波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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皆さまお久しぶりです。
さて、今回はお話が動く18話です!
アレですね、ちょっとずつラストに近づいていきますね。
ストーリー展開を考えるのも難しくなってきました……ヤバいです。
さて、今回もあらすじからです。

あらすじ
 艦内では過去のことを思い出すという症状が頻発していた。棚橋の火星沖での記憶が蘇る中、柑奈も同じく火星沖で亡くした親友を思っていた。
 同じころ、武蔵に記録された歴史ブロックに断続的なハッキングが記録されていた。スキャンされたのは1940年代、果たしてその目的とは?


第18話 「過去の痛み」

 西暦2203年、夏。

 放課後の教室でぼんやりと宇宙へ征く艦を見つめている少女がいた。

 仲のいい人同士でグループとなって語らう女子生徒の中でただ1人誰とも話さず、ただ青空に不釣り合いな黒い艦を。

「この近くに新しくカフェできたんだって!」

「えーじゃあ行ってみる?」

「いいね、行ってみよ!」

 ――今は一応、戦時なんだけど。

 そんなことを思いながらも口には出さない。

 3年前までは皆辛い生活を強いられていたのだ。せめて戦争が遠く感じられる時は、そんな事を考える事もない。

「あたし、軍人って嫌いなんだよね。だってただの人殺しでしょ?」

 不意に聞こえた声に一瞬だけ目を向ける。

 しかし、それもすぐにやめて再び空に目を移した。

 中にはああいう人もいるだろう。理解はできないが、納得はできる。

 そういう人がいてもいいとは思う。ただ――。

「おい」

 ――自分に絡んでこなければ、の話だけれど。

「……なに?」

 机を軽く蹴った張本人を見上げる。

 一応彼女のクラスメイトであり、はじめからずっと軍人嫌いを主張していた。

 その風貌は軽くギャルを思わせるが、彼女の金髪は地毛だという。肌はほどよく日焼けして健康そのもの。

 気づけば教室には彼女と2人だけが残されていた。

「さっきまで話してた友達はどうしたの?」

「アンタと話したかったから帰したの。何か?」

「いいや。それで?」

「用事ってほどじゃないの。ただ聞きたくて」

 彼女が指差したのは、地底から宇宙へ上がっていく宇宙戦艦。

「アレは、なんなの」

「戦艦でしょ? 今は戦時なの。分かるよね」

「アンタ、家族軍人なんでしょう」

「そう。あなた軍人嫌いなんだよね。なら話しかけない方がいいと思うよ、お互いのために」

 鞄に手をかけた刹那、それは蹴り飛ばされて背後へと滑る。

「アンタのそういう態度、ずっと嫌いだった」

「……だから?」

「人殺しして稼いだ金で飯食ってるヤツって、アンタみたいのばっかなの」

「さあね。私以外は知らない。わざわざ喧嘩売りにきただけなら、私は帰るよ」

「まだ話は終わってないっつの」

 胸倉を掴まれても少女はあくまで冷静だった。

「もう話すことはないよ。あなたとは合わないからこれ以上話さない方がお互いのため」

「……そ。じゃあ……これだけっ!」

 不意に飛んできた平手の勢いそのままに倒れこむ少女を、ただ蔑むように見つめる。

「そのなんでも他人事みたいな態度が大嫌い。……軍人だっていうアンタの兄さんも程度が知れるわね」

「…………っ!」

 言い放ち立ち去ろうとする彼女だったが、次の瞬間には床に倒されていた。

「った……」

 ヒリヒリと痛む頬を押さえて頭をあげると、先程まで冷めた目で見ていた少女の瞳にははっきりと怒りの色が浮かんでいるのが見えた。

「私の事は好きに言って構わない。だけど、お兄の事だけは許さない」

「……人殺しのためにそんな必死になって……」

「うるさい! あなたに何が分かるの⁉︎」

 馬乗りになろうとする彼女と組み合い、互いに睨み合う。

「わかんないけど、アンタにだってあたしの気持ちは!」

「わかるかそんなん!」

 夕日に照らされた教室で、彼女たちは下校中の他の生徒に止められるまでひたすらに殴り合い、白い制服には微かに血が滲んでいた。

 その数日後、喧嘩をふっかけてきた生徒はガミラス戦役時に父親が、満足な食事が家族へ渡されない事に端を発したクーデターに参加し、当時その鎮圧にあたっていた騎兵隊に射殺された事を知る。

