白野ちゃんは叶えたい~凡才だけど頭脳労働~   作:フロストエース(仮)

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第6話 かぐや様は誘わせたい

 

 

 釣り大会より幾日かが過ぎ、白野の周囲では変わらない日常が続いている。

 学園での生活、波も無く回る世間。そして、それは生徒会室の風景にも言える事だ。

 白銀は淡々と事務作業をこなし、かぐやは粛々とその補佐を務め、白野は黙々と処理済みの書類を仕分け、整理する。会計の石上は既に仕事を終えていそいそと帰宅し、そして千花は溌剌(はつらつ)とエア釣りに励んでいる。

 

 いつもと変わらない日常。変わり映えのしない光景。何一つ、変化する事なく日々と時間は流れるように過ぎていく。

 

 そう、何も。何もなかった。何もないのだから、白銀とかぐやの関係は何一つ変化せず、進展などあろうはずもない。

 

 ──いや。何もなかった、と言うには語弊があるだろう。二人とて、その間に何もしなかったというワケではない。いつものように互いに告白させる為の策略は巡らせていた。

 だが、それらは不発に終わってばかり。何も成果を得るものが無かったが故に、()()()()()()と語ったのだ。

 

 その点に関してはいつも通りと言えなくもない。二人の恋愛頭脳戦は失敗続き。目に見えて分かる程の成果をこれまで上げた事はないのだから。

 

 

 

 普段と変わらない光景ではある。けれど、内心でとてつもなく焦っている者が生徒会室にただ一人だけ存在した。

 

(……んあぁ!! どうすればいいの!? もう猶予も残り僅かなのに!!)

 

 誰あろう、四宮かぐやである。

 

 平静を装ってはいるものの、いつもより余裕がなく、近頃では執務の合間の休憩時も千花がコーヒーを淹れる事が多くなっており、かぐやの紅茶は長らく生徒会メンバーに振る舞われていない程だった。

 

 たまに白野が紅茶を淹れる事もあるが、かぐやの技量にはやはり一歩及ばない。天才でありながら、四宮の長女として淑女の嗜みも徹底的に叩き込まれた彼女に、凡人が簡単に勝てるはずもなく。

 白野とてアーチャーから紅茶の淹れ方を学んでいるが、それでも、かぐやには届かないでいた。

 

 とにかく、かぐやは表面上はどうにか取り繕っているが、他の事にまでは手が回らないというのが彼女の現状である。

 

 さて、では彼女は何を焦っているのか。何に苦心しているのか。それを語るには、まず釣り大会の日にまで時間を遡る必要がある───。

 

 

 

 

 

 

 

~回想~

 

 釣り大会の優勝はかぐやの目論見の通り、無事に早坂のものとなった。

 景品である白銀のブロマイド(違法スレスレ)は、名目上では早坂へと贈呈され、ひとまず釣り大会が終了し、帰路につくまで早坂が所持していた。

 そして、帰宅したかぐやは嬉々として早坂にブロマイドを渡すよう要求したのだが、ここで一つ問題、というか彼女にとっての誤算が生じたのである。

 

「は? 嫌ですよ。優勝するための作戦自体はかぐや様が立案しましたが、これは優勝者である私に贈られたもの。つまり会長のブロマイドの所有権は私に有ります。ブロマイドの生殺与奪権は私が握っていると思ってください」

 

 その誤算とは、早坂の裏切りである!

 かぐやは知るよしも無いが、早坂は釣り大会が開催されるよりも前から、正確には釣り大会開催が決定した翌日には、既に白野と手を組んでいた。

 早坂に頼った時点で、もしかぐやの作戦が成功したとしても、最初からこうなる事は確定していたのである。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!? 早坂、まさかあなた……会長に気があるの?! だからブロマイドを渡さないんじゃないでしょうね!?」

 

「別にそういうワケでは……。というか、そんなにムキにならないでくださいよ」

 

 普段から「べ、別に会長の事なんて好きなんかじゃないんだからね! 会長が私に気があるみたいだから、会長ならまあまだギリで無い事も無いし告白させてあげようかな、とか思ってるだけだし!」と、テンプレの誰得ツンデレを常時発動しているかぐやだが、今は早坂の想定外の裏切りに対し、少しテンパってしまい無意識の内にヒステリック気味になっていた。

 

 主人の必死すぎる態度に、早坂も流石に見かねたのか、とある条件を付けてブロマイドを譲ると提案する。というのも、

 

「そんなに会長の写真が欲しいですか。分かりました。では、会長とデートしてきてください。そうすれば報酬として譲りますので」

 

「んな!?」

 

 早坂の提示した条件。それはかぐやにとって、是非とも成し遂げたい事の一つではあったが、いささかハードルが高すぎる内容でもあった。

 そも、告白さえできないかぐやに、いきなりデートに誘えというのは、告白の次くらい無理難題と言える。超が付く程の箱入り娘として育てられたかぐやは、無論異性と付き合った事も無ければ、親しく過ごしたり出掛けるといった事など有るはずもなく、むしろそういった方面には人一倍疎い。

 そんなかぐやにとって、“デート”はある意味で未知の領域なのである!

