第9話
三十分程の着せ替えショーで私もとい、イブキの精神は限界に達していた。
衣装を数着着れば開放されると思ったのだが、後から衣装が出ること出ること。
最後の方は瞳から光がなくなって、闇落ちしそうになっていた。
満足した二人にようやく開放されたが、流石にスカートで挨拶に向かうのは嫌だと駄々をこねてようやく普通の服を着せてもらう事が出来た。
身長や背丈はリムルさんと大差ないので、リムルさんの予備のTシャツとズボンを頂いて着ている。
今は挨拶に向かう為にリムルさんの住居へと足を進めている所だ。
そういえば、角が生えたことにより上半身の服がとても着づらい事に気づいた。
そしてシュナさんが着ている様な着物の様な服か、シオンさんのボタンでとめるタイプの服の方がこの先楽だと気づいた。
流石にシャツを着るのに破くかもしれない心配を毎回するのは面倒なのだ。
(似合ってたぜ、イブキちゃん)
リムルさんの思念伝達で茶々を入れられる。
怒りのあまりじっと睨みつける、睨みつける。
とにかく睨みつけていると人間の姿からスライムの姿に戻って近づいてきた。
「ボクはわるいスライムじゃないよ!」
「許さん!」
生憎だが私はその台詞は知らないので、リムルさんを抱き上げて上下から押したり伸ばしたりして憂さ晴らしさせてもらった。
ぷにぷにだ、ひんやりとしていて触り心地抜群だ。
これは抗えないなと思っていると、器用に抜け出して人の姿に戻ってしまう。
もう少しだけ触りたかったが、またの機会にしておこう。
「さて、挨拶に回る前に大事な事があるから言っておこうかな」
真剣な表情のリムルさんに緩んでいた気持ちが引き締まる。
「俺はお前を死なせない為に名前を与え、人間から魔物に結果として進化させた。」
「これから長い時間を生きることになる、人としての生を俺が捨てさせた。」
「有った名前を捨てさせ、俺が一方的に名前を与えた。」
「辛い事があった事はしっている、だから無理にとは言わない。」
「ずっとここにいろとは言わない、心の整理がついたらここに住むなり、出ていくのは自由だ」
死ぬ様な事をしたのは自分です。
勝手に暴れて、野垂れ死んで当然の自分を救ったのは貴方です。
リムルさんは優しすぎるんじゃないだろうか、簡単に生きろと言えば私は逆らえないのに。
「一つだけいいですか……?」
「ん、なんだ?」
「何で、助けようと思ったんですか?」
私の言葉にリムルさんは顎を掻きながら苦笑いをしながら言葉を漏らす。
「あんな泣きそうな顔で笑ってたらさ、ほっとけなかったんだ」
改めて思う、スライムは優しすぎる。
この優しさに何時か非情な現実が襲いかかるかもしれない、そこで折れてしまわないか少し心配になる。
枯れるほど泣いた涙がまた溢れる、こんなに涙もろかったかと自分を疑いたくなる程に。
長い言葉は不要、涙を拭ってしっかりとリムルさんの方を向いて一言、一言だけしっかりと告げる。
「リムルさん、お世話になります」
「おう、よろしくなイブキ!」
ーー固く握手をする。
何時かは心から笑えるようになりたい。
今は疑う心を捨てられずにいるし、過ちをまた犯すかもしれない。
けれど、この場所で自分は幸せになってみたいと心から思う。
転生したんだから、幸せになってもいいですよね?
因みに泣いてる姿を偶然見られて、またひと悶着あったのはご愛嬌である。