「…。やっべ」
バッと起きあがった彼女が頭を抱えて呟く。今日の近侍(彼女がそう呼ぶのでそれで定着した)のジャックがきょとんと首を傾げる。
「おかあさん…?」
「そっかー、そうだよなー、当然それもありうるよなー。…しかも
「ねえ、どうしたの?おかあさん」
「……。どうしよう、血の雨が降る気しかしない…」
「おかあさんってば!」
ジャックが強く背を揺すると、彼女はようやくジャックの呼びかけに気付いたらしく、ハッとしてジャックを見た。
「…あ、ごめん。ジャック。何?」
「何?じゃないよ。おかあさんこそ、どうしたの?怖い夢でも見たの?」
「…。ある意味で、それで間違ってないかもしれない」
きょとんとするジャックに、彼女はへらりと笑みを浮かべてみせた。
「先輩の家族…ですか」
「うん。といっても、両親じゃなくて兄弟。あと+して幼馴染の誰か…何人ぐらいだろうなあ。十人以上来ないといいんだけど」
「幼馴染ってそんな沢山いるものだっけ?」
「あれだよ。ソロモンで言うなら転生したら七十二柱が全員人間になって同じ街に住んでたようなものだよ」
「…。いや、彼らはそこまで僕の事好きじゃないと思うな?」
「僕がどの程度彼らに好かれてたかはまあ、サーヴァント陣見てたらわかると思うけど」
「好かれてる自覚はあったんですね先輩」
彼女はわざとらしく溜息をついてみせる。
「そりゃあ、嫌われてるのと素直に仲良くできないのの違いぐらいは分かるよ」
「いえ、その辺りではなく…いえ、それも含まれるのかもしれませんが」
マシュが少し頭痛でもしていそうな顔をしている。彼女は肩をすくめた。
「僕はビジネスライクの関係でもいいんだけど」
「あれだけ細やかに気を使っておいてよく言うよ…」
そもそもマシュだって彼女のサーヴァントである。ドクターは若干立ち位置が微妙な所ではあるのだが。
「まあそれはともかく。とりあえず今のところ僕が想定できるエンドが監禁エンドと、虐殺エンドと、心中エンドと、戦争エンドあたりなんだけど」
「平和的な解決はないんですか!?」
「残念ながら、来るメンバーにいるかはともかく、幼馴染の中に"主を主と呼ぶのは僕たちだけで良い過激派"がいるから、僕の槍とか剣とか刀とか自称してるサーヴァントに遭遇した時点で戦争が避けられない」
「…言いたくないけど、アイカちゃんからのマスター命令で止められたりは?」
「そもそも僕、自分が彼らの主だって認めてないからね。いや、全く人違い、とかって話じゃなくて、前世と今世は別人だって意味合いでだけど」
主として命令するということは、自分が主だと認めるということである。
「まあ、ざっくり言うと、程度の差はあれみんなヤンデレだから、僕が物理的に縁切りして出てきた時点で割とあかん√入ってそうだけど、そもそも自害からの転生ルートの時点でほの暗いエンドしか用意されてない気がしないではない」
「ぶっちゃけちゃいけない事をぶっちゃけた!?っていうか、自害って言った!?」
「おー。目の前で自害した。だからヤンデレ化したのも仕方ないかな感はある」
マシュがすっと青い顔になろうとしたところで彼女がその頭を撫でる。
「マシュは想定しないでいいし、同情もしなくていい。前回の俺と彼らが選択を間違っただけの話だ。いや、前回は守れなかったから今度こそ…ってなるのはまあ、わかりやすいだろうけど、まあ、価値観の違いで正直迷惑なんだよね」
「…先輩は、護ると言われるのは迷惑なのですか?」
「いや、あいつらの守るすなわち監禁ルートだから駄目なの。後自分ら以外の他人は絶対近付けない箱庭エンドだから駄目なの。籠の鳥は僕の趣味じゃないからね」
