君に奏でる子守唄   作:ペンギン隊長

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参加メンバーでおこたに入って蜜柑食べながらだべってるだけ
終章後っぽいけど何か妙なお祭り時空的空間


番外編
ゆるふわ千里眼の集い


 

「いやあ、なんとも平和だねえ」

「フン。外の連中は大わらわだろうがな」

「いいんじゃない、別に。さらっと流せない彼らの器が小さいんだ」

「…意外と辛辣だよねぇ、アイカちゃん…」

「そう?…僕にもみかん頂戴、ドクター」

 手を出す少女に、青年は少し苦笑のような表情を浮かべて蜜柑を放る。少女はそれを苦もなく受け止めて丁寧に剥き始めた。

「小間使い、(オレ)の分の蜜柑も剥くが良い」

「他にやる事があるわけでもあるまいし、自分で剥きなよ。寧ろ暇でしょ?」

「その塩対応から見て私が言っても同じく断られるんだろうねえ」

「私にも食べさせてくれ」

「まあ一口ならあげてもいい」

 ほら、あーん。と差し出された一房を彼は躊躇いなく口にする。それに対して反応するのは他の三名である。

「我の要請は断っておいてその仕打ち…マスターとはいえ、貴様さては阿呆だな?」

「え、ずるい。ずるくない?さらっとあーんしてもらえるってずるくない?」

「アイカちゃん君なんで彼には甘いんだい?!一応殺し合った仲だろう?!」

 そもそも四角い炬燵を五人で囲んでいて、人数の関係で二人一画に入る事になって自主的に彼の前に入った時点で今更の話ではある。

 少女は何言ってんだこいつらという顔をしているし、殺し合った片割れも何言ってんだこいつらという顔をしている。つまり二人で同じような顔をしている。

「私は片腕がない」

「ないったってその気になれば生やせるでしょ!!」

「ほら、僕って(精神年齢が)子供には甘いから」

「私は子供ではないが」

「何言ってんだ生まれたてほやほやみたいなもんのクセに。あ、そういう意味ではドクターも子供判定にしてもいいかなって思わなくもないけどね」

「やめてください」

 対辺(むかい)に座ってぎゃあぎゃあ言っている青年たちと少女に賢王と魔術師は呆れたような視線を向けていた。まあ、ぎゃあぎゃあ言ってるのは一人だけなのだが。

「なるほど…やっぱりアイカも愉悦勢だったのか」

「自分も子供扱いされる年のクセに棚に上げているな…」

「そっちの二人も何か言ってよ!」

「えー、だってなんだかんだ言って私、マスターに口で勝てる気がしないんだよねー」

「フン。年上の余裕を見せられん時点で貴様の負けだ。大人しく子供扱いされていろ」

「ひどい!」

 炬燵の天板につっぷした青年の頭を少女の手が撫でる。

「よしよし、困ったのならばおねーさんに任せなさい。とりあえず滅ぼしてあげるから」

「軽口でもそういうこと言わないの!」

 青年のマジレスに少女は、はははと笑みを返す。その笑みは、後輩や他のサーヴァントに向けるものとは別物だ。ありていに言えば、悪役スマイルというか、チェシャ猫スマイルというか。

「(あ、これ本気だ)」

「人理を滅ぼした私を止めたのはお前だろうに」

「言わなかったっけ?僕別に人理そのものに興味はないよ。ただ、歴史を変えられることに激しい嫌悪感があるのと、カルデアのみんなと生きていたかっただけさ」

「それはつまり、歴史に影響のない、単にカルデアの外が滅びただけの状態であれば軽く流したということか?」

「その可能性は否めないけど、ドクターとかマシュとか、カルデアの皆がどうにかしようと奮闘するでしょ。そしたら僕はそれに協力するよ」

 それにまあ、一緒に生きたいのがカルデアのみんな、になったのはグランドオーダーあってこそではあるしねえ、と少女は付け加えた。

「マスターがこれだから、外の連中は危機感を覚えざるを得ないんだろうねえ」

「王ではない雑種に世界を背負えと言うのがそもそも間違っておるのだ。まあ、能力的には背負えてもおかしくはないのが面倒な話だが」

「ああ…まあ、スペックを十全に発揮できたらソロモン王の焼き直しみたいなものになるんだっけ、マイロードは」

「…ただの平凡な人間であるはずだったのにな」

「何かの間違いかバグみたいなもんだって。僕はそんな大層なもんじゃないし」

「千里眼持ちって、そう簡単に生まれるものじゃないからね?しかも現代に!」

「それ言ってて虚しくない?ドクター」

 現在同席しているものは皆高ランクの千里眼スキルを持っている。それぞれに見える範囲は異なるが、目の前にない、見える筈のないものが見えるというのは同じだ。そして、己がそれを見ることに疑問を持っていないことも。