 

「会長とデデデ、デートだなんて……! 無理、私から誘うとか絶対無理! 私だってデートはしてみたいけど……。でも、でもでも……!!」

 

「デートくらいなんですか。別に告白するワケでもあるまいし。近頃の女子高生なんて、むしろ自分から積極的に男子を遊びに誘う子だっていますよ。時代は草食男子より肉食女子です。かぐや様はもっと自分からガンガン行かないと」

 

「そ、そんな女性から誘うだなんて、はしたないわ! 私は四宮かぐやよ? きっと会長にとっての私は、清楚で貞淑な美少女として、あの鋭い目には映っているはず。なのに、そのイメージをぶち壊すような真似をできるはずがないじゃない!」

 

 デートへの憧れはある。しかし、いざ誘う勇気は無い。となれば、いつものパターンしか無いのは自明の理。

 やはりと言うべきか、かぐやお得意のアレが始まった。

 

「私から誘うのはあり得ない。なら、会長から誘って来させれば……。どうしようかしら、どんな手で行くべきかしら。……ああもう! こういう時の為に会長のブロマイドが欲しかったのに! 早坂、ちょっとでいいから貸して。……早坂?」

 

 返事が無いので姿を確認するかぐやだったが、既に早坂は消えており、というのもかぐやが一人ぶつぶつ言い始めた辺りで、「それではかぐや様、私はこれで失礼します」と彼女は早々に立ち去っていたのである。

 

 結局、その日は就寝するまで思案したのだが、あまり良い策略は何も浮かばなかった。

 

 

 それからしばらくして、数日後の放課後。

 いつものように白銀と恋愛頭脳戦を繰り広げたものの、何も得るものは無く、かぐやは帰宅するなり部屋へと戻り、制服を着替えもせずベッドに身を投げ出す。

 

「今日は良いところまで行ってたのに……。また藤原さんに阻まれたわ。……あの子、いつまで釣り真似遊びしてるのかしら」

 

 案の定、今回も千花の意図せぬ妨害に遭ったかぐや。それでなくても、近頃は渾身の策が浮かばず、余計に不機嫌になっていた。

 

 苛立ち、駄々っ子のように足をばたつかせていると、扉をノックする音が。すぐさま佇まいを整え、何の用件か聞けば、声からしてどうやら扉の前に居るのは早坂らしかった。

 

 入室の許可を出し、速やかに室内へと入ってくる早坂。彼女の姿を見て、そういえば、とかぐやは帰りに早坂が居なかった事を思い出す。

 

「早坂、今日の帰りは居なかったみたいだけど、どこかに行ってたの?」

 

「あー、はい。友人と喫茶店に寄ってました。少し相談事もあったので。かぐや様にもその事は今朝に伝えたはずですが?」

 

「そ、そうだったかしら?」

 

 早坂は嘘を言っていない。かぐやがそれを忘れていただけの話である。普段のかぐやなら、まずしないミスなのだが、それだけ恋愛頭脳戦に根を詰めてすぎている証左と言えるだろう。

 

「あ、そうだ。かぐや様、このあいだの続きですが、映画デートとかどうですか? 恋愛映画なんて、まさしくデートの定番ですよ」

 

「映画……。恋愛映画、会長と二人で……」

 

「そうです。愛を囁くシーンを二人並んで見た時には、ムードも最高潮に達し、その帰り道、どちらからともなく告白してしまう……なんて事もあるかも。それこそ“魔法にかけられて”と言えるでしょうね」

 

「なにそれステキ。いやでも、映画に誘うなんて難しいことを私ができるの……?」

 

「いつものように、会長の方から誘うように差し向けたらどうです?」

 

 早坂という小悪魔の囁きに、かぐやの心は激しく揺さぶられる。白銀と映画を見に行きたい──でも、やっぱり誘うとなると恥ずかしい……。

 デートに誘うのがまず無理なのに、映画になど誘えようものか。そんな葛藤に苛まれていた。

 

 当然、この案を決行させるにはまだ決め手に欠ける。早坂はその決定打と成り得る一打を手にするため、さっさと退室していった。

 例によってかぐやはそれに気付かないのだが……。

 

 

 そして三日が過ぎ、映画にデートにと悶々とした日々を過ごしていたかぐやに、ついに早坂が決定打を叩き付ける。

 

「かぐや様。こちらをどうぞ」

 

 と、かぐやが早坂の声に釣られて見れば、その手に握られているのは細長い紙切れが二枚。

 

「え、なに……? チケット?」

 

「はい。映画のチケットです。会長と二人分。座席は指定で、上映の日取りも決まっていますので、それまでに会長との映画の約束までこぎ着けてくださいね」

 

「あ、ちょっと早坂!? いきなり何!?」

 

 半ば強引に押し付けるように、持っていたチケットをかぐやへと渡すと、早坂は追及されるよりも先に退散する。

 

 後に残されたのは、唐突にチケットを渡され、何がなんだか理解の追い付かないかぐやだけ。

 持たされた呆然とチケットを見つめて、ようやく事態が呑み込めた。

 

「───って、期限が二週間も無いじゃない?! たった二週間以内で会長を映画に誘えだなんて……なんて無茶振り!」

 

 さて、どうしたらいいのだろうか。そんな風に悩んで───一週間が過ぎた!

