白野ちゃんは叶えたい~凡才だけど頭脳労働~   作:フロストエース(仮)

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第2話 かぐや様は見つけたい

 

 

 

 

 

「宝探しゲームをしましょう!」

 

 

 

 

 とある昼下がり。いつものように生徒会室で昼食兼、適当な雑務に取り組んでいた白銀、かぐや、白野の三名。

 そこに遅れてやってきた千花が、入ってくるなり唐突にそんな事を言い出した。

 

「これまた急だな。どうしてそうなった、藤原書記?」

 

「いえ~。実は昨日、家で探し物をしてたらですね~。小さい頃に大事にしてたものが見つかりまして~」

 

「それがどうして宝探しゲームに繋がるの?」

 

 白銀、かぐやは千花の思考は把握できたものではないと理解している。故に今回も、何故そうなったのかが予想もつかなかったのである!

 

 しかし! 白野は違っていた!

 

「もしかしてアレ? 子どもの頃の大事なものを見つけたのが嬉しくて、宝探しを連想した的な」

 

「イグザクトリー! え、何で分かったんですか白野ちゃん!? ドンピシャですよ!」

 

「いや、まぁ……なんとなく? あははー(言えない。ウチの使えない理性蒸発ポンコツ使用人と同じ発想だったなんて。口が避けても言えない……!!)」

 

 千花からの純真無垢な疑問の眼差しに顔を背ける白野。その理由を口にするのは、「お前がアホだから」と言うのと同義!

 大切な友人に、面と向かってそれを告げるなど、白野にはできなかったのである!

 

 

 

 

 

「くしゅん! うう……。どこかで誰かが僕の噂してるなー?」

 

「そこ! サボってないでキビキビと働いてくださいまし!」

 

「……はーい!」

 

 

 

 

 

 白野が言い当てた事で、二人も「ああ、いつものか」と遠い目で千花に視線を送る。

 本人は素知らぬ顔──というか気づいてない──で、まだ誰も参加表明してもいないのに、ルールについて説明を始める。

 

「まずはそれぞれ隠すものを一つ決めます。ちゃんと探す人が分かるように、隠したものには目印をつけましょう! たとえば~……」

 

 さらさらさらり、と口に出しながら付箋紙に千花は自らの名前を書き写し、何故かポケットの中に入っていた虫眼鏡にそれを張り付ける。

 

「こういう風に! それと、宝探しゲームをしていると分かるように、きちんと『宝探し中』と書いておきましょう~」

 

「……う、うむ」

 

 現在、千花を除いた全ての者は、こう思っていた。

 

 

 

(((幼児かッッッ!!!)))

 

 

 

(いやいやいや。高校生にもなって持ち物に名前を書いて隠すとか。しかも宝探しをして遊んでるとか。生徒会何やってんのってなるわ!)

 

(まぁ、名前に加え、宝探しをしている事を書いておけば、もしもの時は落とし物として届いたりはしないでしょうから、理に適っているのは確かだけど……。でも、部外者に見られでもしたら恥ずかしいじゃない……!)

 

 この通り、千花の謎な思考回路は理解しているが、その発想にまでは追い付けない白銀とかぐや。

 

 白野はと言えば、

 

「そうだね。千花はかしこいね。他の人にもしっかり伝わるね」

 

 死んだ魚のような眼で、ガクンガクンと頷くだけのイエスマンと化していた!

 

(うわ、岸波庶務の挙動怖いんだけど!!)

 

(甘い。バレンタインのチョコよりも甘いよ。会長、そしてかぐや……。千花のコレは今に始まった事じゃないでしょう? 慣れないと)

 

 これまで幾度となく、千花の謎理論に付き合わされてきた白野! かぐや、白野、千花はそれなりに付き合いが長く、かぐやもまた千花の斜め上な行動に巻き込まれた事は数あれど、四宮の家に連なる者としてその奇行に精神が染まる事はなかった。

 

 けれど、白野はほぼ一般人。バックは凄まじいが、彼女の内面は鉄の精神である事を除けばまさしく普通! 加えて、家で雇っている一癖も二癖もある使用人たちに長年にわたり日夜揉まれ、その上で千花に振り回され、妙な耐性を備えてしまったのである!