 同じ頃、相手の生徒にも少女は遊星爆弾で両親を亡くした上に長男をもガミラスの攻撃で亡くした事が伝えられた。

 何度も彼女は少女と話す機会を探っていたようだったが、兄を侮辱された事を許す気にはならずその後は一度も口をきいていない。

 何より、これが兄に知れれば彼が心配するだろうと考えた少女は、教師にこの事を内密にしてほしいと頭を下げて回り、結果的に両者1週間の停学が定められたという。

 

 

西暦2206年/武蔵艦内

「――まあ、こんな事があって……」

「そっか……美佳ちゃんって、喧嘩っ早いタイプ?」

「いや、違う、違うよ⁉︎ あの時は、こう、カッとなって……」

 下士官部屋で奈波にことの顛末を語った美佳は、「そういえば」と付け加えた。

「あの子のお父さんが殺された時、殺した部隊の隊長さんが一度だけ来たらしいんだけど」

「そうだったんだ……会ったのかな」

「会ったんだって。ひたすら謝ってたとか聞いたよ、先生に。でもその隊長もガトランティスとの戦いで戦死したって」

「戦死……」

「まあ知らないけどさ。でもなんか思い出しちゃって」

 人に頭の中を覗かれる感覚、そう言われればそうなのかもしれない。そう形容できるのかは彼女自身も分からない。

「軍に入ろうと思った理由はそれで、まあ一種の復讐みたいな。お兄には、お兄が心配だからなーんて言ったけどさ」

「復讐って……」

 苦笑いした奈波はすぐに視線を落とす。

「やっぱり順番なのかな」

「そう言う奈波はどうなの?」

「……なんにも。わたしは何も失くしてないからかな……」

「どうだろう。それなら私、こんなんじゃなくてお父さんとかお母さんとか、お兄ちゃんの記憶が良かったなぁ」

 そう言ってベッドに倒れこむ美佳を、奈波は怪訝そうな顔で見る。

「お兄ちゃん? 戦術長じゃなくて?」

「お兄とは違うよ。お兄より頼れて――」

 

 

「――俺よりも、優しかった」

 その言葉を聞いた柑奈は、薄暗い部屋の中で彼に顔を近づけて笑いかける。

「義哉さんも、十分優しいと思いますけどね」

「ただ優しいんじゃなくて、堂々としてたんだ。憧れだった」

 天井を仰ぐ彼の顔は、これまでに見たことのないような、寂しさを感じる表情をしていた。

「義哉さんは、お兄さんの記憶を……」

「ああ。気味は悪いけど、思い出せるなら悪い気はしないよ」

「それは良かったです。私は……」

「……辛いなら、言わなくても」

「いえ……義哉さんには、言わないと……ずっと、思ってたんです」

 立ち上がり、壁のショーケースの中に入れられた武蔵の模型を見つめる。

「前にも言いましたね、武蔵には元々波動砲があったって」

「ああ。事故で……」

「はい。あの事故で、25名が亡くなりました」

 壁にもたれかかった柑奈は、俯いて口をつぐむ。

 ショーケースの灯りに照らされたその横顔は少し、痛々しく見えた。

「……私の、せいで……」

 

 

5年前

 地球、ヤマトが安置された海底でリバース・シンドロームが発覚した頃の事である。

 太陽系、火星と木星の狭間には惑星一つを形成できる密度の小惑星のかたまりが浮いている。

「間もなく実験ポイントに到着します」

 ガミラス戦役後、はじめて宇宙へ飛び立ったのはヤマトと同じ艦体を備えたフネ。

 冥王星基地を叩き、ヘリオポーズを超えたヤマトの旅程は誰も知らなかった。

 そのため地球ではもしもヤマトが帰還しなかった時のために同型艦の設計が進められていた。それは資材不足によって実現しなかったが、復興後にこうしてその成果は結実する事になる。

「破砕対象に軸線乗せ、波動砲発射用意」

 まだヤマトの戦線復帰が決まる前であったが、武蔵はあらかじめヤマトの改装計画と同じ艦体形状で建造された。

 漆黒の宇宙に瞬いた光の筋は数キロの小惑星とその一帯の小惑星を消し飛ばす。

「波動砲、予定通り目標を破砕。木星でのヤマトの記録通り、影響範囲はかなり広がっています」

「わかった。明日は発展型波動砲の試験を行う。今日は各員休息すること、以上だ」

 艦橋から出る試験長の背中を見つめた柑奈は、続々と出て行くメンバーに混ざらずにモニターに向かった。

「出ないの?」

「まだやることがあるから」

 背後から話しかけた同い年ほどの少女を見ずに答えると、彼女はひたすらに計算式を組み立てる。

「……そう……」

 そんな柑奈を少し冷ややかな目で見下ろした少女――水月は、すぐにその場を後にした。

 彼女達が言葉を交わしたのはこの時が初めてであった。

「……何をそんな必死になって……」

 

