波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

24 / 27
皆さまお久しぶりです。
今回を含めず遂にあと2話となりました。
…………あと2話……あと2話⁉︎ 早いですね……。
さて、では今回もあらすじからどうぞ。

あらすじ
 遂に神秘の星アケーリアスを前にした武蔵。着水し調査を開始した武蔵だが、頭上に謎の艦隊が近づいていた。
 彼らの名はディンギル。
 果たして、彼らは何者なのか。アケーリアスの前に彼らが現れた目的とは。
 武蔵の旅も、遂に終着点を迎えていた。


第24話 「青き星の子供たち」

「……母なる星を追われた……?」

 電文を読んだ有賀は、小さく呟いて顎に手を当てた。

『この文は解読が恐ろしく簡単で、地球の超古代文明の文法とほとんど同じだったんです』

「そりゃ広い宇宙の中だし、そういうこともあるんじゃないの?」

『そうだけど……もしかしたら、元々地球にいたのかもしれないなって』

「それってどういう確率なの……?」

 柑奈の視線に俯く水月。

 有賀は窓の外に見える青い海を見つめて天を仰ぐ。

「ヤツらの目的はなんだ?」

「この星を手に入れることじゃないんですか?」

「ああ。でもたかが20隻程度の艦隊で星一つ手に入れようなんてマトモじゃない」

「ヤマトと最初に遭遇したガトランティスも少数の艦隊で星一つ奪おうとしてましたし、自艦隊に自信があればそれも一つの戦略では?」

「……その割には、降下してこないよな」

 艦隊は、この星に攻撃するのを迷っているかのようにそこにとどまっていた。

「本艦を狙ってはいるみたいですが……なぜ攻撃してこないんでしょう……」

 その疑問は、採取された海水のサンプルによって明らかとなる。

『柑奈、この星の海水には微量のトリチウムがある。多分地下にはもっと高純度のトリチウムが……』

「下手に攻撃したら、トリチウムが爆発して星ごと無くなるってこと」

『そういうこと。この星を盾にして逃げれば武蔵は敵の攻撃に晒されずに――』

「それはできない。敵の目的が分からない以上、この星を盾にして逃げる事はしない」

 言いながら振り向いた有賀は、モニターに映るディンギル艦隊を見ながら一ノ瀬へと目を配る。

「一ノ瀬、返答を」

 彼の指示に艦長を仰いだ一ノ瀬は、その顔を見て返答を打ち込む。

「『我々は地球連邦防衛軍所属。今しがたこの星を残した文明より、彼らの後継足り得るものとして命を受けたものである。その命に従い、貴国の目的を問う』以上だ」

「そんなこと言うと、これから狙われちゃいますよ?」

「目的を聞き出すなら、こちらも出せることは出しておくべきだろう」

「それはそうですけど……」

 その直後、返答を示すアラートが鳴り響き文面はすぐに水月へと渡された。

『返答。「同郷のものよ。かの星は我らのもの、返してもらおう」』

「軌道上の敵艦、降下してきます!」

「トリチウムに引火したら星ごと消えるんだぞ……アイツら何考えてやがる……泰平!」

「分かってる、緊急発進!」

 エンジンの爆風で水を巻き上げた武蔵は、纏う海水を振り払って空へと飛び立つ。

 同じ頃、浮遊大陸を飛び立ったブラックバードと敵を観測していたコスモゼロも行動を開始、大気圏を離脱して敵艦隊を狙う。

「航空隊、全機発艦。敵艦の殲滅を主目的として攻撃に当たれ。敵艦の攻撃は本艦の波動防護弾を用いて守り切る」

 艦底のカタパルトを蹴ったファルコンとタイガーllの編隊は、武蔵から離れて惑星を離脱する。

 しかし攻撃命令はなく、機体は艦隊に肉薄して飛び去った。

「先制攻撃をかけるわけにはいかない。両舷、波動防護弾を装填して待機」

 惑星の外を走るリングを背にした敵艦隊を睨み、有賀は拳を握る。

 ――今度は守りきる。必ず。

 艦橋に鳴り響く警報音と共に艦隊から放たれたミサイルとビームに対して武蔵は両舷のミサイル発射管から16発の弾頭を放ち正面に防壁を展開、敵の攻撃は全てそこに吸い込まれた。