 

「IQ3は伊達じゃないネ」

 

「それ褒めてます!? ……とまあ、ルールはこんな感じですけど、何か質問はありますか?」

 

 彼女の説明からして、ごくごく普通、至ってシンプルな単なる宝探しであり、何ら奇妙な点は見当たらない。そう、()()()()()()()()()()という、彼女の発案にしては珍しい内容だった。

 

 異論はない、と皆が口にした瞬間、白野はとある策略を思い付く。普通なルール。であるならば、普通でなくしてやればいい。

 

「私から提案。どうせなら、競争制にしよう。見つけた人から早抜けで、最後まで自分以外の人が隠したものを見つけられなかった人が罰ゲーム、ってどう?」

 

 既に定められたルールを覆さず、後から勝敗の付け方を追加する作戦である! この白野が付け足したルールに、言わずもがな千花は目を爛々と輝かせて、首を大きく縦に振った。

 

「いいですねソレ! じゃあ~、どんな罰ゲームにしますか~?」

 

 千花の思考パターン、行動パターンは不規則である事が多いが、それにも例外は存在する。この場合、勝負事がソレに該当する!

 ゲームで何かを賭ける。千花がそれに乗って来ないはずがないと白野は把握していた!

 そして案の定、千花が罰ゲームの設定をどうするか意見を求めてくる。そこにすかさず、白野は白銀とかぐやに先んじて手を打つ!

 

「三位が一位の言う事を何でも聞く。もちろん、モラルに反しない範囲内でね。それで最下位は全員にジュースを奢る……とかでどう?」

 

 ここで白野の搦め手……!

 普通、最下位のみに罰ゲームは科されるもの。しかし、最下位の他に三位までが罰ゲームを受ける者に含まれた事で、より千花のゲームへの勝負熱に油を注がれる!

 

 一見、三位のほうが罰の内容が重そうに思うが、前話を思い出してほしい。白銀の性格を。

 

 ───備考・白銀、ドケチ。

 

(ジュースを奢る、だと……! 簡単に言ってくれるが、秀知院の購買には自販機よりもお高いものも取り揃えている……。四宮と岸波は俺に遠慮してそれらを避けるだろうが、藤原書記は予測できん! ならば、狙うべきは一位……。だが、当然ながら四宮も狙ってくるはず……!)

 

(そう。私と会長、互いに一位は是が非でも取りたい。けど、三位にだけは絶対になるわけにはいかない。会長は金銭には煩いところもあるし、一位と二位以外がアウトゾーン。けれど私は、三位以外ならどれでもセーフ……。いいえ、場合によっては三位でさえも利用価値があるわ。まぁ、会長が一位ならの話だけど)

 

 この間、僅か一秒にも満たない一瞬で、二人の天才的頭脳は理論を組み立てていた!

 

(───と、二人は思うはず)

 

 無論、白野とて二人の思考を推測し、どう考えるかを想定し、どんな結論に至るのかを熟考した上でのルール決めである。

 わざわざ四位だけでなく三位に罰ゲームを設定し、一位にその決定権を委ねたのも、全てはこの為のお膳立てだったのである!

 

(あとは会長、かぐやのどちらかを一位と三位になるよう調整すれば……。それから、千花の動きだけが唯一の不安要素かな?)

 

 流石に千花の行動を抑制したり、監視したりの妨害行為はゲーム的にもダメだろうと白野は判断。よって、白野にできるのは白銀とかぐやの頭脳戦にあとを託すのみ。

 

(千花が一位にさえならなければ、あとはどうとでもなる。かぐやが一位の場合、会長は二位しか選択肢はない。だから私か、千花のどちらかが二位になりさえすればいい。この場合、もしかしたら会長が三位の罰ゲームに勝ち筋を見出だす可能性もなきにしもあらず……!)

 

 にこやかに罰ゲーム内容を提唱した白野。しかし、その心の内では、(したた)かに勝利への道を逐一と築き上げていく!