 その間、やはりかぐやは白銀を誘えていなかった!

 

 

 

 

 

 

 ───そして冒頭に至るというワケである。

 

 とにかく、もうチケットの期限は近い。ご丁寧に席と日付まで指定して予約されたチケットは、かぐやから簡単に余裕を奪っていた。無論、それを狙って早坂はわざとそのようなチケットを買ったのだが。

 

 デートの誘いに成功すれば素晴らしい時間が約束されている。なのに、無駄に羞恥心とプライドが邪魔をするせいで、まるで行動に移せない。

 

 蓄積し続けるジレンマに、かぐやの精神は徐々に摩耗していく。発狂しないのは、ひとえに彼女の意地により辛うじて持ちこたえていたからである。

 常人であれば、抑えきれず暴走気味に行動に移していただろう……。

 

 とはいえ、だ。暴走して良い結果になるとは限らない。最悪、白銀との今後の関係にも支障を来す可能性も無くはない。

 故に、かぐやは一度落ち着いて状況を整理する。

 

(……冷静になるの。クールになるのよ四宮かぐや。成り行き任せで上手く行くのは空想の世界だけ。現実はそう甘くはないわ。……ふぅ。少し落ち着いたわ)

 

 生徒会の仕事と並行しつつ、手は動かしながらも思考回路のほとんどを“如何に会長とのデートにこぎつけるか”へと傾けるかぐや。

 

(よく考えれば、別に私からアクションを起こす必要は無い。というか最初に早坂に言われたデートだって、会長から誘わせる事を前提としてたし。発想の転換でも無いけれど、私がすべきはチケットを会長の手まで回らせる事。あくまで会長から私を誘わせるように動くべき)

 

 ならば、どうやって白銀にチケットを手にさせるか。今度はそこを焦点に、かぐやは頭脳をフル回転させる。

 

(私から直接会長に渡すのはNG。チケットに私が関与していると知られれば、「あれ、四宮ってやっぱり俺のこと好きなんじゃね? 俺と映画に行きたいとか、告白してるも同然じゃね?」なんて思われてしまいかねない。それだと私の負けみたいで嫌! そうならないためにも、チケットは第三者から自然な形で会長の手に渡るのがベスト)

 

 では、その第三者を誰にするのか。

 

(会長と何ら関わりの無い人物を利用するのは、安全性は高いけど確実性に欠ける。使うなら秀知院の関係者。教師は不純異性交遊を考慮されかねないから除外。……別にそんな事は起こらないとは思うけど。──だとすれば、クラスの誰か、もしくは生徒会の誰かを経由すればいいかしら)

 

 そう考え、かぐやは仕事をこなしつつも、意識は白野と千花に向けていた。

 

 まずは千花。彼女は動きが読めないところが難点であるが、案外扱い自体はさほど難しくはない。むしろ、簡単に誘導できる節がある。思うままのコントロールが難しいだけで、方向性は容易に操れるのだ。

 さすが、IQ3と謳うだけの事はある。……実際、「IQ3でも任せなさい!」と自分でも妙な歌で宣言した事があるのだが。

 彼女の名誉のためにも、本当に藤原千花のIQが3───ではないとだけ断言しておこう。

 

 

 次に白野。かぐやは彼女を友人だと思っている反面、底が読めないとも感じていた。あまり表情豊かとは言えないが、ユニーク(?)な事を口走ったり、たまにすっとぼけた事を言ったりもする。

 接していれば白野の人間性はおのずと理解できる───のだが、かぐやは時折だが白野に対し違和感を覚える事があった。

 

 “岸波白野”としてのパーソナリティー。その奥底で、()()()()()()()の意思が稀に表面化してくるような、まるで白野が誰かに操られているのではないか……という不思議な違和感を覚える時が稀にだがあるのだ。

 具体的に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな印象を極稀にではあるが、かぐやは感じ取っていた。

 例えとしては、プレイヤーに操られるゲームのキャラクター、が妥当かもしれない。

 

 故に、かぐやは岸波白野の内面を完全には読みきれない。千花とはまた違った意味で動きが読めないのだ。千花は行動が予測不能であるならば、白野は思考が予測不能。

 

 これらを踏まえた上で、どちらが今回は利用しやすいか。

 

(藤原さん、かしらね)

 

 まだ御しやすい事から、千花を利用すると決めたかぐや。

 第三者に抜擢する対象は決まり、次はどのような策で白銀へとチケットを回すのか。それに関しては千花を第三者として利用すると決定した時点で、ある程度は考えが固まっていた。

 

 以前、千花自身が語ったように藤原家では長女の教育に失敗した事により、千花とその妹が二の轍を踏まぬよう教育方針が厳しめとなっている。

 取り分け厳しく取り締まっているのが娯楽に関して。ゲームにマンガ、アニメなど。日本の誇る娯楽文化のほとんどが禁じられているのだ。どれも悪影響───毒に成りかねないと判断されての事だった。

