美咲ちゃんがヒロインの二次創作もっと流行れ 作:ぷーある
若いうちは勉強を頑張りなさい。
若いうちに色々な事に挑戦しなさい。
大人は口を揃えて皆そう言う。実際先人である大人が語る事は正しくて今のうちに勉強をすれば将来職に就く時に有利になるだろうし出来ることも増える。
色々な事をする事で生き甲斐となる趣味を見付けれたり様々な出会いがあるかも知れない。
きっと正しいことだ。何かと選択を強いられる高校生という時期にそうやって勉強をしたり何かにチャレンジするという行為は必ず自分の力になったり思い出になったりして無駄だなんて事は殆どない。
「っておい、舞人聞いてるのか?」
「んあ?悪い、ボーッとしてた」
ちゃんと聞いとけよなー、と軽く俺に肩パンしてくる友達に悪い悪いと謝っておく。まぁどうせ俺達男子高校生の会話の内容なんてしょうもない事ばかりだ。
チャラい見た目をしているのに喧嘩はからっきしで気が弱いこいつは皆からヤンキーの可愛いバージョンという事でヤンチーの愛称で呼ばれている。気さくな奴で俺みたいな奴にも普通に接してくれる良い奴だ。
「昨日食ったたこ焼きにタコ入ってなかった話だろ?」
「全然違うわ。彼女にするならどんな奴がいいかって話だよ」
「あー。そんな感じの話してたな」
ほれみろ。しょーもない話だった。まさに思春期の男子高校生の会話のお手本みたいな内容だ。興味がないわけじゃない。きっと何やかんやで気の合う可愛い彼女でも出来れば何やかんやで楽しい毎日を送れるんじゃないかって思う。
けど俺はそんな気分じゃない。今はこうして何となく生きているだけで満足している。俺はもう走るのは疲れた。そういう意味ではこうやって何も考えないでただ無駄に毎日を浪費するっていうのは何とも新鮮ではある。
「何か余裕って感じだな。やっぱり彼女がいた事ある奴の余裕なのか?」
「別にそんなんじゃねぇよ。ただ今はそんな気分じゃないってだけだ」
「つってもお前がモテてたのは中学までの話だもんな。今じゃお前って何考えてるか分かんねぇって敬遠されてるし」
「お前と今休んでるジャンボがいなけりゃ間違いなく俺はボッチだった」
「それドヤ顔するとこじゃねぇからな?」
彼女がいたって言っても昔の話でどんな奴と付き合っても余り長続きしなかった。なんというかその当時は自分の事で手一杯で彼女の事に気を回す余裕なんてなかった。付き合ってたのは何となくモテていたのに優越感に浸っていたからだと思う。俺、木ノ原舞人は自惚れでなければある業界では割と有名人だったりする。まぁ今はもう全く関係ない話なのだが。
現に今は全くモテない。ある種の無気力状態である俺は当然の如く周りからは取っ付き難いと思われているらしい。まぁ俺自身その事は全く気にしていない。けどまぁこんな俺にも絡んでくれるヤンチーとジャンボには感謝している、何やかんやで俺の周りは賑やかで退屈はしない。
「彼女欲しいなぁ」
「それ昨日も聞いたわ」
「うっせぇ。年齢=彼女いない歴の俺をおちょくってんのか?」
「おちょくっとらんわ。てか初めて聞いたわその情報」
チャラい見た目をして彼女が出来たことが無いらしい。やはりコイツは何処までもヤンキーにはなれないヤンチーだったということだ。だが彼女が欲しいというその気持ちは分からなくはない。男子高校生なら殆ど皆そう思っているのでは無いだろうか。
ふわぁ、と欠伸をしながら窓の外を見る。ザァザァと降り注ぐ雨を見ながら頬杖をつく。
ずっと走り続けていた頃は何かに向かって俺は一直線に走っていた。遊んだりデートしたり、普通の中学生の様な事は全く出来なかったけど間違いなくあの頃は充実していて毎日が色鮮やかだった。雨の日でさえ俺の心は晴穏やかでいつも快晴。間違いなく、間違いなくあの頃の俺は人生を最大限楽しんでいた。
