君に奏でる子守唄   作:ペンギン隊長

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べったの再録

ぐだ子ちゃんがソロモンを召喚したら(終章後) 深刻なネタバレ
・ソロモンという名のロマニ、ではない
・元審神者ぐだ子ちゃん
・ぐだ子ちゃんも千里眼
・千里眼は総じて人でなし。人としては賢王が一番マシなレベルかもしれない
・ゲーティアがかわいそう
・鯖ぐだ的な匂いがしなくもないが、ぐだ子ちゃんは特に誰にも恋愛感情は持っていない




ドーナツホール

 

 

 

 召喚に応じた青年が薄く笑みを浮かべて口上を述べようとしたその時、彼女は渾身のこぶしを彼に向けてはなっていた。

「せ、先輩!?」

 あまりの暴挙に慌てたのは後輩だけで、殴られた本人は多少驚きつつもわりと平然としているし、殴った本人は自分が何をしたのかわかっていない顔をしていた。

 彼が口上を止めたことと、自分が握りこぶしを作っていたことを認識し、まじまじと自分のこぶしと彼の顔を見比べた後、彼女はくるりと青年に背を向けた。

「…ごめんなさい、頭を冷やしてきます」

「え、先輩、待ってください!」

 後輩の制止を聞かず、彼女は走り去る。彼女を追うべきか、しかし召喚されたばかりの彼を放置するわけには、とおろおろしている後輩に、しばらくそれを眺めていた彼が言う。

「僕は、彼女を相当怒らせてしまったのかな」

「いえ、その…確かに、先輩はドクターは絶対に一発殴るとは仰っていましたが、ええと…」

「確実にあなたが悪い」

 青年に続いて召喚されていたが、おそらく認識されてすらいなかった魔術式がジト目で青年にそう言った。

 

 

 

 前職の時にも、同一本霊から生まれた分霊を、寸分違わぬ姿をしていたとしても見分けることができていた。だから、その時点で思いいたるべきだったのだ。

 別の分霊であれば、同一の存在だと彼女が思う事は出来ないし、勘違いすることさえできない。

 彼女がドクターに再会することはもう二度とない。たとえ、ソロモンがロマニの記憶を持って現界したとしても、それはドクターではない。少なくとも彼女にとってはそうだし、実際にこのカルデアに現界したソロモンはロマニ・アーキマンではない。もしかしたらロマニの記録を持っているかもしれないが、あのソロモンは、けしてロマニではないのだ。

「僕は、とても酷い事を彼にしてしまった」

 ひどいことというのは、殴ったことではない。無理に、ロマニの因子を持ったソロモンを召喚したということだ。殴ったことそのものは、まあ多少相手が間違っていたと言えない事もないのだが順当な行動だったと彼女は思っている。反射的な行動ではあったが。

 元々、正しい行動だとは思っていなかった。自分のエゴで相手を困らせる行動だと、彼の決意を踏みにじるような行動だとは思っていた。自己犠牲なんざくそくらえ、と彼女は常々思っているので、決意を踏みにじる事そのものに特に罪悪感などないが。

 けれど。

 似てるだけの別人に対して感情をぶつけるというのは、とても理不尽で、よくないことだと彼女は思うのだ。

「――じゃあ、彼を還すのかい?」

「…彼の意思に任せる。カルデアのシステムはマスターとサーヴァント双方の了解がなければ召喚が行われないものだから、少なくとも来た時点では来てもいいかなって思ってくれてたってことだし」

 と返したところで、勝手にマイルームに侵入してきていた夢魔に彼女はジト目を向けた。

「何でお前いるの」

「そりゃあ、マイロードが泣きそうな顔で走っていくのを見かけたとあっては、追いかけざるをえないよね、サーヴァントとしては」

「どうしてマーリンはそう、僕の情けない姿を見たがるかなあ…すごい嫌なんだけど。僕部下にはかっこつけたい方なんだけど」

「私は君のサーヴァントであると同時に君の第一のファンだからね。どんな姿だって見ていたいとも」

「(他の人たちにばらすような素振りがあったら絶対に心中してでも殺してやる…)」

 

 

 

 目が合うと同時に見開かれたその瞳から、彼女が彼がかつてカルデアにいた"人間"とは別の存在とすぐにわかってしまったのだろう、と彼はあたりをつけていた。

 己の中にある記録と、千里眼でさらっと見た情報で、彼は己のおかれた状況をおおよそ把握していた。彼女が会いたかったのが己ではないのだろうという事も。そのことに、ほんの少しだけ申し訳なさのようなものを感じるのは、きっと、彼の中の記録がそう思っているからなのだろう。

 ソロモンは本来であれば、もうこの時空には召喚されないはずの存在だ。それを捻じ曲げて召喚を成しえたのだから、並々ならぬ情熱か、感情か、決意か、執着か、そういう"何か"があったのだろう。図らずもそれを踏みにじってしまったことに、少しの罪悪感のようなものを彼は抱いた。

 生前の彼であれば、特に何の感慨もなく、精々愚かな事をしたものだなと呆れるぐらいだっただろうから、成程、この記録は、ロマニ・アーキマンという人間は、今此処にいるキャスター・ソロモンという存在に大きく影響を与えているのだろう。そしてきっと、召喚者たる彼女にも。

「…これは、召喚早々送還されてしまうかな」

 そう呟きつつも、千里眼で未来を確かめようという気にはならなかった。そうなっても仕方ないと思うし、どちらにせよすぐに結果の出ることではあるだろうけれど、マスターに拒絶の言葉を吐かれるのを二度も見たくはない気がした。

「そう思うのなら、あなたは何故召喚に応じたのですか。あなたなら、召喚される前の時点で予想は出来ていたでしょうに」

 彼に連鎖するように、しかし別のサーヴァントとして召喚された彼の魔術式だったものが眉をしかめて問いかける。おそらく、彼よりもよっぽど感情豊かだろうそれに、なにやら感慨深いものを感じる。

「そうだね…確かに、私のことを理解すれば、彼女は失望するかもしれないとは思った。それが、こんなに早い事とは思わなかったけれど」

 しいて言えば。そして、身も蓋もない言い方をするのならば。

 ロマニ・アーキマンがとても楽しそうだったから、ほんの少しだけ、ソロモンもそれを体験してみたくなったのだ。表面だけ真似ることなら、生前からやってきたし、通用すると思っていた。

 実際はこれだが。

「この、人でなし!!」

「そういうお前は、随分人間の様になったね」

 

 

 

 

「取り乱してすいませんでした。…改めて、契約を結んでくれますか?」

 そう言って右手を差し出した彼女を、きょとんと彼は見返す。

「いいのかい?」

「あなたが召喚に応じてくれたことそのものは、嬉しいことです。…取り乱したのは、僕の個人的な事情ですから」

「…。…では。私は、キャスター・ソロモン。改めてよろしく、マスター・アイカ」

 

 

 





・こんな感じでソロぐだはお互いに対して負い目みたいなものがある(が、お互い口にしない上に相手のそれに対して特に責める気はない)
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