とある科学の物質変化   作:ロボ燕

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#2 超電磁砲③

 他にいい所を知っているわけでもなく、加えて美琴がゲコ太を――本人は否定しているが――欲しがっていたため、六人はチラシのクレープ屋に向かうことにした。どうやらそこは移動式の店のようで、現在停まっている場所は近くの公園らしい。

 

「うわ、ちっちゃい子がいっぱい!」

「タイミング悪いときに来ちゃいましたねー……」

 

 辿り着いた公園は、恐らく幼稚園児であろう小さな子供と、その保護者の集団でごった返していた。旗を持った女性がその集団に呼び掛けているあたり、学園都市の『外』から来たバスツアーか何かだろう。当然と言うべきか、クレープ屋には彼らの行列が出来ていた。

 そんな中で六人全員が並ぶのは迷惑だろう、ということで、三人が二人分ずつ注文し、残りの三人は椅子を探すことに決定する。

 秋人は持っていた鞄を、座る場所を探す黒子・初春・京子に渡し、黒子は美琴から鞄を預かる。先程ゲコ太好きが発覚したとき、美琴は秋人から自分の鞄を奪っていた。

 奪い取られるその瞬間、顔を真っ赤に染めた彼女を見て「可愛い」と思ったのは、内緒の話だ。

 黒子は美琴に、初春は佐天に、京子は秋人にそろぞれ注文を伝え、三人は席を探しに行く。残された三人は、秋人・佐天・美琴の順に列に加わった。

 並んでいる間、後ろで妙にそわそわしている美琴に、佐天は提案する。

 

「あの……順番、替わりましょうか?」

「え!?あ、い、いいわよ、別に。私はクレープが食べられればそれで……」

 

 そうは言いながらも、一瞬嬉しそうな顔になったり、ゲコ太のストラップを高々と掲げて脇を駆け抜ける子供を羨ましそうに見ていたりと、説得力は皆無だ。

 

(ていうかアレ、小さい子には人気なんだな……)

 

 そんなことを考えながら、秋人は自分と京子の分のクレープ、そしてゲコ太ストラップを受け取る。

  ストラップの方は美琴に渡そうとしたが、「いらないわよ」と断られてしまった。

 その後で名残惜しげな目をしている彼女に気づいたが、ここで渡してもプライドを傷つけるだけだろうと思い、今は何も言わないことにする。

 というか、彼女自身がクレープを買えば手に入るのだ。自分が渡そうが渡すまいが関係ない────と、そんな考えは見事に打ち砕かれた。

 

「はい、どうぞ。最後の一個ですよ」

「ありが……えぇっ!?」

 

 佐天の番、つまりは美琴の直前で、ストラップが無くなってしまったのだ。

 ふと彼女が振り返ると、美琴は地面に手と膝をつき、がっくりと項垂れていた。もうすぐ手に入ると思っていただけに、ショックも大きかったのだろう。

 

「あの、御坂さん……よかったら、これ……」

 

 どんよりとしたオーラのようなものさえ見えてきそうな美琴に、佐天はストラップを差し出す。それを見た美琴は、一気に顔を輝かせた。

 

「いいのっ!?ホントにいいのっ!?」

「え、えぇ……」

「ありがと~~~~!!」

 

 差し出されたそれを、美琴は佐天の手ごと両手で握り締める。その様子に若干たじろぎながら頷くと、今度は涙混じりに感謝されてしまった。

 正直、そこまで喜ばれると思っていなかった佐天と、一部始終を見ていた秋人との目が合い、そして互いに苦笑いを浮かべた。

 無事、全員分のクレープを買い、三人は席を取っていた黒子たちの元へ向かう。道中、美琴がやたらと嬉しそうにしていたことには、たぶん触れない方がいいのだろう。

 

(結局、コレ渡しそこねちゃったなー……)

 

 京子にクレープを渡すと、秋人はポケットの中でストラップに触れる。ま、いいか、と口に出さずに呟き、彼はクレープを食べ始めた。

 

「……どしたの?初春さん」

 

  雑談に興じつつクレープを食べていると、初春が明後日の方向を見ているのに気づき、秋人は問い掛けた。その問いに、初春は視線を固定したまま答える。

 

