前回からだいぶ経ってしまいましたが、ようやく第8話です。
今回はただの探索回です。
それでは、よろしくお願いいたします。
大マゼラン雲の入り口から、その中心部へと約2千光年。
ある古い恒星を主星とする星系があった。
「太陽フレアじゃない?」
その星系の3番惑星に漂着した武蔵の艦内では、波動エンジンが機能を停止した原因究明が進められていた。
第一艦橋で聞き返した有賀に頷いた棚橋は、パネルに映し出された恒星を指差して答えた。
「あの主星は古く、寿命が切れて白色矮星になるまであと少し。この時期になると、赤色矮星は外側のガスを放出しはじめるの。そしてこの星の表層ガスには、機関に悪影響を及ぼす可能性のあるプラズマが大量に含まれている……」
「それが断続的に放たれる事で、ワープゲートが……」
棚橋から言葉を継いだ柑奈に頷くと、彼女は続けた。
「このプラズマはしばらくすれば無害化するレベルに霧散する。けど今回は運悪くワープ明けでエンジンを全開稼働したまま突入した」
「なるほど。他の機材にほとんど影響がなかったのは、ワープのために最低限しか電力が回っていなかったからですか……」
うんうん、と納得した顔の柑奈を冷ややかな目で見ながら、有賀は「で」と話を戻した。
「それがなんで太陽フレアだと観測結果で出たんだ?」
「この星の現象は太陽フレアのそれとよく似ていた事、そして前回の放出から時間が経っていた事から観測装置が誤認したのでしょう」
「誤認ですか……」
大丈夫なのか、その装備。
そんなことを思っていると、「なんですかその顔は」と、水月が会話に入ってきた。
「あたしの作った観測装備に何かご不満でもあるんですか、戦術長?」
あくまで笑顔を浮かべて有賀を見下ろす彼女であったが、その目は笑ってなどいなかった。
「いや、別に」
「なら良いんですけど」
「それより水月、用件は何?」
彼女を覗き込んだ柑奈の問いにうなずくと、水月は本題を口にした。
「この星で観測されたビーコンの詳しい座標が分かったから、その報告にね。艦長は今いないみたいだけど……」
「確か、機関長とカレンさんと話してくるって、航海長と一緒に出て行ったよ」
「エンジンの復旧は分かるけど、カレンさんと航海長はなんで……」
「さあ? もうすぐ戻ってくると思うけど」
そんな話をしていると艦橋の扉が開き、艦長らが入ってきた。
艦長はまとまって話をしている有賀達の所へと歩み寄ると、笑顔で有賀と柑奈の肩を叩いた。
「……艦長?」
「第三格納庫へ行って欲しい。調査任務だ」
二酸化炭素が充満し、視界の悪い地上に一機の探査機が舞い降りた。
見上げれば母艦の衝突防止灯が雲の中で光って見える。
「外気温は平均して摂氏40度前後、一時的に60度にまで上がっています」
環境をモニタリングする水月の言葉を聞きながら、探査機を陸上走行形態に変えて走り出した。
イズモ計画において使用される予定であったこの機体はヤマトにも搭載され、星巡る方舟の探索に利用された。
「ビーコン発信位置まで後2キロ」
「近からず遠からずだな」
柑奈の報告にそう返した有賀は、少しだけ機体を加速させる。
「ビーコン自体が微弱で、観測点が正確に測れなかったのが難点だね」
「うん。でも誤差2キロなら上出来っていう感じじゃないかな。そうでしょ、柑奈」
水月と柑奈の会話を背中で聞きながら、カレンは有賀の肩を叩く。
「もう少し速く走れないのかしら」
「マグマに突っ込んでもいいのなら加速しますけど?」
「……ごめんなさい、そのままでいいわ」
大気圏外でも活動が可能な機体とはいえ、この星の表層を流れるマグマに突入すれば無事では済まない。
有賀は機体を走らせながら、武蔵から随時送られてくるマップを頼りにマグマの流れる地点を避けるコースを取るように調整していたのである。
ゆっくりと走行を続けておよそ1時間で、ビーコンの発信点と思われるポイントへと到達した。
近くに止めた探査機から船外服で出た彼らは、ある場所の前で立ち止まる。
「……神殿、なのか」
崩れかかっているものの、それが一目で神殿の役割を持つものと分かった。
不可思議な紋様を纏う建物の正面へと歩いていくと、巨大な扉が彼らを待ち構える。