「言っとくけど、此処に居るの君以外全員千年以上前に生まれた人間なんだからね。…一部人間じゃないけど」

「いやいや、完全に人間なのは君とアイカだけじゃないか。私はいわずもがな、ギルガメッシュ王は半神だしゲーティアは魔神だし」

「否、それは一応"人間になった後"の状態を核に作られた霊基だろう。扱いとしては人間なのではないか」

「少なくとも、私に魔神王として(ビーストクラス)の力はないな」

「むしろ僕以外サーヴァントじゃん?一応」

 まとまりのない面子である。というか、はっきり言って、彼らに千里眼持ちである以外の完全な共通点はない。

「うわー同列に扱われたくなさしかない…」

「それは我に喧嘩を売っているのか?」

「私も同列に扱われたくない」

「まあ、私がちゃらんぽらん扱いされてるのは知ってるけどねえ」

「でも千里眼の集いイコールろくでなしの集いなのは確かじゃん?」

 とはいえ、例外もなくはない。アーラシュとか。

「まあ、人でなし率は高いよねぇ」

「否定できない…」

「・・・」

「我は賢王だぞ」

「ソロモン王だって一応生前は賢王だったじゃん」

「一応とか言われた!」

「だって色んな評判を聞いた限りの感じ…」

 言いかけ、少女はうーん、と口を止める。

「そこで黙るのやめて!?」

「…いや、いや。うん。生前の治世的には、賢王じゃん?ダビデには"愛人十人に振られたら世界滅ぼす事を考えるかも"とか言われてたけど」

「あれは、父上の軽口みたいなものです!!」

「いや、知ってるけど。後でまあ僕自身の話だけどねーとか補足貰ったから」

「滅ぼす?」

 魔術師の問いに賢王は鼻を鳴らす。

「我が滅ぼすわけがなかろう」

「僕は滅ぼしません!」

「私は、もうやらかしたからな」

「ちなみに私はそこまで大きく干渉するつもりはないなあ」

「僕はまあ、そこまで世界に興味がないからなあ。結果的に滅ぼしちゃった、くらいならワンチャン?」

「マスターがさらっと酷い事言ってる」

 魔術師がうわあ、という顔をしているが、少女は気にした様子もない。もぐもぐと蜜柑を食べている。

 実際のところ、彼女が人理崩壊を防げなかった場合は、彼女も原因の一端と看做される可能性もなくはない。ナンセンスな話ではあるが。

「だがソロモン王が碌でなしだというのは私が担保するぞ」

「しなくても僕ちゃんと認めてるからね!?」

「そうそう、ちゃんと認めて反省してくださいね。具体的には人理修復が成って一旦平和になったのにドクターが欠けている所為で僕やマシュたちがたびたびドクターの事を思い出すたびにしょぼんとなっている様を千里眼の過去視で見てへこんでください」

 真面目な顔を作って少女は言う。

「ドクターはそれだけカルデアのみんなに愛されているのだと思い知ってください」

「愛が重い!」

 そんな叫びを口にした青年の頬は仄かに赤く染まっている。賢王と魔術師はそれをにやにやと見守っている。やはりろくでなしである。

「だいたい、アイカちゃんは人の事を言えないだろう!グランドオーダーが終わって世界が平和になったら自分は死ぬ気満々だったクセに!」

「ええそうですよ。マシュとドクターが自分を犠牲にした所為で出来なくなっちゃいましたけど割とアレで死ぬ気満々でしたよ僕。その八つ当たりも兼ねてますからね、この罰ゲーム」

