僕本人は今は住んでいるところから離れて東京へと来ていますが、自動投稿に隙はないですね!
さて、どうでもいい話もそこそこに、ここから本格的な武蔵の旅の始まりです。
よろしくお願いします。
出立の日。
ドックの中でハッチを開け、乗組員の乗艦を待つ武蔵を見て、彼女は息を呑んだ。
「これが、飛ぶんだ……」
全長300メートルを超える巨艦、その威容に飲み込まれそうになる。
兄は一足先に武蔵に乗り込んでいる。柑奈も同様、それぞれ戦術長と技師長の任務があるのだ。
「しっかりしなきゃ」
パンっと頬を叩き、気を引き締める。そして深呼吸と共に、胸に手を当てて頭を整理した。
「…………。よしっ」
意を決して一歩踏み出した美佳は、タラップに足をかけた。
武蔵/士官部屋群廊下
彼は少しばかり怒りの混じった足取りで廊下を進む。
しばらくして何も言わずに扉を開けると、見慣れた背中に開口一番鋭く突きつける。
「どういうつもりだ」
「んぇ? ああ、有賀くん。何の話?」
荷物を解く手を止めて振り向いた彼女は、武蔵の船務長である丹生である。
キョトンとした顔で首をかしげる彼女に、有賀は口の端をひきつらせた。
「だから、妹をレーダー手にした理由だ。君が手引きしたと聞いたぞ」
「あー、そういうこと。そう、妹さんは私の選出よ。それがどうかしたの?」
「どういうつもりだって聞いているんだ」
「どうもこうも、優秀な人材をレーダー手として私が選出して艦長に許可を取った。ただそれだけのことじゃない? 士官候補生のレーダー手の先例はヤマトでもあるし、別に不思議なことじゃないわ」
「いや、それとは――」
なおも食い下がろうとする彼より先に、丹生は鞄に目をやりながら続けた。
「それとも、有賀くんは自分の後ろに妹がいるのは嫌なの?」
「それは……そういう問題じゃない……」
「彼女の家族関係を軍が調べないはずはない。その上で、彼女の武蔵乗艦は決められたの。なら私は、今度の旅で二交代制から三交代に変わるこの時に船務長として責務を果たせる交代要員を選ぶだけ。文句ないでしょう?」
「美佳が選ばれた事で、彼女に対してクルーがどう考えるかは考慮したのか」
それは、珍しく叩きつけるような正論を述べる彼女へ、彼が絞り出した反論だった。
その問いを聞いた丹生は、睨むように彼を見つめた。
「もし彼女を兄の七光りで選ばれたとか言ってひがむ声が出たら私が全部受ける。選んだ責任は私にあって、選ばれた側の責ではないわ。長っていうのはそういうもの、分かってるでしょ、“戦術長”」
「……ああ、分かったよ」
その答えに一転して笑顔を見せる丹生を尻目に、彼は部屋を出た。
頭をかきむしって歩き出そうとすると、目の前に友人の姿を見つけて動きが止まる。
通路の向こうにいた彼も有賀に気づき、駆け寄ってきた。
「久しぶりだな義弥」
「泰平こそ、元気そうだな」
武蔵の航海長、三原泰平は彼に並ぶと肩を叩き歩き出した。
「むしゃくしゃしてたみたいだな」
「なんでだ?」
「髪。いつもと違うぞ」
言われてはじめて有賀は手ぐしで髪を整えはじめた。
それを見て小さく笑った三原は、思い出したように口を開く。
「それより、今度の任務をどう思う?」
「……悪い、内容はあまり確認してないんだ。俺たちは航海中に敵と遭遇した時以外、基本的にただ乗ってるだけだからな」
「それもそうだけど、士官なんだから一応確認くらいしとけよ……」
ため息をついた彼は、「まあいいさ」と語りはじめた。
「今度はマゼランまで行って情報収集だとさ。軍拡はやめても覇権は広げたいのかね」
「さあな。軍拡はその規模が小さくなっただけでまだ続いてるし、案外あり得る話かもしれない。……ただ、それにしてもマゼランか」
遠いな、と有賀は天井を見上げる。
地球と大マゼラン雲、サレザー恒星系を結ぶルートはヤマトが旅したルートを基準として次元断層などの危険地域を避けた地球ガミラス通商路というものが存在する。