けど1度止まってしまった俺の足はもう前へと進んではくれない。次々と俺を追い越していく人達をただ見ているだけ。目標を失って近く気が付いた。俺はなんて空っぽなんだろうかって。
目標を失った俺には何も残らなかった。今もこうしてただ何事もなく何の気なしに時を浪費している。それが悪いとは思わない、それも一種の人生だと言える。けど何処か自分の見ている世界は昔より色褪せて見えていた。
今日は雨。
俺の心の中はあの頃からずっと曇のち雨のままだ。
―――――――――
放課後、遅い時間に俺は1人で靴箱に向かっていた。本当ならHRが終われば秒で帰るのだが帰宅部である俺はあろう事か先生に呼び出され雑用を手伝わされた。暇なんだろ、手伝えという先生に文句も言えず終わったら既にこんな時間だ。頼まれたら断れきれないのは俺の昔からの悪い所だ。別に気が弱いとかそういうのではない。何というか俺も大概そういうお人好しな部分はさっさと訂正してしまいたいと思ってはいるのだが一向に直らない。まぁ俺の事はどうだっていい。
ふむ、と考える。
ヤンチーはあれでバレー部だし今頃体育館で汗を流している頃ではないだろうか。そんなどうでもいい事を考えながら歩いていると靴箱が見えてきた。
「ホントに大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ホントに置き傘してあるから」
「ならいいけど……ありがとねっ!」
ふむ。どうやら先客がいるらしい。だが俺には関係がない事なので聞いてないフリをして自分の靴箱へと歩いていく。
傘を貸してあげたらしい女の子は貸して上げた奴の姿が見えなくなるとふぅー、と長い溜息を付いた。面倒な事になる前にさっさと帰ってしまおう。早足気味に靴箱に駆け寄るが既に遅かった。
「貸しちゃったなぁ……走ればなんとか……」
「…………」
どうやらこの女の子は置き傘もしていないのに自分の傘を友達に貸してしまったらしい。何となく分かる、気を使うというか俺も同じ状況なら同じ事をしていたと思う。何というか困ってる人は見てられないのだ。多分この女の子もそうなのだろう。
何となく似ているな、なんて思いながら俺はその女の子に向かって歩いていく。知ってしまった以上黙って帰れない。
「なぁ」
「えっ?」
突然喋りかけたからか少し驚いて振り返った女の子に向かって自分の持っていた傘を投げる。なんて事ないビニール傘だが傘なんて雨をしのげればなんだって同じだ。それを困惑しながらもしっかりと受け止めた女の子にじゃあ、とヒラヒラ手を振りながら歩いていく。
「ちょ、ちょっとっ!」
「傘貸しちまったんだろ?俺は家近いし使ってくれ。ほんと使ってくれ、気を使う必要とかマジでないから。というかそれやるわ、返さなくていいから」
「あ、えっと……」
全然関わりがないのにこんな事を思うのは失礼なのかも知れないがきっと俺と彼女は似ているから分かる。彼女もきっと何となく気を使ってしまったに違いない。分かるよその気持ちだからほんと気にすんな、という意を込めて捲し立てるように俺はそう言った。当然の如く困惑している彼女を放ったらかしにして俺は走って靴箱を出る。相合傘だなんて提案する度胸はないしそんなの出来るはずも無いのでする訳がない。だからこれが最善なのだ。
ずぶ濡れになりながらほんとこの性格損してるよなぁ、と自己嫌悪しながら俺は走って家に帰った。
次の日、風邪を引くこともなくいつも通り登校した。昨日の雨が嘘のように晴れた太陽の光を浴びながら俺は机に突っ伏す。何故俺は窓際の席になってしまったのかと今更ながら後悔せざるおえない。