「生きるために立ち向かったのだと言っておいてこの仕打ち」

「未練を残してはすっきり気持ちよく死ねないじゃないか。後顧の憂いは断っておかないと」

 不満そうな顔をしている彼の頭を少女はぽんぽんと撫でた。

「うーん、やっぱり君ら毛並みがぼさぼさすぎないか。僕が毛づくろい(グルーミング)してやろう」

 等と言ってどこからかブラシを取り出して炬燵から出たが、さむっと呟いてまた炬燵に戻った。今度は彼の隣である。そのまま彼のぼさぼさの髪をブラシで梳かし始めた。

「・・・」

「なんだかんだ言って面倒見が良いよね、アイカは」

「僕は楽しい事が好きなだけだよ。あと、結構落ち着くんだよね、グルーミング。前は割と定期的に求めてくる子とかいたし」

「それも子供扱いか」

「いや、どっちかというと…いや、うーん…どうなんだろ。毛並みの手入れ(グルーミング)が好きなの筆頭が大きな小さい狐だったからなあ」

「それは大きいのか小さいのかどっちだ」

「体は大きいけど小狐丸」

「矛盾している」

「僕に言われても」

 はね放題だった髪がある程度落ち着いてきたところで、満足したのか、少女は彼の髪をシニヨンに結い始めた。赤いリボンも使って邪魔にならないように編んでいく。

「器用だね」

「君たちも順番にやってやろう。拒否権はない。…ああいや、でも王様髪短いからなあ」

 少女の言葉に魔術師と賢王は複雑そうな顔をする。青年は既に諦めの境地みたいな顔になっている。彼に至っては特に気にした様子もなく蜜柑を食べている。

 話題を逸らそうとしたのか、魔術師はそういえば、と口火を切る。

「槍の方のアルトリア、いいおっぱいしてるよね」

「女の子の前でそういう話を始めるとか流石マーリン、最低だね!?」

「何を言う。標準的なセイバーの方がいいだろう」

「そして君も話に乗るか!?」

「女の子を胸で評価するとか最低だな。それはそうと僕はおっぱいならマシュぐらいのがいいと思う。揉みたい」

「アイカちゃんが一番ひどい!?女の子でしょ君!?」

「だってマシュなら頼んだら揉ませてくれそうじゃん。他の男には揉ませないけど」

 何の邪心もなさそうな無邪気な目で、少女は碌でもないことを言っている。本当に酷い。

「おっと、これはつまり巨乳派が二人に貧乳派が一人ということだね?君はどうだい?」

「胸の大きさが違うから何だと言うんだ?別に不必要なものだろう」

「僕は別に巨乳派じゃないぞ。片手でおさまるかおさまらないかくらいがいいんだ」

「女の子がそういうこと言わないの!ちなみに僕はどっちかというと巨乳派です!!」

「ははは、説得力のない発言ありがとう」

 いつの間にか彼の髪は綺麗に結いあげられている。満足そうな顔をしている少女を見た後、彼は僅かに首を傾げて問う。

「ところで、何故揉みたいんだ?気持ちいいのか?」

「おっぱい揉んで気持ちいいのは男だけだって言うよ?まあ、少なくとも揉まれても特に気持ちよくはないね」

「おおっと、ここでマスターの問題発言!というか、揉まれたことあるのかい?何時?誰に?」

「いやあ、昔、男の人は落ち込んでる時は下手に励まされるより"おっぱい揉む?"って聞かれる方が元気になるって聞いたから、実行したら本当に揉まれただけだよ。まあおっぱいって言う程おっぱいじゃなかったけど」