「なるほどヤンデレ」
「そうだよヤンデレ」
ドクターと彼女は揃って深く溜息をついた。
「ヤンデレは三次元で遭遇したくないよね…」
「解釈によってはゲーティアたちもヤンデレみたいなもんだと思うけど。というか、サーヴァントの中にもヤンデレが含まれている僕の前でそれを言うかな???」
「先輩、清姫さんは自身はヤンデレではないと証言していましたが」
「ファントムも思うままに行動するようになったらヤンデレだよね?というか、うん…真っ当というか、ノーマルじゃない願望を持ってない人が自重を止めたらそれは全部ヤンデレになると思うな?」
「それは流石に解釈が乱暴すぎるんじゃないかなあ…」
「…契約者よ」
「首を差し出せ案件にはしなくていいからね。…いや、キングは首を出せ、だっけか」
音もなく背後に立っていた巨大な影を見上げ、彼女は少し困ったような顔をする。
「嫌いじゃないんだよ。縁切りはするし帰るつもりは毛頭ないけど。…家族として、幼馴染としては愛してるしね。俺も部下として愛していたし」
「汝が命じぬのであれば、我は影に潜んでいるとしよう」
「
「・・・」
「…いや、うん、君らが暗殺を警戒するのもわかるんだけどさ」
彼女は僅かに体ごと頭を傾けてみせる。
「現世にいるのかな、キング達を出し抜けるような暗殺者」
「その油断こそが隙となるものである」
「それはそうなんだけど、折角召喚に応えてくれたんだから、もっと姿を見せてくれたら嬉しいなって」
彼女はそう言って柔らかい笑みを浮かべてみせた。
「…我を恐れるものもいるようだが、それはよいのか?」
「それこそ、時間がたてば慣れるでしょ。キングが気合入れて脅したりしない限り」
キングハサンは頷くような動作をした。彼女はそれに嬉しそうに笑う。
「何時まで経っても慣れぬとあれば、汝の守りには相応しくなかろうな」
「おー、そこまで言っちゃいますか。まあ、それはそれで僕がシフトとかに口出しするけど」
「主の采配に異を唱える暗殺者はおらぬだろうな」
「いや、不適切な事を言ってたらちゃんと指摘してくれなきゃ困るよ?」
「契約者は物理的な排除は望まぬそうだ」
「(現世からの)物理的な排除」
キングの言葉を繰り返して式は少し呆れたような顔をした。
「そりゃあ、仮にも血の繋がった家族やら幼少期からの幼馴染の死を望むような人間じゃないだろ、アイツは」
「うん。こいつは確実に来る、っておかあさんと男の子が笑顔で映ってる写真を見せてくれたよ」
「それはどのような男だ?」
「えっとね、おかあさんは、"小次郎とキングを足して割った感じ"って言ってたよ。紫色のふわふわした髪の男の子」
スカサハは神妙な顔をしてキングと小次郎を見る。どう足して割った感じなのだろうか、さっぱりわからない。
「それと、おかあさんのお兄ちゃんと双子の弟もほぼ確実に来るだろう、って」
その二人の写真も見せてもらったけど全然似てなかった、とジャックは付け加えた。
「…ああ、旦那はんが前ゆうとったなぁ、小僧見てるとお兄はん思い出すて」
「ああ、それで…」
単純に気が合うという面もあるのだろうが、彼女は金時を兄弟のように慕っているところがある。基本的には悪友のノリだが。
「愛歌、心配したんですよ。…変わりないようで一安心、ではありますが」
「え、あー…ごめんなさい、まー兄」
「いえいえ。あなたが健やかであれば、それでいいのです。あなたの幸せこそが、僕たちの望みなのですから」
にこり、と青年は笑みを浮かべてみせる。彼女はそれに苦笑いのような表情を返した。
「あの…この方が、先輩のお兄さん、ですか?」