そのコースを辿るのならばサレザーまでは最速で数ヶ月。しかし今回は大マゼランまでのコースは同じであってもそこからサレザーへ向かうわけではない。
ガミラスの手である程度まで開拓の進んだ宙域の外側を行くと思われるこの任務は未知の敵との遭遇の可能性もある危険な航海になると予想できた。
「まあ、きっと大丈夫さ」
隣を歩く彼に笑いかけ、有賀は駆け足で艦橋へと向かった。
ドック/武蔵
巨大なエンジンノズルを見上げ、彼女はニヤリと笑う。
「そう、やはりヤマトにそっくりね、これ」
「これには戦闘経験のあるクルーが乗っていますから、安全面では心配ないかと」
「そんなことは今更心配ないわ。だってここは日本。日本の宇宙戦艦は優秀だもの」
まるで我が事のように語る彼女に辟易した様子で、男は「なぜそう思うんです?」と問いかける。
「キリシマ、ヤマト、アンドロメダ。これだけ言えばわかるわよね? 過去の大戦で、日本が作り、日本人の艦長が指揮した宇宙戦艦は多大な戦果をあげて生き残る。アンドロメダは沈んでしまったけれど、アレは強化された波動砲に耐えきれなかっただけ」
「はあ……」
彼の顔は更に不機嫌そうになるばかりだったが、彼女は構わず続けた。
「今この地球で宇宙艦に一番安全に乗れる国はこの日本よ」
「でもこの国には銀河もありましたよね?」
「そう、でもあのフネはダメよ。武蔵に比べて設備も自衛用の武装も少ないから」
そう言って、彼女は駆け足で乗り込み口へと向かった。
「ほら、あなたも急いで!」
はしゃぐ無邪気な子供のように笑顔で呼びかけるその姿に妙に微笑ましさを感じる彼だった。
武蔵/第一艦橋
見知った顔と共に、2年前と同じくそれぞれの部署で発進準備を整える。
それを指揮する声とモニター音が響く艦橋の静けさを断つように扉が開いた。
「へぇ、艦橋の中の配置までヤマトと同じなのね!」
聞きなれない女性の声に全員が振り返る。
そこには、軍服ではない衣服を身につけた女性と男性、そして武蔵の艦長である近藤が立っていた。
男性の方は「うるさくてすみません」と頭を下げているが、肝心の女性の方はそんな事お構いなしに歩き回っている。
興味深そうに見回すと、ある席を見つけて駆け寄った。
「ねぇ、そこの青い服の彼女!」
「はい、なんでしょう……?」
「名前はなんていうの?」
「佐伯柑奈です。この艦の技師長をしています」
「若いのにすごいわね」
「あなたも私と変わらないくらいの年齢なのでは……?」
「ところで、探査装置とか観測器系のメインって技師長のモニターでやってるの?」
柑奈はこういうグイグイくる感じの人は苦手らしく反応に困っている。
少し固まる彼女の代わりに答えたのは、通信越しに顔を見せていた情報長だった。
『惑星の環境は私のところ、第二艦橋と気象長、文明や遺跡については第二艦橋、それら全てを集約してデータベースにするのが艦橋ドームです』
「あら、割と分業制なのね」
『星のデータは膨大ですから、専門的な部分を人間がモニタリングして情報を纏めるのは機械がやるのが効率的です』
「ふぅん、なるほどねぇ」
『納得していただけたのなら、なるべく早めに彼女のもとから離れてくれると嬉しいんで、す、け、どっ!』
語尾に若干の怒気を孕ませた情報長に「あらごめんなさい」と一言残すと、彼女は艦長のもとへ戻っていった。
「ありがと、水月」
『柑奈はもっとはっきり言わなきゃダメだよ、色々と』
情報長の濱内水月は柑奈の親友であり、互いに助け合っている。
「うっ……分かってるけど……」
それ故に水月の鋭い一言が柑奈に突き刺さることは稀ではない。
「みんな聞いてくれ」
これまで黙していた艦長が口を開く。
全員が振り返ったのを確認すると、通信長の一ノ瀬海斗に目を配り、言葉を艦内に伝えるべく通信を開く。
「今回我々に課せられた任務は、マゼランを超えて神話の星、アケーリアスを発見、観測する事である」