「つまり、マスターのちっぱいを揉んで元気になった男が居るということに」

「そうなるね」

 横で大人しく話を聞いていた彼が少女の胸に手を伸ばす。むにむに。

「こら!了解を得ずに女の子の胸を揉まないの!!」

「そうだね、揉む事自体はまあいいとして、了解は取ってくれ」

「いいの?!」

「邪心を持ってるならアウトです」

 真っ直ぐな視線を向けられ、魔術師はあははと乾いた笑みを浮かべた。

「で。揉んでみた感想はどうだ?」

「悪くない」

 青年は彼に物言いたげな視線を向けるが彼はそれを黙殺した。

「さてと。さあマーリン、グルーミングの時間だ、ちょっと詰めるがいい」

「本当にやるんだ…」

「僕はやると言ったらやる」

 少女は魔術師の隣に入って髪を梳かし始める。その手つきはとても優しいものだ。

「でもさ、正味な話、可愛くておっぱいの大きい女の子って良くない?」

「悪くはないが我はスレンダーな方が好みだな。いや、可愛ければ何でも良いとは思うがな」

「ああ、わかる。可愛いってのはそれだけで愛でる価値があるよね。どう愛でるのが丁度いいかもそれぞれだけど」

「おっとここでまさかのマスターから王様への同意が」

「可愛い女の子の台詞じゃないよねそれ。碌でなしの王様の台詞だよね」

「そういうお前はどうなんだ」

「えっ僕?僕は、まあ…綺麗な女性はいいと思うけど、正直、付いてなければ別に」

「男だ女だと小さいな。英雄たるものどっちもいけてこそだろう」

「私は一応女性の方がいいなー。いや、男が悪いとは言わないけど、やっぱりね?」

「子供が欲しいわけでなければ性別なんて瑣末な問題だろう?…ああいや、キャスターなら同性でも作れるっけか…」

「作らないよ!?というか、それは流石に風評被害が過ぎると思うな!!」

「寧ろサーヴァントは本来死者だから、その時点で妊娠出産は難しいと思うけどねえ。いや、母体になる方が生身の人間ならワンチャン…?」

「それ以上はいけない」

 青年の制止に魔術師はえー、と口を尖らせる。可愛くない。

「というか、まさかここに居るの僕以外バイかい?なんてことだ…」

「私はバイではないが」

「僕は非性愛者だって言ってるじゃないか。一緒にしないでくれ」

 髪を梳き終わった少女は魔術師の髪をみつあみし始めた。

「性の悦びを知らんとは、不憫な奴め…」

「そもそも性欲を感じない身としては、恋愛だの性欲だのに振り回される奴の方が不憫に見えるけどね。いや、本人たちがそれでいいなら別にいいんじゃない、って感じではあるけど」

「マーリン、ギルガメッシュ王、アイカちゃんに対するセクハラは駄目だからね」

 青年の言葉に名を呼ばれた二人は舌打ちをする。

「あはは。そもそも僕、婚前交渉はしない主義だし恋愛結婚至上主義だからね。僕の処女は重いよ?国が滅びるレベル」

「恋愛はしないと言った癖に恋愛結婚至上主義を名乗るのか」

「より正確に言うなら、うちの氏神さまたちがねー。僕が心底惚れた相手じゃないと嫁に出さないってさ」

「それはつまり一生嫁に出すつもりがないということでは…?」

「そもそも僕にその予定がないね」

 少女はきっぱりと言い切った。賢王は呆れた視線を向けている。青年は少し困ったような顔をしていた。

「…まあ、魔力供給に支障がなくて良かったって話だよね…」

「血の雨が降るな」

「血の雨と言えば、あの過保護なアサシンどもはこの集いに雑種が参加することを承服したのか?」

「危険人物が含まれているとはいえ、そういう意味で手を組む感じじゃないから…って不承不承?そもそもどっちかというと外の連中の方を敵視してるからね、彼ら」

 外の連中が下手を打ったら首を落とす気満々で様子を窺ってるんじゃないかな、などとこともなげに少女は言う。あまり興味がないらしい。

「あと、まあ、王の集い(ほぼ飲み会)に首を突っ込むよりは素面な分安全だろうって」

「ああ、弓のギルガメッシュ王とか、ファラオたちとかが開いてる奴…」

「個人的には、リリィの集いの方がヤバいと思うよ?絵面の割に物騒で」

 千里眼で覗いたらしい魔術師があちゃあ、という顔をしている。ちなみにこの場にいない千里眼はその二つに関わっている感じである。アーラシュはオジマンディアスに誘われてそっちについていった。

