皆さんはもう2202第七章は見ましたか? テレビアニメももうラストスパートですね。寂しいなぁ……。
さて、武蔵の第7話となりました。今回から本格的に旅が始まります!
それでは、よろしくお願いします。
第7話 「原初への門」
いくつもの図形が合わさり、内包されたような形の門。
その形状はまさしく――
「間違いないわ。バラン星にあるワープゲートと同型のものよ」
艦橋窓からそれを見たカレンが断言する。
「制御衛星は見つけられたか」
「はい。今から起動のための出力信号を発信します」
丹生の返答からしばらくすると、信号を受信したゲートが仄かに青く輝き始めた。
「ゲートの起動を確認しました」
それをモニタリングしていた柑奈が言うと、席に座るカレンが口を開く。
「アレがアケーリアス文明のものなのは間違いない。けれど、どうしてこんなところに……」
彼女はそんなことをつぶやきながら立ち上がり、艦橋を歩き始めた。
「カレンさん?」
不思議そうに彼女を目で追う柑奈の呼びかけには答えずに艦長の前まで来たカレンは、艦長を真っ直ぐ見つめた。
「調査するべきです」
「……調査……ですか」
思わず聞き返す近藤に頷くと、彼女は窓の外に見えるゲートを指差した。
「だってあなたも、コレがどこに向かっているのか気になるでしょう?」
艦長の返答を待たずに振り返ったカレンは、有賀の横まで歩きながら更に言葉を続ける。
「アレがなんでここにあるのか、果たしてどこに向かっているのか……気になるでしょう⁉︎」
「それでもすぐに、とは行きませんよ」
彼女の言葉を遮ったのは有賀であった。
「この艦にはあなたや俺たちだけじゃなく、400人以上のクルーがいる。艦長以外の誰かの一存で行動は決められない」
「むぅ……確かにその通りね。少し興奮しすぎたわ」
有賀の言葉に威勢を失ったカレンはおとなしく席に座ると、「でも」と落ち着いた口調で続ける。
「ここを通ってみるのは一つの案としてアリだと思うわ。あなたたちがどう考えるかは分からないけど」
「あなたの予測を聞きたい。これがどこに続いているのか」
艦長からの思わぬ問いかけに黙り込んだカレンだったが、すぐに考えを巡らせた。
「航海士ではないから細かな座標とかは分からないけれど、バラン星の構造からみて、どこかのハブステーションに繋がっているのは確かじゃないかしら」
彼女の言葉を聞いた艦長は、顎に手を当てて思考を巡らせた。
――今目の前にあるのは既知の装置であるが、ここは未知の領域。万全を期すならばヤマトに倣い偵察機を出すべきではある。
しかし、ただでさえ少ない搭載機とパイロットを失うリスクが無いわけではない。
――艦を危険に晒すよりは、もしものことを考えても偵察機を出す方が安全策なのは確かだ。
顔を上げた近藤は、自らを見つめる青年を見ながら口を開いた。
「有賀、頼みがある」
武蔵/第1格納庫
「んじゃ、ちょっくら行ってきますわ」
ランディングギアが折りたたまれたファルコンの下に輸送用ジャッキが滑り込む。
後方に引き込まれた機体は、宇宙へとその口を開く射出口にセットされた。
『コスモファルコン1番機、発艦許可』
「了解、発艦する」
無重力へと放り出された機体を制御し、艦体を舐めるように上昇すると、コクピットに通信が入った。
『こちら、戦術長の有賀だ』
「よう戦術長。なんだ?」
『中はどうなっているかわからない。航空隊長がいなければ本艦には大きなダメージとなる。ミッションの遂行よりも、自分の帰還を最優先に行動してほしい』
「分かってるって。帰んのが俺の任務だからな」
通信を切ると、機体はエンジン出力を上げて水柱を上げた。
武蔵/中央作戦室
「――以上が、航空隊長からの報告です」
出撃後、30分と経たずに帰還したファルコンに記された情報と肉眼で観測された現象を告げると、水月がそれを簡潔にまとめた。
「つまり、ワープゲートとして運用できるし出現先も安全だけど、なぜか計器が使えるってことです?」
「そういう事になる。隊長が帰還を急いだ理由はそれだ。あともう一つ」
有賀が手元のパネルを操作すると、ある恒星が映し出された。
「これは出現先にあった恒星のデータだ。ファルコンに搭載した簡易観測機の解析だと、ゲート方面に断続的な太陽フレアが観測されている」
「って事は、しばらく使われてなかったゲートに加えてフレアがそこにぶつかってシステムがクラッシュしかかってるとか?」
カレンの言葉に有賀は「そうとは断定できない」としながらも、考慮すべきという見解を示した。
「これは面白い事案だわ! このワープゲートは、アケーリアス文明が初期に作ったものかもしれない……きっとバラン星とは全く違う制御コマンドが働いているのよ」
一人興奮した様子でつぶやくカレン。
そんな彼女を尻目に、来島は冷静に切り返す。
「ここを通るのは危険かと。タイミングが悪ければ、ゲートを抜けた途端に太陽フレアに晒されてなんらかのダメージを受けるかもしれないんですよ」
「波動エンジンが太陽フレアによって機能を停止した事例は今のところないからなぁ」
「楽観は危険です機関長。何が起こるかわからない空間では」
「――それでも、行かなければ得られないものもある」
彼女の言葉を遮った近藤は視線をあげると、わずかに口角を上げた。