「にしても昨日の雨やばかったなぁ。俺部活終わってそのまま走って帰ったわ。めっちゃ意識高いな俺」
「奇遇だな。俺も走って帰ったぞ」
「あ?何でだよ、お前傘持ってきてただろ?」
「気の所為だ」
「僕は家でマック食べてた頃かな?」
「お前には聞いてねぇよジャンボ。てか想像通りだわ、キャラと見た目がまんまなのはお前の魅力だがほんと聞いてねぇわデブ」
「デブなのを寧ろ誇りに思ってる。弁当忘れたからってマックの単語に過剰に反応しないでよ。弱く見えるぞ」
「いや、何がだよ」
しゅっしゅ、さっさっ、とシャドーボクシングをするジャンボとヤンチーをほっといて持参した焼きそばパンを食べる。
今日も賑やかだなぁ、と太陽の光に焼かれながら脱力気味に焼きそばパンを頬張る。
あいたっ、あごめん。
いや謝んのかよ仲いいなお前ら。とは言わない。キャラの濃いコイツらの相手をマトモにしていたら弁当を食べる時間なんてあっという間になくなってしまう。もう一度焼きそばパンを食べようとすると、トントンっと肩を叩かれた。
誰だと振り向けばいたのは同じクラスの女子。はて、俺に用事とは珍しい。基本ヤンチーとジャンボとしか絡みがないと分かっている2人が有り得ないモノを見るような目で見てくる。おい、お前ら後で覚えとけよ。
「木ノ原くん、奥沢さんが呼んでるよ」
「奥沢?誰だそれ?」
「ほら。今扉の外にいる子だよ」
聞き覚えのない名前に俺が首を傾げるとその肩を叩いてきた女子は扉の外を指差す。
そこにいたのは俺の目から見ても可愛いと言っても差し支えのない黒髪の女子。というか昨日俺が強引に傘を渡した女の子だった。
そうか、奥沢って名前だったのかと1人納得しているとジャンボとヤンチーが俺をまるで親の仇を見るような目で中指を立てながら此方を見ていた。
ていうかホント仲良いなお前ら。
取り敢えず俺も中指を立て返して席を立って廊下へと移動する。
律儀なもんで待ってくれていた奥沢の元へ行く。
「ごめん。お弁当食べてる途中だった?」
「大丈夫だ、パンだけだし食べ終わるのにそんなに時間は要らないしな」
なら良かった、と胸を撫で下ろす奥沢。本当に律儀な奴だ、お礼は別に要らないって言ったのに。だからそれをしっかりと本人に伝えてやる。
「別にお礼とか要らないぞ」
「けどやっぱりこれだけは言わないとって思ったから。ありがとう」
どくん、と心臓が跳ねる。優しく微笑んだ彼女笑みを見た瞬間全身に血が全身に回ったかのように身体が熱くなる。重い、何もやる気になれなかった俺が。今まで死んでいたのも同然な俺が生き返ったかのような、空っぽの俺が何かで満たされていくそんな感覚。今までにない感覚に戸惑っているとそれじゃ、と去っていく奥沢を俺はただ黙って見送るしか出来なかった。
席に戻ると当然のように俺はジャンボとヤンチーの質問攻めにあった。
「どういうことか説明して貰おうか。裏切り者」
「そうだ。裏切り者の君には説明する義務がある」「別に……昨日傘貸しただけだ。それのお礼言われただけ」
しきりに本当か?と疑ってくる2人にうんざりしながら俺はさっきの不思議な感覚について考えていた。今はあの時の感覚はなく正しくいつも通り空っぽの俺だ。けどあの時の感覚は鮮明に思い出せる。
「お前……さては奥沢に惚れたな?」
「嘘だろお前。ちょろ過ぎかよ。いや前から狙ってたとか?」
「いや……狙ってはない。惚れたのかと言われればかも知れないが」
目標を失って。空っぽになって。
またあの時のように俺は……
その日から俺は奥沢と呼ばれる女子に興味を持つようになった。