「リリィが物騒って想像できな…あー、いや…うん…」

 何を思い出したのか、少女は目を閉じて首を振った。深く考えるのはよそう、などと呟いている。

「…ある意味で、平和な証なんだろうけどね…」

 青年がまた炬燵に突っ伏す。その様はまさに過重労働に疲れたサラリーマンの如き哀愁を漂わせている。

 みつあみにした髪をさらに青いリボンで纏め上げ、少女は満足げに魔術師の頭を撫でた。

「よしできた。喉渇いてきたからお茶入れてよマーリン」

「ははは。なんで私に頼むんだいマスター。彼に頼むべきでは?」

「ドクターにはもうみかんとってって頼んだし。今からグルーミングするし。あ、王様は後で外の人らが顔出しそうだったら威嚇お願いね」

「お茶なら僕が入れるからグルーミングはしなくていいよ」

「ドクターのぼさぼさ頭は前からグルーミングしたいと思ってたんだ。大人しく僕のグルーミングを受けるがいい」

 少女はそう言いながら青年の隣に移る。逃げる事は許さない構えである。

「いつも時間がなかったし、僕の髪は癖っ毛だから許してほしい…」

「今は時間があるからいいじゃない。つまりは髪型に拘りがあるわけじゃないんでしょ」

「それはそうだけど…」

 不承不承という顔で青年は少女に髪を梳かされている。

「これは本格的に私がお茶を入れなければならない雰囲気。まあ、水分補給は大事だからね、仕方がない」

 よっこらせ、と炬燵から出て、魔術師は部屋の片隅の給湯コーナーに紅茶を入れに行く。

「我の分も入れろよマーリン」

「ははは、そう言われるのはわかっていたよ」

 魔術師は慣れた手つきで五人分の紅茶を用意している。

「ところで、やはり私は外の連中には姿を見せない方がいい、ということでまとまったのか?」

「寧ろ見せて良いと思ってるの?君一応今回の件のラスボスだよ???妙な因果で此処に居るけど」

「さしあたって敵意がないなら僕は差別しないけどねー」

「それはそれで問題だと思うな?」

「そうは言うけどさ、ドクター。そんな事言ったらジャネットとかヘクトールとかオルタ・クー・フーリンとか頼光とか、警戒しなきゃいけない相手は沢山いると思うんだ?」

 少女は特異点で本気で殺し合った英霊たちの名をあげる。カルデアにいる彼らは別の分霊だが、その殺し合った記憶がないわけではない。それをふまえて、彼女に協力すると言っているのである。

