君に奏でる子守唄   作:ペンギン隊長

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べった再録


第一部終了後、ふわっとしたネタばれ込

・展開に納得いかないなら全部マーリン協賛の集団幻覚だったと思ってくれれば
・いわゆる査察団とか協会からの補給人員とかそういうネタ


ぐだ子「NTRネタ地雷です」

 

 

 人類最後のマスターだった少女は、元々は特に魔術師とかではないただの一般人の数合わせとしてカルデアにやってきた人間である。

 少なくとも、公的記録にはそういう事になっている。

「お前の様な一般人より優秀な魔術師である私たちの方がマスターに相応しい」

 彼らの主張を要約すると、大体そういう事になる。それは、ある意味では正しいのだろう。実際的な色々を加味しなければ、そういう結論が出ても当然と言える。そもそも、元々彼女一人がマスターとして数多の英霊と契約を結んでいるという状況そのものが想定外のイレギュラーである。

本来であれば、カルデア全体として複数の英霊と契約を結び協力関係になるとしても、マスターとの関係は一対一になる予定だった。彼女が一対多で契約を結んでいるのは緊急事態ゆえのやむを得ない事である。大体、カルデアのバックアップがあると言っても、サーヴァントを維持するというのは大変な事なのだ。これはカルデアの技術あっての無茶苦茶なのである。

「…だから、彼らとの契約をあなたたちに譲渡しろ、と」

 問い返し、彼女は、ふわり、と場面に似合わぬ、花がほころぶような微笑みを浮かべた。その場にいるものが思わず見惚れ、一瞬時が止まったような錯覚さえ受ける可憐な微笑みはその場の誰もが初めて見るものであった。

「…ええ。よろしいですよ。では、彼らの許可を取りましょう。あなた方の契約を行いたいサーヴァントと交渉して召喚のための触媒を受け取ってください。そうしたら、僕はそのサーヴァントを送還しますから」

 にこにこと、笑みを浮かべて、彼女はそう提案する。

「は?何故そんなまどろっこしいことをする必要がある。この場で契約を私たちに移譲すれば済むだけの話だろう」

「は?何故僕がそんな無意味な事をする必要があるんです?」

 にこにこと変わらぬ笑みを浮かべたまま、彼女は言う。

「僕に手を貸すために来てくれた僕のサーヴァントを、何故あなた方に譲らなければならないんです?僕への厚意で力を貸してくださっている方たちですよ?それは、詐欺の様なものでは?同一の分霊を現界させられないので、仕方なく僕との契約を切っていただく、というところまでなら一万歩譲って説得しますけど、此処に召喚するために使っている"僕と彼らの縁"を譲渡することはできません。それこそ、どんな対価をいただいても吊り合うものではありませんから」

 要するに彼女は、契約したいのなら、送還するから自分で再召喚しろと言っているのである。

「なんだと…?」

「僕より優秀だとおっしゃるのなら、当然、僕にこなせた事ができないはずはありませんよね?」

 

 

 

 理論上の話で言えば、彼女の言う事は全くの的外れという事もない。通常の聖杯戦争であっても、マスターの鞍替えには難色を示すサーヴァントは少なくない。令呪を切って同意させる必要があって当然なのである。

 ちなみに、カルデアの令呪にサーヴァントへの命令権というか、服従の呪は含まれていない。アレはただの可視化された魔力の塊である。故に霊基の修復や強化にしか使えず、令呪を切ってサーヴァントを従わせるという事は出来ない。(ただし優秀な魔術師ならその魔力で呪いを編む事も可能ではある)

 カルデアの召喚形式の特筆点は召喚にサーヴァントとマスター双方の同意が必要である、という事である。逆に言えば、その前提があるからこそ、カルデアの令呪に命令権がなくとも主従関係が成立しているともいえる。カルデアのサーヴァントは純粋に彼らの厚意でマスターに従っているのだ。

 つまり、同意を得ずに契約だけ移譲してもまったくの無意味。マスターに従わないサーヴァントが出来上がるだけである。場合によってはそのまま殺されることすらあるだろう。

 召喚に応じるという事はそのマスターに従ってもよいとサーヴァントが認めたのとほとんど同義である。そして逆もまたしかりだ。

 

 

 

 