「あ、うん。紹介するよ。僕の兄のましろ。兄さん、こっちは僕の愛すべき後輩のマシュ」
「長田ましろです。妹がお世話になっているようですね」
「マシュ・キリエライトです。こちらこそ、先輩にはお世話になっています」
会釈を交わした後、ましろはところで、と首を傾げてみせる。
「そこの影に潜んでいる方たちは紹介してくれないのですか?愛歌」
「…。うわ、兄さんの偵察スキル高すぎ…?」
「妹が迷子になったら探しに行ったり、妹に近付く悪い虫を潰したり、妹を害す連中に制裁を加えたり、妹に邪な視線を向ける連中の目を潰したり、妹を困らせる輩を抹殺したり、妹が助けを求めた時に真っ先に助けにいったりするのは兄の役目ですからね」
「まー兄は心配性だね。僕、そんなに何でもかんでも兄さんたちにやってもらわなきゃならないほど子供じゃないよ」
「僕たちは、本当に愛歌のことを大切に思っているんですよ」
「…先輩、ましろさんの発言に不穏なものが多数含まれていたような気がするのですが先輩…!」
動揺した様子のマシュの言葉に、彼女は黙って首を振る。
「先輩…」
その時、入館チェックが終わったものがまた二人、やってくる。
「君が中立・善というのは何かの間違いじゃないのかい」
「それはそっくりそのまま、お前に返そう。…。いや、一応掟破りはしないか、お前は」
「一応とは何だ、一応とは。僕は文系だよ、横紙破りなんて雅じゃないことはしない」
「国重、小歌さん、往来で喧嘩をしてはいけませんよ」
「う…。…む、愛歌、何だその顔は」
「…。いや、うん。国重は何処にいても国重だなって。マシュ、僕の双子の弟の国重。隣は幼馴染の小歌」
「愛歌の双子の
「僕は兼定小歌。彼女とは生まれる前からの付き合いの幼馴染だ。どうぞ、よろしく」
「マシュ・キリエライトです。…って、あれ、結局どちらが…?」
「弟だ」「妹だ」
「弟でいいんじゃないかい。振り回され具合からして」
「妹が正しいのではないでしょうか、関係性的に」
困惑するマシュに、彼女は兄弟をちらっと見て肩をすくめてみせる。
「まあ、双子によくあるやりとりだよ。気にしないで」
結局、今回来たのは12人だった。
ましろ、国重、小歌に加えて、三条の長兄つるぎと次兄のしきり、末っ子のみつき。藤城研と乱の双子。五条伊鶴、相州貞宗。獅子尾理音。堀川陸。メンバーは三条の上二人と長田兄弟以外はじゃんけんで決めたらしい。
「…男の方ばかりですね?」
「…何を隠そう、僕の幼馴染は全員男だからな…」
彼女は若干疲れたような顔をしている。全員をマシュと顔合わせさせただけでこれである。
「それで、そちらに控えている方々は紹介してくれないんですか?愛歌。何か不都合でも?」
つるぎが薄く笑みを浮かべて首を傾げてみせる。彼女は肩をすくめた後に言う。
「…。顔合わせしておこうって思う人は出てきてくれる?」
彼女の呼びかけに応えてぞろぞろと出てきたサーヴァントと幼馴染たちの間にいくらか緊張した雰囲気が漂っている。マシュは胸を押さえて小さく溜息をついた。
「セイバー、アルトリア・ペンドラゴンです。こちらは私の円卓の騎士のガウェイン、ベディヴィエール、ランスロット」
アルトリアの言葉を受けて三人の騎士が会釈をした。
「アーチャーとして現界しているアルジュナと申します」
「ランサーのヘクトールだ」
「子ジカのベストパートナーのエリザベート・バートリーよ!」
「キャスターのエレナ・ブラヴァツキーよ」
「ルーラークラスで現界しています、ジャンヌ・ダルクといいます」
「アサシン。契約者にはキングハサンと呼ばれている」
