────鎮守府に勤めてるんだが、もう私は限界かもしれない   作:れいのやつ Lv40

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一航戦赤城は機械である

「赤城さん」

 

 一航船の正規空母、加賀が同じ正規空母仲間の艦娘、赤城に声をかけた。しかし、親しい相手に声をかけたにしては、加賀の表情は異様に固い。それもそのはず、加賀が声をかけた相手である赤城は元々はこの鎮守府の艦娘ではなく、ブラック鎮守府の艦娘だったからだ。

 

 ブラック鎮守府出身の艦娘は、その境遇から人間不信どころか、場合によっては同じ艦娘にすら怯えてしまうほど心に傷を負った者もいる。声をかけるだけでも勇気がいる存在だ。

 

 ──最も、この赤城はそれらの艦娘とは別ベクトルで厄介だったが。

 

「あ、加賀さん。任務ですか?」

 

 これだ。加賀は思わず溜息をつきたくなるのをこらえた。この赤城は、よく見られるブラック鎮守府の艦娘のように人間や艦娘に怯える様子は全くない。その点では安心できたが、その代わりと言うべきなのか、彼女はあまりにも人間味がなかった。

 

 まず、感情が乏しい。感情の起伏が表情に出ないと言われる加賀よりも更に酷い。他人と話す時に笑顔にはなってくれるが、心からのものではなく貼付けたような作り物の笑顔しか見たことがない。彼女と並んでいると加賀が感情豊かに見えるほどだ。そして誰とも話していない時は、何をするでもなく無表情で虚空を見つめている。まるで心そのものが無いように見えて恐怖を覚えるほどだ。

 

 何より赤城は自己表現というものがない。口を開けば彼女から出て来る言葉は「任務かどうか」だ。それ以外には全く興味がないというか、まるで自身を任務遂行のための機械か何かとでも思っているかのようだ。ブラック鎮守府はここまで艦娘を壊してしまうのかと加賀は戦慄した。

 

 ──加賀のその認識はある意味で正しくない。赤城が無表情で空中を見つめたり、笑顔が貼付けたようになるのは、単にこの赤城にそういう癖があるというだけであった。そして、赤城が口を開けば任務のことしか言わないのはデフォルトである。赤城とは得てしてそういう傾向のある艦娘であり、別にブラックの影響でもなんでもなかった。

 

 最も、この赤城が他の個体より人間味が無いのは加賀の勘違いではなかった。ブラック鎮守府では他の艦娘との触れ合いの機会に乏しい。赤城は他者と触れ合わずとも問題なく過ごせてしまった為に、彼女の「自身は兵器である」という初期認識を変えることができなかったのだ。

 

「……赤城さん、任務はありません」

「そうですか。任務はまだでしょうか」

「……ブラック鎮守府から異動してきた艦娘には最低半年間は任務はありませんよ。説明もされたはずですが」

「すみません。よくわかりません」

 

 生き物ではなく機械と話しているかのような会話の手応えに加賀は今度こそ溜息を吐いた。一方、赤城は疑問であった。なぜ戦力になる自分を出撃させないのだろうかと、この鎮守府に来てからずっと不思議に思っていた。だが、彼女はその理由を他者に問うようなことはしない。機械は質問などしないのだから。

 

「……それより赤城さん、食事は済ませましたか?」

「食事? 私は出撃していません。『補給』は不要です」

 

 これも赤城には疑問のひとつだった。この鎮守府に異動して来てからやけに『補給』を奨められるのだ。前の鎮守府では必要な時しか行わなかったのだが。一方、加賀は赤城のその返答に頭を抱える。

 

「……赤城さん。食事は補給とは違います。補給と別に美味しいものを食べてもいいのです」

「美味しいというのはよくわかりません。補給に感慨など抱くものでしょうか?」

 

 赤城にはそもそも補給以外の食事というものが想像できなかった。彼女にとっては食事とは戦場において消耗した燃料を補給する為の行為でしかなく、そこに趣味嗜好が入る余地はない。元より認識がズレていたのである。

 しかしこれに関して言えば、特別赤城がおかしいというわけではない。本来、艦娘の食事は補給のために行うものだからだ。艦娘が嗜好として食事を行っていることの方がある意味では不自然でもあった。

 

「……これ、どうすればいいのよ」

 

