君に奏でる子守唄   作:ペンギン隊長

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いわゆるカルデア査察団ネタ


そうして悲劇はまた生まれる

 

 

 

「査察団に対する事前注意?"全てのサーヴァントは人間なんて簡単にひねり殺せる相手なんだから、敬意をもって接する事"の一言で終わらない?」

 カルデアにおけるサーヴァント全てのマスターである少女はそう言ってきょとん、と首を傾げてみせたが、まあ、それで終わるなら事前説明などいらないのである。彼女にとってはそれで全てなのかもしれないが。

「個々のサーヴァントの特に注意すべきことって言われたって、そもそも、敬意を持って接してれば相手を怒らせるようなことはしないと思うんだよね。極論、失礼なことをするなって話だし?」

「例えば、清姫には嘘を吐いちゃいけないとか。王様を侮っちゃいけないとか。サーヴァントの前で他のサーヴァントを貶したらいけないとか。敬意をもって接してるのに、それを破るってのは、おかしいよね?それはつまり、礼を失した振る舞いなんだし」

「それ以上の注意が必要ってのはつまり、私たちは目の前の相手に敬意を表すという事すらまともにできない人間です、って宣言するようなものだよね」

 にこり、と少女は笑ってみせる。それはある意味で、挑発であったかもしれない。

 

 

 

 

「彼女はああ言っていたけれど、実際…それ一つだけ伝えた場合、70%ぐらいの確率で協会からの査察団は壊滅すると思うんですよね」

「一定数のお貴族様が含まれているだろうしなあ」

「そしてこちらも後処理が大変になる、と」

 スタッフが頭を抱えるしかない事態というやつである。マスターの少女は基本的にカルデアのスタッフに対して心を砕いてくれる人間ではあるが、それと同時に何処か決定的に人間としての価値観に瑕疵のある人間でもある。悪人ではないのだが。

「…もしかしてですけど、壊滅するなら壊滅してしまえ、とか思ってないですよね、彼女」

 実のところ。彼女が、人理には興味がない。人間?普通に嫌いだけど。カルデアのみんなは好きだけどね!などという問題発言を特異点でしているのを、スタッフも皆知っている。ついでに言えば、彼女の属性(アライメント)が混沌・善なのも知っている。

 彼女は結果的に世界を救ったが、だからといって、世界平和を祈る慈愛に満ちた聖女などではけしてないのである。寧ろ、属性だけ見れば英雄王とかと同じなのだ。正直、危険人物と看做されてもおかしくない人材なのは否めない。下手な事をしなければ普通に良い子なのだが。

「なるほど、彼女の言っていた注意はそのまま彼女に接する場合の注意としても機能すると」

「悪い子じゃないんですけどねー」

「悪い子じゃないんですけどね…」

 基本的に彼女は、自分に対して敵意を見せない相手には寛容である。少しでも害意を見せれば容赦なく撃墜するとも言う。助けを求められれば手を差し伸べるし、困っている相手を簡単には見捨てられないお人好しな所もある。好意的な相手には自分から世話を焼きに行ったりもする。

 しかし混沌属性である。秩序属性でないことを何人かは不思議そうにしていたが、最近、サーヴァントの中では納得できる結論を得たらしい。スタッフには伝わってこないが。

「まあ、愚痴っていても仕方がない。細かい注意項目は私たちで考えよう。出来る限り被害を抑えられる事を願って!」

 

 

 

 

「壊滅するなら壊滅してしまえ、どころか、害ある存在なら壊滅させてしまえ、くらいは考えているのだろうな、マスターは」

「…まあ、彼女は現在の生粋の魔術師というものをカルデアで見たものしか知らないだろうからな…」

 つまり、候補生として集められたものたちと、オルガマリーやレフなどとなる。候補生はサーヴァントたちに面識のあるものがいないが、とりあえず、碌な人間がいなかったらしい、ということは伝わっている。少なくとも、彼女の視点から見て、の話だが。

「一応、全部が全部悪いわけではないとは、わかっているだろう」

「孔明がしっかり警戒するように、と吹き込んだのも原因じゃないのか」

「マスターに警戒対象であると認識させておくこと自体は間違いではないだろう」

 なにしろ、マスターであることを抜きにしても、聖杯みたいなスペックの持ち主である。悪意を持った人間に騙されたら大変な事になる。騙されなくても大変な事になるかもしれない。

