波動実験艦武蔵 ~遥か遠き起源の惑星〜   作:朱鳥洵

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皆さんお久しぶりです!
ようやく今作も終了間近ですね。
第25話です。それでは、あらすじから。

あらすじ
 遂に惑星アケーリアスへと到達し調査を開始した武蔵の前に、地球を母なる星と呼ぶ謎の国家ディンギルが迫る。
 アケーリアスを守るべく発進した武蔵だったが、敵の要塞空母と艦隊に苦戦を強いられる。
 このままではアケーリアスがディンギルの手中に落ちると確信した近藤は、「アケーリアスが出現した断層をもう一度開き、星をそこへ押し戻す」という奇策に打って出るのであった。


第25話 「遥か遠き起源の惑星」

 何もないはずの宇宙空間に、爆発が生まれる。

 口を開ける時空の壁に叩きつけられた実弾が、振動を生む。

「次元振動率3%、まだ足りません!」

「ありったけ撃ち込め!」

 波状に行われていた攻撃はいつしか隙間なく行われ、振動率を合わせられた弾頭はわずかながらもこの宇宙に微振動を与えていた。

「弾頭、既に搭載数のうち58%を消費しました。このままでは、1時間経たずに使い切ります」

「次元振動率15%……何が足りないの……できることは全部……」

 攻撃は着実に命中している。足りないのは……。

 ――時空の扉をこじ開ける破壊力か。

 まっすぐ前を見つめた有賀は、ふと一つのことに思い当たり振り返った。

「柑奈」

「はい、なんですか?」

「波動防護弾は、重力子スプレッドをもとに作ったと言っていたな」

「確かにそう言いましたけど……」

「じゃあ、攻撃を圧縮して撃ち出す目的で使うことはできるか」

「…………はい?」

 一瞬キョトンとして固まった彼女は、すぐにその意味に思い当たり思考を始める。

「……できると思います。今のままではなく、エネルギーの放出方法を変えればあるいは。ただし、実弾でないのが絶対条件です」

「分かってるよ」

 笑顔で答えた有賀は、そのまま機関長へと呼びかける。

「機関長、波動エンジンのエネルギーを主砲に回してください。主砲の薬室が限界値になるくらいまで」

「暴発しても知らないぞ」

「大丈夫です。来島、主砲のタイミングを俺に渡してくれ。その代わり、来島には任せたい事がある」

「なんですか?」

 ニヤリと笑うと、彼はすぐにキーを打ち内容を来島へと渡した。

「お前以外には任せられない。精密さを求められる作業だ」

 その会話を背に、近藤は一ノ瀬を一瞥して頷き、彼は直ぐにどこかに打電を行う。

「分かりました」

 強く頷く彼女から柑奈へ視線を戻し、問いを投げ――。

「4発です」

「……ありがとう」

 そんなの必要無いと言うように、彼女はまっすぐ有賀を見てそう答えた。

「来島、波動防護弾は4発。増幅率が最大になる位置に配置してくれ」

「言われなくても、分かってます」

 時空の裂け目に対して正確に横腹を向けた武蔵の主砲が一斉に右を向く。

 右舷の8連装ミサイル管が一つ飛びで4門開放され、武蔵はエンジンを止め完全に静止した。

「主砲へのエネルギー、現在全砲塔99%」

「……まだ足りない」

「100%、まだ行くのか」

「まだです」

 機関長の問いに答え、有賀はアラート表示が出始めたモニターを見つめる。

「エネルギー、110%!」

「エネルギー現状数値で維持、エンジンは最大出力噴射用意! 来島、任せた」

「了解……発射!」

 白煙と共に飛び出した弾頭は直線を描くように並ぶと、そのままそれぞれの距離で起爆してさながら重力子スプレッドのように雲状に広がる。

「ここに撃てば、理論的には4段階の増幅が可能なはずです。増幅率が最大になるのは10秒後」

「わかった。発射10秒前、重力アンカーで船体を現宙域に固定する」

「敵艦隊、航空隊の弾幕を抜け始めました!」

 丹生からの報告に一瞬振り向きかけたが、前を向いたままで目を開く。

「構わない。主砲、誤差修正。一ノ瀬、航空隊に、敵艦隊の追撃を中断しアケーリアスの裏側に退避するよう打電してくれ」

「了解」

 レーダーには編隊のまま方向を変える航空隊の姿が映る。

「航空隊、全機退避軌道に入りました!」

「よし……主砲、発射!」

 号令に合わせて青く輝いた砲口から解放された陽電子は、砲口を裂きつつも太く強く進み、一つ、また一つと幕を潜るたびに圧縮され、最後の幕を越えるとそれは波動砲にも等しい威力となり、次元の裂け目へと突入した。