 

 翌日。

「試験長、発展型波動砲はあまりに危険です。余剰エネルギーの放出先のない本艦では、2発の波動砲を連射するのは間違いなく自殺行為です」

 試験開始2時間前。

 席に着いた試験長に食ってかかる柑奈は印刷した紙を机上に叩きつける。

「この、射線上に波動砲を拡散させる発展型波動砲の射出方法は乱雑すぎます。スプリッターで流れを割るか、二門の砲口で同時に撃つか……スーパーチャージャーで間違いなく逆流しないようストッパーをかけて連射するか。どれかをしないと、現時点では……」

「それは仮説だ」

「……っ!」

「その仮説が本当なのか、証明するのが我々の使命だ」

「それで、この艦が消え去ってもですか。何人が死ぬと思って……!」

「試験は予定通り行う。……その資料は君が持っていてくれ」

 ――その後のこと。

 歯をくいしばる柑奈を横目に、水月達は試験の用意を続けていた。

「波動砲、エネルギー充填率規定値へ。充填率、速射可能最低ラインとなる170%です」

「発射まで十秒、対ショック、対閃光防御」

 カウントダウンと同時に引き金が引かれ、突出ボルトが波動エネルギーを撃ち出させる。

 即座に撃発位置に戻った突出ボルトは再び前にせり出て2発目の波動砲を放った。

 さながら二頭の龍のように絡まり合うそれが触れた刹那、眩い光から放射状に無数の光線が小惑星帯へと突き刺さる。

「波動砲、予定ポイントで炸裂。拡散成功です」

 直後、警報とともに艦体が揺れた。

「なんだ⁉︎」

「これは……薬室内で圧力が規定限界点を超えます! このままだと……」

「だから言わんこっちゃない……!」

「あっ、佐伯さん⁉︎」

 席を立った柑奈に呼びかけた水月の言葉を無視して主幹エレベーターに飛び乗った彼女は、即座に水月を指差す。

「濱内さん、逆流があったらすぐに薬室を隔離して! 絶対に!」

 エレベーターを降りた柑奈は扉が開ききるのを待たずに走り出す。

 薬室の入り口につくと、そこは灼熱と化していた。

 暴発したエネルギーは高熱となって薬室に満ち、排気管やエネルギー伝導ケーブルを伝ってエンジンに悪影響を及ぼすのは時間の問題。

「私の計算した通り……ちゃんと止められていれば……」

 無力さに打ちひしがれている暇はない。

 薬室内にはまだ何人も残っている、それを助けなければ。

「大丈夫ですか⁉︎」

 中からの応答はない。

 薬室の外でもスプリンクラーが作動し始め、その水ですら床につく前に蒸発して視界を覆う。

「くっ……あいて!」

 乱暴にパネルを叩いても、システムダウンしていて開く気配はない。

 閉じられた隔壁に阻まれて扉は見えない。

「すぐにでも助けないと……ここは……」

 天井から聞こえた音は、彼女には聞こえたのだろうか。

 隔壁の温度も高いが、ついた手の痛みは感じなかった。

「佐伯さん」

 腕を掴まれた柑奈の視界に水月が見える。

「もうここは危ない。早く逃げよ?」

「でも……中の人たちを助けないと……」

「それで佐伯さんまでいなくなっちゃダメ。私たちは、これじゃあいけないって、地球に帰って伝えなくちゃ」

 外郭装甲を貫いたエネルギーは次第にその数を増やし、そして一際大きな爆発が艦首を包む。

 煙から顔を出した武蔵の波動砲口は大きくえぐれ、大小の穴が空いていた。

 閉じられた隔壁に背中を預けて崩れ落ちた柑奈の目からは涙が溢れる。

「また……何も、できなかった……」

「……でも、助けようとはした」

「できなきゃ……同じだよ」

 次第に大きくなるすすり泣きを見ていられなくなった水月は、静かに彼女を抱きしめた。

「同じじゃない。佐伯さんは、強いよ」

 

 

