今回は久しぶりの予約なし投稿でございます。
えー、ぶっちゃけ今回は完全なる日常回なので、らしくないと言えばらしくないかもしれません。ご了承ください。
次回はちゃんと冒険譚らしいイベントがありますので、箸休め的なお話ということで。
それでは、よろしくお願いします。
惑星ビースリーを出て3日。
1日2回目、12時間ごとのワープこなし宇宙を征く武蔵は、6回目のワープを開けた。
「ワープ終了。レーダー異常なし」
「艦内点検、異常なし」
報告を終えた美佳と柑奈は、ほぼ同時に息を吐いて肩の力を抜いた。
「なんか、似てきたな……」
背中越しに2人の声が聞こえた義弥は、つぶやきながら立ち上がる。
「来島、あとは頼む」
「分かりました、戦術長」
パネルに映された時間を確認した義弥は彼女に席を譲ると、艦橋を後にした。
「あの2人が似ることが不服なんですかね、戦術長は」
そんなことを言いながら、テンキーに乗員コードを打ち込む。
武蔵では平時、交代時間が来ると交代するクルーの名前と共に時間表示が赤色に変わるようになっている。
交代したクルーは、予め割り当てられている乗員コードを打ち込むことで交代した事が確認されるシステムであった。
「さあな。もしかしたら嬉しいのかもしれないぞ」
「えっ? ……いえ、それは無いです。見ましたか、あの顔」
「ははっ、よく見てるなぁ」
ここまで来てようやく泰平に茶化されていることに気づいた来島は、むすっとした顔をしながら彼に背中を向けた。
その後ろでは、解析手とレーダー手が交代の時間を迎えていた。
「交代だよ、柑奈」
「次、水月だったんだ」
「うん……さては、また時間見てなかったな?」
「あはは……うん、実はね」
「まったく……」
ため息と共に柑奈と席を代わる水月。
立ち上がった柑奈が振り返ると、ちょうど丹生と美佳が交代したところであった。
彼女と目があった柑奈は、一緒にエレベーターに乗り込んで扉を閉めた。
「……なんかあの二人、あの星での一件から更に仲良くなりましたよね」
「うん。有賀くんとも話し始めたみたいだし、いい傾向だ思うよ」
水月に笑いかける丹生。
そんな彼女に、水月は思い出したように問いかけた。
「そういえば、あの子のことなんて呼んでますか?」
「えっ、なんで?」
「いやだって、同じ名前ですし」
『……あー』
それまで忘れていたというように、その時艦橋にいた面子が声を揃えた。
何がそんなに疑問なのかと問うように、丹生は首を傾げながらその答えを口にした。
「普通に、美佳ちゃん、だけど?」
一方、2人並んで通路を歩く柑奈と美佳はというと。
「お兄はさっさと出て行っちゃうんだから……」
「まあ仕方ないよ。美佳ちゃんはこれからどうするの?」
「うーん……お腹すいたなぁって思いますけど……」
自分のお腹をさすりながら言った直後、彼女は動きを止めた。
「……あっ、やっば……」
「ん?」
「艦内シフト終わったら、ルームメイトとご飯食べる約束してたんだった……それじゃあ柑奈さん、今はこれで!」
早口で理由を説明した美佳は、廊下を駆けて行った。
「転ばないように気をつけてねー?」
一応そんな注意をしてみたが、果たして彼女には聞こえているのだろうか。
「さて……私はどうしよっかな……」
一度立ち止まった柑奈は、それでもやはり当初の目的を果たすことにしたのであった。
電気もついたままの部屋で、艦内服でベッドに横たわる彼の耳に届いたのは、2度目に押されたブザーの音だった。
「なんだ……?」
眠気まなこで立ち上がり存在を明かすと、向こう側にいる人物が『あっ』と少し驚いた声を出した。
『柑奈です。入ってもいいですか?』
「ああ、構わないよ」
扉を開けると、彼を見上げた柑奈がくすっと笑った。
「寝てましたね、義弥さん」
「どうしてわかった?」
「ふふっ、それはですね」
少しはにかみ、部屋に入った彼女は義弥の髪を撫でる。
「寝癖が立っているからですよ?」
「そんなにだったか……」
「そんなにでした」
優しい笑顔で髪型を直す。
寝ぼけていた義弥の意識は次第に戻り、恥ずかしさが増していたが、柑奈の幸せそうな顔を見ると止める気にもならなかった。
「はい、終わりました」
「あっ、あぁ、ありがとう」
「いえいえ」
得意げに胸を張る柑奈は直後、「あっ、そうだ」と、さも今思いついたように指を立てる。
「義弥さん、もうごはん食べましたか?」
「いや、すぐ戻ってきたからまだだけど」
「良かった……じゃあ、一緒に食べに行きませんか?」
「……ああ、そうしようか」
彼の答えに、少し不安そうな眼差しが変わっていく。
「そうと決まれば早く行くか」
そう言いながら、義弥は柑奈の手を引いて歩き出した。
「次のワープで、ガミラスのデータベースにある領域を抜けるわけですな」
モニターに映る色とりどりの宇宙を眺め、谷村はグラスに入れた酒をかざした。
「ここから先は未知の航海だ。既に次のワープアウト座標に近い恒星系には、波動エンジンにダメージを与えかねない強い太陽フレアが観測されている」
「大丈夫ですよ。うちのクルーは優秀ですから」
それは副長として、彼らを側で見ていたが故の自信なのか。
そんな彼の言葉に口角をあげた近藤は、彼が掲げたグラスに自らのグラスを軽く当てた。
「前回の旅を踏まえて、クルーたちはより成長しました。若いヤツらを信じた方がいい結果になる事もあるってもんですよ。若いのが躓いた時に支えてやるのが老いぼれの役目」
