波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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皆さまお久しぶりです。
いやー、本当に久々ですね。今回は色々調べながらだったので時間がかかってしまいました……多分次回も時間かかります。
今回も例によってあらすじからどうぞ。

あらすじ
 赤い石のハッキングによって突然ワープし、青い星を目の前にした武蔵。
 その星は、1944年10月の地球であった。海へと降り立った武蔵が捉えたのは、海をゆく戦艦大和以下の栗田艦隊の姿であった。
 戦艦武蔵としての役割を与えられたと悟る武蔵のクルー達の前に、大編隊が近づこうとしていた。


第20話 「戦争という現実」

1944年10月24日、午前9時30分

「レーダーに感あり。光学映像、技師長に回します」

「確認、照合……アメリカ軍B-24爆撃機と機影が一致」

 武蔵がそれを察知してすぐに、通信席に再びモールス信号が流れる。

「大和より、『我、敵爆撃機を観測せり。全艦警戒されたし』」

 大和のマストに掲げられる旗は変わり、戦闘を示すものになった。

「長門、大和ほか全艦で対空戦闘の用意を始めました」

「艦長、我々はどうしますか?」

 振り向いた有賀に、近藤は答えない。

「……艦長?」

「ああすまない。少し悩んでいてな。大丈夫だ」

 深呼吸をした近藤は、窓から見える艦隊を見据えて立ち上がる。

「対空戦闘用意。敵はアメリカ軍になる。カレンさんには……」

「大丈夫よ。祖国の人たちではあるけれど、顔を知っているわけじゃない。戦争って、そういう顔も知らない人を敵にしてやるものでしょう?」

「……確かに、そうか」

 静かに微笑む。

 戦場で笑う彼の姿は不気味にすら見えるだろう。

 時計の針は、既に十時を回ろうとしていた。

「レーダーに感あり、9時方向から大編隊接近中。距離はおよそ100キロ」

「さて、史実にはないことをしようか」

 丹生の報告を受けた近藤は、有賀を見る。

「了解。主砲一番、二番、三式弾装填。対空戦闘!」

「対空戦闘、照準固定」

 砲身を持ち上げながら左を向いた二基の砲塔の動きが止まる。

「敵編隊、距離70キロ」

「まだだ」

 砲身を向けたままゆっくりと海をゆく武蔵。

 大和、長門らはまだ敵機を今か今かと待ち構えている。

 そして、10時20分。

「撃て!」

 突如火を噴いた武蔵の主砲から放たれた6発の弾頭は、敵編隊のただ中で炸裂した。

 炎に包まれながら堕ちていく戦闘機の姿を見た有賀達は、また主砲へと弾を装填する。

「総数44機、急降下しつつ艦隊に向かってきます!」

「水面下ソナーに反応、本艦へと向かう魚雷感知。軌道を航海長へ」

「回避行動!」

 白波を立てて回避行動をとる武蔵の隣では、空に色とりどりの煙を立てながら艦隊の対空戦闘が始まっていた。

 弾幕をくぐり抜けて放たれた爆弾は海面に水柱を立て、水面に航跡を残して迫る魚雷は装甲を砕いて巨大な爆発を起こす。

 一番砲塔に当たって跳ね返った爆弾を見送った武蔵は、次いで迫る魚雷を避けていく。

「妙高、艦尾に被弾確認!」

「本艦に魚雷接近!」

「この距離は回避できないぞ……」

 歯を食いしばりながら舵を傾けた泰平だったが、その言葉の通り魚雷は武蔵の喫水下の装甲を貫通した。

「隔壁閉鎖、極力浸水は少なく抑えるんだ。非戦闘員は艦中央に退避せよ」

 冷静に指示を出す近藤だったが、内心では若干の焦りを感じている。

 ――波動防壁は……まだ使えないのか……。

 祈るように機関長の背を見るが、彼は静かに俯いて「停止」と表示されたモニターを見続けていた。

 そうしている間にも空襲は続き、妙高は速度を落として艦隊から落伍していく。

 爆発音の中で入電を受け取った一ノ瀬は、振り返って口を開いた。

「旗艦妙高より、旗艦を重巡羽黒へ変更。高雄の護衛任務より駆逐艦長波を解任し、離脱する妙高の護衛を命ずる、とのこと」

「そうか……」

 腹に抱えた爆弾と魚雷を使い果たした戦闘機は、踵を返してイントレピッドとカボットへと帰投する姿が見える。

 ――第一次空爆は終了したか……。

「損傷報告、対空警戒は続行せよ」

 史実通りならば、空襲はあと4度ある。

「副長、波動エンジンを再起動させる事はできないか。波動防壁がなければ、この後の戦闘は……」

「やってみますが……厳しいところはあります」

「……そうか。できる限りで構わない。頼む」

 海を見る近藤の視界には、来島や泰平へと指示を出す有賀の横顔が映る。

「今は波動防壁は使えない。敵戦闘機にとりつかれたら終わりだ」

「ですが戦術長、本艦の対空装備では……」

「なんとかするしかない。使えるものを使って」

 その瞳は強い決意とともに、不安に潰されそうになりながら必死に耐えようとする彼の心を表すように。

 奇しくもあの日の戦艦と同じ、艦体色に塗られた甲板を見つめて、群青の空へと目を移す。

 大和たちは幾度も転身、回避行動をとっていたが、それが流木を潜水艦と誤って判断した故の行動であるとわかっていた武蔵のクルーは大きな動きを見せることなく被害の確認や排水作業などに勤しんでいた。