「アケーリアスって、あの、古代遺跡の」
「そうだ」
有賀の言葉に答えた艦長は一息置いて続けた。
「ヤマトがイスカンダルからの帰路遭遇したという、ジレルを救った星巡る方舟。そして2年前、地球に迫ったガトランティスの滅びの方舟。それ以外にも、ヤマトやガミラスの航海の途中でいくつものアケーリアス遺跡に遭遇した」
ワープネットワークや、ヤマトがデスラーから逃れるため突入した円筒状惑星、シュトラバーゼに残されたモノまでアケーリアスの遺跡は多岐にわたる。
それはすなわち、現在の地球かそれ以上の技術を持った文明がいたことを意味する。
「そこで、我々はズォーダーとジレルの人たちの言葉を元に存在すると思われる“種まく方舟”、便宜上、惑星アケーリアスと呼称するが、アケーリアスの探索による当該惑星の存在の有無を調査し、存在しているのなら発見して地球へと帰還する。任務に当たるのは本艦のみ、困難な任務になる」
目を閉じて呼吸を整えると、柔らかな笑みと共に近藤は最後の言葉を紡ぐ。
「オレはこの艦を、この艦のクルーを信じている。ヤマトの姉妹艦たる武蔵は、ヤマトの魂を受け継ぐフネだ。我々は、この任務を確実に遂行する」
『了解』
艦橋で敬礼するクルーを見まわし、近藤は艦長席へ向かった。
「今回の旅はアケーリアス遺跡の探索、調査が重要な役割を示す。よって、アドバイザーとして宇宙考古学者のカレン・スタイラーさんと助手の須藤康行さんに同行していただく。カレンさんは第一艦橋に、須藤さんは第二艦橋にて航海の助言をお願いしたい」
「了解、艦長。あ、そうそう」
形の崩した敬礼で返したカレンと呼ばれた女性は、彼女を見るクルー達を見まわし、自らの赤い瞳を指差した。
「あたしは祖先がマーズノイド、生まれの国籍はアメリカよ。でも今は日本人。日本の宇宙戦艦に乗れて嬉しいわ。みんな、よろしくね」
満面の笑みで言い終わると、サブコンピューター横の空席へと腰を下ろした。
須藤という男性は深くお辞儀をすると、エレベーターへと入り下へと向かった。
それを見届けた艦長は席について航海長と機関長に目を配った。
「波動エンジン、フライホイール始動。補助エンジン点火」
「了解、フライホイール始動」
「慣性制御良好、ガントリーロック解除。武蔵、浮上します」
艦体下部のスラスターが開くと、ロックから解放された巨艦はゆっくり空へと浮上していく。
補助エンジンの推力で空を進む武蔵は、尾を引きながら両舷から安定翼を展開し、海上を波を立てながら加速していく。
「波動エンジン接続」
機関長の指示で艦内に機関音が強く響く。
メインエンジンのノズルから火を噴き、慣性で体が引かれるほどの加速を行い、艦首が上へと向かう。
炎で巻き上げられた海水が高く昇る。
瞬く間に地球を外から見られる高度まで登った武蔵は、安定翼を閉じて月を超え、火星を間近に見る頃となった。
「――懐かしいなぁ」
火星を見つめ、カレンは呟く。
「あなたは、火星を見たことが?」
有賀が問うと、彼女は小さく首を振った。
「記憶では、見たことはない。だけどなんでかな……故郷を見ると、たとえこれまで見たことがなくても懐かしいと思ってしまう。あなたもあるでしょう?」
「……ええ、たまには」
有賀の言葉が終わると同時にエンジン音が増していく。
艦尾の炎が赤から青に変わると、武蔵は火星に別れを告げてワームホールへと突入した。
これから彼らが向かうのは、人類の根源を目指す旅。
種まく方舟は今も、その場所で彼らを待っているのだ――。
――――第2話 「原初を探す旅」――――
読んでいただきありがとうございます。
マーズノイドの新キャラに波乱の予感がしますが、それは作者本人が一番思っております。
不定期更新なので明確にいつとは言えませんが、3話も現在誠意執筆中ですので、近いうちに投稿できたらいいなと思います。
よろしければ、また次回もお付き合いいただけると嬉しいです。