 

(そして会長が一位の場合。かぐやは三位を自ら取りに行く可能性が高い。かぐやの事だし、罰ゲームですらも利用するはず。このケースが一番楽だし、千花を二位にしやすい分、私は自動的に四位になるだけでいい)

 

 白野の中で、勝利条件は整った。

 

 一……白銀、およびかぐやのどちらかに一位、もしくは三位を取らせる。

 二……白野、および千花は二位か四位のどちらかになるようにする。

 

 この二つのどちらかが崩れれば、白野の計画は脆く崩れ去る。最悪、白野は自身が最下位になる事も厭わない覚悟である!

よって、全ては千花の予測不可能な動きに懸かっていると言っても過言ではない!!

 

「私はその内容で構いません。会長、藤原さんもそれでいいですね?」

 

「は、はい!」

 

「あ、ああ。いいだろう」

 

 有無を言わさぬかぐやの迫力に、白銀と千花の二人は思わず気圧され頷きを以て返答する。

 

「では、隠すものを各自用意して、昼休みの間に隠し、ゲーム開始は放課後に生徒会の業務を終えてから。という事にしましょうか」

 

 それでは、とかぐやは付箋紙を一枚取って、生徒会室から出て行った。彼女の後ろ姿をポカンと見つめ、扉が閉まる音で再起動を果たす白銀、千花の二名。

 昼休みはさほど長くはない。残り時間はあと十数分ほど。急ぎ、自らも、と生徒会室を後にしていく。

 

「……ゲームはもう、始まってる」

 

 二人が居なくなったのを見て、白野も付箋紙に手を伸ばしたのだった───。

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、放課後。生徒会の業務は全て滞りなく終了し、時間をもて余した今こそが、決戦の時……!!

 

「よし。全員、仕事は終わってるな? では、宝探し……開始!!」

 

 白銀の号令で、宝探しゲーム開催の火蓋が切って落とされる。

 

(……この歳になって何言ってんだろ、俺)

 

 若干、羞恥に駆られる白銀だったが、

 

「真実はたいてい一つ! 名探偵チカの名に懸けて、まるっとぬるっと全部お見通しだ~!!」

 

(……コレに比べたら幾分マシか。あと、色々混ざってるし所々おかしい点があるんだが、まぁ、いいか)

 

 年甲斐もなくはしゃぐ千花の様子に、開き直るのであった。

 

 開始の合図を受け、全員が生徒会室から一斉に外へと出て、校内へと散り散りにバラける。

 

 白野は一人女子トイレに向かい、誰も居ない事を確認すると個室に入ってスマホを取り出す。

 

「もしもし。宝探しが始まったよ。そっちはどう、先生?」

 

『あー、こちら()()()()。会長とやらは体育館に向かっておるな。それと、せっかくコードネームを付けたのなら、そちらで呼ばぬか。とは言ってもただのクラスでしかないのだがな』

 

 端末越しに聞こえてくるのは、声だけでも読み取れるほどに精練極まる剛の者である男の声。今回のミッションのために白野が用意した、使用人の一人である。

 

「ごめん、アサシン。それじゃ会長の動向確認は任せたよ」

 

 一度電話を切り、再度掛け直すと、今度は別の相手に繋がる。

 

「もしもし。かぐやの状況は?」

 

『特に変化はございませんねぇ。今は教室を探して回っています。涼しい顔をしてますけど、(わたくし)のアニモウセンスがビンビン反応してます! クンクンクン……これは、恋に恋している香り!!』

 

 妖艶さを隠し切れていない女の声に、白野は呆れたようにため息を吐く。

 

「了解。くれぐれもバレないように気をつけてね、()()()()()

 

『分かっておりますとも! そのための変装と偽装工作ですもの。な・の・で! ミッション完了の暁には、ぜひともご褒美が欲しいな~、なんて! それもとびきり濃厚なやつを───』

 

 ブツン、と音を立てて中断される通話。もしかしなくとも白野による強制ブッチである。ちなみに、彼女も使用人の一人である。

 

(……ん? 変装って、どんな? 何か嫌な予感がするなぁ……。気にしないようにしよう)

 

 現実逃避して少し一呼吸をおいた後、最後の連絡を行う白野。

 

「もしもし。千花はどんな感じ?」

 

