休日、ケーキ、星
「有咲〜! ケーキ買って来たよ〜!」
休日の昼下がり。練習も無いのでゆっくりしようとしていたところに、玄関の方から響く声。
もう今日はゆっくりは出来そうにない事を悟りつつ、玄関のドアを開けると、そこにいるのは、本人曰く星をモチーフにした髪型をした少女。
「どうしたんだよ。香澄……。ケーキってなんかの記念日なのか?」
そう私が聞けば、香澄は勢いよく頭を振って、屈託のない笑顔を見せる。
「ううん! でもなんとなく買っちゃった! でも一人で食べるのにはちょっと大きかったから……」
「で、なんでウチに来るんだよ。家族と食えばいいじゃねーか……」
この香澄の向こう見ずというか、勢いに任せて行動するのに慣れたとはいえ、こう毎度毎度来られるのも困る。いや、少し……ほんの少しだけだが嬉しくはあるのだが、絶対面倒なのでそんな事を口にするつもりもないが。
それはともかく、そう言った私の言葉に、香澄は寂しげな表情を見せる。
「だって……。お父さんとお母さんは2人だけで旅行だし、あっちゃんもいらないって言うし……。皆も用事あるからもう有咲しか居ないの……」
……あぁ、もう。やっぱりこいつは狡い。そんな事を言われたら断れないだろう。
「……そーかよ。ならお茶でも淹れてやるから上がれよ」
仕方なくそう言っても、香澄が上がる気配はなく、どうしたのかと振り向けばワナワナと震えら香澄の姿。
「いいの……有咲……?」
「はぁ? いいよ別に……。てか、上がらないなら閉めるぞー」
「わー! 待ってよ有咲〜!」
「ちょ……! 香澄! ケーキ崩れるから走るな、そんでくっ付くなー!」
はぁ、だから嫌だったんだ。ちょっとでも隙を見せると、こいつはすぐに私の心の中に入り込む。……でも、それを無理に振り解かない自分がいるのも確かで、どうしてもモヤッとする。
──いや、こうして律義にお茶を用意する辺り、私も……ってイヤイヤ、そんな事は無い。無いったら無い……筈だ。
☆☆
──ジャーン!
その香澄の言葉で開かれたケーキの箱から出て来たのは、小さめだがホールケーキ。確かにこれを一人は辛いなと思いつつ、私はケーキの飾りに目を向けた。
「香澄お前……。絶対飾りで選んだだろ」
「えへへ、バレた?」
「そりゃーな……。これ、いかにもお前が好きそうなデザインだし……」
──それは、星と音符をあしらったデザインのケーキだった。まぁ、わざわざ香澄が買ったというのだからそんな気はしていたのだが、私のその言葉に何を思ったのか、香澄は一瞬嬉しそうな顔をした後にニヤニヤとし始める。
「……なんだよ。そんなニヤニヤして」
「いや〜。やっぱり有咲は私の事よく見てるな〜って」
「バッ! ……いきなり何言うんだよオメーは!」
「あー、有咲、もしかして照れてる〜?」
「照れてねぇ! あーもう! 食わねぇなら私が全部食べるぞ!」
「あー! 狡いよ、有咲〜! 私も食べるー!」
──はぁ、狡いのはどっちだと言うのだ。こうして私の心に入り込む方がよっぽど狡い。
でもしかし、こうして過ごす休日も悪くない。そんな口に出す事は決して無いであろう事を考えつつ、私はケーキを口にした。