────鎮守府に勤めてるんだが、もう私は限界かもしれない   作:れいのやつ Lv40

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狂乱川内姉妹日記

 ──ブラック鎮守府。並の艦娘では到底耐えられぬであろうその場所での過酷な日々を、幸運にも姉妹揃って生き延びた艦娘たちがいた。川内姉妹である。しかしそんな彼女らは今、与えられた部屋で荒れていた。主に長女である川内が荒れていた。

 

「うぅ〜! なんで出撃許可が出ないのよぉ〜! 夜戦が私を呼んでるのにぃ〜!」

 

 川内。彼女は艦娘一の夜戦バカである。特にブラック鎮守府出身のこの川内は、夜になればブラック提督が何も言わなくても勝手に出撃して夜戦に参加していた相当な問題児であり、しかしその夜戦での奮迅ぶりと夜戦だけさせていれば満足するという扱いやすさから重宝されていたという夜戦版足柄と言うべき存在であった。もはや夜戦バカを通り越して夜戦狂と言ってもいい。

 

「ね、姉さん……仕方ないですよ、規則なんですから」

 

 そんな川内を宥めるのは姉妹の次女である神通だ。真面目な彼女は規則は厳守すべきだと考えているが、しかしそんな言い分ではこの姉は納得しない。

 

「何が規則よ! 私個人の感情を抜きにしても、私たちを遊ばせておく意味なんてないでしょ!?」

「それはまあ……確かに……」

 

 ブラック鎮守府での日々を生き残った彼女らは、当然の如く練度がカンストしている。川内の言う通り、そんな艦娘を三隻も遊ばせておくというのは戦力的には愚策以外の何物でもない。

 

「出撃とはいかないまでも、巡回に出るぐらい認めてほしいわ!」

「姉さんは巡回中にそのまま夜戦に行きそうですし……」

「きぃーっ!!」

 

 実際そうするつもりだったらしく苛立ち吠える川内。とはいえ、実際のところ自分たちを出撃させないのは極めて非効率的だと神通も思っていた。せめて訓練ぐらいは行いたい。何より、ブラック鎮守府での日々を生き延びた自分なら、他の皆に教えられる事も多いはずだ。

 

(訓練をして、今度こそあの娘たちを……)

 

 神通はブラック鎮守府を生き延びた艦娘の中でも珍しく他の艦娘を気にかけている人物であった。ブラック提督の命令に反発する事はしなかったが、過酷な戦場の中で生き延びる艦娘が少しでも増えてほしいと、他の艦娘を引き連れて訓練を自主的に行っていた。その訓練の結果が出た事はほとんどなかったが。

 そんな彼女からすれば、姉の夜戦狂いはともかく、こうして命令も無く部屋に待機している現状を良く思っていないのは事実であった。自分たちが出撃すれば、未来にどこかの艦娘を沈めるかもしれない深海棲艦を何隻撃破できることか。こうして無為に過ごしている間にも、どこで仲間が沈んでいるかわからないのに。

 

「そうだねー。那珂ちゃんも早く現場に出たいよぉ」

「な、那珂ちゃん……?」

 

 そうして会話に加わってきたのは自称艦隊のアイドルこと川内姉妹の末妹、那珂である。しかし、実のところ神通はこの妹が苦手であった。なぜなら彼女は姉とは別ベクトルでぶっ飛んでいるのだ。

 

「那珂もやっぱり出撃したい?」

「うん。ロケにいきたいなぁー。もちろん那珂ちゃんが旗艦(センター)でね!」

 

 那珂はとにかく旗艦になることにこだわる。これはブラック鎮守府出のこの那珂に限らず、一般的に見られる傾向である。一方の川内や神通は特に旗艦になりたいわけではないし、何よりブラック鎮守府では誰が旗艦でも大して戦況に影響はなかったので那珂は出撃時にはいつも旗艦を死守していた。ゆえに、それ自体は別に問題はないのだが……。

 

「それで、センターに立った那珂ちゃんは深海棲艦の注目を浴びて……すごいブーイングが飛んできて……ふひっ、ふひひひひ……」

「な、那珂ちゃん! 戻ってきて那珂ちゃん!」

 

 神通が声をかけるが、当の那珂はとてもアイドルがするべきではない表情でトリップしていた。そう。この那珂、ブラック鎮守府での日々でそうなったのかは不明だが……いや、神通が思い返す限りでは最初からだった気がする。

 彼女、凄まじい被虐趣味の持ち主なのである。開戦して早々わざと敵陣のド真ん中に突っ込み、集中攻撃されることに愉悦を感じるヤバい艦娘と化していた。前世で培った回避技能で敵の弾を回避しながら囮になりつつ、身体ギリギリを弾が掠めていくのに快感を感じているのである。彼女が積極的に囮になり敵弾の的となり続けることで結果的には味方を有利に導いていたのが始末に負えない。しかも戦況的に勝ちが確定してくると被虐趣味を満たすためにわざと被弾して勝手に戦線離脱することも多々あった。ある意味ではブラック鎮守府一の問題児である。