「…何故このような事を言い出した」

「確か、本霊が分霊の記録を取得するのは、分霊が還った時、という話でしたね」

「おい、マスター」

「此処にいる分霊の皆さんが主替えに同意しないのは明白ですけど、本霊さんはどういった意見をお持ちなんでしょうかねぇ」

「マスター」

 呼びかけに振り返り、彼女はにこり、と笑う。

「一般人を見下すエリート様に愛する部下を寝取られたの、僕の前回の死因なんですよ。ざっくりいって地雷です」

 死因と言っても、そこで死ぬ事を選んだのは彼女自身なのだが。

「…。そういえば、そういう話だったな」

「ええ。そういう話でしたよ。だから、僕は僕のものを自称:僕より優秀な人間、に取られることが一番嫌いです。仮に当事者の同意があっても地雷です。僕は、強欲で独占欲が強いので」

 にこにこと、彼女は笑う。薄々そんな気はしていたが、彼女は最高に腹を立てると笑うタイプであるらしい。

「…執着心のなさそうなお前にそれだけ執着を示されれば悪い気はしないがな」

「そうですねー、この騒動が終わった後、再召喚することを約束すれば送還に応じてくれますかね」

「俺はお前以外のマスターの召喚に応えることはない。試すだけ無駄だ。…他のアヴェンジャーも似たようなものだろうな」

「ジャネットとか、霊基が不安定だからそもそも再召喚出来ない可能性あるしね。まあ、その辺は外してもらうしかないかな」

 でも、と彼女は肩をすくめる。

「彼らが欲しいのはつよーいサーヴァントだし、尚且つ、あからさまに裏切りそうな予感を醸し出してる悪属性は避けるんじゃない?多分」

 別に、ジャンヌ・オルタが弱いと言っているわけではない。しかし、彼女はあからさまに悪属性である。気に入らないマスターを燃やすくらいの事はするだろう、多分。

「きっとアーサー王とか、英雄王とか、太陽王とか、わかりやすく強い人と契約したがると思うなー」

 そしてそれは、彼らの人柄を知っている面々から見て、あからさまに地雷である。アーサー王は場合によっては同意を得られるだろうが、やはり主替えには賛同しないタイプのサーヴァントである。そもそも、現在のマスターに対して主替えを望む程の不満を持っているサーヴァントがいないのだが。

 

 

 

 

 どのような話し合いが行われたものか、カルデアにいたサーヴァントの半数ほどが召喚の触媒になるものを残して送還された。残っているのは、大半が悪属性の、彼女以外には手に負えないタイプのサーヴァントである。送還を断固拒否された面々とも言う。

 故に。次に行われるのは当然、召喚の儀式である。彼女より優秀であると豪語する魔術師たちが、確実な保証を以てカルデアに残された触媒を手に、召喚に挑む。それを、彼女は残ったサーヴァントの内の数人と共に管制室で眺めていた。召喚実験場にいないのは、彼女の存在で召喚に影響を与えないためである。

「さあ、ここからが見物ね。あんたを馬鹿にした彼らが、どんな醜態を晒すのか」

「流石にひとりくらいは出るんじゃないかなー、ちゃんと召喚できる人」

「それはないわ」「それはないな」「それはないネ」

 異口同音に否定され、彼女はきょとんと目を瞬かせる。

「茶番のための一時的な契約解除だから応じたのであって、本気であんたとの契約を切ろうと思うサーヴァントはカルデアにはいなかったわよ」

「茶番が終わったら再召喚することを何度も念押ししていたものが何人いたか、覚えていないわけではあるまい」

「まあ、うっかり間違えて来ちゃうのがいないとは言い切れないけども、君が此処にいる時点でそういう事故の可能性は低いしネ?そもそも、そんな中途半端な状態になったらカルデアが大変な事になるだろう?」

 ある意味で。この異常な状況だからこそ、逆に均衡が保てているのである。

 マスターは一人だから対立の起こりようがない。サーヴァント間での対立はあっても、マスターを間に挟めば渋々矛を収める事が出来る。これが複数のマスターに別れて本格的に派閥が形成されれば内部崩壊待ったなしである。カルデアは自滅するだろう。