 一方、加賀としてはもはやお手上げである。赤城といえば、暇な時よくご飯のことを話題に出す、食事が何より大好きな艦娘というのが定説だ。なのに、その食事にすら興味を示してくれないときたら、一体どうやって親睦を深めればいいのか。

 

「二人とも何してんだ?」

「加賀さんが悩んでるなんて珍しいわね〜〜」

「……天龍さん、龍田さん」

 

 そんな加賀の側に天龍と龍田の姉妹が歩み寄ってきた。どうやらたまたま通り掛かったらしい。

 

「いえ、お気になさらず」

「ま、いいけどよ。そういや、加賀と赤城はどっちが弓上手いんだ?」

「は? 何です薮から棒に」

 

 確かに加賀と赤城は共に弓を使うが、あまりに唐突な天龍の質問に加賀は疑問符を浮かべる。龍田が苦笑しながら説明した。

 

「天龍ちゃんね、この間ウィリアム・テルのお話を読んだのよ〜〜」

「ああ……なるほど」

 

 その龍田の説明で加賀も納得した。ウィリアム・テルと言えば弓の名手だ。単純な天龍のことだ、また小説に影響されたのだろう。

 

「そうそう。加賀と赤城はああいうのできねーのか?」

「それは、できると思いますが……」

 

 天龍の言うのは彼の有名なリンゴを撃ち抜くあれの事だろうが、よく勘違いされているがあれは確かクロスボウでやったんではなかっただろうか。

 

「暇ならよ、実際にやってみようぜ!」

「は? なんで私が……」

 

 あまりに唐突な話に加賀は断ろうとしたが、ふと考えた。こういうことは今までしたことが無いが、これはある意味、赤城と親しくなれるきっかけを作るチャンスではないか? 

 

「……いいですよ。やりましょうか」

「おっ、そうか!」

「じゃあリンゴを乗せる役は天龍ちゃんね〜〜」

「えっ、オレ!?」

「言い出しっぺなんだからそれぐらいやりなさいな〜〜」

 

 龍田に勝手に天龍が的役をやらされるのを横目に加賀は赤城に声をかけた。

 

「ということらしいので、赤城さんもお付き合いいただけますか」

「任務ですか?」

「いえ、任務ではないのだけど……」

 

 相変わらず機械的な態度の赤城の説得には多少手間取ったが、なんとか言いくるめて演習場まで移動する。

 

「準備はいいですか〜!」

「ええ」

 

 演習場に行く間にいつの間にかついて来た第六駆逐隊の暁が何故か仕切っていた。

 それはさておき、天龍の頭上に置かれた的となるリンゴ目掛けて加賀が弓を引き絞り矢を放ち──矢は吸い込まれるようにリンゴの中心を射抜いた。

 

「おお……!」

「さすが加賀さんなのです!」

「やっぱりレディは違うわね」

「フ、フフフ、ビビってなんかないぜ」

「天龍ちゃん、誰も聞いてないわよ〜〜」

 

 ギャラリーが好き勝手に騒ぎ立て天龍がやせ我慢をする中、今度は赤城の手番である。機械的に素早く弓に矢を番えると一切の逡巡も見せずに流れるように矢を放ち、矢は当然の如く天龍の頭上のリンゴを射抜き──

 

 ──大爆発した。

 

「て、天龍ちゃ〜〜〜〜〜〜ん!?」

「はわわ、天龍さんが大破したのです!?」

「メ、メディック! メディーーック!」

 

「あ、赤城さん、やり過ぎです!!」

「すみません。よくわかりません」

 

 ──戦闘マシーン赤城。自身を機械と定義している彼女は『手を抜く』という行為が致命的に下手なのだった。

 

 




赤城

ブラック鎮守府の頼りになる空母枠で、戦闘機械。ブラック鎮守府の戦線を支え、重宝されていた艦娘の一人。足柄一人で戦線を支えていたと言ったな、あれは嘘だ。

まさしく機械のような性格で、基本的に任務と作戦のことしか話さない。食事は補給としか認識しておらず、不必要な時は何も食べない。ブラックの影響?いいえ元からです。

忠実な機械のようにブラック提督の無茶な命令にも黙って従っていた。ブラック鎮守府では自己表現する必要などなかったので感情表現に乏しい。
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