今回より「遥か遠き起源の惑星」最終章となります。
……難航は免れないでしょう。頑張ります。
それでは、あらすじからどうぞ。
あらすじ
過去の地球を再現した惑星を後にした武蔵では、解読を終えた水月とカレンからの説明のもと、アケーリアスが与えた試練について話し合いが行われていた。
試練を乗り越え、赤い石が示した座標にアケーリアスがあると確信した武蔵のクルー達は、任務遂行のためワープに入るのであった。
第23話 「アケーリアスの遺産」
「ワープ終了。目標座標です」
纏う氷を砕き、武蔵は漆黒の中佇む。
「周囲の時空が安定してない……示されたルートで確実にワープしないと次元断層に捕まっていたところです」
柑奈の言葉を背に前へと向き直る有賀は、そのまま観測ドームを見下ろした。
カレンは水月と共にドームへと降り、紅い石の推移を観測している。
『柑奈、そっちに異常はない?』
「今のところは。水月の方は?」
『こっちも大きな動きは。常に何かを受信してるっぽいんだけど……』
「わかった。モニターと記録を続けて」
『了解』
画面の向こうで敬礼をする水月。
そんな彼女が映る画面を最小化すると、ドーム付近を注視した。
――何か集まってる……。
その違和感に気づいた刹那、ドームが閃光に包まれた。
光は徐々に薄れていき、代わりに宇宙にまで飛び出す強い光の線が形成される。
「あの光……もしかして」
モニターへ向き直った柑奈は光の向かう先を表示し、次元断層の観測情報と重ねた。
「あの光、いやあのエネルギー体は次元断層に向かって照射されています!」
「何……⁉︎」
正面に向き直った近藤の目には、露わになる次元断層の狭間と稲妻。
「三原、退避用意。次元震が来る……総員衝撃に備え!」
艦を襲う揺れに細かく姿勢制御ロケットを噴射して姿勢保持を行う武蔵。その眼前では次元断層がその口を開き――。
――もう一つの宇宙が顔を出した。
「あれは……銀河系……⁉︎」
見開いた有賀の瞳には、直後波打つように現れる青い惑星が映る。
二本の帯の交点から光を放ち、雲と青い海が見えるその星は、記録にあるテレザートよりも美しい。
その口を閉じた断層が消えた後、青い星は初めからそこにあったように浮かんでいた。
「あれが……アケーリアス」
『こちら観測ドーム。モニターに文面が表示されました。即席訳……これこそ我らが神秘。全ての宇宙において唯一の種まく方舟である。これは不可侵の星、お前たちはこれを見せるに足る文明の者。我らの後継となり得る者達である。以上です』
「水月、その訳は確かなの?」
『確かよ。私が保証する、彼女は間違った意味や順番では言ってない』
「……ありがとうございます、カレンさん」
通信を終えた柑奈はモニターに断層内の静止画を出し、顎に手を当てて考えにふけっていた。
多次元宇宙論。
それは異なる次元に、この宇宙との連続性を持たない全く別の宇宙があると考える理論である。
「――で、柑奈はつまり、アケーリアスはそこから出てきたと思うわけ?」
「そう。あの星はこの多次元宇宙を一定の周期で行き来して周回する唯一無二の星。そしてそれを呼び出した石は、その周期を整えるためのものじゃないかって」
それに対して、水月は懐疑的な態度をとる。
「いや確かに多次元宇宙を一定の周期で行き来できるなら大規模な装置も必要だろうけど……その周期によっても変わるでしょう? もしかしたらアケーリアスみたいな星はこの宇宙にもあるかもしれないし」
「多次元宇宙自体、証明のしようがないからね……外に出たわけじゃあるまいし。でもさ」
不意に顔を近づける彼女を避けるように仰け反る。
顔をひきつらせる水月だが、柑奈はそんなことを気にしていないようだった。
「もしテレザートの人たちが、多次元宇宙にある違う歴史を歩んだ地球の姿を見ていたとしたら?」
「…………はぁ?」
「高次元世界から帰ってきた古代さんの記録だと、あらゆる未来を見てきたって言ってた。なら、そのあらゆる選択は既に多次元宇宙の、それぞれ違う地球でそれぞれのヤマトが、古代さんが選んだ選択肢かもしれない」
「高次元世界にいるテレザートの人たち……つまりテレサは、多次元宇宙を同時に観測できると?」
「そう。こっちは高次元世界を観測できなくても、高次元世界から低い次元のこっち側は見られるはず。だから時間の流れも可視化されて、古代さんはあらゆる次元のヤマトの旅路を見られた」
「その考え自体は否定しないけど……飛躍しすぎじゃない? 無限に並行世界があるなら、それこそ無限に宇宙がある事になる。2199年のヤマト発進を分岐点にしたとしても、その後の旅路はまた無限に選択肢があったはず。次元空間にそれだけのキャパシティがある?」