「あそこの銀行……なんでシャッターが降りてるんでしょうか」

 

 その言葉に、全員が同じ方向を見る。その先にある銀行は確かに、昼間であるにも関わらず閉まっているようだった。

 

「ホントだ、閉まってる」

「まだ閉まる時間じゃないですよね?」

「……改装中とか?」

 

 口々に疑問の声を発する中、秋人の一言に、全員が注目する。

 一瞬の静寂の後、「そっか」「なるほど」と納得しかけたその時────凄まじい爆発音と共に、炎の塊がシャッターを吹き飛ばした。

 黒子と初春が、弾かれたように立ち上がる。それにやや遅れて、他の四人も反応した。

 呆然とその光景を見る他の面々に対し、風紀委員の二人は携帯電話を取り出し、黒子は何処かへと掛け、初春は指先がぼやけるほどの速さでキーを操作し、黒子にそれを伝える。どうやらGPSか何かで現在地と、現場の状況を確認していたらしい。

 

「────銀行強盗ですの」

 

 ややあって、通話を切った黒子はそう言った。

 

「では、わたくしは鎮圧に。初春は警備員へ連絡と怪我人の確認、それと避難誘導を急いで下さいまし!」

「はい!」

「待って黒子!私も────」

「お姉さまは、ここでお行儀よくしていて下さいな。──それとあなた!」

 

 自分に続こうとする美琴を、黒子は遮った。そして秋人にびしぃ、と指を突き付け、睨む。あまりの剣幕に、彼の肩はびくりと跳ねた。

 

「今度首を突っ込んだら、厳重注意では済みませんわよ!」

 

 脅すように言い、黒子は走っていった。

 呆然とそれを見る秋人の肩を、誰かが掴む。見上げると、厳しい顔をした京子がそこにいた。

 

「な、なに……」

「なにボーッとしてんの!避難誘導、手伝うよ!」

 

 それだけ言って、京子は初春の後を追う。少し遅れて秋人と、そして美琴と佐天も彼女に続いた。

 黒子は何も、美琴や自分に『邪魔だ』と言っている訳ではない。『危険なことは風紀委員に任せろ』と言っているのだ。

 現に初春は、避難誘導の手伝いの申し出を断らなかった。京子は、そこまで理解して『手伝う』と言ったのだろう。

 事件に首を突っ込む度に厳重注意をしてくる黒子の真意が、秋人は初めて分かった気がした。

 

 

***

 

 

「ちょっ、ダメですって!」

「でも……っ!」

「危険すぎます!」

 

 だいたい誘導は終わったか、という頃、そんな声が聞こえてくる。声のする方向に目を向けると、先程のバスガイドを佐天が、保護者らしき女性を京子が必死に引き留めている。どうやら事件現場に向かおうとしているらしい。

 

「どうされました!?」

「男の子が……男の子が一人、バスの中にいるんです!」

 

 騒ぎに気づいた初春が駆けつけると、バスガイドは銀行の方を指差しながら言った。その方向を見ると、黒煙の立ち上るシャッターの付近に、彼女の制服にあるものと同じロゴが入ったバスが停められている。隣の女性は、その男の子のものらしき名前をひっきりなしに呼んでいた。

 女性の話を聞いたバスガイドによると、バスの中は冷房が効いており、食べ物を買ったらすぐ戻るつもりだったので、熟睡していた男の子を置いてきてしまった、とのことだ。

 まずいな、と秋人は唇を噛んだ。

 その子は確実に、今の爆発音で起き、母親を探そうとしているだろう。つまり、その子が母親を探そうとバスの外に出てしまい、事件に巻き込まれている可能性がある。

 助けなきゃ、と秋人は足を踏み出すが、その前に京子が立ちふさがった。

 

「…………何だよ」

 

 珍しく、低い声で秋人は訊ねる。

 

「どこに行く気?」

「その子を助けに行く」

 

 当たり前だろ、と秋人は付け足した。────こんな事をしている場合ではないのに、こいつは何を言ってるんだ?