「主殿の忠犬、牛若丸だ」
「ますたぁの妻の清姫です」
「この子の母の源頼光です」
「えっと、アサシン、静謐のハサン、です」
「僕はドクター・ロマン、ことロマニ・アーキマンだよ」
「待て、何かおかしいのいたぞ今!?」
理音からつっこみが入る。彼女はすっと目を逸らす。
「そうですね。とりあえずあそこの痴女と蛇は僕が殺します」
「やめてくださいつるぎくん」
「何を言うんです、愛歌。僕の愛する"
サーヴァントたちの視線が驚愕と共につるぎと彼女に集中する。
「…婚約者?」
「ぼくは、しょうちして、ない」
「両親の了解は得ましたし、結納も済ませましたが」
「やっぱり僕は幼馴染をそういう目で見れないというか何と言うか」
「僕は体の交わりがなくとも合法的にあなたから他の男やら女やらから遠ざけて正夫を名乗れれば充分ですが」
「俺は性的な目で見ているぞ」
「そのカミングアウトいらない」
彼女のじと目に、みつきは常人であれば魅了され骨抜きにされるような微笑をうかべてみせるが、彼女はますます胡乱な顔をするだけだった。
「…アイカが何故無性愛者を主張しているのかがわかった気がします…」
「ええ…ついでに魅了耐性の高さの理由も知れたわね」
「苦労していたのですね、アイカさん…」
アルトリア、エレナ、ジャンヌの三人が彼女に気の毒そうな視線を向ける。
「みつき、君はまた余所の人の前で雅じゃないことを…何故たった一刻も猫を被っていられないんだい…」
「はは。なに、牽制というやつだ。俺たちの可愛い
「愛歌が余所の男なんかになびくわけがないだろう。何を言っているんだ君は」
小歌が真顔でそう言い切ったところでマシュが彼女の袖を引いて尋ねる。
「…あの、みつきさんにも妻と言われていましたが」
「うん、こいつら、一妻多夫を実行する気満々なんだ。もちろん僕は承知してない」
「だって、愛歌、僕が一人選んでほしいと言ったら困った顔で"誰か一人選ばなきゃいけないの?"と仰ったじゃないですか。選べないのでしたら、仕方がないですよね」
「それ明らかに一人も選びたい人がいないってことじゃないかしら」
「…そうなのか?愛歌…」
「やめて陸、君にそういう視線向けられると僕は弱いんだ」
陸にしょぼんとした視線を向けられ、彼女は自分の顔の前に手で盾を作るような仕草をして目を逸らす。
「あんたが嫌がることはしたくないが、あんたが必要としてくれないと、俺は…」
「重い!相変わらず重い!!くそ、イケメンの癖に!イケメンの癖に!この卑屈ボーイが!!」
彼女はハグをしてよしよしと陸の頭を撫でまわす。大体犬猫と同列の扱いである。
「あ、ずるいぞ陸。俺も久しぶりに愛歌を抱きしめたい。補給したい」
「早い者勝ちだ」
「くっこのお隣さんが故の余裕…!」
などとやり取りをしているところに清姫が割り込んで彼女を幼馴染たちから引き離す。
「わたくしの
「…ハァ?君に出会う前から、彼女は俺の
「僕は誰とも恋人とか夫婦とかになった覚えはないなあ…」
「俺はちゃんと出会った年の君の誕生日に指輪を贈っただろう。ちゃんと正しい指にはめたはずだが?鶴は一途なんだ。生まれ変わっても俺という個体の番いは君一人だ」
「マジかよお前わかってて左手の薬指に…じゃなくて、受諾した覚えはないからね」
「しかし君はあの指輪をちゃんとずっと持っていてくれただろう?俺に似ている、と…俺の一部だと本当は見抜いていたくせに」
「見抜いてない、見抜いてない。単純に気に入ったのと君が持ち歩いて欲しいって言ったんじゃないか。あ、っていうかつまりアレ君がじゃらじゃら付けてた鎖あたりから作ってたんだな?道理で君の匂いがするわけだ…」
