波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

19 / 27
皆さまお久しぶりです!
世間はコミケだ台風だお盆だと騒がしいですが、わたくしはいつも通りです。
さて今回からしばらくはお盆ということ……でもないのですが、歴史上の出来事に想いを馳せる章となります。
それでは、よろしくお願いします。

あらすじ
 惑星アケーリアスを探す武蔵艦内では、ハッキングと共に記憶を読むという二つの事象が起こっていた。
 そんな中、ワープの直前に突如として深層への侵入が発覚。ハッキングの犯人は以前収容した赤い石である事が判明する。
 書き換えられたワープ明け座標、そこでクルー達が見たのは――。


第六章 真誠編
第19話 「青い星、戦禍の中へ」


「これって……」

 思わず席から立ち上がって窓の外を見る有賀。

 眼前に広がっていたのは、青と緑の惑星であった。

「組成調査終了……この星は、間違いなく地球です」

「地球……?」

「そんなバカな……だってあの位置から地球にワープできる推力は武蔵にはないぞ」

「ワープのログは?」

 柑奈を見た近藤だったが、彼女はモニターを見て眉をひそめる。

「武蔵は通常通りワープしています。ワープ中にエラーもありません」

「艦長、周囲に太陽系の惑星がありません。月も、何も」

 彼女に続いた棚橋の言葉に、有賀は思わず外を見る。

 見慣れた青い星。美しい星が、そこにはあった。

「恒星の配置から座標は分かるか?」

「太陽系から遠く離れているのは確かです。でも、この星、この地形は地球そのもの」

 艦長に答えた柑奈は、観測装置が出した結果を見つめる。

 ――小惑星もなければ、主星の光も満足に届かないこの場所で……こんな星……。

「じゃあ武蔵は、一体どこに来たっていうんだ……」

 泰平の言葉の直後、武蔵の舵がまたひとりでに動く。

 今度は地球に向けて降下を始めていた。

 大気圏を越え、雲を抜けた武蔵には青い海と緑の大地、そして白波が見える。

「このまま降下した場合の目標地点は……パラワン島付近です」

「そこ……どこだ?」

 棚橋の言葉に首を傾げた有賀に、嘆息した柑奈が答える。

「フィリピンにある島の一つです。確か、細長い島だったと思いますけど」

「なるほど……なんだってそんなところに」

 前を向き直った有賀の視線には、青空と青い海が見えていた。

「棚橋、地球の環境から大体の時期と年代は分かるか?」

「やってみます、艦長」

 近藤に頷いてモニターに向き直る彼女を横目に、舵を握ったままの泰平はオートパイロットが切れたことを確認して武蔵を着水させた。

 ――直後。

「レーダーに感、周囲に艦艇あり。識別不明、光学映像をモニターに出します」

 丹生のアナウンスで全員がモニターを見上げる。

 そこに映っていたのは、まるで城壁のような影。

「……艦か?」

「艦影照合……過去の記録に一致する艦艇がありました。所属は大日本帝国海軍」

 解析された画面が大きなモニターに映し出される。

 大小の反応と共に、スキャニングされた艦型が並ぶ。

 4キロ圏内にいる艦艇は6隻。その中には。

「戦艦……大和……?」

「長門もいる……戦艦が2隻とは、結構な大艦隊だな」

「艦隊は現在、定速で北上中。部隊は二つに分かれていて、本艦は先頭部隊と行動を共にしています」

 状況を説明した丹生のレーダーには、前後二つの輪形陣を組んだ艦隊のアイコンが光っていた。

 レーダーにはJPB-YAMATOという表記がなされ、宇宙戦艦ヤマトのBBY-01とは区別されている。

「艦長。現在の時刻は午前7時、大気組成、気圧配置、気温などから、1944年の10月後半という結果が出ました」

「……時刻は艦内標準時と同じか……」

 棚橋の報告から2分後、レーダーが複数の反応を捉える。

 それは艦隊から放たれた偵察機の反応であった。

「数は」

「合計で7機です」

 ちらりと時計を見る。

 ――7時2分。史実通りなら……。

「全艦に達する。1時間後より、対空警戒を実施する」

「1時間後、ですか?」

 振り返った有賀に頷くと、近藤はモニターに映る巨艦を指さす。

「あれは間違いなく、日本海軍最後の艦隊として沖縄へ向かい、歴史の変遷に負けた戦艦だ。あの艦には、2隻の同型艦がいる。一つは完成せずに沈んだ空母、信濃。もう一つは、戦艦武蔵」