「輪形陣外側の駆逐艦、海面へ爆雷を投射しました」

「だから無意味だって」

 そんな呟きは当然聞こえるはずもない。

 そのうちに重巡羽黒にボートが接舷し、駆逐艦と共に妙高は後退していった。

 それから静寂な時が流れていたが、それはレーダーに映る機影によってかき消される。

「敵編隊接近、接敵は約10分後」

「一ノ瀬、大和へ打電しろ。増速用意」

 近藤の予想通り、大和の栗田中将は24ノットへの増速を全艦に指示、艦隊は白波を大きくして高角砲を上へと向けた。

 11時56分。

 空を切って降下してきた総勢33機の機体は2隻の巨艦――即ち大和と武蔵へと攻撃を集める。

 降下する戦闘機に対して砲撃を開始した長門は敵の数を減らすに至らず、大和と武蔵の周囲には艦橋より高い位置にまで登る水柱が立つ。

「ドームに弾幕を集めろ、あそこにだけは当てさせるな!」

 開け放たれた両舷のミサイル発射管から白煙と共に飛び出した弾頭は殻を破ると、数多の小さな弾頭を蒼空へと撃ち上げる。

 それは翼を砕き、投下された雷撃と爆弾を貫き、コクピットに血を満たし、水面に機体を叩き落とした。

 海面スレスレを飛行して魚雷を切り離した後の雷撃機はパルスレーザーによって機首から貫かれ、爆炎とともに沈む。

「有賀くん、直上から爆撃機が!」

 半ば悲鳴のように告げる丹生の声と共に、雲の中から数機の爆撃機が急降下を仕掛けてきていた。

「くそっ、泰平任せた!」

「お前、なんて無茶を……!」

 海中で姿勢制御スラスターを作動させてその場で急旋回をかけたが、投下された爆弾は的確に艦首と艦尾に命中した。

 次いで爆弾を失った機体は機銃を撃ちながら降下し、艦のギリギリで姿勢を戻して再び上昇をかける。

 機銃の弾はドームに浅い傷を入れるも致命傷には至らず、長門や大和のように甲板に血が溢れることもない。

 遠くに見える大和の対空砲座は血で汚れ、身体をなくした手だけが残る場所もある。

「これが戦争……」

 積まれた土のうが吹き飛び、乗組員は海へと投げ出され、血で汚れた甲板は波に洗われる。

 その様子をモニタリングしていた柑奈は息を呑み、それでもパネルを操作する。

 ――地球に、帰るために。

 赤く表示されたエンジンから艦体各部へと伸びる波動コイルへの道を見ながら、彼女なりの戦いは続く。

 艦尾に突き刺さった魚雷が装甲を砕き、流れ込んだ海水は隔壁でせき止められた。

「艦体、僅かに左舷に傾斜。浸水拡大につき速度22ノットへ」

「敵編隊、後退していきます」

「左舷補助エンジンに軽微な損傷を認める。速度低下はこれによる出力の不安定さから来るものかと」

 それぞれの部署からの報告に、艦長の顔は曇る。

「このままじゃ戦艦武蔵の二の舞だ……一体どうすれば……」

「戦艦……武蔵……」

 彼の言葉から、それはこの戦いで沈んだ船の名であることは想像に難くない。

 席の片隅に収納していた端末を開き、戦艦武蔵に関するデータを立ち上げた有賀は目の前にいる巨艦と瓜二つな艦影の姿を見つめていた。

「怪我人の数を集計、報告せよ。機関科は補助エンジンのダメージについて報告を求める」

「艦長、艦首の爆弾で浸水が拡大しています。艦首の沈下が……」

 泰平の報告を聞き、レーダーを見つめる丹生も声を上げる。