「本艦は予定通り、ワープゲートを通過する。通過中は第二種戦闘配備を維持し、ゲート内モニタリングを厳とせよ」
主幹エレベーター
「なんでいっつもこうなるんですかね、私」
隅で頭を抱え、来島はつぶやく。
「私だって、好きであんなこと言ってる訳じゃないんです……」
「みんな分かってるよ」
顔をあげると、彼女に向き合った有賀が肩に手を置いていた。
「戦術長……」
「みんな分かってる。来島が言ったことも事実だし、その意見は貴重だ」
「自分に素直な人は……羨ましいです」
「君はいつも艦の安全を、旅の確実さを求めている。それが間違ってるとは思わない。今は素直に生きられなくてもいいさ。君なりの生きかたをすればいい」
ブザーが第一艦橋への到着を知らせる。
扉が開くと同時に席へと走り去る有賀の背中を見ながら、来島は小さく息を吐いた。
「私も、あなたみたいに生きてみたいです」
ゆっくりと席へ向かう彼女の顔は、いつもより少しだけ明るかった。
波動エンジンを灯した武蔵は、巨大な水柱を立てて異空間へと消えた。
嵐のように不安定な回廊を進む武蔵であったが、事前の報告であった通りそこはバラン星のものとは大きく違っていた。
「レーダーに感はありませんが、システムは正常に働いています」
「艦外のセンサーは通常空間を示しています……なんなの、これ」
丹生と柑奈の報告を聞いた直後、艦体が大きく揺れる。
「なんだ……突然、乱気流みたいに……っ!」
艦体の姿勢制御ノズルをこまめに噴射させて姿勢を保つが、窓から見える風景は平穏ではなかった。
青い空間は次第に様相を変え、雲と雷が増えていく。
刹那、艦橋にアラートが鳴り響いた。
「艦長! ゲート出口に異常発生、このままでは消失します!」
泰平の報告に、近藤は眉をひそめる。
「出口が消失したら、本艦はこの空間に閉じ込められます……!」
情報をもとに柑奈が見解を述べると同時に、有賀が声を出した。
「泰平、出口に向かってワープするんだ!」
「この空間でワープなんてしたらどうなるか――」
「ワープじゃなきゃ、武蔵はあそこまでたどり着けない。しのごの言ってる場合か!」
ちらりと機関長を一瞥すると、彼は艦長に頷いて返した。
逡巡の後、近藤は航海長を呼んだ。
「戦術長に従え! エンジン内圧上げ、ワープアウト座標を!」
「は、はい! 座標固定……機関長!」
「エンジン、内圧上げ。ワープ速度へ上昇」
一瞬炎が止まると次の瞬間、武蔵は青く尾を引きながら加速を始めた。
「カウントスタート。ワープまで、5秒前!」
丹生の言葉が艦橋に響く。
武蔵は気流に煽られ大きく左右に揺れながらも一気に加速し、そして――。
――氷を纏い、水の中から艦が現れる。
しばらくただ宇宙を漂っていた艦は、補助エンジンを灯してようやく再起動した。
「った……みんな、大丈夫か?」
有賀の言葉に続々と意識を取り戻すクルー達は、すぐにモニターを確認する。
「本艦は通常空間を航行しています」
「艦体各部、異常なし」
「……いや、波動エンジンが動いていない……現在本艦は補助エンジンで航行中です」
棚橋と柑奈の報告に続いた谷村は、艦長とアイコンタクトを取るとエレベーターに走った。
「現在位置は?」
「目標地点には到着しています。恒星のサイズから見て、ハビタブルゾーン内なのは間違いありません」
棚橋の返答と同時に、泰平の席に座標が送信された。
「棚橋さん、これは?」
「すぐ近くにある惑星の座標よ。エンジンの状態を見るために停泊しないとならないから」
彼女の言葉は正しかった。
破損したエンジンの修復のためには、腰を据えた修理が必要となる可能性があるのだ。
艦首を回し惑星に進路をとると、その星の様子が目に飛び込んできた。
赤黒いその星の姿に息を呑む。
「なんだ、この星……」
「惑星の調査を開始します」
言葉が出ない有賀とは対照的に、柑奈は冷静にパネルを操作する。
「水月、惑星探査装置を起動させるよ」
『オッケー。始めよっか』
その言葉とともに、武蔵の艦首が徐々に光を帯びていく。
封印栓から漏れる緑の光が強くなると、ゆっくりと光が静まっていった。
「解析終了。これは岩石でできた星のようです。表層から一層下にコスモナイトの存在も探知できました」
『修理するには絶好のポイントだと思います』
艦長を見る柑奈と通信ごしに水月が告げる。
補助エンジンで航行も可能とはいえ、やはりそれには限度がある。主機を修理しない限り、長期航行は危険であった。
「惑星に進路、降下し修理に入る」
「了解。進路そのまま、降下コースに乗せます」
泰平の復唱と共に微かに加速した武蔵は、惑星に向けて進む。
直後、一ノ瀬は眉をひそめた。
「艦長。惑星から、微弱な電波を感知しました」
「救難信号か?」
「いえ、それとは異なる波形ですが……位置を示すビーコンのようです」
彼の声に耳を傾けていた有賀は、窓から見える巨大な星を睨む。
「一体、何が……」
彼らはまだ知らない。
この星が、大いなる旅路への本当の始まりになる事を。
ここからが、武蔵を待つ本当の試練なのである――。
――第7話 「原初への門」――
ありがとうございました。
武蔵が漂着した謎の星は、ただの地球型惑星なのか、それとも?
次回はこの星の探索です。そして武蔵のエンジンが止まった理由と、ワープゲートで計器が使えた理由も語れればと思います。
それでは、第8話でお会いしましょう!