「武蔵……大和の、同型艦……」

「そうだ。この日、この時間、この場所、この位置にいる本艦は、戦艦武蔵としての役割を与えられている」

 その言葉に、来島は思わず反論した。

「しかし、1944年の艦隊と2200年建造の本艦では基本性能も異なりますし、戦艦大和と宇宙戦艦ヤマトが違うように、戦艦武蔵と本艦では大きく違う……」

「それに本艦は戦艦ではなく実験艦です。今この場にいる大和や長門、羽黒の乗組員から見れば……」

「いや、戦艦と思うな。武蔵とは思わなくても」

 柑奈の言葉を遮ったのは、意外にも泰平だった。

 彼はまっすぐに窓の外を見つめながら続ける。

「戦艦の定義は、大型の船体に大口径砲を持つこと。そして、自艦の砲撃に耐えうる装甲を持つこと。実験艦である武蔵も、この定義は守られている」

「この艦の48センチ三連装砲は、この時代最大と言われる大和の46センチを超える。でも、わざわざ正直に戦う必要は無いんじゃないか?」

 窓から砲塔を見下ろしていた有賀はまた振り返り、副長を見た。

「武蔵は飛べる。この状況を脱するなら、地球を出るのが一番だ」

「……残念ながら、それは無理だな。着水してからは波動エンジンがびくともしない。補助エンジンも、飛べるだけの推力を出せないんだよ」

 予想外の答えに立ち上がるが、言葉が出てくるわけではない。

「原因は……」

「多分、意図的にロックされてるんだと思います……あの石に……」

 柑奈の言葉で、艦橋に重たい空気が流れる。

 しかしその刹那、開いた扉からはそれと正反対な空気が入り込んできた。

「これってすっごく面白い事象じゃない⁉︎」

「……カレンさん……?」

 窓の方へ駆けてきた彼女を目で追う。

「ええ、これは面白いわ! まさか”本当に”こんな事になるなんて!」

 外の景色、煙突から煙を上げる大小の艦艇を前に彼女の目は輝いていた。

「本当に、とはどういう事ですか?」

 棚橋の問いに指を鳴らすと、手に持った端末からパネルに画像を転送する。

「あの石は、拾った者をアケーリアスに導くものじゃない。それが、解読の結果よ」

「じゃあ、ここまでの旅は徒労だって事か?」

「それは違うわ、有賀。赤い石は、あたし達を色々な場所へと連れて行った。そして全てを”見ていた”の。あの石を収容したミラストルから、ジルバへ、そしてサルガッソーを超えて、ここへ。その旅を、この決断を、ずっと記録していた」

 これまでに行ってきた星や場所の画像が次々と表示され、それらは中心に据えられた赤い石の画像へと吸い込まれる。

「まだ最後の方は分からないけど、石板によればアレは記憶装置で、自己判断能力をもった小さなコンピューターの役割を果たす。武蔵をハッキングしたのも、秘めた記憶を読まれたのも、全部が試練だった」

「古代文明の遺産……大きいものばかりかと思ってたけど」

「そうね。有賀の言う通り、地球はこれまで惑星バランのワープゲート、星巡る方舟、滅びの方舟、シュトラバーゼ、謎の天体と大きな遺跡にしか遭遇しなかった。あの石も同じよ、大きいものの一部」

 パネルには、一年ほど前に立ち寄った鉱山の星が現れた。

「この星、ミラストルがあの石の本体。あの時の揺れは、この星が起動したことを意味するの。立ち去るときに通り過ぎた、星の周りに浮かぶ天体は全部がアンテナの役割を果たすもの。あの石から発信されたものを、受け取るための」

 にわかに輝く天体。

 大きな本星の周りに浮かぶ縦に長い天体の鉱物が自ら光を帯びているのである。

 彼女曰く、これがこの星の起動状態。赤い石から放たれた信号を受け取るための姿だというのだ。

「信じられないな」

「ええ。でも、細かく調べていけばいくほど、これ以外にはあり得ないのよ」

 それよりも、とカレンは時計を一瞥する。

「もうそろそろ時間でしょう?」

 時刻はそろそろ8時を回る。対空警戒を始める時刻であった。

「本艦はこれより、一時的に戦艦大和、長門らと行動を共にする」

 史実では、戦艦武蔵は大和、長門と共に第一遊撃部隊の第一戦隊として編成されている。

 近藤の指示は、それを理解してのものである。

 10月24日の時点で、ブルネイを出港した日本海軍は重巡愛宕、摩耶を失っており、高雄が損傷している。特に愛宕は旗艦であったために損害は大きい。

 そして、8時10分。

「レーダーに感、不明機接近」

「映像より機影照合。アメリカ軍の偵察機です」

 丹生と柑奈の言葉に頷いた近藤は、頭の中でこの後の展開を思い出す。

 ――これで部隊の位置が露呈する。それは大和も把握済みのはずだ。ならば、次は。

「一ノ瀬、戦艦大和と通信の波長を合わせろ。もうすぐ打電が来るはずだ」

「分かりました」

 手早くチャンネルを合わせた直後、モールス信号の音と共にパネルに文字列が現れる。

「大和より入電。『武蔵は妨害電波を発し、米攻撃部隊の撹乱を行われたし』」

「ああ、史実通りか。妨害電波は波長に穴を作っておけ。完璧にやると歴史が変わる、少しでも穴を作れば、アメリカ軍は的確にそこを狙う」

 指示を出した近藤はすぐにモニターに映る大和の背を見る。

 栗田中将、その名は栗田艦隊として歴史に刻まれている。

 ――そんな人の戦いを間近で見られる機会もそうそう無いからな。

「全艦、対空警戒。有賀、頼むぞ」

「了解」

 この時の日本海軍の旗艦は大和や長門ではなく、重巡妙高となっていた。

 2日前に旗艦愛宕が雷撃で撃沈された事による措置であり、出撃前に「大和型戦艦を旗艦に」と具申があったが結局重巡に任された、との記録がある。

 大きく、戦力として狙われやすい大和型に爆撃が集まって指揮ができなくなるよりは、狙いが分散する重巡にした方が安全との判断なのかは不明だが、この判断が間違いだったと考える者もいるという。

 ――10時半からが魔の時間だ。

 近藤は、ただ静かに時計を見つめていた。

 これから起こる戦いと、記録で見た惨劇に想いを馳せて、艦は海をゆく。

 ――我々に、沈めというのか……。

 

 ――第19話 「青い星、戦禍の中へ」――




ありがとうございます。
えー……では、ここで一つ。
作中で戦艦大和の識別表示が「JPB-YAMATO」だと説明しましたが、この時点で駆逐艦、空母、巡洋艦の表記も分かる方は分かったと思います。それぞれJPD/JPAc/JPCとなります。重巡と軽巡の区別は……つけるとすればJPhCとかですかね。今後この表記はしないと思います。
突然作品の様相が変わったように感じますが、これをちゃんとヤマト世界らしくしていきたいと思います、頑張ります。

それではまた次回、お会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。