『んー? あっちこっちに動いてますよっと。いやぁ、それにしても落ち着きの無いお嬢ちゃんだね、全く。進行方向に規則性なんざ欠片も無いとキた! んで、鼻歌なんて歌ってスキップしてやがる。これはアレかね? ウチのアホな自称アイドルに近いもんを感じるね』

 

 めんどくさいとばかりに、千花の行動の感想を述べる男。気持ちは分からないでもないが、音楽センスに関してだけはその限りではないと心の中で断言する白野。

 

「頼んだよ、()()()()()。あなたが一番重要なポジションだからね」

 

『あいあい、分かってますよ。仕事しないで済むってんなら、こっちのが百倍楽だし。あの小うるさい家政夫バトラーにグチグチ言われるよりはマシってな話でしょ』

 

 通話を終え、スマホをしまうと白野は女子トイレをあとにする。幸い、今のやり取りは誰にも聞かれていないようだった。

 

「……さて、と。私も一応探しておかないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。かぐやは白野が受けた報告通り、教室を捜索しており、それというのも白野辺りがここに隠していないかと予想したからだった。

 

「………、ないわね」

 

 掃除用具入れ、ロッカー、教卓等々。色々と見て回るが当たりはない。一応、白野や自分の机も確認したが、やはり無い。既に白銀、千花のクラスも調べ終えた後。

 まさか関係者以外の机に隠すとも思えなかったかぐやは、狙いを教室から別の場所へと切り替える。

 

(藤原さん、岸波さんが隠しそうな場所は、残念だけど私では読みきれない。なら、逆に会長なら? 会長が隠しそうな場所は幾つか心当たりはあるわ。会長の隠したお宝を狙い撃ちで探すほうが、確率は高い……!!)

 

 これまでの白銀の行動からその思考パターンを推測。隠しそうな場所、逆に隠しそうにない場所、そしてその裏を読んで隠しそうにない上で隠しそうな場所……。

 深い思考の末、かぐやは幾つかのポイントを割り出す!

 

(まずは近場の職員室。用事のついでにさりげなく隠す可能性は大いにあり得る。職員室を遊びで利用しようなんて、普通は思い付かないでしょうし)

 

 職員室。そこは教師たちの集う、校内で最も遊びから遠い勉学の聖域である! もし職員室でふざけようものなら、すぐさま叱責されるのは想像に難くない!

 だが、それこそが盲点! 逆に手出しのしづらい職員室は、見方によっては校内でも随一の安全な隠し場所となる。

 

(問題は、職員室のどこに隠したか。隠す時に先生方に怪しまれるような行動を会長がするはずもない。となると……)

 

 ごく自然に職員室で隠せる所。それはすなわち───

 

(共用ゴミ箱の底……!!)

 

 職員室にて掃除が行われるのは、教師が授業で出払っていてほとんど居ない時間帯である。休み時間、放課後などは逆に作業の必要な教師も居るため、その妨げになるような事は行われない。

 故に、掃除もまた然り! 掃除、並びにゴミの回収は昼までの授業の間、そして完全下校時刻の30分前の二回!

 白銀が隠したと考えられるのは昼休み以降であり、まだ確実に安全であると言える!!

 

(多分、ゴミ箱の袋がズレているとでも言って、整える振りをして隠したのかも。まぁ、隠しているなら、の話だけど)

 

 白銀の思考をトレースした(つもりの)かぐやは、早速職員室を目指して歩きだす。放課後は部活動に顔を出す教師がほとんどで、残っている教師はそこまで多くはない。

 今日は早めにゴミの回収を行う、などとでも言えば、大きな違和感はないだろう。

 

(職員室になければ、次は───

 

 

 

 

 ───体育館、かしら?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、体育館にまで来たワケだが」

 

 奇しくも、かぐやが職員室の次に狙いを付けた体育館に、白銀も足を運んでいた!

