とある科学の物質変化   作:ロボ燕

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#2 超電磁砲①

「……バカでしょ、あんた」

「バカだな」

 

  翌日。

 学校で昨夜の一件を親友二人に話すと、そんな感想が返ってきた。念のため、車を大破させてしまったことは伏せておいたが。

 そこまで言うことないだろ、と思いつつ、秋人はふて腐れたような表情になる。

 

「なんでだよ……困ってる人を助けようとしちゃいけないのか?」

「そうじゃなくて。助けるんだったら風紀委員(ジャッジメント)なり警備員(アンチスキル)なりを呼べばよかっただろ、って言ってんだよ」

「そうそう。下手に首突っ込むからそういうことになるのよ」

 

 その手があったか、と秋人は今更ながらに後悔した。

 《風紀委員(ジャッジメント)》とは、能力者、つまりは学生によって構成される治安組織のことだ。警備員と並び、学園都市の治安維持に一役買っている。

 つまり、風紀委員や警備員に助けられれば、あの少女も文句の言いようがない、ということだ。秋人にしたことを彼らにもしようとすれば、公務執行妨害モノである。

 そのことを考えてもいなかったらしい秋人に、京子は呆れながら訊ねる。

 

「そもそも、なんで通報しなかったのよ?まともにやりあったら敵わないかもしれないって、分かってたんでしょ?」

「いや、まー、そうなんだけど……なんでだろ?」

「つうか、コイツが今まで通報したことなんてあったか?いつも勝手に突っ走ってるだろ」

 

 そこの所は、秋人自身もよく分かっていなかった。自分の近くで起きた事件に、勝手に首を突っ込んでは風紀委員に厳重注意や事情聴取を受ける。そんな事を何度も繰り返し、互いに顔を覚えてしまった者さえいる。

 それでも通報もせずに助けようとしていたのは、その時の光景が『夢』の場面と重なったからなのか、あるいはレベル4の自分なら大丈夫だろう、という慢心があったからなのかもしれない。

 というか、自分が介入しなければ、少女は十中八九あの男たちに電撃を食らわせていたわけで。そうなると自分はむしろ、彼らの方を助けたことになるのではないか、と秋人はなんとも微妙な気分になった。

 

「……ま、これに懲りたら、少しは自重しなさい。じゃないと、いつか大ケガするわよ?」

 

 考え込む秋人を見て、からかうように京子は言った。

 

 

#2 超電磁砲

railgun

 

 

 終業式とその後のHRを終え、早めの放課後を迎えた三人は、通学路を歩きながら雑談に興じていた。

 特にしたいことも、行きたい所もない。かと言って炎天下をいつまでも歩く気にもなれず、ファミレスでも行こうか、という話になった矢先、翔の携帯電話が鳴る。

 

「……悪り、ちょっと用事が入った」

 

 約一分後。通話を終えた翔は、電話をポケットに仕舞いながらそう言った。

 

「用事?」

「ああ、ちょっと急ぎのな。つうわけで、俺はこれで」

 

 しゅたっ、と手を挙げて、翔は元来た道を走って戻っていった。『用事』とやらはどうやら、学校にあるらしい。

 予想外の出来事に、残された二人は顔を見合わせる。どうしようか、と口を開きかけた、その時だった。

 

「雨宮先輩!?」

 

 突然、背後から名前を呼ばれ、二人は振り向く。そこに居たのは、頭が花畑の────もとい、花畑のような髪飾りを頭に乗せた少女と、長い黒髪の少女だった。

 

「……初春?初春じゃない!」

「お久し振りです!元気でした!?」

「そっちこそ!」

 

 初春、と呼ばれた頭を花で飾った少女と京子は、どうやら知り合いであるらしい。制服を見る限り、秋人たちとは違う中学のようであったが。

 

「えっと……初春、その人は?」

 

 そう言ったのは、初春の連れの黒髪の少女。完全に置いてきぼりを食らった二人にようやく気付き、初春は紹介を始める。

 

「この人は雨宮京子さん。小学校の時の先輩です。雨宮先輩、こちらは佐天涙子さん。私のクラスメイトです!」

「えっと……佐天涙子です。よろしくお願いします!」

「雨宮京子よ。こちらこそよろしく、佐天さん」

 

