波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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皆さまお久しぶりです!
えー、投稿タイミングが前回からだいぶ早いです。
予想に反して爆速で書き終わってしまったので、そして今回は前回の続きで一区切りなので早めに投稿してしまえとそういう事です。
……一つだけ。

今回は戦争を伝えるため、普段より過激な表現があると思います。
苦手な方は今回飛ばしていただいても構いません。あらましは次回のあらすじでも語りますので、今回を飛ばしたから物語的に次回が分からないという事はありません。
皆さまが不快な気持ちにならないよう、念のため記させていただきます。

では、あらすじからよろしくお願いします。

あらすじ
 1944年10月の地球、シブヤン海付近へと降り立った武蔵。その周囲には大日本帝国海軍連合艦隊の姿があった。
 運命の時、アメリカ軍の爆撃部隊による対艦攻撃に晒されたものの第2次爆撃までを耐えきった武蔵に、更なる脅威が迫ろうとしていた。
 第3次爆撃の始まりである。
 果たして武蔵は、戦争を生き残ることができるのか。


第21話 「幻想からの脱出」

 砕け、燃える。

 焔と海水に責められる海の上で、かの艦を守るものはいない。

「大和で火災発生を確認!」

「右舷と艦尾に直撃弾! 加えて至近弾の爆風で装甲剥離! エンジン上部垂直翼大破!」

「メインノズルに異常発生、表層剥離!」

 喧騒に満ちる艦橋にさえも轟く轟音、足元を掬う揺れは魚雷の直撃を示す。

 それでも残された兵装は稼働し、迫る機体のうち5機を撃墜した。

 追尾しながら撃ち続けるパルスレーザー砲の砲身にも爆弾が直撃し、折れた砲身に溜まったエネルギーが暴発を起こす。

「ソナーに感、魚雷多数!」

「この速度で避けられると思って、くぅっ……!」

 一瞬だけ艦体を水柱が持ち上げるが、直後になだれ込む海水で右舷へと傾いた。

 艦体に降りかかる海水の雨はにわかに炎を弱めるものの、同時に機器をショートさせパルスレーザー砲身が下へ垂れる。

「右舷パルスレーザー、一基が動力に異常発生、沈黙!」

『こちら戦術科、只今より停止したパルスレーザー砲は人力で撃ちます! エネルギー供給は止めないでください!』

 それに頷いた有賀は丹生から視線を移して肘掛けを強く握りしめた。

「右舷カタパルト大破、同第一格納庫シャッター破損! 開閉不可!」

「艦底部浸水率上昇、注水増量します!」

「艦首魚雷管、全て海中に入りました!」

「ドーム部亀裂増加!」

 続々と報告される損傷報告が徐々に遠くなる。

「一番主砲、雷撃により沈黙!」

 力なくこうべを垂れる砲身、水平線が視界の中で高くなり、絶え間ない揺れと時折起こる火花が身体に傷を作る。

「敵編隊、撤退を開始します」

 丹生の報告に肩の力を抜く有賀。

 しかし。

「油断するな、すぐに来るぞ!」

 彼の頭を叩き起こしたのは、近藤からの一喝であった。

「速度低下、止められない。大和にすら付いていけないぞ……」

「艦自体が前に傾いてる……これだと速度は出せないし、補助エンジンも安定してない……」

「メインノズルの損傷は大した事ないが、エンジンはだんまりだ。まだ武蔵は飛べない」

 泰平、柑奈、そして谷村の言葉に沈黙が漂う。

「……安定翼を開け。少しは浮力を稼げるはずだ。どの道追いつけないなら速度は捨てて耐えるしかない」

 鋭い眼光で前を見つめる有賀へと視線が集まる。

「作戦通りだ。武蔵が早く沈む訳にはいかない。それに、次は……」

「あっ、レーダーに感。攻撃隊は大和、長門の方へと向かっていきます」

 モニターに投影された主力艦隊の様子は凄惨だった。

 対空砲火は虚しく空で炸裂するだけ、すり抜けた攻撃機は2隻の戦艦へと容易く爆弾や魚雷を命中させる。

 大和は甲板から出火、長門は足を止めると中腹から黒煙を上げて数人が吹き飛ばされ肉片が海へと撒き散らされる。

 静観していた武蔵にも魔の手は迫り、艦首への直撃弾、そして魚雷によって艦底の翼がへし折れるという被害を出した。

 空襲はすぐに終わりを迎え、直後に大和から電文が届く。

「武蔵はコロンへ転身せよ。なお、駆逐艦清霜は同艦の護衛を命ずる。大和からの電文は以上です」

「従おう」

 近藤の決断で、武蔵は再び速度を上げた。

 

