ろくでなし千里眼のつどい
独自解釈多め
「アイカちゃんは千里眼は碌でなしぞろいだっていうけどさ。そこまでかい?」
ぐてりと炬燵の天板に頬を付けたまま問いかけられたある意味全ての元凶からの言葉に、彼女は何を言ってるんだこいつという顔をした。
「おや、ドクターは未だに理解していないんですか、僕らがいかにろくでなしなのかということを」
「僕らって言った!?自分自身も含めた!?」
「ええ、客観的に見て僕…というか、俺が割と碌でなしでした。ある意味自業自得と言えなくもない」
はあ、と息を吐いた彼女に、彼はきょとりと目を瞬かせる。
「…えっと、なんだっけ、自害したんだっけ?部下の前で」
「上っ面取っ払って、要素だけ抽出すると、ソロモン王と同じですよ」
チェシャ猫のように彼女は笑ってみせる。
「それ以上嫌なものを見るのが嫌だったので部下に押し付けて、自分は人間として死ぬためにそれ以上生き続ける事を放棄したんです。生き続けようと思えば、それこそ永遠にだってなれない事はなかったのに」
「…。いや、僕はそういう事ではない、よ?」
「少なくとも、ゲーティアと話した感じと僕の見た感じだとそんな感じになると思うんですけど」
「いや、そりゃあ、まあ、あそこで死んだのは人間として死ぬためだし、魔術を駆使すれば死を超越することだって不可能だったとは言わないけれどね?」
「それでもって、それをちゃんと部下に説明しなかったがためにあんなことになっちゃったんですよねー」
「否定できない…」
「フラウロスが王の恩寵を失った、と評したのは、ソロモン王が死んだことでしょう。まあ推測で言っているので正確にどうかはわからないんですけど…少なくともあなたが死を選んだことが彼らにとって重大事件だったことだけは確実ですし」
「いや、だって私人外になる気はなかったし」
「よく考えてみると、俺の部下と魔神たちって要素で見るとそこそこ被ってるんですよねー。まあ、あの子らは被使役者の立ち位置を厭ってはいないどころか好いていますけど」
とはいえ、それは主に愛されているという確信あっての話ではあるようだが。人々の愛情によって生まれたと言っても過言ではない故か、彼らは人間を愛していて、人に愛される事を望んでいる。
「対照的な部分もそこそこあるんですけど、なんというか…うん。実はグランドオーダー中のゲーティア、ソロモン王にヤンデレったりしません?」
「怖い事言わないでくれるかなあ!いや、多分…そういうのはないと思うよ?あの反応にあの反応だし」
「まあ僕がいっているのも割と三段論法的な推測なんで信憑性は微妙な所ではあるんですけど。単純にそれが都合が良いという事を差し引いても死んだ主の躯を維持し続けるって結構…」
「まあ生前の姿を維持し続けていたという意味では、単純にその方が便利だというのもあるだろうけどある種の執念的なものを感じないではないというかなんというか…」
深く溜息をついて、彼はまたぐてりと天板に突っ伏す。
「ところで、君の
「まあ大体、陰謀ってやつですかねー。あっちは多分、俺を殺すつもりはなかったと思いますけど。控え目に言って、政府にとって利用価値のある人材ではあったので、俺。後ろ盾とかコネとか全くなかったんでまあ色々と、搾取対象にもされやすかったんでしょうけど」
「自分で言っちゃう?」
「言っちゃう。まあ、人間社会に後ろ盾になるような人がいなくとも、神様がどやどや見守っててくれやがった結果、こんなことになってますし」
「実は神様が嫌いなのかい、君」
「まさか。うちの神様とかはちゃんと信仰してますよ。神様にもたらされるあれこれに辟易しているだけで」
「まるで神代の人間のような発言」
「ある意味で、あちらの世界は神代に立ち返っていたようなものなのかもしれませんね。その是非はともかく」
彼女もべちゃりと天板に頬を付ける。
「神隠しとか普通に在り得ることだと認識される程度には神様が現世に干渉できる力を現実的に持ってましたし。いや、うちの国だけかもしれないんですけど。やたらと国民の神様という存在への信仰心が高まっていたというか、政府が高めたというか」
「国外に出たことがなかったのかい?」
「カルデアに来るまで国外に出たこと一度もなかったですね。必要性もなかったし特にそうしたいとも思わなかったので」
ああでも、と彼女は付け加える。
「ゾーリンゲンサーバーのことを考えると、国外でも似たような技術は研究されていた可能性自体はあるんだよなあ…」
「ゾーリンゲン…ああ、ドイツのゾーリンゲンのことかい?」
「多分。まあ俺も詳しい事は知らないんですよね。敵の識別信号がそんな名前だったってだけで。敵が何だろうと、何を目的としていようと、敵として現れるのなら斬るだけ、って感じだったので」
「自分で考えようとはしていなかった、と」
「ミステリーでも余計な事を知り過ぎると殺されてしまうというのが定番の殺害理由の一つじゃないですか。一種の自己防衛術ですよ」