「それが無いから、枝葉は切られるのかも。例えばヤマトが帰ってこなかった世界だったり、ガミラスが襲ってこない世界、白色彗星帝国からヤマトが帰ってこない世界まで色々ある。その可能性には未来がないから……」
「テレサは古代さんを帰した……ヤマトを使って迎えに来させた……分からなくはないけど、やっぱり妄想の域を出ないよ」
はにかみながら指摘する彼女の姿に首を傾げ、柑奈は「んー」と呻る。
「やっぱり科学者が言う事じゃないよね」
「たまにはそんな思考学習はしてもいいんじゃない?」
観測装置のパネルを操作して笑いかけた水月に笑顔を返し、柑奈はまた作業に戻る。
彼女達が見つめるモニターには、あの星の組成が映し出されていた。
大気成分に危険性が無いことを確認した武蔵は遂にアケーリアスへの着陸を決めた。
水色に輝くリングを通り過ぎ、艦体を上げて断熱圧縮の熱を耐える。
「やっぱりあのリング、人工太陽……」
「惑星内に進入。安定翼展開、姿勢制御」
艦体の角度を合わせ、艦は大地の隙間を縫っていく。
「艦首正面200キロに浮遊大陸。海面との相対高度は1万2千」
「浮遊大陸を回避します。ヨーソロー」
窓の外では、宙に浮く大陸がスレスレで通り過ぎていくのが見えた。
「着水用意」
高度が下がると同時に安定翼を閉じ、速度を落としながらエンジンの風で海水を巻き上げる。
そのままの勢いで艦底部から水の中へと沈め、喫水線から上を海上に露出した状態で静止した。
「無人探査機発艦。回収班は海水サンプルを採取してください」
柑奈の声でカタパルトから飛び出した黒い機体は一路、浮遊大陸を目指す。
艦のハッチから出たクルー達はそれぞれに海水についての調査を始めた。
「……艦長、ごく僅かですが、本艦のいる座標の海水面は他の地点より高いようです」
「それはどういう事だ、気象長」
「本艦の慣性重力に過敏に反応しているのかもしれません。数値は誤差の範囲ではありますが……」
「棚橋さん、その数値をこちらに回していただけますか?」
静聴していた柑奈へとデータを回し、棚橋は再び観測作業に入る。
一方で柑奈は、アケーリアスと武蔵、そして地球のアイコンと数値を見てパネルを操作していた。
「この調子だと戦術科は今回は暇そうだな。なぁ、来島」
「ええ、そうですね」
「…………いや、そうでもないかも」
低い声色で告げた丹生を振り向くと、彼女はレーダーを凝視したまま続ける。
「惑星軌道上に反応多数。熱源あり、艦艇と思われます」
「ゼロ、発艦せよ。惑星上空の艦艇を視認し報告を求める」
淡々とした有賀の指示に従い、カタパルトから青い空へと銀色の機体が飛び上がる。
彗星エンジンから伸びる炎を見送り、艦内に警報音が鳴り響いた。
「総員第一種戦闘配置。繰り返す、総員第一種戦闘配置」
「コスモゼロ、成層圏へと到達。光学カメラ視認域に入りました。モニターに出します」
漆黒の空に、光る輪を背にして佇むそれは、総数20隻は下らないかという大艦隊であった。
「どことなく、似てる気がするな」
その姿を見た有賀は思わず呟く。
戦艦4隻を筆頭に見えるその艦影の陣形や艦容は、僅かにではあるが地球のそれに似ているように感じられた。
「壁画にあるみたいな単純な陣形だな……」
「ああ。なんでだろうな、ガミラスや他の星の艦と比べて、アレは地球に似すぎている」
リボルバーのような形をとる砲身、旧来の兵器を思わせる装甲の構造や艦体形状はガミラス、ガトランティスをはじめとした異星文明の艦艇のどれよりも地球のそれに酷似していた。
「そもそもあの艦隊、ここにいたのは偶然なのか?」
そんな有賀の問いは、入電というかたちで解決する。
「解読、第二艦橋へ回します」
『了解。……これ、地球のヒエログリフと文字の配列パターンがまるっきり一緒だから解読にはそんなに時間かからないと思う』
水月に頷いた柑奈だが、直後に小さく首をかしげる。
――確かにガミラス語も英語と似ていたけど、違う星の文明の文字列が地球の古代文明と全く同じなんてことありえるの……?
その間にも艦隊は海の星へと迫ってきていた。
『解読終了、モニターに全文出します!』
水月の声の直後、柑奈のモニターにその内容が表示される。
『我々はディンギル。母なる星を追われ、生き長らえたものたちの末裔である』
――第23話 「アケーリアスの遺産」――
ありがとうございます。
ディンギル、果たしてリメイクでも出てくるのでしょうか……というかそこまでやってくれるでしょうか。
ディンギルについて詳しく知らないという方々は是非とも「宇宙戦艦ヤマト完結編」を見てみてくださいね(かといって作中で説明しないということはありません)。
それではまた次回、お会いしましょう!