東方スカートめくり 作:ゲルバナ
ですが、返信するとネタバレになってしまいそうな感想が多かったので今回返信はしておりません。申し訳ありません
俺がこの能力を覚醒させたのは偶然ではなかった。そもそも、この能力は覚醒したわけではなく人為的に発現させられたものらしい。
「そうだろ、八雲紫さん」
「あら、そうだろと言われてもどういう事だか」
俺の隣で何もないはずの空中に亀裂を走らせ、そこに腰を掛け扇子で口元を覆う女性。彼女こそが、俺に能力を発現させた張本人。幻想郷の管理者こと、隙間妖怪八雲紫である。隙間妖怪、という異名(今さっきつけた)はその名の通り、彼女は「境界を操る」異能を持つ。それは今行っているように空間に「境界」を作る事や、概念的にあいまいな境界、そこを操る事が出来るのだとか。正直目に見える前者はわかるが後者に関してはさっぱりわけがわからない。だが、俺の能力を発現させたのは後者の能力らしい。まあ、分からないことはいくら考えてもしょうがないのでそこは置いておく。
それでも、一つ聞いておかなければならない問題がある。
「なあ、八雲紫さん」
「あら、何かしら」
ちらりと、その視線をこちらへと向けて来る。奥底が見えない金色の瞳にはどことなく怪しい雰囲気が感じ取れる。正直、彼女はいつも何を考えているのかわからない。まあ、俺は人の考えが読めるほど良い頭はもっていないが、彼女に関してはさっぱりわからない。分かる事なんて胡散臭い事と、幻想郷が出来た当初から現存している程年季の入った妖怪であるという事くらいだ。
そして、今回だってそうだ。
「なぜ、こんな真似をしたんだ。俺に能力を発現させたところであんたにメリットはあるのか?」
「あー、そういう事ね。なるほど確かに、当然の疑問ね」
そう言いながら、パチン、と大きな音を出しながら扇子を閉じる。そして、その切っ先を俺の額に当ててきた。
「確かに、私にとってあなたは。何のかかわりのない赤の他人であるし、こんな真似をする義理はないわ。ただね、私にはあなたに落ち度があるの。その借りを貸したままにしてぽっくり逝って恨まれでもしたらひとたまりもないでしょう?」
扇子を閉じ、表情の見えるようになった彼女の口元は終始微笑んだままであり、威圧しているようにも感じる。正直、俺ごときが呪ったところでこの妖怪は息を吐くように容易く振り払ってしまいそうだが。
「今「俺ごときが呪っても」なんて思ったでしょう」
「なんでわかるんですかね……」
「そう顔に書いてあるわよ」
そう言われ、ふと自分の顔に手をやる。が、もちろんどこにも異常はない。例えなので当たり前なのだが、どうも目の前の妖怪を相手にしていると何もかもを怪しく思ってしまう。思い通りだったのか、再び開いた扇子を口元に当てくすくすと笑う。
「そうね、あなたが思ってるほどひとの「執念」や「想い」っていうのは小さいものではないのよ。現に私たちが産まれたのは、人の「恐怖」という感情が肉を付けたものなのよ」
「そういうと、なんだか生々しいですね」
「あらそうかしら。私たちにとってはあなた達のいう「呪い」の方がよっぽど生々しくて怖いけれども」
そうは言いつつも、どうにも八雲紫からは怯えというものは感じられない。むしろ口に扇子をあてて肩を揺らしてクスクスと笑う姿は楽しんでいるようにも見える。
やっぱり、彼女はわからない。わからないことは考えないのが一番だ。だからこの問題は俺の中でひとまず置いておくことにした。正直、八雲紫の分からない話に付き合っていられない。
「それで、あんたのいう「落ち度」ってのは、俺が幻想入りした事についてか」
「ええ、その通りよ。こちらであなたはなかなかに苦労三昧の生活を送ってきたようだしね」
全く、その通りだ。
こんな辺鄙なところにいきなり連れてこられたと思えば、いつの時代かわからないような貧相な生活。一日中畑や家畜の世話をし、月日がたつごとに手はボロボロになり、体の肉も落ちた。
全ての元凶はこの八雲紫なのだ。彼女のせいでこんな境遇になったのだから確かに見返りがあってもおかしくはない。
「まあ、そんなあなたにご褒美ってやつかしらね。感謝するといいわ」
「ははー、ありがたき幸せ」
頭を地面にこすりつけ平伏する。ちらりと目を上へやってみる。だが、彼女は腰を掛けた状態なのでその中身は見えない。せいぜい膝辺りまでしか目視することはできない。
「あらあら、感謝している割にはずいぶんな態度ね」
八雲紫は相変わらず何をしていてもその薄い笑みを崩さない。
彼女の事はさっぱりわからない。何を考えているのかも、彼女が何者なのかも。
だが、今日その謎めいた彼女の謎を一つ明かそうと思う。
「そのスカートの中身が何色の布なのかをなぁ!」
今までの態度とは一変して大きな声を張り上げる。
「八雲紫、あんたに貰ったこの能力の第一犠牲者はあんた自身だ!」
恩を仇で返すとはまさにこういうことを言うのだろう。だがそんなことは知ったことではない。正直、この能力を貰ったことには確かに感謝しているが、この3年間でため込んだ彼女への恨みはそれ以上だ。こんなもので許されるはずもない。そのスカートの中身を拝ませてもらおう!