 放射を終えた主砲は全ての砲身から爆破、砲塔は割れ、砲身は砕けとても砲撃ができる状態ではなかった。

 刹那、武蔵の観測装置が何かを探知する。それは。

「次元振動を感知、裂け目が開きます!」

「緊急発進、この場を離脱する!」

 近藤の声に加速をかけるものの、武蔵の加速はワープには遥かに届かない。

 目を見開くように急速に開き、稲妻と共にもう一つの宇宙を露わにした次元の裂け目はアケーリアスを含むこの場の全てを飲み込まんとしていた。

「武蔵の相対位置が進んでない……引き込まれています!」

「くそっ、エンジンは⁉︎」

「出力が足りない……補助エンジンまで使っているが逃げられないぞ」

 武蔵の主砲から昇る黒煙も、アケーリアスも、離脱を図るディンギル艦隊ですらも吸い込まれていく。

 アケーリアスの陰に隠れて離脱する航空隊は巨大な惑星の存在によりほとんどその影響を受けておらず、それぞれ機体のレーダーで武蔵を観測できるギリギリの範囲まで退避に成功していた。

「おいおい、星が吸い込まれてるぞ……」

『隊長、フネは大丈夫ですかね』

「聞いてる暇あったら神でも仏でも祈っとけ」

『はい! ……ん、なんですかね、あれ』

 通信の声に顔を上げると、視界の端に光るものがあった。

「なんだ……あれ」

 

 

「艦前方に重力場の歪み……ワープアウト反応です!」

「当該座標から急速に近づく物体あり。識別は……」

『お久しぶりです、武蔵の皆さん。近藤艦長からの要請により、貴艦離脱の後押しをいたします』

 彼らの前に現れた純白の艦は急旋回をかけて武蔵にエンジンを向けると、その船体に牽引ビームとロケットアンカーを撃ち込み全てのエンジンを噴射した。

「アカギか……」

 有賀の呟きにニヤリと笑うと、近藤は機関長へと呼びかける。

「エンジン、現在可能な最大出力へ。アカギの補助があれば逃げられる」

「了解、この後エンジンが壊れても構わん。やれ航海長」

「……はい!」

 エンジンを噴かした武蔵はアカギと歩調を合わせて背後を通過するアケーリアスに別れを告げ、航空隊の待つ宙域へと前進する。

 あの時、ヤマトを救ったアンドロメダのように。

 救われたヤマトのクルーは、今の武蔵のクルーと同じ心情だったのだろうか。そんなことを思いながら。

 レーダーには開いた口に飲み込まれるディンギル艦隊の姿が映されていた。

 アケーリアスを飲み込んだ口は閉じ、後に残ったのは何もない静かな宇宙。

 

 

 アカギの艦橋で肩の力を抜いた蔵中と金浦は、数秒経って通信を開く。

「アカギより武蔵へ。無事ですか?」

『こちら武蔵。こちらに異常はありません。助かりました、蔵中さん』

「よかった……ロケットアンカーを解除します」

 武蔵の船体から離れたロケットアンカーを格納し、帰投する武蔵の艦載機を見送る。

「二人とも、武蔵に行こうか」

 それを見届けた冴島は立ち上がり言うと、エレベーターへと歩き出す。

 3人を乗せたコスモシーガルが飛行甲板から飛び立ち、武蔵からの誘導に従って第三格納庫へと向かった。

 途中、不自然にそこだけ大きく破損した主砲を横目に修復跡の残る船体を舐めて着艦する。

『着艦確認。所定の位置へ移動します』

 オペレーターの声に従って艦内に引き込まれ、機密シャッターが下りきった格納庫には近藤艦長以下、主要士官が立っていた。

「ご協力感謝いたします」

「武蔵が任務を果たしたと聞けば、我々も放置してはいられません。武蔵が無事に帰還しなければアケーリアスの情報は地球にもたらされないのですから」

 差し出された近藤の手を取った冴島は、最後にあった時よりたくましくなったクルー達を見回す。

「いい艦になりましたね、近藤艦長」

「はい。わたしはこの通りですが」

「っ……」

 羽織っていた上着を開いて無くなった左腕を見せると、アカギの3人は言葉を呑んだ。

「なに、大したことはありません。ではこちらへ、情報共有といきましょう」

 

 

