだけ返した棚橋は、諦めたように口を開いた。

「これまで一度も思い出したことなんてないのに、どうしてかしら」

「大切な人だったからじゃないですか? 言い逃れのしようがないくらい、棚橋さんの中で深く残るほどに」

「……確かに」

 微かに笑顔を浮かべた直後、真空に浮かぶそれを見つけて彼女は目を見開く。

「棚橋さん? 何か……あっ」

 それにつられて窓の外を見ると、窓のすぐそばを花束が浮いていた。

「弔いの花、ですかね」

「……あの戦いで誰かをなくしたのは、みんなそうだもの」

 微笑んで踵を返した棚橋は、小さな花瓶に植えられた花を撫でる。

「その分、私達は生きていかないと。その人たちのためにも」

「……はい」

 棚橋が出て行った扉を見つめていた美佳は、しばらく経ってから再び窓の外に目を移す。

「……見ててくれてるかな。”お兄ちゃん”」

 

 

 船外服を着たまま艦首で祈りを捧げていた柑奈は、ゆっくり目を開けてフェアリーダーの穴から宇宙を見ていた。

「私、このフネで大事な人に出会ったよ。だから……安心してね」

 背中を押し、そして帰ってこなかった親友を思って彼女はわずかに肩を震わせる。

「……私がここで泣いてちゃ安心できないか」

 ほんのり涙で滲む星空に背を向けて、武蔵を見つめた。

 そして深呼吸とともに、胸元で拳を握る。

「……大丈夫。私、このフネでなら……」

 艦橋に向かって歩き出したその背中は、心なしか強く見えていた。

 ――今は造花だけど、来年は地球で、本物の花を……。

 

 

 あかりの落とされたドームからは、まばらに付けられたパネルの光だけが浮き上がる。

 ――無人の観測ドーム最上階でにわかに輝きを増す赤い石。その表面に流れる文字列には、誰も気づかぬまま。

 

 ――第17話 「弔いの花」――




ありがとうございました。
次回18話も投稿は未定です。できる限り早く出せたらいいな……。
ハッキングの正体などについては次回以降、お楽しみに!
それではまた次回お会いしましょう。
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