料理ネタ
人理修復前 ある意味別√かもしれない
「一部の人たちに僕が料理できない勢だと思われてるの本当に納得がいかない」
唐突に、談話スペースでそんなことを言い出したのはカルデア最後のマスター、その人である。ちなみにその場にいたのはマシュ、ロビンフッド、アーラシュに加えてジャックと小次郎という、比較的性質が穏やかなサーヴァントである。
「えー…誰に言われたんですか、そんなこと」
なんか面倒くさい事態が待ち受けてそうだぞ、という顔をしつつもマスターである少女に問いかけたのはロビンフッドである。彼は彼女が少なくとも簡単な料理は可能な腕前の持ち主である事を知っている。滅多に発揮されないが。
アーラシュはこの先どうなるか大体察しているのか既に苦笑いのような表情を浮かべている。ジャックは不思議そうにしているし、小次郎はやんちゃな子どもを見守る老人のような面持ちである。マスターに対して真面目な顔を向けているのはマシュだけであった。
「孔明先生とギルと頼光とあとエミヤ!っていうか、エミヤに指を切ると危ないってやんわり調理を止められた!」
「あー…あの赤いの、過保護ですからねー…」
「意図せず料理に血液を混入しそうになったことなんて、よっぽどちんまかった時ぐらいしかないってのに。面倒くさいからやらないだけで、大根を飾り切りで鶴に出来る程度には扱いなれてるもん」
「飾り切り…ですか?」
きょとん、と目を丸くしたマシュに、少女はん?という顔をする。
「あれ、日本の独自文化だっけ?食材に切り込みを入れたりして何かを模った形にするやつ。簡単な所で言うと、うさぎリンゴとかたこさんウインナーとかもそうじゃないかな。後、カレーのニンジンをお花とかお星さまの形にしたりとか」
「うさぎリンゴ、は、以前にマスターが林檎を剥く時にやっていましたね。シンプルながらも確かにウサギに見える形をしていました」
「ある程度力加減がちゃんと出来れば子供でもできるからね。あれはちゃんと切れ味の良い包丁を使った方が、不用意に力を入れすぎたりしない分安全だと思うんだよね」
「わたしは、あまり料理をしたことがないので意見は差し控えておきます…」
少ししょぼんとしてしまったマシュに少女は少し困ったような顔をした。
「ところで、マスターは何を作ろうとしてエミヤの兄ちゃんに止められたんだ?」
アーラシュが話を戻して問いかけるので、ロビンがそのまま話を逸らしてしまえばよかったのに、という顔をしている。少女は少しむすっとした顔をして言う。
「ちょっとドクターに合法睡眠導入剤盛ろうと思って」
「合法睡眠導入剤」
「ハムとチーズを使ったホットサンドに軽めのクロロホルム魔術を仕込んでやろうかと。トリプトファンの摂取による睡眠ホルモンの体内合成は時間がかかるから朝食べて夜よく眠れる類の奴なんだけど、チェリージュースも付ければまあ気休め程度にはなるかな、と。薬に頼るのは体に悪いからね」
言っている事は若干不穏だが、要するにホットサンドを作ろうとしていたらしい。
「不本意かもしれないが、そのままエミヤに代わりに作ってもらうってのは?」
「ドクターの人の良さにつけこんで食べさせる予定だから僕が自分で作らないと。後多分エミヤに頼んだ場合食事に魔術を仕込むとか許されなさそう」
「先輩はドクターの睡眠状況をそんなに心配しているのですか?」
「というか、あいつ何時寝てるの?っていう。ご飯もちゃんと食べてるか怪しいし。…いや、ちゃんと食事と睡眠を十分取っているか疑わしいのは他のスタッフの人たちもそうなんだけど、ドクターは特になんかこう…」
少女の言葉を受けてマシュは少し考え、そしてきゅっと眉根を寄せた。
「…確かに、次の特異点へのレイシフトの準備が整っていないこともあってわたしたちは待機を命じられていますが、その分ドクターたちは忙しくしていて…休憩を挟んでいるかさえ疑わしいように思います」
「だよね!」
「…だからといって、食事に魔術を仕込むのはどうかと思いますがね…」
ロビンの呟きは幸か不幸か少女の耳には届かなかったようだった。