 

「あ、会長だ」

 

「え、やだ!? もしかして私を見に……!?」

 

「いいえ、きっと私を……!」

 

 普段、部活動の様子を見に来る事のない生徒会長の訪問に、女性陣のテンションがみるみるうちに高まっていく。

 

「すまない。邪魔をするつもりはないんだ。皆は俺の存在を無いものとして部活動を続けてくれ」

 

「なんだぁ……部活動を見に来てくれたわけじゃないのかぁ……」

 

「残念……」

 

「ほらほら! 会長もこう言ってるんだし、みんな部活に集中しろー」

 

 露骨にガッカリする様々な部の部員たちを、それぞれの部長が部活動へと引き戻していく。

 

 あくまで体裁としては視察を名目に装い、体育館を壁沿いに移動する白銀。部活動の邪魔にならないようにするのは当然として、もし生徒会の誰かがここに隠したとしても、部活(かれら)の活動中に迷惑にならないような所に隠してあるはず。

 

 考察しながら、白銀は体育倉庫の前まで移動。他の者からすれば、生徒会による備品のチェックをするのだとしか映らないだろう。

 まさか秀知院を率いる生徒会長ともあろう者が、呑気に宝探しゲームをしているとは誰も思うまい!

 …仕事はきちんとこなしているので、別段問題ではないが、生徒会長としての威厳を守らなければならないという、言わばこれは白銀自身の矜持でもあった。

 

「どうせなら用具の点検がてら宝を探したいところだが、今は罰ゲームが懸かっているからな……。背に腹は代えられん。今日の生徒会業務は終了、店じまいとしておこう」

 

 仕事したい気持ちをグッとこらえ(と言いつつも、やはり軽い点検はしてしまうのだった)、体育倉庫を調べ始める白銀。

 彼がここに来たのは、千花が隠したものに狙いを定めたからだ。行動が読めない千花ではあるが、案外その行動指針は単純であり、こういう時は如何にもな所を選ぶ可能性は十分あり得るのだ。

 

 だが、しばらく探しても、それらしきものは見つからない。

 

(体育倉庫は外れか。一応、舞台のほうも見ておくか……?)

 

 倉庫に無かった以上、既に体育館自体に望み薄と感じ始めていた白銀。黄色い声援を再び受けながらも、壇上へと上がり、周りを確認する。

 

(やはり無い……む?)

 

 探しても見つからず、諦めて他を当たろうと天を仰いだその時! 白銀の視界が何かを捉えた!!

 

「あれ…は……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し時間が経ち、生徒会室に一つの影が。

 それはスマホを耳に当てている白野である。

 

「会長がこっちに向かってる?」

 

『応。何やら不敵に笑っておるわ。呵々(かか)っ! あれは()い面構えよ。なるほど、人の上に立つだけの事はある。何なら、お主があの小僧をモノにするというのも一興ではないか?』

 

「冗談はその辺で。何か手に持ってる?」

 

『ん? 応さ。おそらくは探していた物だろうよ。さて、となれば儂はお役御免かな?』

 

「うん。ありがとう、先生」

 

『なに、礼には及ばん。では、帰るとするか。よし、帰るついでに拉麺でも食っていくかな?』

 

 通話を終えると、白野はすぐさま次への思考を巡らせる。

 

(会長の一位は確実になった。となると、かぐやが三位になるよう調整する必要がある。私も一応かぐやのを確保したけど……問題は千花か)

 

 実は白野も既にかぐやの隠した宝を見つけていた。それは彼女の靴箱の中に隠されており、普段かぐやが使っているペンであった。

 何故、白野にかぐやが靴箱に隠したと分かったのか。それは白野が使役している使用人の他にもう一人、白野には協力者が居たからである。

 

(千花を見張ってるアーチャーから連絡はない。なら、千花もまだ見つけてはいないという事。流れ的には千花が二位になってくれたら、あとは私がドベになればいいだけなんだけど……)

 

 最悪、千花が何も見つけられずに終わる可能性さえある。その時は、白野が二位に名乗りを上げなければならないのだが、そのタイミングが重要となってくる。

 

 今の時点で千花に宝を見つけられる気配が皆無であれば、白野が二位に名乗り出る必要があるのだ。

 

 どうするべきかを悩む白野。と、そこに、扉を開く音が鳴り響く。

 

「ん? 岸波庶務ではないか。となると、一番乗りはお前だったか……」

 

 あからさまに残念そうな白銀に、白野はいたたまれなくなり、嘘をつく。

 

「ううん。まだ見つけてないよ。今は生徒会室を探しているところ」

 

「生徒会室を……? なるほど、それは確かに盲点だったな。あの頭の回る四宮の事だ、生徒会室を出て誰も居なくなったのを見計らって隠しに戻って来た可能性は否めないからな」

 

 ウンウン、と勝手に納得する白銀に対し、白野は彼の言葉に違和感を覚えていた!

