書きあがったら次話投稿というスタイルで進捗亀なので割と間が空いてしまいましたかね。
というわけで第4話です。アカギの面々との対談を終えた武蔵。順調な航海の中で、水月や泰平たちにはある悩みがあるそうで。
バランを発って数週間。
武蔵はサレザー恒星系に向かうコースから外れ、未踏の大地へと足を踏み出した。
そんな武蔵のレーダー手席に座る少女は、ただ前に座る青年の背中を見つめていた。
――このフネに乗ってから、一度も話しかけてくれないな……お兄……。
仕方のない事だと割り切っていたつもりだったが、実際はそうもいかなかった。
親しい家族、兄の姿を以前より遠くに感じてしまう。
「水月、交代の時間だよ」
「んー、そんな時間かー」
艦橋に入った柑奈が水月に話しかける。
視界に見える物憂げな少女の顔は、柑奈にはとても痛々しく見えた。
「柑奈、これつけといて」
「えっ? あぁ、うん」
小さなイヤホンのような機械を手渡した水月は、ひらひらと手を振りながらエレベーター前にいた泰平と来島を道連れに艦橋を降りていった。
「……なにこれ」
その形から、恐らく耳につけるものだろうというのだけは分かった。
右耳につけると、『あー、あー、テステス』という声が聞こえてきた。
――――それも、大音量で。
思わず顔をしかめる柑奈だが、幸い音漏れはしていなかったようで、艦橋には静かな空気が流れていた。
慌ててメッセージを立ち上げた柑奈は、水月の端末のアドレスへ向けて『聞こえてるけどうっさい』と送信する。
『マイクテス、マイ……ん? メール……良かったー聞こえてたー! ごめんごめん、今音量下げるね』
『えっ、それの音量って聞き手側から調整できないんですか?』
音量が下がる向こうで口を開いた来島の言葉に一人頷く柑奈。
心の中で「よくぞ言ってくれました理沙ちゃん!」と思っている事だろう。
『まあー今はテスト機だからね。実用版では音量調整できるようにしておくよ』
『テスト機だからこそ、そういうの必要なんじゃ……』
『だーいじょぶ、なんとかなるからさ』
心配そうな来島に対しヘラヘラと返す水月。顔は見ていないが、恐らくヘラヘラしているのだろうという図は頭に浮かぶ。
『柑奈、耳につけた機材を指で触って声出してみて?』
「……?」
その指示に疑問を感じながら耳の機材に手を当てて、小さく「あー」と声を出す。
『よし聞こえた。ありがと、柑奈』
「うん。これで、話してもいいのね」
『オッケーオッケー。小声でも聞き取れるから静かな艦橋でもコソコソ話せるね』
「……水月、まさかサボる目的で作ったんじゃないよね」
『まさか、ちゃーんと情報伝達に役立ちますよー』
「どうだか」
「呆れられちゃった」
「……話し方の問題、ではないですかね……」
さも意外なように言う水月に、来島はため息交じりで指摘した。
「みんなここにいたのね」
その声に視線をあげると、彼女達の元に駆け寄る丹生が見えた。
「あ、船務長」
「三原くんもいたの?」
彼女の姿に声を出した泰平に、丹生は驚いた表情を見せた。
「まさか気づかれてないとは」
「あはは、いやごめんね」
軽く謝罪の言葉を述べる彼女をそれ以上追及せず、泰平は「で、本題だけど」と切り出した。
「俺たちは、あの兄妹が艦内で全く話していないことに痺れを切らした、ということでいいな?」
「はい、それで間違いありません」
頷く来島の肩を叩いて、丹生は口を開く。
「理沙ちゃんがそう思ってるなんて意外だったわ」
「……上官が“らしくない”と、気持ちよく戦えませんから。それに……」
「それに?」
「せっかく近くにいる家族です。いつ会えなくなるか分からないなら、話せるうちにたくさん言葉を交わすべき、です」
「……うん、そうだね」
何を思ったのか視線を落とした彼女の頭を撫でる丹生。
来島は少し大人しく撫でられていたが、すぐにはっと気づいた様子で距離をとった。
「船務長、わたしもう22歳ですから、いつまでも子供扱いしないでもらえますか」
丹生を指差してキツめにそう言い放つ来島だったが、その頬は少し赤かった。
それを見た水月、丹生、泰平と音声だけを聞いていた柑奈は「まだ子供だなぁ」と思いつつ、頬を緩めた。
「な、なんですか皆さん、ニヤニヤして……気持ち悪い……」
「理沙ちゃんはかわいいなぁと思ってさ」
「はぁ? 急に何を言って――いきなり抱きつかないでくれますか⁉︎ 離し、離れてくっ……だ、さ、い!」
「暴れない暴れない。暴れても離してあげないからね」
「よーし本題に戻るよー」
「こ、このままですか……⁉︎」
水月の一言で話は切り上げられたが、後に残ったのは不機嫌そうな顔をした来島と、そんな彼女を後ろから抱きしめて笑顔を浮かべる丹生であった。
「ねぇ柑奈、戦術長はどうして妹さんに話しかけないと思う?」
通信機ごしに会話を聞く柑奈に意見を求めると、迷いながらの返答が帰ってきた。
『話しかけられないと思ってるのかも。肉親だからって』
「どういうこと?」
『家族が乗ってるって意識すると、指揮に影響が出るかもしれない。義弥さんならそう思っても不思議じゃない』
「アイツ、その辺は真面目だからな……」
深いため息とともに泰平が言う。