「泰平、軌道修正下げ角20度!」

「おうよ!」

「航空隊、敵艦隊を攻撃せよ。波動防護弾次弾装填! 一発も惑星に通すなよ」

「分かってます。二度とヘマはしません」

 防壁の下から抜け出した武蔵は、航空隊のミサイルとタイミングを合わせて主砲を放つ。

 上下から攻撃を受けた艦隊は黒煙を上げる艦を後方に下げて無傷の艦が第2波攻撃を撃ち込んできた。

 それを2発の防護弾で防いだ武蔵は、爆炎に隠れて急旋回をかける。

 一方、散開した航空隊は武蔵とアケーリアスに攻撃が及ばぬように後方から対空砲火を避けて着実に艦橋と武装を無力化していく。

「……なんだ、壊れた艦は後ろに……」

 宗方は、その動きに違和感を覚えていた。

 カレル163宙域に展開してヤマトを撃沈寸前まで追い込んだドメル艦隊もまた、損傷した艦を後方に下げて後衛と交代させていた。

 だが、それは100隻を超える大艦隊あっての戦術だ。今回のディンギル艦隊はたかだか20隻。それで損傷した艦を退げるのは、単純に戦力を削ぐことに繋がる。

「…………武蔵、有賀戦術長。気になることがある」

 

 

 航空隊が戦闘を繰り広げる閃光を尻目に、武蔵は敵の射線を惑星からそらすべく最大速力で進んでいた。

 そのどちらからも離れた位置に静止していた漆黒の機体のモニターに光が灯る。

『ミッション受領、行動開始』

 エンジンに火を灯した機体は、艦隊の遥か上を抜けて後退する艦を追う。

「ブラックバードから信号受信、映像出します」

 柑奈の声の後、モニターにはカメラに収まらないほどの巨大な艦の姿が見えた。

 黒煙を上げて撤退した艦は巨艦へと姿を消し、代わりに無傷の駆逐艦が飛び出していく。

「艦を乗せられる……空母?」

「こんなサイズの艦を……どんな技術だこれ……」

 泰平と有賀の声の直後、ブラックバードの映像が急旋回して途切れる。

「ブラックバード、緊急離脱信号を残して急旋回しました。……これは……何かが機体を追跡している……?」

 柑奈はパネルから、コクピットに内蔵されたサブカメラを起動して様子を確認した。

 機体は旋回を重ねながらもバルカンを撃ち、自らを追うミサイルを迎撃している。が、その弾は貫通せず弾かれ、やがて機体の中腹に突き刺さった。

 不発かと思われたそれはスイッチを入れるように全長を縮めると、機体は融解し内部から爆散したのである。

「ブラックバード、シグナルロスト!」

『戦術長、逃げた敵を追ったタイガー2機が敵の要塞に近づいてる!』

「何……すぐに喚び戻せ! 航空隊全機に通達、敵巨大要塞に接近したブラックバードが先程撃墜された。各機、離脱する敵艦の追撃は避け現有戦力の掃討に努めよ!」

 席に座りなおした有賀は、席の下から端末を出して要塞に近づくコスモタイガーの座標を確認した。

 ――近づきすぎだ……!