「間違いないわ、これはアケーリアスの様式をとっている……」
神殿の扉を撫でたカレンは、その途中で眉をひそめて手を止めた。
「これは……文字……?」
今度は撫でるのではなく、なぞるように。
目を閉じて、指に感じる僅かなくぼみを感じながら、彼女はその意味をつぶやく。
「……この門の……開く、時……希望……ならば、力、示す……」
目を開けた彼女は次いで、扉の表面を注意深く観察し始めた。
そして、彼女は突如振り返って真上を指差しながら有賀へと声を上げた。
「これを撃って!」
「何を⁉︎」
「この彫刻の頭!」
彼女が指していたのは、その爪で扉を止めている龍であった。
その額には真紅に輝く宝石を湛え、鋭い眼光でこちらを睨みつけている。
有賀は戸惑いながらも腰から銃を抜き、額の宝石へとその照準を定めた。
耳をつんざく銃声と共に放たれた弾は、重く漂う煙を切り裂いて宝石の中心を貫いた。
刹那、龍の目が光り輝くと彫刻は音を立てて崩れてく。
けたたましい音と共にただの石クズと化した龍を足元に見ていたカレンは、微かに感じた振動に気づいて有賀の元に走り出した。
「カレンさん?」
「この振動、感じるでしょう?」
彼女の言葉に、彼らも始めてそれを感じ取った。
「何これ、地震?」
次第に大きくなる揺れは、探査機を通じて武蔵でも観測されていた。
『柑奈さん、今そちらで何が起こっているのか分かりますか?』
通信機から聞こえてきたのは美佳の声。
「美佳ちゃん?」
『はい、臨時の作戦オペレーターとして……じゃなくて! 今柑奈さん達がいる地点で局所的な揺れが起こっていますが、何か――』
刹那、通信機の音すらもかき消すほどの音と共に扉が開きはじめていった。
武蔵/第一艦橋
「きゃぁっ⁉︎」
咄嗟にヘッドセットを外して耳から遠ざける。
「美佳ちゃん、大丈夫?」
今は技術科の席でモニタリングを兼ねている美佳に駆け寄る丹生は、そこから漏れ出す音に気づいた。
「ぅぅ……」
「ちょっと貸してね」
涙目で呻き声をあげる彼女からヘッドセットを受け取ると、その波長をモニターへと映す。
「第一艦橋から第二艦橋解析室へ。この波長から建物の内部構造をできるだけ特定してください。できたら艦橋と調査隊へ転送を」
指示の最中で漏れ出す音が小さくなっている事に気づくと、丹生は片耳に当ててそれを確認して美佳へと戻す。
「うぅぅ……すみません……」
「いいのいいの、こんなの初めてだし」
ウインクで返す彼女に頭を下げると、美佳は再びヘッドセットをつけた。
「皆さん無事ですか?」
『こちらは全員無事。大丈夫だよ、美佳ちゃん』
「よかった……今そちらはどうなっていますか?」
地上/調査隊
美佳からの問いに答えるべく神殿を観察するが、大きな揺れの割には扉が開いている以外の変化は無かった。
『扉が開いてるだけ、ですか?』
「そう。後は変化なし。こちらからは観測できない場所での異変とかは?」
『……いえ、今のところありません』
その返答に首をかしげると、柑奈が手に持つ端末に図面が映し出された。
『あっ、柑奈さん。たった今本艦から図面が届いたと思います』
「確認したよ。これは?」
『神殿内部の構造解析図です。さっきの揺れの音の反響率などから割り出されたもので、船務長と解析室の方々のおかげです』
「そっか。じゃあこれを元に入っていけばいいんだね」
『はい、そういう事です』
彼女を見る3人を見回すと、4人はほとんど同時に歩き出した。
門をくぐると長い階段があり、漆黒と共に遥か下へと続いている。
一方踏み出すと共に灯る明かりは、まるで彼らを最奥へと導いているようだった。
「あの揺れがあったにしては、中が崩落しているとかいう様子はないな」
先陣を切って歩く有賀が呟くと、カレンが彼の背中を見ながら口を開く。
「この門が開くことを望むのならば、力を示せ」
「なんですか、それ?」
「あの門に書いてあったのよ。意訳ではあるけど。そして力を示せというのに、事前に何も出てこなかった」
「だから撃たせたんですか、龍の頭を」
「アレは勘よ、柑奈。それに、彼があそこを撃ち抜かなければ多分門は開いていない」
カレンの視線は暖かく、有賀を見守っているようだった。
「彼はきっと運がいい。柑奈、あなたも」
