白野ちゃんは叶えたい~凡才だけど頭脳労働~ 作:フロストエース(仮)
この世界は、つながった───
岸波白野は混乱していた。
目を覚ました時、そこが知らない天井だったからではない。
否。確かにそれに関しても驚きはある。だが、それ以上の衝撃的な事態が、今まさに彼女に起きていたのである!
「手が、小さくなってる……!?」
それどころか、その異変は全身に発生していた事に、数秒後の彼女は気付く事となる。無論、白野が絶叫したのはご愛嬌。
ひとしきり叫んだ彼女であったが、それにより落ち着きを取り戻し、現状把握を全力で努める。
(まずは状況を整理しよう。起きたら知らない部屋に居た。そして何故か体が幼くなっていた。……何歳くらいだろう?)
白野はベッドから起こした体を見下ろした。控えめであった胸は、幼くなった事で完全に平らになっている。
そして注目すべきは、小綺麗というか、とても高級そうな寝間着を身に纏っていた事か。
部屋を見渡した白野であったが、改めて眺めた事で感嘆の息を禁じ得ない。
ローマ風でもなければ、和風でもない。ごく普通──と言うには無理があるが、それでも普通な感じの洋風な造り。強いて言えば、いかにも大金持ちの家の子どもに割り振られたような様相の部屋だった。
ベッドから降り、部屋の探索を始める白野。
目についた高級そうな(というか部屋にあるもの全て高級そうである)勉強机に向かうと、卓上には無造作に置かれた一冊のノートが。
しかも、しっかりと『きしなみ はくの』とひらがなで書かれていた。
もちろん、白野にはそのようなものに覚えなどなく、自分の名前が書かれている謎のノートに興味を惹かれないはずもなく。
「……?」
手に取ったノートの1ページ目を開くと、そこには、
───帰りたい?
その一言だけが書かれているのみだった。
「……どういう意味だろう」
白野は思考を巡らせる。
帰りたい、つまりはここが白野にとっての本来の居場所ではない事の示唆ではないか? 疑問系である事が、その推測に拍車をかける。
ならば、どうやって帰るのか。そもそもここが何処なのかも分からない。まだ幼児化の謎もある。
帰る以前に、解決すべき問題であるのは間違いない。
とにもかくにも、情報が無ければ何も始まらないものだ。当然ながら、白野も少しでも情報を得ようと行動を開始する。
まずは手始めに、ここが何処であるのかを明らかにするために、部屋の外へ出ようと扉に向かう白野。
初めての幼い体に感覚が狂いながらも、どうにか扉の前までやってくると、ドアノブに手をかけた。
カチャリ。と音を立てて開かれた扉の先にあったものとは───
「遅かったな、雑種。ようやく目覚めたか」
偉そうにふんぞりがえりながら、あのクルクルと回る椅子に腰掛けた、黄金のAUOなのであった……。
「え、なんで!? なんでギルガメッシュ!?」
驚きのあまり声を荒げて、趣味の悪いスーツに身を包んだ彼へと詰め寄る白野。そんな彼女の額を手で押さえて制する黄金の王は、呆れたようにため息を吐いた。
「よく吠える雑種よな。
にやり、と意地の悪い笑みで彼は続ける。
「だが、それが幼少の貴様であるなら話は別だ。幼少期の存在しないお前を我手ずから育てたとなれば、ローマの小娘やあの女狐、アルテラめが悔しがる様が目に浮かぶようではないか!」
フハハハ! と、とても愉快そうに笑う王様に、白野はあんぐりと口を開けて一瞬機能停止になる。
「じゃなくて! なんでギルガメッシュが? ここが何処か知ってるの?」
「知らん。だが、だいたいの察しはついている」
ギルガメッシュの言葉に、期待で目を輝かせる白野。だが、その輝きは一瞬で曇る!
「故に、我が貴様を一人前に育て上げてやろうではないか。喜べ雑種。貴様は最古にして原初の英雄王であるこの我に! 人生をプロデュースしてもらえるのだからな!」
あまりの暴論、予想の遥か上を行く答えに、白野の思考はまたもやフリーズしかける。しかし! そこは気合いと根性で踏ん張り、なんとか意識を保った白野。
幾度となく乗り越えてきた修羅場により培われた精神力は、伊達ではないという事である!
「違う! そうじゃなくて! そうじゃなくて! どうやったら帰れるの!? あと体も!」
「ん~? 肉体に関しては、時が解決するだろうさ。そして帰る方法だが……、それは知らん」
不遜なまでの物言いと態度は、彼だからこそ許される。最初に語られた王。全ての英雄たちの起源となった英雄の王。
その自信も、慢心でさえも、彼が自負する通りであるが故に。
「さて……見たところ、今の貴様の肉体年齢は七、八歳といったところか。よし、余さず上流階級としての教養を叩き込む。せいぜい落ちこぼれるなよ、雑種」
「え、私に拒否権は……?」
そして、半ば強制的に岸波白野はギルガメッシュの養子として、スパルタ教育を受ける事になる。
時は流れ、十年───
現在、白野は私立秀知院学園に通う、高校二年生へとなっていた。
「……あれから十年、か。長かったような、短かったような」
「? どうしたんですか、白野ちゃん?」
生徒会室に向かう廊下の途中、ふと窓から差し込んだ日光を手で遮る白野。その輝きに、この世界での養父となったギルガメッシュとのやり取りを思い出してアンニュイになっていると、共に生徒会室を目指していた藤原千花が不思議そうに白野の顔を覗き込んでいた。
「ううん。何でもない。さ、生徒会室に急ごう。会長とかぐやも、もう来てるはずだし」
千花の問いかけを軽く流し、白野は前に向き直って歩を進める。そのあとを慌てて追いかける千花。
実のところ、十年経った今もまだ、元の世界に帰る方法を白野は掴めずにいた。
帰り方が分からない以上、気長にこの世界でやっていくしかない。ギルガメッシュの話では、幸いにもここは一種の夢の世界。元の世界との時間の流れは完全に切り離されており、意識だけがこの世界に迷い込んだようなもの。
故に、白野に刻限的な焦りはない。それに、帰る前にどうしても解決しておきたい事が、今の彼女にはあったのだ。
それこそが──
「遅かったな、岸波庶務に藤原書記」
「ごきげんよう、藤原さん。岸波さんは先程ぶりですね」
この二人、生徒会長こと白銀御行と、副会長こと四宮かぐや。
学園が誇るツートップにより繰り広げられる天才たちの恋愛頭脳戦。言い換えれば、恋愛戦争の解決という無理難題である!
要は、二人のどちらかを、相手に告白させるというだけの話なのであった。
だが、この半年でそれが如何に困難であるのかは、嫌というほどに理解させられた。プライドがやけに高い二人が、素直に周囲に互いが好きであると認めるはずもなく、ましてや相手に公言するワケがない。
下手に騒ぎ立てようものなら、告白自体が有耶無耶、最悪の場合ご破算に成りかねない。
つまり、彼と彼女のお互いへの好意は、当事者たちはおろか、周りの人間にも公には開示できない情報なのである。
だからこそ、白野は悩むのだ。見ていられないほどに白熱する、天才たちが繰り広げる恋愛頭脳戦に、凡人の自分がどのように立ち向かうべきなのかを。
どうやって、会長とかぐや、二人に告白させようか、と───。
「やれやれ。帰る前に、その行く末だけは見届けないとね」
「何か言いました?」
「何でもないよ、千花」
─────これは、決して岸波白野の恋物語ではない。
これは、岸波白野が友人の恋を応援する物語なのである。