シスコン野郎だって恋をするだろうか?   作:かげなし
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少女の決意

「君は——」

 

「私は、暁詞羽です。覚えて……いませんか?」

 

俺の疑問を察したのか俺が問いかけるよりも先に、少女は暁詞羽と名乗った。聞き覚えがあるような気がしたが、なぜか思い出せない。

 

「ごめん」

 

「そう…ですか。なら、言います。私は、棗由紀さんに命を救われました。由紀さんの、あの事故の原因になった人間が……私です。私が由紀さんを死なせてしまいました」

 

哀しみと怯えを孕んだ瞳でこちらを見つめて彼女は言った。そうか…そうだった。無意識に記憶から遠ざけていた。あの日、由紀ねえは1人の少女を庇ってトラックに跳ねられ、死んだ。その時の少女がこの子だ。事故の後、何度も家に謝りに来た。でもその頃の俺にはそれをまともに聞き入れる余裕がなかった。そしていつのまにか彼女が家を訪ねてくることはなくなった。何か心ない言葉を彼女にかけてしまったような気もするが思い出せなかった。

 

「私を、恨んでいますか……?」

 

「いいや。君を恨んではいない…と思う。あの頃の俺が君に何を言ったかは覚えてないけど、少なくとも今の俺が君に対して何か思うことはないよ。もう4ヶ月経ったんだ。人の心が癒えるのには十分な時間だと思わないか?」

 

言葉は咄嗟に出たものだった。

本心? 強がり? 自分でもよく分からない。

 

「そうですか。…っそのこと……んで…る…がずっと……なのに……」

 

最後の方は小さすぎてよく聞き取れなかったけれど、彼女の哀しみが一層ました気がした。彼女は俺から責められることを望んでいるのだろうか。

 

「でも、私にはあなたの心が癒えたようにはとても見えません。私の知ってるあなたは、そんな目はしていなかった。今のあなたは見ていられません」

 

彼女は俺の心が癒えていないと言う。

彼女が俺の何を知っているというのか。

そんな目? どんな目だよ。俺はいつでもこんな目だ。だいだい彼女がいつ、俺を見ていたというのか。

少し癇に障った。苛立ちが言葉に現れる。

 

「あんたに俺の何が分かる。俺があんたを恨みはしないと言ってるんだ。俺が大丈夫だと言ってるんだ。それでいいだろう。これ以上あんたと俺が関わる必要もない」

 

「知ってます……知ってますよ……あなたのことは……だから、私は……」

 

少女の言葉はまたしても小さすぎて俺には聞き取れない。

 

「……ようし」

 

長い沈黙の後、少女……いや詞羽がつぶやく。

彼女は一層顔を引き締めたように見える。

そして——これからの日常を変え得るひと言を言い放つ。

 

「棗有宇さん。いいえ、有宇先輩。お願いがあります。私と、お友達になって下さい」

 

言い終わると同時に彼女はにっこりと笑った。

初めてみた笑顔だった。

 

「は……?」

 

しかし発言の意味は全く分からない。俺はついさっき俺たちが関わる必要はないといったばかりなのに。

友達……? こいつと……?

混乱する俺が導きだした答えは——

 

「こ、断るっ」

 

とりあえずの拒否だった。

 

「え〜なんでですかあ〜。さっきのが気に障ったんですか? それなら謝りますっ。だからお友達になって下さいよお〜。私、こんなに可愛いんですからっ! そばに置いて損はないハズですっ」

 

彼女はさっきまでとは打って変わって気の抜けた声を発する。甘えたような、じゃれつくような、懐かしさも感じる声。

 

「う、うるさいっ。だいたいさっきまでとキャラ違いすぎなんだよ。裏があるようにしか見えなくて怖いわっ」

 

俺は詞羽を無視して歩き出す。

 

「さっきまでは頑張ってシリアス感出してたんですぅー。こっちが素なんですよお〜。待ってくださいー」

 

「雰囲気台無しかよ……」

 

呆れつつも俺はそのまま歩き続ける。

追いかけてくる詞羽。

追いつけないように俺は早足になる。

それでもいつまでもしきりに何か話しかけながら追ってくる彼女に根負けして、俺は彼女と横並びになって歩きだした。

由紀ねえに救われた少女との出会い。

これは偶然なのか、詞羽自身が選んだことなのか。

詞羽が何を考えているのか俺には分からなかった。

でも、ここから何かが変わっていく。

そんな予感がした。

 

 

 



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