 

「あーもうキリがない!」

 血とアルコールの匂いが満ちる医務室で、嘆きながら手を動かす少女がいる。

「痛くても我慢してよね、生きてる証拠!」

 顔をしかめる戦術科員にそんな言葉をかけながら、深く抉れた傷口を消毒する。

 少し目をそらせば、傷だらけで微動だにしない身体が横たわり、中には一部がないものや一部しかないものもある。

 ――吐き気がする。

 生きている中で、死体に囲まれて治療をする状況など無いだろう。

 声を出していなければ気が狂いそうだ。

「美佳ちゃん、大丈夫? 休んでいいんだよ?」

「ううん、大丈夫。きっと、この船を沈めないためにお兄も頑張ってるから……休んでなんていられない」

 立ち上がってまた別のけが人の元へ赴く美佳の背中から視線を落とせば、誰かの血で汚れた自分の服が見える。

 ――私、誰かが死ぬ姿を見たくなくてこの艦を選んだのにな……。

 胸が締め付けられる。

 そんなはずじゃなかった、こうしたくなかった。そんな想いが満ちる。

「でも、やらなきゃ」

 ――誰かが死ぬのを、私は見たくない。

 立ち上がった奈波は胸の前で小さく拳を握ると遠目に見えるトリアージの色を確認して走り出した。

「もう大丈夫ですよ」

 そんな声をかけながら、肩にかけたカバンから消毒液を出して作業に取り掛かる。

 

 

 ――どうして。

 敵編隊が近づく警報音が響く中、静かに目を開けた有賀は視界の隅で空を見上げ始めた砲身を見つめた。

 ――どうして、俺たちが犠牲にならなきゃいけないんだ。

 戦争を始めたわけじゃない。戦争がしたかったわけじゃない。戦争をしたくなかったから、この艦に乗ったのだと心で反芻する。

 ――誰かを殺すために、戦いたくなんてなかった。

 そんな想いも虚しく、黒煙と共に放たれた三式弾は近づく敵編隊の数機を撃墜した。

「敵機接近、総数75!」

「な、75……⁉︎」

 パルスレーザーが作り出す弾幕の中で降下してきた機体が炎をあげる。

 ――刹那。

 突如として、天が落ちた。

 落下した天板は宇宙儀を割り、艦長席のパネルに突き刺さる。

「艦長!」

「怯むな! 構わず前を見ろ!」

 その声に振り向くのをやめた有賀の背に頷いた近藤は、小さく嘆息した。

 ――命一つに比べれば、軽いものか。

 軽くなった左肩から落ちるものを見て、彼は苦笑いを浮かべる。

 天板が落ちた箇所は外郭装甲が内側にひしゃげていたものの貫通されてはおらず、気密性も対水圧性能も十分に見て取れた。

「艦長、負傷者につい……っ⁉︎」

 開いた扉からその様子を見た美佳は息を呑んだ。

「……左腕が……」

「大したことじゃない。止血を頼めるか」

「止血って……すぐに降りてください。私だけだと、応急処置にしかなりません」

「応急処置で十分だ。頼む」

 一瞬の思考の後、艦長席に上がり肩にかけた用具入れの中身をぶちまけた美佳はその大きな傷口を前にした。

「君に頼むのは酷だったかな」

「……いえ。この傷で、ピンピンしてる方が不思議です。普通なら、気が狂ってもおかしくないのに」

「まだクルーの命を背負う肩と指示を出す頭がある。それなのに、こんな事で気をおかしくしてはいられないな」

「片腕をなくして言う事じゃありませんよ」

 真剣な眼差しで、表情を出さないようにつとめながら包帯を巻きつける。

「すぐに先生を呼んできます。今はここまでしかできません」

「ありがとう。わたしより、他のクルーの治療を優先してほしい。本来の報告を聞こう」

 そんな会話を背中に受けながらも、武蔵への爆撃を防ぐ戦いは続いていた。

 魚雷の直撃で右舷補助エンジンは停止し、爆弾の直撃で開いていた安定翼にも穴が空き始めていた。

 爆撃と雷撃による電気系統へのダメージで電力が滞り、遂に一切の艦載機の発進が不可能となる。

 撃墜し損ねた敵攻撃機の突撃で左舷のミサイル管が半分ほど消失、魚雷は両舷の展望室を貫き、波動砲口にまで海面が迫ってきていた。

「速度低下! 回頭が遅い!」

「艦損害率70%、稼働率は20%を下回ります!」

 黒煙をあげる武蔵の姿を背に、装備を使い果たした攻撃隊は引き返していく。

「艦隊が回頭してきます」

 満身創痍の大和、長門をはじめとした艦隊は、停止する武蔵へと近づく。

 艦隊からは駆逐艦島風だけが武蔵の側へと残り、大和は背を向けて海の向こうへと去っていった。

「……頃合いか」

 有賀へと頷いた近藤の指示を受けて、有賀は泰平に目を向ける。

「……わかった」

 安定翼を閉じた武蔵は徐々に傾斜を増し、ほぼ史実に沿う19時35分。

 海面を抉るほどの爆発が、闇夜に浮かび上がった。

 