 彼の予感は的中し、敵要塞が2機に先程と同じミサイルを放つ。

 ベテランパイロットである2人は撃墜が不可能と判断すると、すぐに速度を上げて敵要塞に接近するコースを取った。

 自ら放ったミサイルで自滅させる魂胆であるのは明確。

 ――しかし。

『隊長、敵要塞が何か防護幕みたいなもんを……ぐあああぁぁぁぁ――』

 そんな通信が第一艦橋に鳴り響く。

 拳を握った有賀はすぐに振り向き、棚橋へと口を開いた。

「棚橋さん、最大望遠で敵要塞を映してください」

「了解」

 モニターに映された要塞は、先程の映像とは異なる様相を示していた。

 その両端から、円盤状にピンク色のビーム幕が展開されていたのである。

 ビーム幕を避けたコスモタイガーは漆黒のミサイルの餌食となり、宇宙に消える。

「あれもしかして……ニュートリノ……?」

 ビーム幕の様子を凝視した柑奈が呟いた直後、それは消え去った。

「ニュートリノ?」

「はい。多分、透過しないように何らかの処理を施しているんだと思いますが」

「透過……?」

 的を得ないと聞き返した有賀に頷くと、柑奈は手振りを交えて説明を始める。

「ニュートリノは相互作用が弱い物質で、普通にしていれば超高濃度でもあらゆる物質を透過して敵機を破壊するなんてことはできません。それでも彼らは、ニュートリノを陽電子砲のように可視化して、破壊力を付与した……そうできるだけの技術が、彼らにはあるんだと思います」

「でも、わざわざニュートリノを破壊光線に変えてまで使う理由はあるのか?」

「それは分かりません……なぜ、そんな回りくどいことをしているのか……」

 俯く彼女に視線を向け、近藤は有賀へと目を移し立ち上がる。

「考えるのはあとだ。今はこの状況を切り抜ける」

「了解。……しかし艦長、あの空母がいる限り、現状本艦に勝ち目は……」

「…………俺たちの今の戦闘目的は、惑星アケーリアスをディンギルの手から守ることだ。敵を退けられないなら、星を動かせないか?」

「……はい?」

 有賀の頓狂な声が響く。

「いくらなんでもそれは……」

「…………できるかも……」

「――はぁ⁉︎」

 柑奈の呟きに反応した彼を無視して、彼女はパネルを操作し続ける。

「やっぱり。本艦進路上に、まだ閉じきってない次元の切れ目があります。これを惑星レベルまで広げることができれば、あるいは」

「具体的には?」

「……本艦の全火力をこの切れ目に叩き込み、次元震を誘発させます。ただ……火力不足で失敗する可能性も十分にありえますが……」

「でも」

 顔を上げた柑奈の視線は、来島とアイコンタクトをとる有賀に向けられていた。

「やってみなきゃ分からないだろ」

 ニヤリと笑う彼に、これまでのことを思い出して他のクルーにも笑顔が見える。

「じゃあやるか。最大船速、ヨーソロー!」

 泰平の号令で武蔵は加速し、次元の狭間が記録された地点へと向かった。

「こちら武蔵、航空隊へ」

 

 

『本艦はただいまより、惑星アケーリアス送還のため行動を開始する。航空隊は敵艦隊を現状位置で足止めせよ』

「おーおー、中々無茶言いやがる」

 コスモファルコンのコクピットでそう呟き、宗方は笑う。

「聞いたか! 敵を沈めるなとは言われてない。全力で叩くぞ! 狙いは武装と艦橋、デカブツには近づくなよ」

『了解!』

 散開した機体は上方に逃れ、先行したファンコンが武装をミサイルで破壊する。

 そして丸裸になった敵艦の艦橋を、タイガーが機銃で粉砕した。

 当然それは武蔵でも観測されており、レーダーに映る反応が徐々に減っていくのが見えていた。

「全砲門、艦首、両舷ミサイル管開け」

 有賀の声で艦首の魚雷発射管と両舷のミサイル発射管が開き、主砲がわずかに仰角を上げる。

「目標、座標設定完了」

「いま持ちうる全火力を、全部叩きこむ。…………全門、撃てええええええぇぇぇぇぇッ!」

 

 ――第24話 「青き星の子供たち」――




ありがとうございます。
さて、残るは25話と26話です。ヤバい……ヤバいですよ、ええ。
しっかり畳めるのでしょうか、我ながら不安でございます。
とはいえ今作もあと少し。どうか最後までお付き合いいただけると幸いです。
それでは、また次回お会いしましょう!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。