「それはそうかもしれないけどね…」

「先に殺し合うか、後で殺し合うかってだけだよ。少なくとも今は味方。それでいいじゃない」

「私は一応マスターと殺し合いをするつもりはないけどなあ」

 茶を入れ終わった魔術師がトレーにカップを乗せて戻ってきた。

「…僕としては、いつか彼女のサーヴァントと君が戦うことになるんじゃないかって気がしているんだけど」

「それは嫁取り的な話かい」

「だって君、随分アイカちゃんに肩入れしているだろう」

「私は彼女の大ファンだからね」

「まあ傍から見てる分には愉快なんだろうね」

 少女は梳かし終わった髪を大きく二つに分けて編み始める。

「いくら最大スペックがグランド相当って言っても、一対多はマーリンが死ぬんじゃない?」

「あはは。死ぬかなあ。…いや、ガチで死ぬ気もしてきたな…特に彼が参戦した場合」

「ああ、あやつか。死ぬだろうな。クラス相性など問題にせず殺すだろうな」

 賢王が紅茶をずずずっとすすって憐れむような目で魔術師を見た。

「あくまでファンを名乗るのであれば妙な事はせんようにな。我はそうなっても止めんぞ」

「へー、マーリンが死ぬんだ。いいんじゃない?」

「死ねばいいと思う」

「君たち流石に酷くないかい!?」

「行動如何によっては当然の反応な気がするけど」

「マスターまでひどい」

 よよよ、と泣き崩れるふりをした魔術師に少女はしょうがないなあ、という顔をした。

「はいはい、泣かない泣かない。マーリンもおっぱい揉む?」

「揉む…」

「そうやって軽いノリで女の子が自分の体を差し出さないの!」

 極めて常識的な注意をした青年に少女と魔術師は揃ってえー、という顔をした。

「接触面積的にはハグより小さいよ?」

「そういう問題じゃありませんっ」

「はっ。もしかして君も揉みたいのかいおっぱい」

「揉みたいか揉みたくないかで言えば揉みたいけどそういう話でもなくて!」

 ちなみに魔術師が現在進行形でおっぱいを揉んでいることに関して少女は無反応である。

「後で我にも揉ませろ」

「後って何時さ」

「局所的にカルデアの風紀が乱れているようだが」

「本当だよどういうことなの!」

 編んだ髪をくるくると丸めて柔らかい緑色のリボンで固定して、少女は満足そうな顔をした。自分の髪がどういう状態になっているのかを確かめて、青年は小さく溜息を吐いた。

「どういうことになっているかはわからないけど、この状態でダ・ヴィンチちゃんに会ったら爆笑されることが千里眼がなくてもわかるぞぉ…」

「そんなこと言ってると過激な女装させるよ。千子(せんご)君みたいな。…ああいや、アレは別に女装という訳では…ううん」

「誰のことか知らないけど碌でもない事を言われたことだけは察した」

「ぶほっ…雑種貴様、何故それを選んだ…!もっと他にもあっただろう…」

 賢王が突然噴き出し、ツボに入ったのか涙目で大笑いしている。どうも、千里眼で並行世界を覗いたらしい。何を見たんだ。

「いや、だって。僕、とんちゃんが誤解されがちだが悪い奴じゃない、って言ってたの、そういう意味だとは思ってなかったんだもん。もっとこう…妖刀的な意味だと思ってたんだもん」

「え?なになに?どんな愉快な事があったんだい?」

「カルデアで喩えて言うなら…うん。下がジャンヌで上がスパルタクス」

「なにそれこわい」

 本刃の趣味である。

「そう…悪い奴ではなかったのだ。ちょっと常識がないだけで」

「なんだ、マーリンのような奴ということか?」

「私を引き合いに出さないでくれるかい!?」

「いや、寧ろどちらかといえばゲーティア側だと思うよ?」

「碌でもない人物だということしかわからない…」

「私側…?」

 やっと笑いが収まったらしい賢王が紅茶を一口飲んで話を仕切り直すように言う。

「そやつに過激な女装をさせて査察団を笑ってはいけないなんとやら状態に叩き込むかどうかはともかく、もう満足したのか、雑種」

「王様はグルーミングの必要とかなさそうなさらつや髪だから寧ろヘアアレンジって感じで、ちゃんと了解を得なきゃだなあ、って。やっていいならやるよ?」

「良かろう、特別に許してやる。許すついでに我が貴様の髪を弄ってやろう。ちこうよれ」

「はーい」

 少女は賢王の隣に移動して木の櫛を取り出した。全体を軽く梳かした後、前髪を編んでピンと黒いリボンで留める。

「…他人の髪をいじるのが好きなのか?」

「好きだよー。というか、ちゃんと嫌な事を嫌だって拒否してくれる子に嫌がるかもしれないちょっかいをかけるのが好き」

「うわ、マスターの愛情ひねくれすぎ…?」

「だって、嫌な事は嫌だって言ってくれないと本当に嫌なのか、嫌じゃないのか、わからないじゃない。嫌そうな顔をしてるだけだと、本当は別に嫌って程でもないけどポーズとして嫌そうな顔をしてるだけかもしれないし」

「普通に、嫌がられないだろうことだけをすればいいじゃないか…」

「普通に、嫌がられないだろうことだけをしているよ?」

 手早く賢王の髪をアレンジし終わった少女が青年に振り返って無邪気に首を傾げる。

「少なくとも僕は、自分が嫌な事を自分から相手にはしないし。あ、敵対者なら嫌がらせもするけど。でも、僕が嫌じゃない事でも価値観が違う相手には嫌なことかもしれないじゃない?」

