────鎮守府に勤めてるんだが、もう私は限界かもしれない   作:れいのやつ Lv40

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ホワイトに英雄譚を求めるのは間違っているだろうか

「あ~!! ぜーんぜん記事になりそうなネタがないですよぅ~!!」

「そーねー。 秋雲さんもネタが欲しいわ。全然筆が進まないもん」

 

 鎮守府の一室で不満げに声を上げたのは、個性的な者が多い艦娘たちの中でも何かと問題児として知られる二人。青葉と秋雲であった。

 型も艦種も全く異なる二人が同室なのは、トラブルメーカー同士でまとめられたため……ではなく、この二人がこの鎮守府とは別のブラック鎮守府から引き取られたという事情からであった。

 

 彼女たちは前世の逸話からか記者や作家としての活動に熱心な事で有名であるが、ブラック出身であるこの二人もその例に漏れず、記事や本の執筆を何よりの生き甲斐としていた。

 しかし、この鎮守府に異動してきて以降、彼女らの趣味は全く以て進歩がなかった。

 

「あーでも、最近ここの提督と初期艦がケッコンするとか聞いたわね」

「そんな()()()()()()()()()()なんて記事にする価値もないですよぉ! だいたい、司令官と艦娘がケッコンしたからなんだっていうんですか。単なる戦力増強じゃないですかぁ~」

「いや、ホワイトでは一大ニュースらしいわよ? よく知らないけど」

 

 通常の青葉と秋雲なら飛び付きそうなケッコンのニュースはしかし、彼女らにとっては話のネタにもならないような些末事でしかない。ブラック出身の二人の感覚からすればケッコンなど艦娘の性能向上のための策のひとつでしかない。実際、二人もブラック提督とケッコンしていた。そのせいもあって、真っ当な鎮守府にとってケッコンがどれほど注目を浴びる出来事なのか二人はよくわかっていなかった。

 しかし、それを差し引いても二人は日常的な話題への興味は皆無であった。

 

「青葉が書きたい記事はそういうのじゃないんです! 青葉は、そう! 英雄の記事が書きたい! 末期的な戦場という地獄の真っ只中だからこそ生まれる英雄の声が聞きたいんです!」

「そーねー。秋雲さんも描きたいわ。クソッタレな深海棲艦どもを、片っ端から蹴散らしていく戦女神の姿を」

 

 ブラック鎮守府でも比較的古参に属していた二人は、それこそ地獄そのものの光景を見てきた。無謀極まる運用に、使い捨ての如く沈んでいく艦娘。

 だが、その地獄の最中にあって、それを物ともせずに、提督の理不尽な命令を容易く完遂し、鎮守府に勝利をもたらす英雄が生まれるのを見てきた。

 また、提督に『死ね』と命じられて、その命令に何一つ不服を示す事無く沈み、その身を犠牲に得た、たった数刻によって同胞に勝利をもたらし、一足先に自由になった英雄がいた事を知っていた。

 

 二人はその英雄たちの活躍に魅せられ、その姿を記事や本として書き記してきたのだ。

 

「青葉は期待していたんです。司令官としては下の下だったあの人の下でもあれだけの英雄が生まれた。なら、真っ当な艦隊運用ができる司令官の鎮守府にはどれほど素晴らしい艦娘がいるんだろうと。なのに……」

「真っ当な艦隊運用に真っ当な戦術。考えてみれば、そんな鎮守府で英雄が生まれるはずがないのよねえ」

 

 ホワイト鎮守府の真っ当な艦隊運用は、ブラック鎮守府とは比べるまでもなく素晴らしいものだ。しかし、その環境では英雄と呼べるほど突出した戦果を挙げる存在が生まれる土壌がなかった。そう、英雄は英雄が必要とされる環境でしか現れない。

 

「というか、土台からして無理な話だったのよ。この鎮守府の娘たち、秋雲さんたちにあっさり負けるぐらいだもの」

「そうですね……一日に二桁しか出撃しないような鎮守府ではそんなものなのかもしれません」

 

 ブラック鎮守府では下から数えた方が早い実力だった青葉と秋雲だが、それでも初期から地獄を生き延びてきた猛者だ。ホワイト鎮守府の艦娘たちとは修羅場を潜り抜けてきた数が違う。異動してきてから何度か行ったこの鎮守府の艦娘たちとの演習では青葉と秋雲の二人だけで一部隊に圧勝していた。そもそも大破しただけで撤退が許される環境にいる艦娘たちに青葉らが負けるはずもなかった。そんな鎮守府が彼女らの期待に応えられるはずもない。

 

「鎮守府としてはこれでいいんだと思うわ。でも、それじゃ心に響いてこない。あぁ、平穏な日常っていうのがこんなに退屈だなんて」

「青葉もです。あぁ、非日常が欲しい。数多の英雄を生み出したあの地獄に戻りたい……」

 

 何度か、ブラック鎮守府での日々を思い返して記事や本を書こうとした事はある。だが、それではどうしても創作じみた物になってしまう。それでは駄目だ。二人が書きたいのは、英雄たちの生の物語。そこに誇張や妄想が混じっては意味がない。

 

「あぁ、インスピレーションが湧かない。あの鎮守府にいた頃は、どんな創作も陳腐に思えるぐらい英雄譚に溢れていたのに」

「日常が魂を腐らせるなんて青葉、知りませんでした。あぁ、日々を過ごしているだけで魂を揺さぶられたあの鎮守府が懐かしい」

 

 艦娘を運用する鎮守府としてはこれが正常なのだろう。だが、正常では駄目なのだ。平穏無事な日常では彼女たちは満足できない。まともでいるなどという贅沢は不用なのだ。

 ──血と硝煙に塗れ、悲鳴と銃声が飛び交うあの地獄、その狂気の最中で戦線を切り開いてゆく英雄の姿を知っているから。あの姿に魅せられてしまっては、あらゆる日常が児戯に思えてしまうから。

 

「足柄さんや川内さん、どうしているかしら。あぁ、彼女たちの物語が描きたいわ。狂気こそを正気として戦神となるあの姿を」

「あぁ、青葉は英雄の姿を伝えたい! 彼女たちの記憶、彼女たちの存在を残したい! 心震わせ、魂を揺さぶるあの姿をこのレンズに写したいのに!」

 

 ──生温い日常に浸かりながら、彼女たちは今も何処かで戦場に身を投じているであろう英雄の姿を思い浮かべるのだった。




【秋雲】
ブラック鎮守府の生き残りのオークラ先生。瑞鶴に襲撃された人とは別人。
一般的な秋雲と同じく本の執筆を趣味としているが、彼女はブラック鎮守府という地獄でこそ生まれる英雄の存在に魅せられ、その物語を本にしてきた。
ホワイト鎮守府でも当然活動を続けるはずだったが、ブラックと比べればあまりにも生温い日常にインスピレーションが全く湧かない。ブラック鎮守府時代のあの地獄が恋しい。

【青葉】
ブラック鎮守府出身の記者艦娘。秋雲と同期。
秋雲と同じく、ブラック鎮守府という地獄で生まれる英雄と呼ぶべき艦娘たちの姿に感動し、彼女たちの生の姿を写真に収め、その活躍を伝える記事を書く事を何よりの生き甲斐としてきた。
しかしホワイト鎮守府には英雄的な存在が全くおらず、全然記事を書けない。
提督の色恋沙汰や艦娘のプライベートのようなゴシップの類いには全く興味がない。それより英雄は何処ですか。
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