 

「……あれ? 那珂ちゃんまた向こうにいっちゃってた?」

「やっと戻ってきた……アイドルがしていい顔じゃなかったわよ那珂ちゃん」

「いっけなーい、しっかりしないと」

 

 「てへ☆」と舌を出して笑う那珂に神通はため息をついた。この妹を相手にするのは、はっきり言って疲れるのだ。

 

「でも真面目な話、オフが長すぎると那珂ちゃんも身体が鈍っちゃうよぉー」

「全くだわ。さっさと出撃させなさいっての!」

 

 二人の意見にも神通は納得できるが、しかし結局のところ、所詮は兵器でしかない自分たちではどうしようもない。いつ来るかもわからない提督からの命令を待ってただ待機しているしかなかった。

 

「そういえばここの鎮守府は解体の音が聞こえないねぇ。あそこじゃ結構聞こえてたのにー」

「那珂ちゃん……解体なんてそうあるものじゃないのよ」

「そっかー」

 

 ブラック鎮守府では提督に意見した艦娘が解体処分されるのが日常であったが、普通の鎮守府では解体などそうないだろう。全くないわけではなくとも、さすがに意見しただけで解体されるようなことは有り得まい。

 

「あのハンマーの音、那珂ちゃんは好きなんだけどなぁ」

「アレが好きって、那珂の趣味は私たちにはちょっと理解しがたい領域ね」

「うふふ、カーン...カーン...カーン...って、あの本能から震え上がるような音、ゾクゾクしちゃうんですよぉ」

 

 川内がごちるように、普通の艦娘からすればあのハンマーの音は艦娘を恐怖させ、敬遠されるものである。しかし、そこは被虐趣味の那珂、そんな本能的な怯えすら快感にしてしまうようであった。ダメだこりゃ。

 

「那珂ちゃんじゃない『那珂』が解体場に連れていかれる時のあの怯えた表情、思い出すだけで……ふひひ」

「ちょっと神通、この娘なんとかなさい」

「そ、そう言われても……」

 

 被虐趣味を姉二人にドン引かれても那珂は気にも留めない。アイドル精神はどこへ行った。

 

「知ってる? 那珂ちゃんは解体されると燃2弾4鋼11になるのです。ああなっちゃうまでどんな過程があるのかと思うと……」

 

 『那珂』はやたらと建造で現れる艦娘として有名であり、それゆえ解体に回される艦娘の筆頭であった。今彼女が語った『燃2弾4鋼11』は一部では那珂を表す隠語にまでなっているほどである。

 実際、前任のブラック鎮守府でもしょっちゅう建造で現れた那珂が解体に回され泣き叫んでいた。この那珂はそんな自身の同型艦の末路にすら快楽を感じているのだからどうしようもない。ある意味では頼もしいとも言えるが。

 

「そう……那珂ちゃんが解体場に連れていかれて……あのハンマーが振り上げられて……そして……ふひ、ふひひひひ……」

「な、那珂ちゃんっ!? また!?」

「あー、夜戦がしたい。誰かが夜戦に行った時に勝手に出撃しようかしら……戦果を譲ってあげれば口止めになるでしょ……」

「姉さんも何言ってるんですかぁぁぁ!?」

 

 ──個性が強すぎる姉と妹の板挟みになり、気苦労が絶えない日々を過ごす神通であった。




川内
夜になると命令が無くとも勝手に出撃していくほどの夜戦バカを通り越した夜戦狂。一言で言うと夜戦版足柄。
とりあえず夜戦だけしてればどんな環境でも満足できるため、ブラック鎮守府だろうが気にもしていなかった。
例によって出撃できない現状に不満タラタラ。命令無視で出撃してやろうかと考えている。

那珂
自称艦隊のアイドルにして、自身の危険に快楽を感じる真性のマゾ。
いつからそうだったのかは不明。しかし神通が思い出す限り最初に会った時からそうだった気がする。
解体ハンマーの音や自身の同型艦の末路にすら愉悦を感じる相当な被虐趣味。
こんなんだが実力は凄まじく、ブラック鎮守府一の回避能力を誇る……が、勝利が見えてくると自分から被弾して勝手に戦線離脱するため戦力としては全く信用できない。

神通
川内姉妹の良心にして最大の苦労人。
ブラック鎮守府では提督には従順に従っていたが、沈む仲間を少しでも減らしたいと自主的に訓練を施していた。残念ながらあまり効果は無かった様子。
自己主張の強すぎる姉と妹に挟まれて苦労する日々を過ごしている。しかし、理由はともかく内心は二人と同じく出撃できない現状は良く思っていない様子。
私たちが出撃して深海棲艦を沈めれば、どこかの仲間たちが助かるかもしれないのに……。
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