 自立型聖杯と言っていい人材と言えば天の杯(アイリスフィール)もそうだが、少女は人為的に作られた存在ではない…はず、である。少なくとも、本人は元々は一般人だったと証言している。

 色々と常識外れの環境で育った疑惑はあるが。曰く、幼馴染たちは皆レイシフト適性を持っているだろう、という話だったし。年中行事として神降ろしを行う祭りが行われている土地らしいし。キャスターたちの手ほどきを受ける前からマーリンがバビロニアでやった裏技と同系統の空間転移魔術を修得していたようだし。

「…。過保護に護らなくても自分で何とかするのではないか?」

「マスターの一番危い点は、常識というものを理解しておらず、他者から自分がどう見えるかを気にしないところだ」

「というか、彼女は恐らく、カルデアの居心地が悪くなったらサーヴァントとの契約を全部解除して出奔するぞ」

 なにしろ、幼馴染との関係に悩んで物理的に縁を切って出てきた(穏便な表現)人間である。同じ事をやらない保証がない。寧ろ、やらない訳がない。

「…。血の雨が降るな」

 彼女が姿を消したら現界を止めて座に帰る、だけならまだいい方である。

 控え目に言っても、彼女だからこそ契約を維持できているサーヴァントが多すぎる。しかも、そういう厄介なサーヴァントに限って彼女への好感度が高い。それこそ、某バーサーカーなど、彼女が害されたり姿を消したりすれば原因を物理的に消しにかかるだろう。つまり大惨事である。

 まあ、要するに。現状維持がお互いのためなのである。

「まあ、私たちの方でも気に掛けておく以上の対処は出来ないからな…」

 

 

 

 

「などと言われているようだが」

「出奔する、なんて。希望的観測すぎて笑っちゃうなあ」

 あはは、と彼女は笑ってみせる。そして、不機嫌そうに眉根を寄せた彼にからかうように言う。

「僕、そんなに生きる事に執着を持ってそうに見えてるかい。いや、死ぬ事に対する強固な執着というか強迫観念はもうないけれどね?」

「自害する、などとは言いたくない程度には気に入られているということだろう。そもそも、貴様は己が勝手に死ぬことを許されると思っているのか?」

「僕が死ぬのは僕の存在が必要ないと判断した時さ。万が一の時にはキングが殺してくれそうだし」

「貴様は勝手な奴よな」

「人間なんて程度の差はあれ勝手なもんでしょ。いや、僕が言うまでもないか」

 いっそ楽しそうに、歌の一節でも口ずさむように、彼女は言う。

「それでも一応、僕が自分で死ぬのは、それが必要だと判断した場合だよ。一応、騒動の種になるであろう僕が死ぬ事で余計に騒動が大きくなる、という可能性(パターン)は学んだからね。失敗から何も学ばないほど馬鹿じゃないつもりだよ、僕は」

「そうやって己を過小評価するから話がややこしくなるのだ」

「そうかな?偶々僕だった、ってだけで、誰でも、とは言わないまでも他の人間が僕の立場になっても、なんだかんだ上手くいったんじゃないかって気がするけど」

「他の世界線のことなど持ちだして話を有耶無耶にしようとするでない。成り行きだろうとなんだろうと、この世界を救ったのは貴様だ」

「…僕じゃなくてもできることだよ?」

「やったのは貴様だ」

 真面目な、少し不機嫌そうな顔で告げられた言葉に、彼女は少し困ったような顔をした。

「でも僕、混沌属性だよ?秩序の為の生贄だ。これまでもそうだったし、これからもそうじゃないかな。平和には犠牲が付き物だろう?」

「本心で望んでいるわけでもなかろうに、よくもまあ、我にそのようなことを言ったものだ」

「そりゃあ、快いものではないけれど。僕の大切なひとがそれで困らないならそれもアリかなって」

 ある意味で。彼女は"カルデアの善き人々"だからこそ敵対せずに済んだものの一つである。その属性の示すものは、さだめのように呪いじみた影響力で彼女の在り方を縛っている。

「少なくとも、マシュは貴様がそうやって生贄にされれば心を痛めるだろうな」

「あの子は優しいから、仕方がないね」

「貴様が開き直って悪辣な人間であれば、かえって救いようがあったのだがな」

「世界ってのは大概理不尽なものだよ。それだけの話だろう」

 

 

 

 

 

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