 

 浮遊物の周囲を航跡を残して進んでいく浜風と清霜は、再び回頭しレイテに向かう大和らを見送り一路コロンへと舵を取った。

 損傷していた浜風と交代した島風、戦線復帰を懇願した利根は大和と共に戦場へと赴いたのである。

 海上には先程まで巨艦が浮いていた痕跡などなく、月明かりだけが輝いている。

 

『嗚呼、我半身を失へり! 誠に申訳無き次第とす。さり乍ら其の斃れたるや大和の身代わりとなれるものなり。今日は武蔵の悲運あるも明日は大和の番なり』

 

 レイテに向かう道すがら、大和の宇垣中将は後世に残る一文を記して戦藻録を閉じた。

 その後の日本軍の動きは史実に違わず、通信機の不調により作戦は失敗、空母瑞鶴を含めた主戦力を失い大敗を喫する事となる。

 だが、まだそれを予期する者はいない。

 ――いるならば。

「有賀、副長。すまないが後を頼めるか」

 ようやく艦長の姿を見たクルーは戦慄した。

「艦長……」

「お前たちが無事で何より。すぐに戻る」

 近藤と共にエレベーターへと向かう美佳だったが、直後に振り返り柑奈と兄を呼んだ。

 彼女の服は血で染まり、先程まで艦長の傷を診ていたためか頬にも微かに血が付いている。

「すまない、美佳」

「……なんで謝ってんの? そういう言葉を聞きたかったわけじゃないんだけど」

 はぁ、とため息をついた美佳は、自らの頬に手を伸ばした兄の手を握る。

「死んだ人を見て辛いとか、そんな思いをさせてごめんだとか、弱音吐いたら許さない。これは私の意思だもん。だから、お兄も柑奈さんもできることを。それでどうなったって恨んだりしないよ」