「老いぼれとはやめてもらいたいな。君はまだまだ現役だ。せめて年長者くらいだろう」
2人で目を見合わせ、そして同時に笑い合う。
武蔵のクルーは皆若く、彼らとは親子ほどの年の差がある。
酒を酌み交わすような者はあまりいないのが現実だ。
「……艦長は、戦術長の事をどうお考えで」
「有賀か」
お互いにグラスを置くと、近藤はモニターに映し出される宇宙空間を眺めながらゆっくりと口を開く――。
その日の食堂はがらんとして、いつもの喧騒はなりを潜めていた。
「今日は静かですね」
「珍しいな」
ぽつりぽつりとまばらな人影を横目に料理を乗せると、2人は同時に席に着いた。
「義弥さん、いつもは1人で食べてるんですか?」
「え? ああ、そうだな……いつもは1人だけど」
「そうですか……」
そこから会話が続く事もなく、柑奈は頬杖をついて彼を見つめた。
「……何かおかしいか?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど」
「……そういえば、一つ聞こうと思ってたことがあるんだけど」
「はい」
彼は皿にスプーンを置くと、少し身を乗り出した。
「ビースリーでこっちに美佳をよこしたのはなぜだ?」
「……それですか。私が行かせた訳じゃありません。ちゃんと止めましたよ、私は」
「じゃあなんで――」
「どうしてもお兄を助けたいって、艦長に直談判したんです。そしたら航空隊長が、『何かあったら俺たちがどうにかしてやる』って後押しを……」
「……そういう事だったのか」
「もっとも、義弥さんが一人で囮になった時には艦橋ではなんとしても義弥さんを助け出す以外の選択肢はなかったみたいですよ」
その言葉に、これまでになく大きなため息をついて返す。
「美佳ちゃんが義弥さんを助けに走ったのは、厳密に言えば独断専行です。けれど、みんなその気持ちは分かりますから……艦長も副長も美佳ちゃんを罰することはしなかったんですよ」
「……そうか……」
「……聞いてますか?」
「ああ、大丈夫だ。つまりあれは、美佳の独断じゃなくて艦の総意だった、そう言いたいんだろ」
「そういう事です。なので、以後あんなことはしないでください」
彼を指差しながら、柑奈は鋭い視線を向けた。
鋭い、だがしかし睨むような目ではなく、どこか暖かさを持った眼差しである。
「ホイホイあんな事されたら美佳ちゃんの心臓がもちませんよ! …………私のもですけど……」
「ん、何か言ったか?」
「い、いえ、何も……とにかく、美佳ちゃんや艦のみんなにこれ以上心配かけないようにしてくださいね」
「肝に命じておくよ」
柑奈の言葉を聞き流すように返すと、向かいに座る彼女の視線が突き刺さった。
徐々にその表情に怒りが露わになっている事に気づいた時には、その場で立ち上がった彼女の説教を受けていたのであった。
「耳にタコって本当にできるのか……?」
そんなことをつぶやきながら、1人廊下を歩く。
柑奈の説教はその後20分に及び、やっとの事でなんとか許しを得た。
なぜあそこまで怒られなければならないのかはイマイチ理解していなかったが、彼女の威勢に完全に圧されてしまっていた。
「俺の任務は護衛だったんだから、あれが最適解のはずだろ……」
わずかな理不尽を感じながら歩いていたせいか、前から走ってきた2人に気づく事なく肩が触れる
「あぁ、すまない」
「すみませんでし……た……あれっ、お兄?」
聞き慣れた声に視線を上げると、敬礼をする医務科の少女と並ぶ妹の姿が見えた。
ひとまず少女に敬礼を返し、美佳に向き直る。
「なにしてんの、こんな所で」
「それはこっちのセリフだぞ美佳」
その問いに答えようとした美佳の肩を少女が叩く。
「なに?」
「なにじゃなくて、戦術長にタメ口はないでしょう……」
「大丈夫大丈夫、だってお兄だし?」
「理由になってないけど……」
的を得ない受け答えに辟易する少女に「気にしなくていい」と声をかけた。
「艦長も、妹が俺にこの口調なのは了承済みだ」
「はあ……妹……あれ、お2人家族だったんですね⁉︎」
大げさに驚く彼女の姿に顔を見合わせた2人は、同時に「あー」と声を出した。
これまで彼らは、彼らの近くにいた柑奈や2人が家族である事を知っている士官がいる空間にいた。
つまるところ、今ここにいる看護師見習いである彼女は、彼らが家族である事など知るよしもないのだ。
「あはは、ごめんごめん、びっくりさせちゃった」
彼女の反応に合点がいった美佳は彼女の肩を叩くと、兄の方へと向き直った。
「紹介してなかったけど、こちら私のルームメイトの神橋奈波」
「ああ。妹が世話になっている。美佳はあまり彼女に負担をかけないようにな」
2人に笑顔を向けた有賀は、そのまま自室へと歩き出した。
「負担なんかかけてないってば!」
歩き去る彼の背に指をさして反論するが、そのまま無視されてしまった。
「なんなの、あの言い草。ほんっとムカつく……」
「ま、まぁまぁ……」
美佳をなだめながら自室へと歩く奈波が其の後、寝るまで愚痴を聞かされたのは言うまでもない。
今日もいつも通りの平穏な時が流れていく。
ひとときの安らぎ、一瞬でも任務を忘れられるこの時間は、誰にとっても大切なものであろう――。
――第6話「なんでもないこの日々を」――
ありがとうございました。
突然の新キャラ、神橋奈波(かんばしななみ)の登場でした。
次回以降に彼女が関わるかどうかは武蔵の旅路次第ですかね。
それでは次回、冒険譚らしい、ヤマトらしい回でお会いしましょう。