「えっ?」
柑奈の肩に手を回してぐいっと引っ張ると、ヘルメット越しに彼女にだけ聞こえるトーンでカレンは呟く。
「はやく彼に伝えておかないと、誰かに取られるかもしれないわよ?」
「はいぃっ⁉︎」
柑奈の頓狂な声が響いた直後、闇の中から微かな光が見えた。
「階段はここで終わりみたいですね」
全員が階段から降り立つと、突然背後の灯りが消えて辺りはぼんやりとした明かりに包まれた。
見上げると地底深くから地上へと小さな穴が突き抜け、そこから恒星の光がこの空間を照らしているのが分かった。
そして中心で照らされていたのは、紅い宝石のような結晶体。
「あの結晶からビーコンが放たれています」
端末を確認しながら報告した水月は足早に結晶の元へと歩を進める。
細い3本の腕に立てられているその結晶の下には石板があり、古代アケーリアスの文字が書かれていた。
「これは……『導きの石』……?」
カレンが読み上げると、有賀は石を見つめながら首をかしげる。
「こんなもんがどこに導くってんだ?」
紅い石に手を伸ばした刹那、それは強い光を放った。
その光はやがて一つに収束すると、まっすぐにある一点を指し示す。
「この光は……」
「私たちを導く光……」
光の先を見上げる有賀と柑奈を尻目にその方角を算出した水月は眉をひそめた。
「こちら上陸班から武蔵へ。この方角に直線で進んだ先に何があるのか調べてくれますか?」
『分かりました。少し待ってください水月さん』
美佳の返答を聞いた水月は次に柑奈の肩を叩く。
「柑奈、これ持って行くべきかな」
「うん……でも持って行くなら多分この土台ごとじゃないと」
「やっぱそうだよね……」
彼女達が見つめるその遺跡は、重量にして数十キロはくだらないものだった。
これを艦内に持ち込むのは至難の技。
――が。
「多分、石板と石だけ持っていけばいいだけだと思うわ」
カレンはそう言いながら石を持ち上げると、「ねっ?」と笑いかけた。
「これ、元々外部の人間に持って行かせるためのものだからデバイスを小さくしてあるの」
「それは石板から?」
「ええ。でもまだ全文は分からないの。これに従えば何かしら手がかりが掴めると思うのだけど……」
直後、彼らのヘルメットに美佳の声が響いた。
『さっき水月さんに頼まれた結果が出ました。直線上は大マゼラン雲外縁です』
「分かった。こちら戦術長、これより武蔵へと帰還します」
『了解しました。気をつけてね、お兄』
彼女の言葉で通信を切ると、有賀は石板を外して振り返る。
「これも必要なんだよな」
「ええ。それじゃ戻りましょうか」
石板を外すと同時に点灯していた灯りを頼りに彼らは歩き出した。
武蔵/観測ドーム
半天球状のドームの中央に急遽作られたケースに入れられた紅い宝石の輝きに照らされながら、有賀達は詳細を艦長へと報告していた。
「なるほどな。つまり、この光を追えば手がかりが見つかる可能性が高いと」
「はい。転針して、この光に従っていくべきかと」
有賀の言葉に頷いた近藤は、振り返り石板に向かう水月を見ると「君の見解は?」と問う。
「石板の解読には時間を要しますから、ひとまずは光を追って行くのが適切かと思います」
「分かった。全艦に通達。転針し、この光の方角へと進む」
指示を出したのち、艦長は壁際にある通信機を起動した。
「機関長、エンジンはどうだ」
『プラズマで一時的に機能不全を起こしていただけで、今はいつでも回せますよ』
「ありがとう。では発進用意を頼む」
通信機を切った艦長は有賀と共に主幹エレベーターに乗り込んだ。
紅き石が入れられたケースから光が漏れる事はなく、観測ドームは様々な機材の光で照らされている。
エンジンに火を入れて雲の中から抜け出した武蔵は、恒星の光で鈍く輝く数多の衛星を望みながら加速した。
光をも超えてワームホールに消えた艦の征く先には、果たして何があるのか。
彼らの旅路はまだ道半ば。
この先に何が待ち受けているのかは、まだ誰も知らない――。
――第8話 「輝く石に願いを込めて」――
ありがとうございました!
次回第9話の投稿予定は未定です。いつも通りですね。
最終26話まであと18話……ちゃんと終われるのでしょうか。
それでは、第9話でお会いしましょう!