 ましてや、恋愛映画などもってのほか。そういった場面やシーン(いわゆる、えっちぃ要素含む)などのある可能性が僅かでもあるなら、情操教育に相応しくないものとして全て遮断しているのである。

 

 つまり、今回の恋愛映画のチケットは千花にとって禁止されているものであり、千花が持っていても使えない無用の長物というワケだ。

 

(何かの懸賞に当たったとでも書いて偽装し、それを藤原さんの家の郵便受けに入れておく……。藤原さんはチケットが当たったけれど、映画を見に行く事ができないから、チケットを無駄にしないためにも誰かに譲るしかない。その譲渡が生徒会室で起こるように調整すれば……フフフ。全ては私の手の平の上……)

 

 完璧(自己評価)な計画に、たまらずかぐやは口元が弛む。既に頭の中では己の勝利はイメージ済み。あとは構想通りに事を運ぶ事だけに専念すれば、勝ちは揺るがないだろう。

 

「フフフ………」

 

「……!?」

 

 作業中だというのに間近で意味深に微笑むかぐやに、白銀は軽く不気味さを覚えていた。

 

「えらく機嫌が良さそうだな四宮。何か良い事でもあったのか?」

 

「いいえ。ただ、こうして皆で執務をこなすというのも楽しいな、と思いまして。つい……」

 

「ん? いつもと変わらないと思うがな。石上は報告書上げたらすぐ帰ったし、それに約一名は遊び呆けてるし」

 

 白銀は誰とは言わなかったが、自然と某F氏を除いた全員の視線が、藤原(なにがし)へと集中する。無論、それに気付かないほどには彼女も鈍くない。

 

「わ、私だって別に遊んでるだけじゃないですよ!? ただ、今はすることが無いなぁ~…って。だから暇潰しをですね……」

 

「千花、それを遊び呆けてるって言うんだよ? 暇ならこっちを手伝って。職員室で各所に配布する資料の印刷をお願い」

 

「え゛。この量を一人でですか!? 山みたいに積み重なってますよ!? 私だけじゃ無理ですよ~!!」

 

 エア釣竿を即座に収納した千花は、無情にも積み重ねられた大量の紙の束を前にして、白野へと泣きついた。そもそも彼女が仕事をせず遊んでいたのが原因なのだが、流石に一人でさせるには哀れに思った白野は、言い出しっぺながら妥協案を出す。

 

「わかったわかった。私も一緒に行くから。とりあえずこの書類を片してからね」

 

「俺も一段落つきそうだし、運ぶのは手伝おう。男手は要るだろう。ちょうど職員室にも用があるのでな」

 

「ありがと。助かるよ会長」

 

(用……? 用、用事……予定、ハッ!?)

 

 白銀の提案に、白野は軽く礼を述べる。何でもない、どこにでもあるような、ありふれたやり取り。だが、その時かぐやに雷が落ちる!

 

「……! じゃあ私は残って紅茶でも淹れておきましょう。あまりぞろぞろと押し掛けても迷惑でしょうから」

 

「わー! 久しぶりにかぐやさんの紅茶が飲めますね!」

 

「そういえば、そうだったかしら」

 

 無邪気にはしゃぐ千花に、全員が困ったような微笑ましいような、曖昧な表情を浮かべて笑っていた。

 

 かぐやが生徒会室に残ると宣言した本当の意味を、誰一人として理解しようともせずに。

 

 

 

 

 

 

 やがて、先程の言葉通り、生徒会室はかぐやを除いて無人となる。そして彼女はすぐさま行動を開始した。

 向かうは生徒会長の机、すなわち白銀の席。机の裏に回り、脇に置いてあった白銀の鞄に躊躇無く手を伸ばすと、慣れた手つきで中から手帳を引っ張り出す。

 

「私とした事が迂闊……。映画に誘う以前に、会長の予定と被ってたら意味がないじゃない。どれどれ会長の予定は……」

 

 黙々と目的の日にちまで順に目を這わせていくと、何か書かれているのをかぐやは見つけた。

 

「……上から訂正線が引かれてるわね。午後からのバイトが午前中に変更。映画は午後からだから、ちょうどいい勤務変更ね。見たところ他に予定も無いようだし、これでブッキングの心配は無いわ」

 

 やることを済ませると、速やかに手帳を元の位置に入れ直し、何事もなかったかの如く、かぐやは紅茶を淹れる準備に入る。千花が言ったように久しぶりに紅茶を淹れるかぐやだったが、染み付いた慣れは簡単に抜け落ちたりはしない。

 別称を紅茶ことアーチャーに負けず劣らずのレベルの高さで、かぐやは手際よく紅茶を人数分用意した。室内に芳醇で香ばしい香りが漂っていく。

 この香りは偽証である。その偽証とは、かぐやが真面目に紅茶を淹れていた、という事に他ならない。

 それ以外何もしていなかったとでも言うように。まさか白銀の鞄を漁り、手帳を盗み見たとは誰も思うまい。

 かぐやは技術の高さで、自身の悪事を隠蔽しているのだ。

 

(これで今できる事は終わったわね。帰ったらすぐに偽装工作を進めないと)

 

 人知れず、かぐやの作戦は白銀を罠に嵌めんと進行していくのだ───。

 

 

 

 

 

 そして翌日。昼休みに生徒会室へと集まったいつものメンバーは、各々で昼食も摂り終わり、休み時間が終わるまで執務を少しでも終わらせて、放課後の空き時間を増やそうと作業に励んでいた。

 ある程度の区切りもついた頃、今日は遊ばずに働いていた千花が、そういえばですね~、とスカートのポケットから何かを取り出した。

 

「なんか懸賞で当たったみたいで~。でも、家の方針でこういうのは見ちゃダメなので、誰か代わりに要りませんか?」

 

(来た……! ナイスよ藤原さん! 流石は私の友達ね!)