「艦隊から落伍していきます。このままだと孤立します」

 冷静にそれを聞いていた有賀は、宇宙戦艦ヤマトのある戦闘詳報に目を落とし、別のウインドウに出した戦艦武蔵の詳報と見比べる。

「別に、浮いてる必要は無いよな」

「なんだって?」

 独り言に反応された有賀は少しの間をおいて続けた。

「いや、別に浮いてる必要はないよなって思って」

「それはこの艦が無傷ならな。今は全体に大小のキズがあるんだ、浸水して2度と浮上できない可能性もあるんだぞ。今は波動エンジンが使えないんだから」

「……そっか……んー何はともあれエンジンだよなぁ……」

 せっかく思いついた案を潰されて頭をかく有賀。

「でも、一時的に逃げるなら不可能ではないかもしれません」

 口を開いた柑奈は、ドームブロックが緑に変わったモニターを背に立ち上がる。

「一応、一時間くらいなら傷をカバーしつつ水圧に耐えられる防壁を張れます。ただ空襲で落とされる爆弾には耐えられないので……50ポンドなんて以ての外なので防御用には使わないでください」

 極めて冷静に言いながら有賀に歩み寄る彼女は、僅かに笑みを浮かべる。

「義哉さんなら、きっと大丈夫です。まだ波動防護弾も残ってますし、私は誰よりも義哉さんを信じてますから」

「……ありがとう、柑奈」

 笑顔で答えた有賀は彼女の手を握り、頷く。

「史実では、5度目の空襲で武蔵は傾斜復元ができなくなり沈む。使うならここしかない」

「有賀と同意見だ。だが、その後は」

 近藤の言葉に、クルーは首を傾げる。

「メ2号作戦のヤマトに倣ったとして、我々にはその後がない」

「エンジンが使えないから星を出られない……あとできる事といえば……」

「……戦闘への介入」

 来島の呟きに、艦橋に沈黙が流れる。

「介入してどうするんだ」

 鋭い視線を向ける有賀。それに答えたのは席を立った近藤であった。

「大日本帝国を降伏させて、米軍と講和を結ばせる。広島と長崎への原爆投下は……」

「お言葉ですが、それを可能とする戦力は本艦にはありません。何より、我々は地球に帰らないと」

 咄嗟に返した有賀の頭に手を置いた近藤は、子供を見るような目で見つめる。

「お前の言う通り、武蔵の任務はアケーリアスを観測して地球へ帰ることだ。その為には生き延びなければな」

 席へ戻る近藤の背中から紺碧の海へと視線を移した有賀は、波に洗われた甲板を見つめる。

 遥か遠くに陣取る空母では爆装された機体が甲板を蹴り上げ、大空へと飛び立つ。

 時計の針は午後1時を回り、島風からの敵編隊発見の報は大和を通じて全艦へと伝えられた。

 その大和から敵機発見の報を受けた時、武蔵のレーダーは敵編隊をはっきりと捉えていた。

 

 

 ――第20話 「戦争という現実」――




ありがとうございます。
えー、今回はなんとなく説明が多かったですね。しかもこの話数で経過したのは僅か3時間程度……次回が心配になりますね。
このままでは戦艦武蔵の二の舞いになってしまいますが、果たして波動実験艦である武蔵は第三次空襲以降を耐えきれるのか、乞うご期待!

……自分でハードル上げたくないので、ええ。予告詐欺にならないように頑張ります。
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