 そう言って、早くも打ち解けたのか、互いに笑顔を見せる佐天と京子。社交的だなー、と、派手な髪型の割に内向的な秋人は感心するばかりだった。

 ふと、初春と目が合う。彼女は秋人の髪に視線を移すと、その表情に怯えの色を見せた。紹介を終えた佐天も同様で、それに気付いた京子が、今まですっかり忘れていた、といった風に秋人を紹介する。

 

「あー、こいつは瀬島秋人。髪はヤンキーだけど、ただのバカだから害はないよ?」

「バカは余計だよ。……瀬島秋人です。よろしくね」

 

 京子の言葉から危険ではないと判断したのか、二人の少女もおずおずと笑顔を見せ、それぞれ「初春飾利です」「佐天涙子です」と名乗った。

 一通り自己紹介が終わると、京子は言った。

 

「ねぇ、二人とも。私達、これから何か食べようと思ってたんだけど……一緒にどう?」

「あ……すみません。ちょっと用事が……」

 

 残念そうに、初春は断る。しょうがないか、と諦めかけたその時、佐天が「そうだ!」と、手をぱんっと合わせながら言った。 

 

「お二人も一緒に来ませんか!?私達、これから『常盤台のエース』に会いに行くんです!」

 

 その言葉に初春は、暗かった顔をぱあっと輝かせ、「いいですねそれ!」と言う。一方、秋人と京子は、トキワダイノエース?と、聞き慣れない単語に首を捻っていた。

 

「『常盤台のエース』っていうのは、常盤台中学に通う、第三位の超能力者(LEVEL5)のことなんですけど……お二人とも、どうですか!?」

 

 話に着いていけていない様子の二人を、初春は解説を織り混ぜつつ誘った。興味深げに頷き、京子は口を開く。

 

「レベル5かぁ……面白そうじゃない。秋人、どう?」

「会えるなら会ってみたいけど……俺達が行ったら迷惑じゃないかな?」

「あ、じゃあ私、ちょっと確認取ってみますね!」

 

 そう言って初春は、携帯電話を取り出しながら離れていった。

 常盤台中学校。《学舎の園(まなびやのその)》と呼ばれる女子校区域に存在する超お嬢様学校で、レベル3未満は入学さえ許されない、学園都市でも屈指のエリート学校だ。そこのエースがレベル5であるのは、当然といえば当然なのかもしれない。

 

(会ってみたいとは言ったけど……嫌な性格じゃないといいなー)

 

 お嬢様、と聞くと、どうしても高慢ちきで鼻持ちならないイメージが浮かんできてしまう秋人がそんなことを考えていると、通話を終えた初春が戻ってきた。

 

「確認取れました。大丈夫だそうです!」

「それじゃ、あんまり待たせるのも悪いし、早速行きましょうか」

 

 待ち合わせ場所だというファミレスへ向かう道すがら、四人は様々なことを話した。

 初春が風紀委員であるということ。常盤台のエースが《超電磁砲(レールガン)》と呼ばれる電撃使いだということ。その一年後輩のルームメイトもまた風紀委員で、初春が彼女の同僚であったことが、今回の切っ掛けになったこと、等々。

 そして、初春と京子と出会ってから一緒にいることが多かった、という話になった時、京子は呆れたような声で秋人に言った。

 

「てか、なに他人事みたいに聞いてんのよ。小学校同じでしょ、私達。初春のこと、ホントに覚えてないの?」

 

 思わず顔を見合わせる、初春と秋人。確かに、学校が同じなら、京子と幼馴染みである秋人と、一緒にいることが多かった初春が、互いに面識がなかったのはおかしい。

 だが、その疑問はあっさりと、それを発した京子自身によって解決される。

 

「あ、そっか……秋人、特進クラスだったっけ」

「特進クラス?そんなのあるんですか?」

 

 一人小学校の違う佐天が、当然のように質問する。それに頷き、京子は説明を始めた。

 