 

 心の中でガッツポーズをするかぐや。だが、ここは自分からは動かないで様観に留める。

 

 かぐやは動かないが他の者───特に白銀が強くチケットに興味を示した。

 

「どれ……。ほう、映画のチケットか。タイトルは……『戦車男』?」

 

「一昔前に放送されたドラマの映画リメイク版だね。当時はけっこう流行ったらしいよ。私もまだ見てないけど。あれ? これ日付と時刻と席が指定の……あー、この日はちょっと予定がアルナー」

 

「俺は……お。この日はちょうど午後から時間が空いてたし行けるな」

 

「そうですか~。じゃあ二枚有ることですし、会長と……かぐやさんもどうですか?」

 

 白野が譲渡権を放棄し、自然な流れで白銀とかぐやへチケットの権利が回ってくる。それこそ、かぐやが望んだ最良の結果である。

 

「私は……そうですね、私も特に予定も無いですし、藤原さんのご厚意に甘えましょうか」

 

「はい、どうぞ~!」

 

 ここぞとばかりに、かぐやは自身の手帳を手に取り、ペラペラと捲ると、素知らぬフリで自分も予定が無い事をアピールし、滞りなく千花からチケットを受け取る。

 こうして、チケットは無事に在るべき場所へと舞い戻ってきたのである。一枚はかぐやへ。そしてもう一枚は作戦通り白銀の手に。

 

 あとは、白銀からかぐやへと映画に誘わせるだけ。本当の勝負、正念場はむしろここからだった。

 

(フフフ。さあ会長、私を映画に誘わせてみせます……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……ちょっと待て。何かおかしい)

 

 かぐやの目論見とは裏腹に、白銀は千花から受け取ったチケットを改めて観察して、妙な違和感を覚えていた。

 

 チケットそのものは本物だろう。だが、よく考えてみてほしい。このチケットと先程の千花の言葉から、明らかにおかしな点が存在している。

 

(藤原書記は懸賞が当たった、と言っていた。普通、懸賞で当たった映画のチケットが、こんなに日付やら時間まで指定してくるか? 極めつけは席の指定だ。VIP専用などといった特別席というならまだ分かる。だが、これは一般席での予約。懸賞なのに席が指定されているとか、まずおかしい。となれば、だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事が考えられる)

 

 懸賞という隠れ蓑で千花を騙し、そして千花が家庭の事情でこのチケットを誰かに譲る───そんな流れを予め読める人物など、白銀の周囲ではそうは居ない……のだが。

 だが、何人かは容疑者として名前を挙げられるのもまた事実。

 

(四宮か、岸波か。おそらく、そのどちらかだな)

 

 既に白銀は二人のどちらかで当たりを付けている。

 まずは白野。彼女はたまに天然じみたボケをかますが、妙に歴史や偉人、英雄に詳しかったり、鋭い観点で真実を見抜くなど、なかなかに頭がキレる側面も併せ持つ。

 白銀をして、奇しくもかぐやと同じく、その思考を読みきれない、というのが白野への評価である。

 

 次にかぐや。彼女はあの手この手で、白銀に告白させようとしているので、今回最も怪しいと言える。何故なら、かぐや自身もチケットを受け取っているからだ。

 白銀とかぐや。この二人に同じ映画のチケットが二枚。考えるまでもなく、二人揃って相手にどうやって誘わせるかを思考するに至るのは目に見えている。

 白銀は考えた末に理解した。これは遠回しな、かぐやからの挑戦に他ならないのだと。

 

(黒幕は四宮の可能性が高いだろう。だとすれば、まったく手の込んだ真似をする。この場合の勝利条件は、相手から映画に誘わせる事。だが、それは四宮にも同じ事が言えるな)

 

 どちらがより上手く相手を糸に絡め取れるか。それこそが勝負の肝となる。

 

(というかだ。もし俺から『し、四宮。どうせなら俺と一緒にこの映画を見ないか?』とでも言おうものなら───)

 

(『なんです? 会長は私()映画を見に行きたいと? 私としても別に構いませんが、わざわざ一緒に行きたいんですか。それはそれは……お可愛いこと』)

 

(───となるに決まっている! そんな事は断じて認めん! 四宮、断じて俺からは誘わんぞ。何としてでもお前から『会長と一緒に映画を見たいですぅ!』と懇願させてやる!!)