 そんな事を考える秋人に、京子はしかし、目を険しくさせる。

 

「白井さんに言われたこと、忘れたの?次は『厳重注意』じゃ済まないのよ?」

 

 そう言われ、秋人はたじろぐ。黒子の言葉は、警告であり忠告だ。その意味は恐らく、今朝京子が冗談混じりに言ったことと同じ、『首を突っ込むのをやめなければ怪我をする』だろう。

 実際、それまで秋人が首を突っ込んできたナンパやカツアゲと、今回とは訳が違う。相手は明らかに武装している。それはつまり、死ぬ可能性さえあることを意味していた。

 それに、文字通りの意味が無いわけではない。下手をすれば、逮捕されるかもしれないのだ。

 

「……忘れたわけじゃないよ。俺だってケガしたくないし、捕まりたくもない」

 

 視線を地面に落とし、秋人は呟く。京子はそれを、黙って聞いていた。

 だけど、と、彼は俯いていた顔を上げる。

 

「だけど……それを躊躇ってるせいで誰かが傷付くのは、もっと嫌だ!」

 

 決然と言い放った秋人を、京子は挑むような眼差しで見つめ────やがてふっと笑った。

 

「それじゃ、行くわよ」

「へ?」

「助けに行くんでしょ?男の子も、白井さんも」

 

 余りにもあっさりとした物言いに、秋人は拍子抜けする。どうやら、自分は試されていたらしい。「なにその顔」と、京子は再び笑った。

 

「ま、白井さんの言いたかったことが伝わっててよかったわ。……二人にも、ね」

 

 二人?と秋人が辺りを見回すと、両脇にはいつの間にか美琴と佐天がいた。

 

「御坂……佐天さん……」

「あんただけいいカッコしようったって、そうはいかないわよ」

「そーそ。あたし達だっているんだから!」

「……ってことだけど、行ってもいいかな、初春?」

 

 京子がそう言うと、全員の視線が初春に集まった。慎重に言葉を選びながら、彼女は口を開く。

 

「……皆さんを危険な目に逢わせるわけにはいきません」

 

 その言葉に、少なからず一同は驚いた。「でも……」と、初春は続ける。

 

「……私達だけでは力が足りません。ですから、風紀委員として協力をお願いします。皆さんの力を、貸してください!!」

 

 

***

 

 

(油断しましたわね……)

 

 勝ち誇った顔の二人の強盗に前後をとられ、黒子はたらりと冷汗を流した。

 強盗は、四人組だった。その内の一人は到着した瞬間にノックアウトさせたが、リーダー格の発火能力者に邪魔をされ、現在に至る。

 

 

  レベル4の《空間移動(テレポート)》の能力を有する彼女ならば、こんな状況をすぐにでも打開できそうなものだが、風紀委員とはいえ彼女はまだ中学一年生だ。背後から銃を突き付けられ、眼前に発火能力の炎が揺れる状況で、冷静でいられる筈がなかった。ただでさえ、空間移動は他の能力よりも集中力を要する能力なのだ。

 

 こうしている間にも、残りの一人は悠々と、金と気絶した仲間を逃走用の車両に運び込んでいる。初春が警備員を呼び、彼女自身も所属する支部に増援を要請してはいたが、このままでは到着する前に逃げられてしまうだろう。

 何とかしなければ。しかし、この状況では何もできそうにない。ジレンマに陥りかけた、その時だった。

 突如、発火能力者の後ろで、小規模な爆発が起こった。少し遅れて、銃を持った男の後ろでも爆発が起こる。何事か、と二人の男が振り返った、瞬間。

 

「うぉりゃぁっ!」

 

 何処からともなく現れた秋人が、銃を持つ男の腕を蹴りつけた。その衝撃で銃は男の手を離れ、道路の向こう側へ飛んでいく。

 

「――――白井さんっ!」

 

 その声に、黒子は我に返った。何故ここに、などと言っている場合ではない。冷静さを取り戻した彼女は即座に空間転移し、咄嗟のことに反応できずにいた発火能力者の頭にドロップキックを入れ、仰向けに倒した。

 

 すかさず、太股に巻いたベルトから鉛筆大の杭を数本引き抜き、男の服と地面とを縫い付けるように転移させ、拘束が完了した。

 

「このガキ、なにしやがる!」

 