「私達の学校は、クラスが二つに別れてたの。レベル2以上が通える特進クラスと、それ以外の人が通う普通のクラス。クラスって言っても、校舎もグラウンドも何もかも違ったから、学校が二つあった、って言った方が分かりやすいかな」

「へえぇ……じゃあ、秋人はエリートだったんだ?」

 

 そう言う佐天の、秋人に対する口調がタメ口になっているのは、無礼だからというわけではない。先輩扱いされるのに慣れていない秋人がそうするように頼んだためだ。誰に対しても敬語が通常運転であるらしい初春は相変わらずであったが。

 

「まさか。エリートじゃなかったよ。レベル0だったんだけど、なんかの間違いで特進に入れられちゃっただけ。義務教育制度がなかったら、間違いなくダブってたね」

 

 佐天の問いに対し、洒落にならないことをあっけらかんと言った秋人に、京子は受け合う。

 

「そうそう。こいつなんかをエリートって言ったら、世の中エリートだらけよ。本物のエリートなら、もうすぐ会えるんだから」

「……あ。ここです!」

 

 初春の言葉に、全員が足を止める。待ち合わせ場所であるファミレスの入口に、四人は立っていた。

 

 足を踏み入れた店内は、時間が時間なだけに昼食を摂る客たちでごった返していた。

 

「うーわ、満席じゃん」

「大丈夫ですよ。ちゃんと席を取っておいてくれてますから」

 

 そう言いながら、初春は辺りを見回す。常盤台のエースと、そのルームメイトを探しているのだろう。

 

「あ、白井さーん!」

 

 程なくして上がったその声に、秋人は顔をしかめる。白井、という名前に聞き覚えがあったのだ。

 無論、悪い方向で。

 

「……うげ」

 

 まさかな、と思った秋人の予想は、見事に裏切られる。初春の視線の先、窓際の席には、長い髪をツインテールにした少女――秋人があまりにも事件に首を突っ込みすぎた結果、互いに名前と顔を覚えてしまった風紀委員、白井黒子の姿があった。

 別に嫌っているわけではなく、自分が悪いのだと自覚しているのだが、なんとなく苦手意識を持ってしまう相手だった。

 

(つーことは、白井さんと一緒にいるのが常盤台のエー…………)

 

 そう判断し、視線を黒子の隣に移した瞬間、秋人は思わず目を見開いた。

 テーブルを挟み、彼女の向かい側の席に座っていたのは――昨日の電撃少女だった。

 

「白井さんっ!」

 

 席の近くまで行き、そこで声を掛けて初めて、黒子は初春の方へ顔を向けた。店内が混み合っていたために、先程の呼び掛けは聞こえていなかったらしい。

 

「すみません、お待たせしちゃって」

「構いませんわ。わたくし達もつい先程着いたところですの」

 

 いかにもお嬢様、といった口調でそう言い、初対面の人物を確認すると、黒子は座ったままで完璧なお辞儀をした。

 

「初めまして。白井黒子ですの。……あなた方が初春のお知り合いで?」

 

 はい!と返事をして、初春は電撃少女の方へ向き直る。相当テンパっているようで、初対面の相手を紹介するのも忘れていた。

 

「う、初春飾利です!柵川中学校一年生です!よろしくお願いします!」

「同じく柵川中一年、佐天涙子。ちなみにレベルは0でーす」

「雨宮京子。蘇芳坂中学二年で、初春の小学校の先輩です」

「初春さんに、佐天さんに、雨宮さんね……」

 

 三者三様の自己紹介を聞き終え、少女はそれぞれの名前を確認するように反芻する。

 そして、親しみの込もった笑顔を向けて、言った。

 

「私の名前は御坂美琴。よろしくね!」

 

 思ったよりも親しみやすい人物であることに、三人は驚く。特に、レベル5など己の能力を鼻にかけている人物に決まっている、と考えていた佐天は呆気に取られていた。

 その一方で、美琴の友好的な態度に安心した京子は、秋人が一言も言葉を発していないことに気付いた。

 

「ほら、あんたも黙ってないで挨拶────」

 

 それを咎めようと横を見た京子の視線はしかし、何かを捉えることはなかった。

 ついさっきまでいたはずの秋人は、忽然と姿を消していた。

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