「そういえば地球を出る前に私のところ来た時、妹さんをレーダー手に配置した事に怒ってたみたいだけど……」
丹生が来島の頭に顎を乗せながら呟くと、柑奈は『多分怒ってたのはそのせいじゃないです』と通信する。
『私の予測ですけど、多分義弥さんは……危険な任務にこそ付いてきてほしく無かったんだと思います。だから、それを止める権限があった船務長にしか言えなかった』
「家ではどうだったんですか、技師長」
彼女の言葉を聞いていた来島が聞くと、柑奈は少し上ずった声で。
『な、なんで……っ⁉︎』
「なんでも何も周知の事実かと」
『そっかぁ……』
何故か落胆した声を出した柑奈はしかし、すぐに声色を戻した。
『家では普通でしたけど、どことなく軍入りを諦めさせたがってたような気はします。美佳ちゃんには逆効果だったみたいですが』
「有賀くんも迷ってたのかな……」
きゅっと来島の肩を抱く。
「船務長?」
微妙な力の入りに気づいた来島が反応すると、丹生は少し力を緩めながら首を横に振った。
「なんでもない。けどまあ、そうだよね。たった1人の家族だし、危ない場所には連れてきたくないよね……」
はぁ……と深く息を吐き出す。
「……あたし、間違ったのかなぁ……」
彼女をこの艦に乗せた張本人としての責任が重くのしかかる。
妹を想う兄の気持ちは丹生にも分かる。
彼女にも遊星爆弾症候群を患っていた従姉妹がいる。もし彼女が軍に入りたいなどと言えば、当然引き止め、諦めさせようとするだろう。
心のどこかで、自分とは違うものだと考えていたのかもしれない。
「あたしのせいか……」
「そうでしょうか」
ぽつりと呟いた言葉に来島が答える。
「それってつまり、戦術長ともあろう人が妹1人守る自信もないって事じゃないですか」
「理沙ちゃん?」
「あんたの肩には妹1人じゃなくてクルー460人の命が乗ってるんだって事を叩き込むべきです」
「いや、今回の話はそれとは――」
「関係なくないです、航海長。肉親だから特別扱いしちゃいけないとか言ってますけど、話しかけないという選択はむしろ特別扱いしてるってことじゃないんですか? 家族なんだって分かってるんなら、並んで歩いてくれないとこっちが気が気じゃないんですよ」
珍しく憤慨した様子の来島。
泰平は水月、丹生と目を合わせると、ふふっと笑いはじめた。
「な、なんですか?」
それに身構える彼女に「いや」と短く答えると、呼吸を整えて続けた。
「なんとなくだけど、言いたいことは分かった。そこで、俺に提案があるんだ」
自信に溢れた顔で宣言すると、彼はある場所へと向かって歩き始めるのだった。
艦橋
「なんか微妙に心配なんだけど……」
泰平に「佐伯さんが今回の要だから」と言われた柑奈は、耳の機材を外しながら小さく息を吐き出した。
「何浮かない顔してるの?」
「ぅぇっ⁉︎」
背後からの声に振り向くと、赤い瞳がこちらを見ていた。
「か、カレンさん……」
ほっと胸をなで下ろす。
古代遺跡の調査アドバイザーとして同行している彼女は、正規クルーのようなシフトがあるわけでも所定の居場所があるわけでもない。
そのため平時は、助手共々こうして艦内を自由に歩き回っているのだ。
「ダメよ、あなたは笑顔の方が似合うんだから」
そう言いながら柑奈の頬を触り、口角を無理やりあげようと力を入れた。
「……いはいれふ……」
「あら、痛かった?」
こくこくと頷くと、カレンはあっさり手を離した。
「痛い……」
「あなたがあんなに暗い顔してるのが悪いのよ。途中で会った航海長くらい笑顔の方が良いと思うけど」
「航海長? どこで会ったんですか?」
「艦長室の方に走って行く時にすれ違ったわよ?」
「……艦長室?」
艦長室
近藤は、顎に手を当てて何かを考えている。
その理由は、彼の隣に立つ航海長に他ならないのだが。
「惑星ビースリーで補給、か」
「はい。主計科からの報告にもありましたよね、補給が必要と」
「ああ。だが、何故調査隊がこの3人なんだ?」
端末を指差しながら問うと、泰平は本題を切り出した。
「戦術長のためです」
「有賀か」
「はい。同じ艦に妹が乗っていますが、その彼女と出航以来会話をしていないのです」
「……ふむ」
「本人にはいい迷惑かもしれませんが、砲雷長をはじめ彼の部下や一部クルーには彼が妹とうまくいってない事を心配する声がありまして……」
「そうか……」
「それに、この人選は様々な状況に対応できると、船務長から」
「わかった。補給状況も合わせて考えてみよう」
「はい」
敬礼して艦長室を後にする泰平を見送った近藤は、少し頬を緩めた。
泰平や丹生が彼の事を心配しているのは分かっていたが、そこに来島が絡むとは近藤も予想外であった。
「普段はそんなことおくびにも出さないのにな」
小さく呟きながら近藤は偵察案に承認印を付け、モニターに映し出された外を見つめた。
艦は星の海原を行く。
何が起こるかわからないこの海を、彷徨うように。
――――第4話 「外野たちの小さな悩み」――――
ありがとうございました。
今作、始まってからまだ一度も戦闘無いですね……。
外野の悩みは解決してくれるのか、それは義弥と美佳のみぞ知るということで。
それではまた、第5話が書きあがった時にお会いしましょう。