「あー…うん。そうなったら僕、面倒くさいの嫌いだから雲隠れするわー…ちょいちょいっと妖横丁あたりに移住するわー…」

「一人で逃げる気かマスター」

「物理的な戦闘も好きじゃないけど、非物理的な戦争はもっと苦手なのよ、僕」

「なにかね、そのアヤカシヨコチョウ?とは」

「時間と空間の制約から切り離された狭間の空間にある妖怪の町。ちなみにただの人間が迷い込むと帰ってこれなくなるともっぱらの噂。まあ、系統的に言えば妖精郷とか龍宮とかと同系統になるのかなー」

「堂々と失踪宣言したわね!?というか、何でそういうところに当然のようにいける前提で話してるのよ。普通の人間に辿りつける場所じゃないって話じゃなかった?妖精郷とかって」

「昔はちょくちょく行ってたし行き方わかってるからへーきへーき。というか、何なら虚数空間だって生活空間にできるレベルになって一人前だったからね僕の前職で術師名乗る場合」

 

 

 

 などという彼女たちの雑談を他所に、実験場では召喚の儀式が行われていた。

 召喚触媒となる英霊たちの残した装備品の一部や直筆の書面など、それと、召喚のためのエネルギーを生み出す聖晶石。此処に英霊の同意とマスターとしての資質があれば召喚が成立する、というお膳立てされた状況で、召喚の成功を疑うものは当事者である彼らの中にはひとりもいなかった。

 そう。当事者である彼らの中には。グランドオーダーの時からいるカルデアの職員や、マシュ、カルデアに残留しているサーヴァントたちは、寧ろそれがことごとく失敗するであろうことを確信していた。

 何故なら、今召喚を行おうとしている彼らは、英霊たちに手を貸そうと思うに足るものを見せていない。誠意も、魅力も、覚悟も、価値も、何も示していない。魅せていない。縁を結べていない。

 で、あるならば。どんなに触媒を用意しようが、同意を引き出せない限り召喚が成立しないこの召喚式においては無意味な話である。寧ろ、彼女は召喚に物的な触媒を使用した事はない。純粋に、レイシフト先での縁による召喚なのである。その縁が結ばれたのが、召喚の前であれ、後であれ、そんなことは些事にすぎない。なにしろ、英霊の座とは時間軸を超越した場所にあるので。

 

 

「何故、誰も召喚に応えない?!」

「おかしい、こんなはずは…」

「たった一枚のセイントグラフすら出現しないだと…」

 それは、例えるならばガチャ爆死という惨劇の訪れた後の残骸であった。

 召喚の結果出現したのは、全て概念礼装のみであった。それが偽らざる事実である。そしてそれは本人たち以外から見れば、ただの予定調和であった。

 

 

 

 

 

「マイロード、で、いつ再召喚するんだい?」

「あの人らが諦めたらカナー」

「見事なまでのグロガチャだったねー。うちのマスターを馬鹿にするからそうなるんだ」

「マスターだけでなくサーヴァントも馬鹿にしてたと思うけどねー」

 若干季節外れになってきた感のあるこたつを囲んで、キャスターとマスターはのんびりと駄弁っていた。

「そもそも、彼女をただの一般人だと思っているのが大きな間違いだ。彼女は私の後継みたいなものだというのに」

「いや、それは過大評価だから」

「我が王の後継というには、彼女は責任感の欠片もなさすぎる」

「まあスペックだけで言ったら間違ってないけどねー」

 千里眼が不穏に笑う。

 そう、スペックだけ並べ立てれば、彼女の資質はソロモン王のそれに準じている。"数多の強力な使い魔"を呼ぶことのできる召喚術と、その場だけでなく過去や未来を見通す千里眼。もっといえば、彼女には天啓スキルも付いている。千里眼と天啓は不随意発動だが。

「ただし陣地(神殿)作成スキルはない」

「でも道具作成スキルはあるんだろう?」

「まあ割と趣味だからね」

「そうはいっても、グランドキャスターの資格は高ランクの千里眼の保持だから普通に該当する可能性があるんだよね、マイロードは」

「何かの間違いだと思うけどねえ」

 あはは、と彼女は呑気に笑ってみせた。

 

 

 

 

 





*ゲーム本編で描写された光景全部見えてたら十分千里眼じゃね、的なサムシング
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