 賢王は少女の手から櫛を取って簡単に梳かし、編み込みを作っている。

「こやつは普通の事を無駄に難しく考えているだけだ。放っておけ」

「僕が思うに、"普通の人"が無神経で無駄に自信たっぷりなだけなんだけどね?」

 少女は紅茶のカップを手に取って、軽く冷ましてから飲んだ。

「わかるような、わからないような…」

「人間の感情の機微なんかは、私たちにはよくわからないことだからねえ」

「実際疎いのは確かだけど一緒にされたくないんだけど」

「ソロモン王は人の気持ちが分からない」

「やめて!追い討ちかけるのやめて!」

「マスターも人の気持ちが分からない」

「自己申告しないで!」

「雑種がどう思うかとか我どうでもいい」

「君は少しは気にしよう?」

 つっこみに疲れたらしく、青年は溜息をついてカップの中身を飲みほした。

「君たちそれでいいと思ってるの???」

「いやあ、私が非人間なのはどうしようもないことじゃない?」

「左に同じ」

「僕も一応僕なりに改善しようとはしているんだよ?努力が実るかはともかく」

「お前に言えた話ではあるまい」

 そう言って、賢王は金色のリボンで少女の髪を留めてフンと鼻を鳴らした。

「どうせこの集いが何の為に開かれる運びになったのかを理解しておるまいに」

「えっ」

 青年の顔にはただ何となく駄弁りに来ただけじゃないの?と書いてある。彼はそれに呆れたような顔をした。

「私にわかることがわかっていないようだな、あなたは」

「え、ゲーティアはわかってるのに僕わかってないの?本当に?」

「僕の本題はなんとなくドクターに対して罰ゲームしにきたことだけど?」

「私はストッパー役だねぇ」

「フン。ただ駄弁るだけなら王の集いの方に行っておるわ」

「なんとなく!?」

「論理的思考じゃなくて、こう、ピンときたから。ドクターには、ドクター・ロマンがどれだけカルデアの皆に愛されているのかわかってもらわなきゃいけないと」

「………って、言われても、ねえ?」

 青年は気拙そうに視線を泳がせる。

「そりゃあ、今此処に居る僕は、ロマニ・アーキマンの要素を持ったソロモン王…と言っていい存在だ。でも、ロマニ・アーキマンそのものじゃない」

 そして同時に、生前のソロモン王そのままの存在でもない。

「今更だけど、アイカちゃんのその、ドクターという呼称は僕には不適格じゃないかい」

「なら、敢えて言うけれど、ソロモン。名前や呼び名というものは、当人に思い入れがないのなら、ただの記号も同じだよ?」

「なら、それこそ…」

「それ以上言わせるのは無粋だよ?全く意味が察せられないというわけじゃあるまいに」

 魔術師がやれやれ、と肩をすくめてみせる。

「大体君、ソロモン王としての一人称は私だったじゃないか。ロマニのように振る舞っておいて、ロマニじゃないというのは詐欺みたいなものじゃないかい」

「それはまあ…なんというか、ね?」

 やはり目を泳がせている青年に、彼は呆れたように言葉をかける。

「己をドクター・ロマンではないと言うのなら、千里眼を封じた姿で表に出るべきではないというのは、わかっているはずだろう?ソロモン王」

「だって楽なんだよ、千里眼も啓示もない、ただの人間として振る舞うのって」

「だからあなたは人の気持ちが分からないと言っているのだ」

 彼は僅かに眉をしかめる。

「今は、虚無ではなくなったのだろうに」

「僕、そんなに悪いことしてるかい」

「嬉し泣き以外でマシュを泣かせたら本気で殴るよ、ドクター」

 少女の真顔の宣言に青年は降参というように両手を上げてみせる。

「マシュが泣いたらアルトリアも怒るだろうなあ」

「多分ゲーティアも怒るよね?」

「…ノーコメントだ」

「恐らく、マスターが泣くような事があれば殆どのサーヴァントを敵に回すが…あの娘が泣いても怒るサーヴァントは多かろうな」

「うぇえ」

 

 

 

 

 

「…本当、ろくでなしが多いんですよねえ、千里眼って」

「どうかしましたか?ギル君」

「ああ、いえ、何でもありません。お気になさらず」

 少年は常通りの人懐こい笑みを浮かべてみせる。

 ろくでなしがろくでなししかいない状況でしたやり取りなど、他の者に聞かせるべきではない。そんなことをしても、誰も得をしないのだから。

「とはいえ、少し嫉妬してしまいますね。僕もマスターとドクター()遊びたいです」

「ああ、あの二人は弄りがいがあるよね」

「もう、二人ともマスターを困らせたら駄目ですよ」

 

 

 

 

 

 






騙すんなら、最期まで騙さなきゃ駄目だよ。そういうの、慣れてるでしょ?


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