 

(どうして、ここに隠しに来たのが()()()だと思ったの? それはつまり、他に選択肢が無いから……!)

 

 白野の思考が高速で回転を開始する!

 

 実を言えば、白野が宝を隠したのはここ、生徒会室に他ならない!

 思い出してほしい。白野は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事を。

 白銀が口にした推測。それは惜しい解答であったのだ。正確には、生徒会室に宝を隠したのはかぐやではなく、白野であった。

 そしてかぐや、千花はまだ宝を見つけておらず、白野は既にかぐやの隠した宝を手にしている。白銀も誰かの宝を見つけてここに戻ってきた。

 

 という事はつまり、白銀が見つけたのは、事実を照らし合わせて千花の隠した宝であるという事が分かるのである!!

 逆を言えば、白銀、白野の隠した宝がまだ見つかっていないという事になるのだ!

 

(私の宝はここにある。会長の事だし、簡単には見つけられなさそうな所に隠したはず。だったら、千花に見つけるのは無理かな?)

 

 作戦が軌道に乗ったと確信した白野は、一気に気が抜け、会長の机にもたれかかる。もう、自分が二位となっても問題無いだろうと安堵した白野は、白銀が口にした推測を利用する事にした。

 

「あ。あったよ会長! 本当にかぐやは生徒会室に宝を隠してたみたい」

 

 いかにもたった今見つけたとばかりに、白野はヒラヒラとかぐやのペンを白銀に見せつけるようにして振ってみせる。

 

「灯台もと暗し、とはよく言ったものだ。まさか俺の机に隠していたとはな。執務に集中していたから、まるで気がつかなかった」

 

 否。元々そこにそんなものは存在していない。全ては白野の仕組んだ巧妙な手口の賜物である。

 

 ともあれ、これでかぐやが三位にさえなれば、白銀からかぐやへと罰ゲームが執行される運びとなる。

 そう、あとはイレギュラーさえ起きなければ───

 

 

 

「あれ~? 会長と白野ちゃん?」

 

 

 

 イレギュラー、発生───!!!

 

 

 

「ふ、藤原書記も戻ったか。という事は、俺か岸波庶務の宝を見つけられたのか?」

 

 ここにきて千花の帰還に焦る白銀は、自然に千花に探りを入れる!!

 

「それがですね~、まだ見つけられてないんですよ~」

 

 疲れた、と言わんばかりにたどたどしい足取りで、室内へと歩を進める千花。

 何も白銀ばかりが焦っているのではない。無論ながら、白野もここで千花の登場にとんでもなく動揺していた!!

 

(え、え!? なんで千花がここに!? というかアーチャーそんな報告来てない!!)

 

 慌ててスマホを取り出す白野。着信も無ければメールも届いていない。LINEの新着も上がってきておらず、このまま通話するワケにもいかずLINEでの状況確認を行う。

 

 

〉アーチャー! 千花が生徒会室に戻ってきたんだけど!?

 

 

〉あ? あー、そっすね。でも、まだ宝は見つけてないでしょ? だから報告の必要無いと思いましてね。手違いがあったんならスミマセンね。

 

 

 圧倒的、報連相の不足であった……!!

 加えて、安堵した事による油断。それがこの危機的状況を招いてしまった大きな要因と言えるだろう。

 

(マズイ……。けど、大丈夫。まだ焦る時間じゃない。千花が私の隠した宝さえ見つけなければ、何も問題はない!)