 怒号と共に連続で飛んでくる拳を、秋人は僅かに上体をずらして避ける。前進しながら拳を繰り出す男に対し、距離を取りながらそれをかわす秋人。しかし、後ずさった拍子に何かに躓き、転びはしなかったものの、体勢を崩してしまう。

 

「もらったァ!」

 

 そう叫び、男は今度は蹴りを入れようとする。が、それも作戦であった。秋人は蹴りを掻い潜り、今度は見事に空振った男の方が体勢を崩す。無防備な軸足を払うと、男はあっけなく地面に倒れ伏した。

 

「あでででででででッ!!」

 

  手首を捻ると、男は情けなく叫ぶ。安堵の溜め息をつくと、目の前に黒子が立っているのに気付いた。

 

「……あれだけ言ったのに、何故分からないんですの……?」

 

  肩を震わせながら、黒子は言う。その声には、はっきりと怒りが含まれていた。

  しかし、静かな怒りを見せる彼女に臆することなく、秋人は穏やかに笑ってみせる。

 

「……ちゃんと分かってるよ、『厳重注意』は、白井さんが心配してくれてるからだって」

「だったら……!」

「でもさ」

 

  依然として穏やかな、しかし真面目な表情で、秋人は言う。

 

「俺達だって、白井さんのことが心配なんだ。……四対一なんて、危なすぎるよ」

 

  そう言った彼に、黒子は言葉を詰まらせた。

  一般人を巻き込ませまいとする黒子も、誰かを助けようと首を突っ込む秋人も、間違っていたわけではない。ただ、風紀委員にも限界があり、事件に首を突っ込むことにも限度がある。それだけのことだ。

 

 

「……ま、いいですわ。ただし、一歩間違えればあなたも犯罪者だということを、お忘れになってはいけませんわよ?」

 

 

  すとん、と肩を落とし、溜め息を吐いて黒子はそう言った。呆れたのか怒る気が無くなったのかは分からないが、その表情は先程よりも晴れやかだった。

  が、それも束の間、彼女は訝しげな顔になる。

 

「……『俺達』?いま『俺達』と仰いました?」

「あ、うん。バスツアーに参加してる男の子が迷子になってて、今初春さん達が探して――――」

「ダメぇ!!」

 

  背後から聞こえてきた佐天の声に、二人は同時に振り向く。

  そこにいたのは、自分だけでも助かろうと逃亡を図る犯人の最後の一人と、人質にされかかっている、恐らくは件の子供。そして、子供を救出しようと必死に抱え込む、佐天がいた。

 

「邪魔、なんだ、よっ!」

「!!」

 

  そして、見た。

  それを引き剥がそうと、彼女の顔を、男が蹴り飛ばすのを。

  秋人は怪我を負った佐天の救出に、黒子は車に乗って逃亡を図る犯人を追おうと、踏み出そうとした。

 

「────黒子っ!!」

 

 聞こえてきた美琴の声に、二人の足は止まる。未だシャッターから流れる黒煙の向こう側から、彼女が歩いてくるのが見えた。

  秋人と黒子がいる場所と、美琴がいる場所との間には、かなりの距離がある筈だ。にもかかわらず、その声は、その場にいる全員に────おそらくは車内にいる犯人にも────はっきりと聞こえていた。まるで雷鳴だ。

 

「こっからは私の個人的なケンカだから……悪いけど、手、出させてもらうわよ」

 

 怒りの滲み出る低い声で美琴は言い、身体中に電気を纏わせる。昨日秋人が見たものよりも、更に強力なものであるようだ。

 こうなったらもう止まらないらしく、黒子は汗を浮かべて「あらぁ……」などと言っている。その足元で、捕らえられた発火能力者が、呆然と口を開く。

 

「そ、そうか、思い出した……。風紀委員には捕まったが最後、身も心も切り刻んで再起不能にする最悪の空間移動能力者がいるという噂……!」

「誰のことですの?」

 

 多分、あなたのことですよ。と、秋人は賢明にも口には出さなかった。

 

「……更にその空間移動能力者の身も心も虜にする、最強の電撃使いがいるって!」

 