彼女はまたチェシャ猫のように笑い、まあそれはそれとして、と言う。
「話を戻すとですね。まあ、何があったかと言えば…言ってみれば、拠点の乗っ取りですね。本丸って呼ばれてたんですけど。言ってみれば、こう、契約困難なサーヴァントも多数召喚して、召喚したサーヴァント全部限界レベルまで育て上げた、みたいな優良本丸だったんですけど、契約主の首すげ替えを画策されまして」
「カルデアで喩えないでくれないか生々しくなるから」
「で、僕にとってのマシュにあたる子を盗られたので自害しました」
真顔になった彼に、彼女はにっこり笑顔を返す。
「他の子たちは、惑わされたり惑わされてなかったりしたので、全員に裏切られた、と認識した訳ではないんですけどね。…どうも、認識をいじったり感情を反転させたり操作したり?といった方向の呪具を使われてたらしいんですけど、俺にとってはそんなこと知ったこっちゃなかったので」
「え、え、なにそれこわい。というか、それ何で阻止されなかったの」
「うーん…多分、その場にいたのがほぼあのクソガキに惑わされてた子だけだったからですかねー。俺が首切った時点でちょっぱで駆け付けてきたのも数名いた気がするけど」
「くそがき」
「戦場に男漁りに来る娘なんてクソガキで充分ですよ」
「…え、そういう意図での乗っ取りなの?勢力争いとかでなく?」
「うちの陣営が一枚岩だったとは言いませんけど、かといって勢力争いがあったかといえばそれも微妙な所ですね。そもそも基本的に本丸複数合同で任務に当たるという事がなかったので。互助組織とかもなくはなかったですけど、情報のやり取り程度しか基本なかったし。演練はありましたけどランキングはなかったですし」
「えー、じゃあ、同一サーヴァントは召喚出来ないみたいな…」
「同じ本丸の中に同一の使い魔を100体降ろすみたいな事も理論上可能だったので、そういうのはないです。実際そのようなことをしてた本丸があるかは知らないんですけど…同一の使い魔の本体を複数保持してるみたいな話はちょくちょく聞いていたので多分なくはない…?うちも一人当たり一つ予備を確保してましたし」
「そんなに同じの沢山集めてどうするの?」
「俺はやってないので知らないです。…まあ、特定の使い魔を偏愛してる人とかいたらしいので多分そういう…うん…」
彼女は僅かに渋い顔をした。
「まあ、そんな感じで自害して…俺が死んでパスが断絶したのとか、浄化特化型だった霊力が血と共に飛び散った結果とかで、俺が死んだ瞬間にクソガキのかけた呪が全部無効化されたそうで」
「すごい地獄絵図になるとしか思えない」
「すごい地獄絵図になったらしいです。うちの子がすべからく堕ちて本丸が祟り場になったとか。その余波でクソガキも祟られ死んだようだとかなんとか。祟り場の浄化は相当困難だったので最終手段として俺が転生する羽目になったとか」
「…最終手段?」
「祟り神を祟り場から引き離して個別に浄化するとかなんとか。勿論祟り神の浄化は僕の役目です」
「で、自業自得って?」
「俺の自害が直接的なトリガーになったわけですからねえ」
「…。まあ、何となく君が彼らのヤンデレを推測した理由はわかったよ…。というか、聞く限り、君にその気があれば死なずに解決することも出来たんだね?」
「まあ、浄化特化型ですからね。呪具に気づいていればその浄化で乗っ取りの阻止はできたんでしょうね。多分。乗っ取り案件が出た時点でハッピーエンドとか存在しないですけど」
「何故だい。まあ、面倒な事にはなるんだろうけれど」
「元々、うちの子たち排他的性質が強めで、余所の人間を準敵対者か潜在的敵対者として見てる節があったんですよね。ありていに言うと、物凄く俺に対して過保護な所があって。で、乗っ取り案件…あの子らの認識的には、"主を奪われる案件"が発生したとなると、必然的に過保護さも加速する訳です。となると、最終的に絶対に主を奪われない為に、神隠しに持ち込む、というのが現実的解決としてアイツらやりかねないんで」
彼女は深く深く溜息をついた。ものすごく、嫌そうな顔をしている。
「元々好感度的に、政府の統計的に言われる神隠しの発生が懸念されるレベルまで到達してたのは疑いようがなくて、それでも神隠しが発生していなかったのは、その必要はないとあの子らが判断してたからなんですよね。そもそも本丸と神域の違いが外部からの干渉の難易度と現世との時空間の乖離度合い、空間の支配権あたりぐらいなので」
「必然的に神隠しに持ち込まれるのはバッドエンドだと」
「俺も死後はニルヴァーナ希望の人間でしたからねー」
「でも、君は君の部下たちを嫌っていた訳ではないし、好かれていることも承知していたんだろう?」
「そりゃあ、俺はあの子たちのことは愛していましたよ、多分」
「たぶん」
「俺は愛しているつもりでしたけど、それが本当に愛だったのか俺にも僕にもよくわかりません」
まあいうて基本的に元々神隠しエンドを逃れられるルートとかないんですけどね。