 

 

 

 

 

 

 二人が闘志を燃やす中、いち早くチケットを断った白野だったが、なんとなく状況は察していた。というのも、

 

(これはアレだ。多分、早坂さんが原案の作戦だ。そういえば“映画でデート作戦”に決まったって玉藻が言ってたし)

 

 白野はかぐやの近侍である早坂と共謀し、先日の釣り大会で早坂にかぐやへの切り札を入手させた。その早坂に、アドバイザーとして玉藻の前を紹介したのだ。

 

 白野はその場に立ち会わず、玉藻を喫茶店に呼び出しただけで早坂に場を託した。後日、自宅にて玉藻から映画デートさせる方向で決まったと聞かされていたので、今回すぐに気付けたのである。

 

(……というか、別に相手を誘わなくてもいいんだよねコレ。たとえ二人共が別々に映画を見に行くとして、絶対に鉢合わせるし。同じ日取りの同じ時刻、多分だけど早坂さんは席も隣同士になるよう予約してるはずだし。でも───)

 

 白銀とかぐや。もし二人がその事を見落としていなかったとしても、きっと()()()()事に執念を燃やすだろう。

 これだから天才たちの抱く恋愛観は始末が悪い。どちらかの一方だけでも折れれば、その瞬間に全てが簡単に片付く話だというのに。

 

 しかし、そんな世話の焼ける二人を応援するのが、少し楽しくなってきている白野。故に二人のやり方を崩そうとは思わない。

 二人の意思を尊重しつつお節介も焼く。頭脳で天才たちに及ばなくとも、白野には天才たちに無いものがある。

 幾多数多の修羅場を潜り抜けてきたという経験。どのような困難に阻まれようとも、白野は決して屈しなかった。彼女一人の力で、とは断言こそできないが、不可能を可能にしてきた実績が今の白野をここに存在させている。

 

 それに何より、頼れる仲間たちが居る。人脈、入れ知恵、裏工作。あらゆる手段が、白野の手の内にある。何も恐れる事はないのだ。

 

(今回ばかりは、友達(かぐや)贔屓はしないでおこう。公平に、形勢が優勢に傾いたほうに肩入れするかな)

 

 

 

 

 

 チケットを受け取った白銀とかぐや。すぐには動かず、しばらくは千花の変な鼻歌だけが静かな室内に響いていたが、ここで白銀が先制攻撃を仕掛ける!

 

「四宮、この映画は恋愛映画のようだが、普段お前はどんな映画を見るんだ?」

 

「どんな、ですか?」

 

「ほら、たとえばどんなジャンルを──とかさ」

 

 映画に関する話題としては、白銀が選んだものは無難。かぐやも、それには気付いており、あえて白銀の振りに乗る事を選ぶ。

 

「そうですね……。私はファンタジーなものを好んで見ます。ミステリーやサスペンスも嫌いではありませんが、恥ずかしながら、すぐに謎や犯人といったものの展開や大体の想像がついてしまう性分でして」

 

「ほう。四宮ほどの頭脳ならば、簡単にトリックなども見破れてしまう、と。なるほどな、確かに先にネタが割れるようで面白くないか」

 

「ええ。ですがファンタジーは現実から離れた夢物語を描いています。四宮の娘として厳しく育てられた為か、そういった現実から逃げられるファンタジー映画を好ましく思いますね」

 

 にこやかな笑みで、自らの生い立ちも軽く踏まえて語るかぐや。

 しかし、かぐやは本当の事など言っていない!

 

 別段、かぐやがファンタジー映画を好きとは捉えている訳ではない。見る時は見るし、見ない時は見ない。

 要は今回のようにチケットを与えられでもしない限りは、自ら映画を見に行く事などほぼ無いのだ。

 

 ならば何故、そんな風に語ってみせたのか。

 それは次の一手をかぐやから放つために他ならない。

 

「会長はどうなんですか? これは恋愛物の映画のチケットな訳ですが、もし会長が恋愛映画をお好きだとしても、まさか一人で見に行くおつもりですか?」

 

 一人で映画。無論、世の中は広いので、そういった事をする者も居ない事はないだろう。

 だが、事は恋愛に関する内容。よもや独りで恋愛映画を見に行けるほど勇敢な者はそう多くない。

 そしてかぐやは知っている。白銀にそんな勇気が無いという事も!

 

「そ、そうだな。男一人で恋愛映画を見に行くのは……なんというか、死にたくなるな……」

 

 今にも消え入りそうな声で全身を白くする白銀(もちろん比喩)。

 白銀はケチ故にチケットを貰う事そのものに最初は執心していた。そして、チケットが日時と席の指定されたものであると後にはなったが理解もしている。

 

 白銀は、かぐやから誘わせる事を前提に、映画を見るつもりだったのだ。かぐやも同じチケットを持っている以上は、決して一人映画を見るという事にはなり得ない。

 けれど失念していた。男一人での恋愛映画鑑賞が如何に空しい事であるかという事を!

 

(いやちょっと待て。これヤバくない? これ流れ的に俺から四宮に頼む感じじゃね? 「男一人だと恥ずかしいから、一緒に見に行ってください」的な? そんな事をしてみろ、きっと四宮は───)

 

 

『あら? 一人で行くのが恥ずかしいからと、私に一緒に映画を見に行ってほしいんですか? 会長にもそんないじらしい一面があったなんて、お可愛いこと……』

 

 

(──ってなるに決まってるし! くそ、流れを断ち切らねば……!!)