現在

「――と、言うことがありまして」

「なるほど。ところで、君はいつから入ってきたんだ」

 いつのまにか部屋にいた水月を見ると、彼女は「いやぁ」と頭を掻く。

「柑奈に話があったんですけど、なんか記憶にある事話してたし……ちょうどその事を思い出してたし……で、なんとなく」

「そうか。じゃあ俺は出ようか、邪魔しちゃ悪い」

「いえ、いてください。何かあった時の協力者は多い方がいいです」

 立ち上がろうとした有賀の肩を掴んで座らせると、水月は静かに口を開く。

 

 

「ワープまであと30分」

 艦橋の席に着いた有賀、柑奈、美佳の姿を見た泰平がそう言う。

「わざわざ教えてくれたのか?」

「知らないと不便だろ」

「確かに」

 軽く笑う2人は眼前に広がる宇宙へと目を移す。

「ワープの準備は進んでいるか」

 艦橋へと入った艦長の言葉に「もちろん」と答えた泰平は、舵を握り直す。

 ――刹那。

 突如として眼下に見えるドームが眩い赤に輝き、機器の起動音が鳴り響く。

『有賀さん、柑奈、聞こえてる?』

 耳につけたインカムから聞こえた声に耳を傾けると同時に振り返ると、ひとりでに球状の羅針盤が浮き上がりホログラムで武蔵の姿が映し出された。

『今、ドームから武蔵の航行システムにアクセスがあると思うんだけど』

「うん、ドーム第三階層、でもコードは外部からのアクセスだけど……」

『そりゃそうだよ。今アクセスしてるのは、後天的に武蔵に積みこまれたものだから』

「……そうか、あの石か!」

 柑奈と目を合わせ、2人はエレベーターへと駆け出した。

「あっ、おい義哉どこに!」

「お兄⁉︎ 柑奈さん⁉︎」

 そんな声が聞こえたのかは本人しか知らない。

「私はドームに行きます。義哉さんは」

「自動航法室だな」

「はい。お願いします」

 

 

観測ドーム第三階層

 パネルを操作して打開策を見出したい水月であったが、果たしてどうなっているのか皆目見当もつかない。

「水月!」

「柑奈、早かったね」

「黙って見ていられないって。それより、これ……」

「そこらの照明より遥かに明るいよ」

 全周に輝く赤い石に背を向けてパネルに向いた直後、インカムから有賀の声が聞こえる。

『自動航法室に着いた。当初のワープ座標はどこになってた?』

「確かここからワープで飛べる限界をまっすぐだったはずです」

『そうか。じゃあねじ曲がってるんだな……』

「どういう事ですか?」

『ワープ開け座標が上書きされてる。ここからだと書き換えられない』

「座標の上書き……もしかしたら」

 通信機を手に取った柑奈は、それをそのまま第一艦橋へと繋ぐ。

「こちら観測ドーム、航海長と気象長にお願いがあります。適当でいいので、2分に一回ワープ開け座標を更新してください。確かめたいことがあります」

『2分に一回……空間座標の確認ができないが、そこにワープするわけじゃないんだな?』

「はい、そこにはワープしません。あくまで確認のために」

『わかった。棚橋さん、お願いします』

 通信機を置くと、次はインカムで有賀に語りかける。

「義哉さん、すぐにワープ座標を手動で書き換えます。ログを確認したら私に報告してください」

『了解』

 数秒後、第一艦橋で座標が書き換えられる。

 ――と。

「これ……」

「やっぱり、ワープ座標と針路に関して反応してる……」

『柑奈、また座標が戻された。しかも今度はそこに固定されてるぞ』

「ありがとうございます。2分後にもう一度試行します、それも確認をお願いします」

 彼女の予測通り、2分後に行われた書き換えもまた上書きされた。

「こちら観測ドームより艦橋。どうやらワープ座標を書き換えているのはドームに置かれている赤い石のようです」

『石?』

「はい。それが本艦のシステムに入り込み、武蔵をどこかに誘おうとしているようです」

『石がハッキングをしている、と?』

「そうです。恐らくこれは小型のコンピューターのようなものなのでしょう。浅い階層への度重なるハッキングで航法装置への入り方を確立させたのかと」

『そうか……では誘いに乗ろう。技師長と戦術長は艦橋に戻ってくれ』

 彼らが艦橋へ戻り、艦は漆黒の宇宙へ消えた。

 次に通常空間に戻った彼らが見たものは、果たして。

 

 

 ――第18話 「過去の痛み」――




ありがとうございました!
次回から4話か3話使って今作一番の山場かなぁという場所です。ヤバいです、とても。
とりあえず頑張りますので、どうかよろしくお願いします!
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