「――では、そのミラストルという惑星で入手したこの石が、武蔵をここまで導いたと」

 観測ドームで輝きを失った石を囲み、冴島は近藤の言葉を反芻した。

「こんなものが観測装置の一部ですか……」

「それと私見ですが、アケーリアスは多次元宇宙を行き来しているものと思います」

 蔵中の呟きに続いた柑奈の一言に、冴島は考え込む。

「確かにアケーリアスが戻る時、既知の次元断層と違って向こう側にも宇宙が見えた。その推理は間違っていないのかもしれない」

「でもだとすると、その石で出さないと行き来できないんじゃ……」

「そうとも言えないわ」

 いつの間にドームに入っていたのか、カレンの声に全員が振り返る。

「アレは石の干渉が無くても周期的に出現するの。この石は、その周期を正すためのもの」

「それは石版から?」

「ええ。それにガミラスやゼムリア、地球、それからラーゴラスの古代神話からもそれは明らかよ」

「待って、それだと……今回武蔵がアケーリアスを戻したことでその周期は狂ったままなんじゃ……」

 蔵中の一言でその場の全員が息を呑む。

「もしかしたら、バタフライエフェクトみたいにもっと大きな歪みになるかもしれない」

「柑奈、バタフライエフェクトっていうのは……?」

 有賀の問いにため息をついた柑奈は「いいですか?」と一言入れて続ける。

「1匹の蝶が羽ばたいた風が、巡り巡って地球の反対側で大きな竜巻を起こす事の例えです。小さな事がいずれ大きな事になるって事ですよ」

「なるほどな。そうなると今回は惑星一つだったけど、次は別の宇宙から銀河一つ出てくるかもしれないってことか」

「それもあり得ますね……」

 場に重苦しい空気が流れる。

 直後に口を開いたのは近藤であった。

「今考えても仕方ない。その時の地球は今より進化してるし、俺たちはその時の最善策を取った。ただそれだけの事だ」

 それに頷いた冴島は、ドームの外を見つめて続ける。

「武蔵は強い艦になりました。ヤマトの意志を継ぐ程の、強い艦に」

 振り返って、有賀の目を見る。

「我々も努力しなくてはなりませんね」

「光栄です」

 頭を下げる有賀から目を逸らし、彼は近藤へと向き直る。

「武蔵は地球へ?」

「はい。アカギは戻らないのですか」

「本艦は武蔵の任務完遂を確認したので、手負いの貴艦をバラン星へと送り届けた後別の任務へと赴きます」

「そうですか。では、また会うこともあるでしょうな」

「ええ。そうですね」

 敬礼をした3人に返礼し、彼らは観測ドームを後にした。

 武蔵から発艦したシーガルがアカギへと戻ったのを確認して、両艦はエンジンに火を灯す。

 後部デッキの窓からアケーリアスが消えた方角を見つめていた有賀の元に柑奈が近づいてくる。

「どうした?」

「一緒にいたくなっただけです」

 2人の距離は以前より近く、その顔は満たされていた。

「遠い星でしたね、アケーリアスは」

「ああ。結局、神秘の星に人類は手が届かないんだ」

 そして手すりを持った有賀は、大きく息を吐くと柑奈の目を見つめる。

「なあ」

「なんですか?」

「……ずっと、近くにいてくれるか」

「ふふっ……最初からそのつもりですよ。私、義哉さんと一緒にいたいです」

「……ありがとう、柑奈」

 優しい笑顔と共に指を絡ませた二人は、星の海原へと心を解かす。

 ――やっと安心できたよ、お兄。

 壁に背を預けていた美佳は、一人歩き出した。

「お兄のバカ……一体何年かかったんだか」

 エレベーターの中で天井を仰ぎ、大きく息を吐く。

 気づけば目からこぼれていた涙の理由も分からぬまま、彼女は肩の力を抜いた。

「奈波とごはん、食べようかな」

 端末を取り出した美佳は、親友へといつも通り簡単なメッセージを送ってエレベーターを出たのであった。

 

艦長室

「ようやく肩の荷が下りましたかな」

「ああ。本当に」

 谷村と酒を酌み交わした近藤は、背もたれに身体を預けて宇宙の映るモニターを見る。

「そろそろ、潮時だな」

「あとは彼に任せるのですか」

「そのつもりだが……君はどう思う」

 その問いに谷村は笑顔で答える。

「彼以外にはないでしょう」

「では、あとは彼に任せるか」

 どこか満足げな顔で椅子にもたれた近藤に、グラスを置いた谷村は問いを投げる。

「そういえば、有賀と佐伯はどうなったのでしょうなぁ」

「はははっ、君も気になっていたのか」

「それはそうでしょう。あの子たちが気にしていましたからね」

「まあ、彼らが結婚式を挙げるとしたら是非とも呼んでもらいたいな」

 そして2人笑い出す。

 平和なひととき、今この時を噛みしめるように2人はグラスに口をつけるのである。

 

 宇宙行く艦は母なる星を目指す。

 傷を癒し、旅の記憶を思い返しながら。

 様々な思いを乗せて。

 2隻の巨艦は青い航跡を残して漆黒へと消えていく。

 これが2年にわたる長き旅の終わり。

 そして新たな未来への幕開けなのである。

 青く美しい星へ帰還を果たした武蔵は、次なる旅を待つ。

 そしてクルー達は、それぞれ帰りを待つ者達の元へと戻っていく。

 

 ――第25話 「遥か遠き起源の惑星」――




ありがとうございます。
なんか最終回っぽいですがまだあと一話あります、最終回は26話ですのでお間違いなく!
それではまた次回、最終回でお会いしましょう!
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