 

 白銀はどうにか話の流れを方向転換できぬものかと思案するが、ここで無慈悲にも千花が特に考え無しで、かぐやにとって有利な発言をする。

 

「たしかに~。男の人が一人で恋愛映画を見に行くのはキツイかもですねー。だって周りがカップルばっかりなのに、一人だと浮いちゃうというか」

 

「いやそれ女子にも言えると思うけどね。なに? 千花は恋愛映画一人でも平気なの……って、あ」

 

「…………見てみたいなぁ。恋愛映画。映画館で……一度でいいから、見てみたいぃぃ………!!」

 

 ……かぐやに有利な発言かと思われたそれは、白野により意図も容易く瓦解する。ついでに千花のメンタルも軽くブレイクしながら。

 

「……確かに、男女問わず、独りで映画館に赴いての恋愛映画の観賞は、幾らか目立つでしょうね。私も、流石に一人で行くのは恥ずかしいですし、やっぱり行くのは辞めておきましょうか。……残念ですが」

 

 千花のメンタルブレイクなぞ、まるでどこ吹く風と言わんばかりに、かぐやはそれすらも利用する!

 無論、かぐやが映画を諦めたなど、万に一つもない。当然ながら嘘の言葉であるが、四宮かぐやの演技力を甘く見てはいけない。

 この、真に迫るほどの残念そうな素振りは、誰の目から見ても演技には到底見えず、それは白銀ですらも容易く騙してみせる!

 おそらく、これを演技と見破れるのは、かぐやの本性を多少知っていて、なおかつ、多くの死線を潜り抜け培った熟練の洞察力の持ち主である岸波 白野を除いて、他に多くは居ないだろう。

 

 そしてやはり、

 

(四宮……。そんなにこの映画を見たかったのか。仕組んだのは四宮だろうが、同行者が居なければ見に行き辛いというのは、確かにその通りだろう。もしかすると、四宮はこの映画を見たいがために、こんな手の込んだ事をしたのかもしれない。……どうすべきか、ここは男である俺が折れるべきなのか。だが、しかし………)

 

 当たり前のように白銀は騙され、かぐやの思惑通り意志が折れかけていた!

 そんな白銀の苦悩する様子を盗み見て、ここぞとばかりに、かぐやはわざとらしく、よよよ、と悲しむ振りで追い討ちを掛ける!

 

「四宮の娘ともあろう者が、知己と連れ立つ事もせず、ただ独り寂しくポツンと映画を鑑賞するだなんて、四宮家の恥を晒すようなものですもの。誰も一緒に行っていただけないのなら、諦めるしかありませんね……くすん」

 

「うぐっ……!」

 

 泣き落とし。

 古来より、男は女の涙には弱いものである。かぐやは古典的な手法であると理解しつつも、これを選んだのは、それが現代でも通用する非常に強力なテクニックであると認識しているのだ。

 事実として、かぐやの涙を見せられて白銀が動揺しないはずもなく、白銀の精神に対し、まさしく「効果はばつぐんだ!」だった。

 

(……四宮を泣かせてまで、映画に誘わせる事にこだわる必要があるのか? いや、ここは男として俺が甲斐性を見せるべき場面だろう!? どうあれ、俺だって四宮と一緒に映画は見たい訳だし。告白がどうとか関係ない。それに、映画に誘う=告白とは限らないんだしな!)

 

 かぐやの泣いた振りにまんまと騙された白銀は、むしろ開き直り、手にしたチケットをグッと握り締めて、意を決して口を開いた。

 

「……し、四宮。四宮が良かったら───」

 

 途中まで言って、白銀はふと思い留まった。

 

 果たして、“四宮かぐや”という人間は、たかが映画一つを見れないだけで泣くのか?

 

 その考えが、一瞬だが確かに白銀の脳裏に(よぎ)り、白銀は言い淀んでしまった。

 そして、それは間違いではなかったと、すぐに知る事となる。

 

「会長。()()()()()、何ですか?」

 

 先程まで涙を浮かべていたはずの緋色の瞳は、今や一心に白銀の顔へと向いていた。より正確に言えば、白銀が紡ぐであっただろう言葉の続きを待つかの如く、その視線は彼の口元を射抜かんとばかりに送られている。

 

 ──しまった。

 そう思った時には既に手遅れだ。かぐやは今、白銀の判断ミスという最大の好機を手にしている。これ以上無い程のチャンスを、かぐやが逃すはずなどない!

 

「何か言いかけてましたよね、会長? 一体何を仰ろうとしていたのか、とても気になります」

 

「いや、えっとだな……」

 

 言い間違いだったと訂正させる隙も与えない、かぐやの連続口撃が白銀の退路を奪う。こうなれば、もはや何か言わざるを得ない空気になり、白銀はしどろもどろになりながらも、どうにか言い逃れ出来ないものかと高速で思考を回す。

 しかし、それすらも許さんとばかりに、彼にとって予想外の所から追撃が加えられた。

 

「もしかして、一緒に映画見ないかってお誘いとかじゃない? 同じ映画のチケットなんでしょ、それって。それにお互い一人で見に行くより、二人で行けば映画館でも浮かないだろうし」

 

 白野による、かぐやへの援護射撃である!