「その通りだ。流石きみは頭の回転が速いなあ」
「先輩…」
「うう、何故か後輩の視線が痛い…」
マシュが少し呆れたような視線を彼女に向けるのと対照的に、ロマンは憐れむような視線を彼女に向けている。この子自覚してないだけで確実に色々とやらかしている。
「彼らがヤンデレ化したのは自分の所為だとか言ってたけど、多分ヤンデレ化してなかったとしても重い愛情を向けられてたんじゃないかい、君」
「まあ正直それは否めないんだけど、そもそも彼らの人間性の基盤というか、元々の本霊が所持しない感覚とか常識とかそういうのの
「えっ」
「監禁箱庭系なのは神様思考の所為かな、とは思うんだけど、排他的思考と自分がどう思われるかを度外視して一途に相手に自分の思う幸福を押しつけるのは俺の影響かなって」
「とはいえ、永遠を求められるのは重いを通り越して鬱陶しい…って言ったら暴走ルートだよね、あの子ら」
「まあ、当初より精神的に落ち着いたとはいえ、お前に拒絶されたら発狂するだろうな。そもそもお前が逃げ出した時点でギリギリだが」
「いやだって、色んな意味で身の危険を感じたからね。色んな意味で」
彼女は、はあ、と大袈裟に溜息をついてみせる。国重は肩をすくめるような仕草をしてみせた。
「まあ。たとえお前が他の人間と結ばれようと、その魂が死後に俺たちの元へ還ってきてくれるのであれば、説得はできるのだがな」
「それ広い意味での箱庭神隠しルートでしょやだー。僕死後はニルヴァーナルート希望なんですー」
「…だから俺も、あなたを転生させるというのは反対だったんだがな」
ぼそり、と呟いて国重は彼女の頬を撫でる。
「主に再び生を受けていただいても、主が生き返る訳ではないのだと、俺にはよく分かっていた」
「僕は俺とは別の人間だからね。既に死んだ人間と一緒にされても」
「とはいえ、流石に此処まで外見からして似ても似つかない人間になるとは思わなかった。…いや、本質は変わっていらっしゃらないとは思うのだが」
「そりゃお前、僕だって一度した間違いを繰り返す気はないよ」
己の瞳を覗き込む瞳を彼女はまっすぐに見つめ返す。
「あなたにとって、主は間違いであったと?」
「少なくとも、俺は俺が間違いであったと認めた。だから死んだ。それなのに、僕が俺と同じ道を選ぶのでは、死んだ俺が報われない。浮かばれない」
「…主が間違えたのは、あの時に死を選んだ事そのものです。主の全てが間違っていたなどということは、ありえません」
「いや僕に言われても」
肩をすくめた彼女を国重は抱きしめる。縋るようなそれに溜息をついて、彼女はその背を優しく撫でる。
「あの子らほどじゃないけど、前の事を大概引きずってるよね、君も」
「俺たちにとっては、主が唯一の御方です。主にとってはそうではないとしても」
「…まあ、審神者になってからあの日までは、お前達が俺の生き続ける理由だったさ」
「それなら、何故…」
「そんな当然のことを、言葉にして欲しいのか?」
彼女の呆れたようなぶっきらぼうな言葉に、国重は口を噤む。そして、抱きしめる腕の力を強めた。
「わかっているくせに。だからお前も大人しく
べりっという効果音が付きそうな強引さで似てない双子が引き剥がされる。引き剥がした手の主を、国重は顰め面で睨み、彼女はきょとんと見上げる。
「アヴェンジャー。どうしたの?」
「双子だからと言って、些か接触過多ではないか?」
「彼女は俺の半身だ。他人に咎められる謂れはない」
「ほう、奇遇だな。俺にとってもマスターは我が半身と呼ぶべき存在だ。貴様の事は知らんが」