そして、能力を発動させる。
この能力の発動条件は一つ、対象者に手をかざしてこころで念じるだけ。それだけで、能力は発動すると八雲紫は言った。言われたとおりに俺は手をかざし、ありったけの怨念と下心を込める。
変化は、起きた。
右の方角から風が吹いた、だがその風は穏やかなもので目の前の布を軽くはためかせる程度であった。余りにもひ弱な風は、俺の得意げだった心をあざ笑うかのように思えた。
「残念」
いや、あざ笑っていたのは風なんかではない。今目の前で腰を掛ける八雲紫であった。彼女の顔を見上げてやると、やはりというべきか、彼女は薄い笑みを崩さずにこちらを見下ろしていた。
「私自身が女であるにもかかわらず、無防備に目の前に立っているわけがないじゃない」
「なん……だと……?まさか、だましたというのか!!能力なんて嘘じゃないか!」
「嘘?心外ね。ちゃんと発動しているわよあなたの能力は」
「なんだって?先ほどのそよ風が俺の能力だというのか?」
そういうと、彼女の笑みが深くなった気がした。
すなわち、俺の能力は
腰に巻いている布が透ける訳でも、破れる訳でもない。風を起こしてスカートを持ち上げる能力だった。しかし、そよ風程度の風しか起こせずスカートの中は覗けないという重大な欠陥品。という事になる。
覗く程度の能力なのに覗けないとはこれやいかに。
「ふざけるな、こんなの認められるか!」
「認めるも何もしょうがないじゃない、あなたの霊力ではそれが限界なのよ。あきらめなさい」
ばかな
余りの脱力感に、両手を地面につける。こんな、こんなのなんて……!
俺の苦労がようやく報われたと思っていたのに……!
「あぁんまぁりだぁぁああああああ!
薄布捲の「幻想郷1周パンツ計画」は、ものの数秒で崩れ落ちる羽目になった。
「全く、人間の「執念」というものはやっぱり面白いわね」
捲を置いて隙間の中に帰った彼女は、やはり笑っていた。
「まさか、こんな結果になるなんてね」
彼女は隙間の中で笑い続ける。
こんな事態になるはは想定外であった。正直彼が能力を発動した時、いや彼が能力を「発動できた」とき、平常心を保てていたのは奇跡に近い。
本来、霊力も妖力も持ち得ない外界からの人間は、能力を持っていたところで発動はできない。現に彼には霊力が無く、発動ができるはずもない。
だが、彼の発動と共に風は起きた。偶然か、それはあり得ない。なぜならその時かすかに彼の身体からありもしない「霊力」湧き出たのだから。
それは彼が持つ「下着に対する執念」から生み出されたものなのか、はたまた私にため込んでいた「恨み」なのか、真実はわからないがあるはずもないものが湧き出たのは事実だ。長年生きてきた彼女でも、初めて見る事例であった。
「最近暇してたし、これは面白くなりそうね」
隙間の中、彼女は一人笑い続けていた。