 せめて一矢報いるつもりなのか、一旦離れてからUターンして戻ってくる車の前に、美琴は立ちはだかる。そしてポケットからコインを取り出し、親指の上に乗せた。

 

「そう……あの方こそ、常盤台が誇る最強の電撃使い────」

 

  猛スピードで突っ込んでくる車に対し、美琴は悠然と腕を構え────指先でコインを弾く。

 

 直後、青白い閃光が一直線に車へと向かい、轟音を立てて上空へ吹っ飛ばした。

 飛ばされた車は、空中で何回転かした後、ようやくアスファルトの道路へと着地した。車体前部が下になっていたため、『突き刺さった』と言った方がいいのかもしれない。

 

「レベル5第三位、《超電磁砲》の御坂美琴ですの」

 

誇らしげにそう言う黒子の隣で、秋人は≪超電磁砲≫の威力に顔を輝かせ────車ごと吹っ飛ばされて目を回す犯人に、ほんの少しだけ同情した。

 

 

***

 

 

 その後、銀行強盗たちは、到着した警備員に連行されていった。約一名、軽くショックを受けている者は先に病院に行く必要があるらしいが、そこは自業自得だろう。

 

「まったく……顔は女の命だってのに、信じらんない!」

 

 憤慨しながら、京子は風紀委員から借りた救急箱の湿布を、佐天の頬に貼る。蹴られた場所は青あざになってはいたが、痕になったりはしないとのことだった。

 あはは、と佐天は苦笑する。

 

「ですけど、あの子だって無事にお母さんの元に帰れたわけですし……。名誉の負傷、ってやつじゃないですか?」

「名誉はあっても負傷はだめ!そーゆーのは男に任せとけばいいの!」

 

 その『男』が自分のことを指している気がして、ちょっとまて、と秋人は突っ込みかけたが、直前で口をつぐんだ。どうせまた言い負かされるのがオチだ。それを見た美琴に「情けない奴ぅ」という目をされることになったが。

 

「……ていうか、あんたほんっと人の話聞かないわね。『危ないことするな』って言われた直後に銃持った奴に突撃するって、頭おかしいんじゃないの?」

 

 そんなことを言う京子の口調は冗談混じりだが、どこか非難するような目付きだった。

 咄嗟には何も言えず、秋人が誤魔化すような笑いを浮かべていると、後ろから「まったくですわ」という声が聞こえてくる。振り向くと、警備員に報告を行っていた黒子と初春が立っていた。

 

「本当に、何をなさっているんですの?下手をすれば死ぬところでしたのよ?」

 

 あなた方も、と黒子は他の三人、特に美琴を見る。

 

「うん。でも……やっぱり、見て見ぬフリなんて出来ないよ」

 

 あくまでそんなことを言う秋人に、黒子は溜め息をつく。「狂ってますの」と小さく呟いた気がしたが、聞こえないふりをした方がいいのだろう。たぶん。

 

「でも、まあ……助かったことは事実ですの」

 

 そう言って、黒子と初春は姿勢を正す。

 

「風紀委員として、お礼を申し上げます」

「ご協力、感謝しますの」

 

 丁寧に礼をされ、四人は照れ臭い気持ちになり、自然と顔が綻ぶ。

 が、顔を上げた初春は、満面の笑みを浮かべて非情なことを言った。

 

「というわけで、瀬島さんはこれから事情聴取です!」

「……え!?」

「『今度首を突っ込んだら厳重注意では済みません』と申し上げたはずですわよ?」

「いやそれは聞いたけどそういう意味じゃ……!」

 

 満面の笑みの初春と、底意地の悪い笑みの黒子に引き摺られていく秋人を見て、京子は「バカねー……」と呆れながら呟いた。

 

「あたし達も、帰りましょうか」

 

 佐天の言葉に、二人は頷く。

 と、美琴は持ち上げた鞄の底で何かが転がる音を聞いた。

 鞄を開け、手探りでそれを掴むと、それは彼女が佐天から譲ってもらったものと同じゲコ太のストラップだった。気を遣うあまり直接渡すことができず、結局こっそりと鞄に入れるしかなかったのだろう。

 

 

「…………ほんとバカ」

 

 そう呟きながらも、美琴の顔には笑みが浮かんでいた。

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