 流れがかぐやに有ると踏んだ白野は、迷いなく白銀へのフォローを取り止め、かぐや優勢に乗ったのだ。

 何しろ、白野からすれば、二人のどちらが勝とうと関係ない。この見ていてやきもきさせられる二人の関係性に、早々に決着が付けられるのなら、白野が迷う理由など有るはずも無い。

 

 白野の言葉が図星だった白銀は、一瞬高速回転させていた思考が停止してしまう。彼に生まれた、その僅かな空白の時間を、白野は完全に読み切る。

 そして、白銀に近付き耳元でそっと囁いた。

 

「女の子はね、男らしいアプローチにときめくんだよ……?」

 

 それは決して、映画に誘えという指示でも、ましてやアドバイスでもない。ただ単に、女とはそういうものである、と白野の持論を告げただけだ。

 勿論、全ての女性がそうとは限らないだろうが、少なくとも白野が言うような感性を持つ女性は、少なからず居るはず。

 

 だが、その言葉は白銀を後押しするには十分な重みがあった。

 

(……! そうか、そういう事か岸波!)

 

 白銀はニヤリ、と不敵な笑みを浮かべる。それこそ、先程までの冷や汗はどこへ行ったのかと思える程の様変わりに、当然かぐやも違和感を覚えたが、白銀の放つ次の言葉を聞いた時には、それも消え去る事となる。

 

「……ああ。言いかけたとも。四宮さえ良ければ、この映画を一緒に鑑賞してみるのはどうだ? どうやら四宮はこの映画をかなり見たいようだし、俺としてもせっかくのチケットを無駄にしたくはない。一緒に行けば、互いに映画館では浮かないし、四宮は見たかった映画を見れて、俺もチケットを無駄にせずに済む。Win-Winの関係というやつだよ」

 

 自信に満ちた白銀の言葉に、嘘偽りは一切無かった。正々堂々、彼はかぐやを映画に誘ってみせたのである!

 

 かぐやにとって、これはまさしく理想的な展開と言える。けれど、少し想定と違う白銀の態度に引っ掛かりを覚えるものの、()()()()()()()()()()()という覆りようのない事実が、それを上回る喜びにかぐやは見舞われたため、正直どうでもよくなっていた。

 

「───そうですね。()()()()()せっかくのお誘いです。その提案、お受けさせていただきます。では、待ち合わせなどはどうしましょう───、」

 

 今にも溢れだしそうな喜びの感情を必死に抑えつつ、かぐやはさも平静さを装って、当日の打ち合わせに心を弾ませる。

 

 だが、嬉しさのあまり、かぐやは白銀の心変わりの理由にまでは気を回せなかった。絶対に彼女から誘わせてみせると心に決めたはずの白銀が、それを曲げてまで自ら映画に誘うと決断した、その理由を。

 

(……くくく。映画に誘う=告白とは言い切れない。どうかは知らんが、今時は異性の友人と映画を見に行く事とて、さほど珍しくはないだろう。……多分。そして、映画のムードにあてられて乙女心を爆発させた四宮ならば、いつも以上に告白させやすくなるのではないか? 岸波、礼を言うぞ。ついに、四宮から告白させる事が出来るかもしれないこのチャンスを、俺は絶対に掴んでみせるぞ……!!)

 

 表向きは普段通りながらも、心の内では嬉々として映画鑑賞当日への計画を立てるかぐや。

 そして、当日こそが決戦日であり最大の好機であるとほくそ笑む白銀。

 

 そんな二人の様子を、千花を慰めながら白野は漠然と思うのだった。

 

 

 

(あれ? なんかニアミスが起きてない?)

 

 

 

 ───本日の勝敗結果。

 

 かぐやの勝利(?)……白銀が今回のみ、かぐやに花を持たせたため。

 

 

 映画デート編へ続く!!

 

 




 
「BB~チャンネルー!!」

「およそ一年三ヶ月ぶりに皆さんコーンニーチワー!! 帰って来たBBちゃん、ここに推参です☆」

「本当はもっと早く更新したかったそうですけど、作者さんスランプというか、話の構成の仕方が上達しなくて全然書けなかったらしいんですよね~。私が何度もお尻に豚さんダンクしてあげて、ようやく書き出したくらいです」

「これはもう、完全にBBちゃんの功績じゃないです? というかもう、タイトルも『BBちゃんと先輩の、ラブラブ学園生活!』に変えちゃっても良いのでは!?」

「……なーんて。それじゃあお話ぜーんぶ変わってしまいますので、そんな野望は胸の奥にしまっておきますね。先輩の迷惑にはなりたいですけど、邪魔にはなりたくないので☆」

「さてさて、次々回はデート回です! 原作だと映画デートの約束はしませんでしたが、一体どんな展開になるのか、どうぞお楽しみに~!」



「……どうして次回じゃないのかって? 次回は、まだ7話ではないからでーす!」
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