「ああ……わかった」

 美佳と拳を合わせると顔が自然とほころぶ。

「頑張ったね、美佳ちゃん」

 彼女を抱きしめる柑奈を抱きしめ返そうとしたが、それはしなかった。

「……血、つきますよ」

「それは美佳ちゃんが頑張って戦ってた証拠だから……」

「全部終わったら、いっぱい話しましょうね。……お姉ちゃん」

「うん」

 艦長と共にエレベーターを降りていく彼女を見届けて、有賀は拳を握りしめた。

「くっそ!」

 そのまま壁を殴りつけた彼は大きく息を吐き出す。

「お前は最善を尽くした。お前一人の責任じゃない」

 軽く背中を叩いた泰平は席に戻り、それにつられて各々席に戻り始めた。

「むしろあれだけの戦闘で、死者が30人以下だった事が奇跡です。戦術長は責務を果たしたと胸を張ってください」

 機材を操作しながら、来島が口を開く。

「敵機を落とせなかったのは、砲雷長である私の技量不足です」

 冷静に言葉を続ける彼女の言葉の端々は震えていた。

 横目で来島を見た一ノ瀬は彼女が目に涙を浮かべているのを知ったが、あえて何も言わずに向き直る。

 ――数じゃない。何人死んだかじゃない、死者が出たか否か、それが重要なんだ。命は、数じゃない。

 心配そうに見つめる柑奈の視線を背に、有賀も席に戻る。

「……あの爆撃、雷撃、不自然じゃありませんでしたか」

 突然口を開いた棚橋の方を向く。

「この時代の爆弾の威力は細かく分かりませんが、至近弾の爆風だけでこの艦の外殻装甲が剥離したのはあまりにも威力が高すぎると思うんです」

「それは、つまり」

「形はデータベースから持ってきた完全なコピーですが、威力は我々が知るものだったのかもしれません」

「俺たちが、知るもの……地球の戦艦や、ガミラス、ガトランティス……」

「それに、ジルバやラーゴラス、ボラー連邦とも遭遇しています」

 有賀と柑奈の言葉に頷いた棚橋の言葉を引き継いだのは、それまで口をつぐんでいたカレンだった。

「この惑星はそもそも地球を完全にコピーしたわけじゃない。この惑星そのものが特異点……っていうこと?」

「恐らく」

「なら、時間断層やヤマトが入った円筒状天体みたいに出口や結節点があるはずですよね」

 モニターに向き直った柑奈から視線を戻した有賀は、そういえばと棚橋に問う。

「今、水深はどれくらいだ?」

「水深? 今は、海面から計算して、大体900から1千メートルの間ですが……」

「……なら、そろそろ海底のはずだ。だが見えない。水圧も……」

「言われてみれば……義哉さんの言う通りです。今は波動防壁を使っていないのに、外部からの圧力がほとんどありません」

 柑奈の声の直後、背後から何かが再起動する音が聞こえた。

「波動エンジンが、起動をはじめた……」

『こちら機関室、フライホイールが回り始めました!』

 その報告に騒然とする艦橋に続いて棚橋の声が響く。

「水深、1000メートルを突破!」

「水圧消失、エアポケット……いえ、真空です」

 それまで重力に従って降下していた艦体が止まり、代わりに沈黙していたエンジンが火を噴く。

「波動エンジン点火。ノズルへのダメージが少しあるが、ワープはできるかもしれない」

「波動防壁のためにキープしていたエネルギーを使えばワープ準備時間も短縮できると思います」

 逡巡の末、有賀は来島へと目を配る。

「砲雷長。今から指定する場所にショックカノンを撃つ。その後、エンジンを全開にして海底から飛び出し、ワープするぞ」

「でも、またエンジンが止まるかも……」

「止まったら浮上できないだけだ。またこの状況になるだけ、マイナスにはならない」

 その言葉を受けて、武蔵は艦体を左へと傾ける。

 使えなくなった一番砲を除いた二基の砲塔が右を向き、照準を合わせる。

 

 

 迫り来る艦載機へと噴進砲を放つが、それは遥か低空で花火を咲かせるだけ。

 虎の子の艦隊に送った電文は届かず、幸運艦と呼ばれた空母はまさに沈もうとしていた。

 ――航空母艦、瑞鶴。

 この戦いで沈む運命を与えられた艦。

 その艦のすぐ近くで、海が光り始めた。

 それは徐々に大きくなり、遂には海面を蒸発させながら天高く登っていく。

 天に昇る龍のような二条の光が消えた海面には渦ができ、空気を震わすけたたましい音が響き渡る。

 渦の中心を突き破って空に向かうその艦は、傷だらけのままで、ノズルから青い光を放って雲に開けられた青空へと消えた。

 艦が消えた空間から入った亀裂は空を覆い、崩れ去る。

 その様子は惑星軌道にワープアウトした武蔵からもはっきりと確認できた。

「ヤマトの記録に似てますね」

「だが、これはジレルの人達の力じゃない。彼らは心に入り込むが、直接攻撃はできなかった」

 艦橋の窓からそれを見つめる柑奈と有賀の言葉に頷いたカレンは、微かな笑みを浮かべて席を立つ。

 その直後。

『第二艦橋から第一艦橋へ』

 響き渡るは水月の声。

 駆け足で席に戻りマイクを取った柑奈の後をカレンが追う。

「水月、どうしたの?」

『よかった、柑奈は無事なんだね。実はたった今アケーリアスの文字で、あの星からメッセージが直接武蔵のメインホストへ打ち込まれたの。今送るよ』

 画面に表示された文字を見たカレンが感嘆の声をあげる。

「これ……座標指定じゃないかしら」

『流石カレンさん。あたしもそう踏んでいます。ここに行けば、何かがある』

 その時エレベーターの扉が開き、ジャケットを肩にかけた近藤が入ってきた。

「もう迷う事はないな。本艦は修復作業をしつつ、この座標へ向かう。転舵反転」

「転舵反転!」

 指示を復唱した泰平が、地球の姿を失っていく星から艦首を回してエンジンを点火させる。

 地球の姿を失いにわかに輝きを放つ空洞惑星がその背を見送る中、武蔵は次なる目的地へと旅立ったのである。

 人のいなくなった武蔵のドームに残された赤い石の輝きは、次第に強くなっていた――。

 

 

 ――第21話 「幻想からの脱出」――




ありがとうございます。
サルガッソー戦より派手に武蔵をぶっ壊した感がありますね。
破損部位などは戦艦武蔵とほぼ同じにしています(艦尾の艦載機運搬クレーンの代わりにエンジン上の翼には犠牲になっていただきました)が、書きながら「これはヤバいのでは?」としか思わなくなりましたね……。
それでは次回、よろしくお願いします。
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