 

 白野が宝を隠したのは、ソファの上に置いたクッションの中。元々は生徒会室に無かったクッションであるが、これは白野が個人的に持ち込んだ代物で、休憩や仮眠をとる際に愛用しているもの。

 私物だったが、娯楽品や嗜好品ではないので持ち込みの許可されたものの一つであり、白野はかぐやと千花にも使用を許している。

 

 そう、千花にも、使用の許可を、出していた。

 

「ふぃ~疲れた~。歩きすぎて足が綿棒になるかと思いましたよ~」

 

 そして白野は思い出す。アーチャーの報告では、千花はあちらこちらに歩き回って探していた、と。更に、この疲れた様子───彼女の足は、一直線にソファへと向かっていた!!

 

「千花ァ!? 喉渇かない!? 私が紅茶でも淹れてあげようか!!」

 

 とてつもなく焦る白野は、どうにかクッションの使用を阻止せんと千花に紅茶を勧める。

 自分が紅茶を淹れてあげると申し出る事で、千花にクッションを使わせず普通に座らせるように誘導するためである。

 人に茶を淹れてもらうまでの間、だらしなく寛ぐ者などそうは居ない。最低限のマナーとして、姿勢を正して待つのが礼儀というもの。

 

 当然、千花とて礼儀くらいは(わきま)えているが、白野の隠しきれない焦りが不運を招く事となる。

 

「あれ? 白野ちゃん、なんでそんなに慌てて……ハッ!? もしかして、そういう事なんですか!?」

 

 要らぬ時に限って嗅覚が鋭くなる千花は、ニヤリと笑いソファを物色し始める。

 

「ここかなぁ? それともここですかぁ? ぐへへ、一体どこに隠したんですかぁ?」

 

「あ、ダメ……そこはダメなのぉ、お願いやめてぇー!!」

 

「下品な笑い方は止めろ藤原書記! あと岸波庶務も変な声を出すな!」

 

 そして、白野の必死の抵抗も空しく、千花はクッションをまさぐり、中に隠されていたものを抜き取り、こうして千花の三位が確定したのだった。

 

 ちなみに、何が入っていたのかと言うと、ロールケーキを象ったキーホルダー。白野随一のお気に入りの逸品である。

 

 

 本日の勝敗結果───白野の逆転負け&かぐやは知らぬ間に完全敗北(最下位)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「職員室も図書室にも家庭科室にも無い……一体どこに隠したのよ、会長ーーーー!!!!」

 

(あれ? もしかして(わたくし)の出番って見張り(これ)で終わりですかぁ!? そんなぁ! めくるめく、夢のご褒美タイムがぁぁぁ………!!!)

 

 

 

 答え……白銀のママチャリの籠の中。物は消しゴム。

 

 

 




 余談。白銀会長が見つけたのは藤原書記の隠した宝。壇上の垂れ幕に、いつも彼女が着けている黒いリボンのスペアが貼り付けてありましたとさ。



「BB~チャンネルー!!」

※本編とは関係ありません。

BB(以降省略)「さあ、やってまいりました月の裏側で最もアツいNo.1コンテンツ。BBチャンネル出張版のお時間です♪」

「ここを見つけた奇特な貴方。こんな遅い時間にスマホでSSを読みふけるなんて、グッドなバッドボーイorガールと見ました!」

「もしくは、日頃から夜間モードで読んでるとか? それはそれで面白いので、不思議ちゃんのスタンプをあげちゃいます!」

「ま、それ以外の方法もあるかもですけど~。どうでもいいですよね、そんなコト。ともあれハーメルンさん様々です♪ おかげでこーんな遊びが出来ちゃいますから」

「ん? メタい? そんなコト私は知りませーん! 人間の定めたルールなんかに私は縛られません。どこであろうと、私がルールなのです♪」

「と、無駄話はこの辺で。今回はご挨拶だけのつもりですので、さっさと本題に入りますね?」

「この番組では、本編では語られない裏話や、メタな話題もバンバン語っていく予定です。残念ながら、流石の私も、毎回は番組の収録はできませんので、そこは諦めてくださいね? グレートデビルで小悪魔可愛い後輩系AIな私ですが、そこは作者さんの采配次第。決して私があまのじゃくなワケではありませんので」

「ではまた次回のBBチャンネルでお会いしましょう。アデュー!」

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