「僕を挟んで争わないで」
彼女はうんざりしたような顔をして二人を見る。どちらも大人しく引きさがりそうな気配はない。
「愛歌、この男は何だ。何を根拠にお前の半身を自称している」
「その辺の詳しい事情を説明するのは面倒くさいので省くけど、彼は僕の契約しているサーヴァントだよ。
「復讐…?小夜左文字の仲間か?」
「んー、まあ当たらずとも遠からず…?」
アヴェンジャーは物言いたげな顔をして彼女を見るが、自分で色々と説明をする気はないようだった。彼女は当然本人の言っていた通り説明する気がない。
「己の復讐のためにアレを使ってやる事はなかったくせに、それの手を取ったと?」
「それを言われるとちょっと辛いのだけど、まあ、結果的に復讐自体はなされてるっぽいし」
眉をしかめる国重に肩をすくめた後、彼女はアヴェンジャーを見る。
「そもそも、アヴェンジャーと契約したのも別に個人的な復讐のためってことはないしなあ」
「…まあ、望めば手を貸すがな」
「今のところそういう意味で借りる予定はないかなあ」
「お前が望めば手は幾らでも出てくるぞ?」
「やめて洒落にならない」
彼女は本当に嫌そうな顔をする。国重はそれに仕方がないなあ、というような苦笑をうかべた。
「いい加減お前は己が周囲に愛されていることを自覚するべきだ」
「君たちが愛しているのは僕というより主だった俺のことだろう。君らにとってはそれは殆ど同一なのかもしれないが」
「それは区別する必要のあるものか?」
「少なくとも僕にとっては必要だよ」
彼女はちらりと流し目に国重を見る。
「俺と僕は違う人間だからね。思想が違う。感性が違う。外見も違う。僕は俺の知識を継承しているだけの別の人間だ」
「…いや、感性は同じだろう。お前の気に入りのぬいぐるみは主のきぐるみと完全に一致しているじゃないか。食べ物の好き嫌いも殆ど変わっていないし」
「感性ってそういう話じゃないし!!」
「無性愛者なのは主の時からずっとそうだろう?」
「そういう話でもない…!」
「じゃあ、何の話だ」
「…。僕はちゃんと丸が描ける」
「・・・」
真面目な顔で見つめ合う双子に、アヴェンジャーは僅かに眉をしかめた。
「大体、俺と僕が同一なら、私と俺も同一の筈なんだ。俺は私じゃない以上、僕も俺じゃない。…いやでも、私と僕が相似である可能性はある…?」
「…。まあ、確かに、主が人格ごと三歳児になった時はほぼ別人だったが」
「無敵の暴虐ロリータだったからね。アレは完全に俺とは別の人格だ」
「…子供が我が侭なのは普通の事だと思うが?」
アヴェンジャーが口を挟むと、双子は揃って首を振った。
「幼い頃は我儘だったが大人になって分別がついた、というレベルではなかったぞ、アレは」
「人格が完全に断裂して連続性を失ってたから、正直記憶喪失別人格レベル」
世代別英雄王っていうよりは、メルセデスとナイチンゲールレベルの違いかなあ。いやでもギル君は自分でどうしてああなるのかわからないらしいしなあ…。
一人でぶつぶつ言っている彼女にアヴェンジャーと国重は胡乱な視線を向けた。お互い情報が足りていないので彼女が何を言っているのか完全には分かっていない。
「あ、アイカ、やっと戻ってきたね。気付いてはいただろうけど、大変な事になっているよ」
真面目な顔を作ってそんな事をいうマーリンに、彼女はものすごく嫌そうな顔をした。
「やっぱり僕が収拾を付けなければならないのか…」
「そりゃあ、君のサーヴァントと君の幼馴染の問題だからねえ」
幼馴染ーずは割とあかん感じのヤンデレ
肉体が完全に人間になっているだけで、精神的には刀剣の頃とほぼ変わってない