────鎮守府に勤めてるんだが、もう私は限界かもしれない   作:れいのやつ Lv40

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渡る世間はクズばかり

「あーもう、バカばっかり!」

 

 前世にて様々な作戦に参加してきた歴戦の主力駆逐艦たる古豪の艦、朝潮型10番艦『霞』は、はばかりなく周囲への罵倒を口にした。

 ブラック鎮守府を生き残り新たな鎮守府に着任した彼女への対応として司令官に命じられた「無期限待機」は、ただでさえ激情型である彼女の怒りを煽るのには十分すぎる火薬であった。

 

「この大事な時に私らを待機させるってどういう事なのよ、あのクズ!」

 

 あろうことか自身の司令官をクズ呼ばわりする霞であるが、これは彼女の口癖のようなものだ。おかげでブラック鎮守府では霞がそういう艦娘だと提督が理解するまでに数十隻の霞が解体処分されていたのだが。

 さておき、霞に限らず、ブラック鎮守府の生き残りである艦娘には全員無期限待機が命じられている。メンタルケアの為とかいうふざけた理由でだ。

 

 ──もう戦わなくてもいい。ゆっくり身心を休めてくれればいい。そう優しく話しかけられる度に、霞は背に虫が這い回るようなおぞましい感覚に襲われた。

 

「『君はブラック鎮守府で奴隷のように酷使されてきた』ですって? だから何よ!」

 

 兵器が戦場で酷使されたからどうだというのだ。知った風な口を利きやがって。霞は陰口が嫌いだが、的外れな同情も嫌いだった。自身が何とも思っていない事をさも悲劇のように語られるほどうっとうしい事もない。

 大体、これが心身に傷を負った艦娘の態度に見えるのだろうかあいつらは? 

 

「全く、気に入らないったら!」

 

 霞が聞いたところによれば、どうもこの扱いはブラック鎮守府を生き残った艦娘に対する最も無難な処置らしい。なんでも、ブラック鎮守府で酷使されてきた艦娘は人間への不信感を抱いている場合も多く、出撃させようとすると過剰に怯えたり、場合によっては脱走や反逆する輩までいるらしい。

 それを聞いた霞の感想はといえば。

 

「はぁ!? それで逆ギレ? だらしないったら!」

 

 これしかない。戦の為の道具が戦場で使われる。当たり前ではないか。使われる事に感謝こそすれど、恨む理由などひとつもない。

 それが『戦争の為の兵器を戦場で酷使したら人間不信になって反逆されました』などと、これが逆ギレでなくてなんだというのだ。

 

「人の身体を得た途端にこれだなんてね! 心があるっていっても、それで兵器の本分を忘れてたら意味が無いじゃない!」

 

 戦を忌避して戦場を拒む兵器など聞いた事がない。人の身心を得ただけでこの有様なら、まだ物言わぬ艦だった頃の方がマシだ。いくら意思を得ても兵器として満足に運用できないのでは意味がない。戦力として不確定要素が多すぎる。

 深海棲艦と戦えるのが艦娘だけだから使われているが、万一、艦娘無しでも深海棲艦と戦える兵器などが開発されれば、艦娘は単なる扱い辛い兵器に成り下がるだろう。()()()の意思に逆らう兵器など。

 

「そんなクズどものせいでこんな采配が普通になってるなんて……本っ当に迷惑だわ!」

 

 忌々しい事に、周囲の反応を見る限りでは自分のような考えの艦娘の方が稀少らしく、どうにも『不良品』の方が多数を占めるようだ。全く以て嘆かわしい。そのような兵器とも呼べない役立たずは刈り取るべきだ。愛すべき艦隊の害虫を! 

 

「クズどもめ! 兵器のくせに戦うのが嫌だっていうなら改修素材にでもなりなさいよ!」

 

 絶対にそちらの方が建設的であると思うが、そういう艦娘が改修素材にされる事はほとんどないらしい。理由は簡単、本人が嫌がるからだ。つまりは、そいつらは戦うのが嫌なのではない、消えるのが嫌なだけだ。

 そして提督側も、『命は大切にすべき』という真っ当すぎるくらい真っ当な倫理を以てそれを容認する。全くお優しい事だ。その優しさに涙が出て来る。

 

「全く大した博愛主義だわ! 殺しが商売なのも忘れたお嬢様方が!」

 

 霞は怒りのままにそう吐き捨てる。あぁ、確かに()()()大切にすべきだ。あの大戦中、地獄のような戦場で多くの兵士の人命を救ってきた自分も、命の尊さなど今さら教えられるまでもなく承知しているつもりである。

 

 だが、()()()()()()()()()

 鎮守府のドックに鋼材とボーキサイトをかき集めて弾薬と燃料をぶち込んで生まれるのが自分たち艦娘だ。替えの利く消耗品であり殺戮の為の機械だ。殺さなければ存在する価値はない! 

 

「戦争を嫌がる兵器だなんて、冗談にしても最悪だわ。惨めよね!」

 

 戦艦(いくさぶね)の誇りを忘れた我が身だけが可愛いあばずれどもめ。

 戦場に出ない艦娘など鉄クズ以下だ。廃棄されるべきゴミだ。この地球上で最も価値の無い存在だ。掃き溜めのガラクタをかき集めた値打ちしかない! 

 

「私たちは替えが利くんだから、ガンガン酷使して、私たちもそれを受け入れるべきなのよ!」

 

 人権だとか人命だとか、使う側も使われる側もいちいちそのようなものを考慮する必要はないのだ。どうせ艦娘は人間ではないのだから。余計な感傷など必要ない。

 それを善良な提督らがなまじっか艦娘を人間のように扱い、艦娘側もその扱いを当然のように思ってしまうから、艦娘を酷使するのはブラックだとか、戦場で酷使される艦娘は被害者だとかそういう『歪み』が生まれてしまうのだ。

 単に駒が兵士から艦娘に変わっただけではないか。むしろ、兵士が必要なくなり兵器が自ら動けるようになったのだ。消費されるのは兵器である艦娘だけ。人命が失われないのだから良心的ですらあるというのに。

 

 そういう意味においてはあのクズ司令官は実にわかっている人物だった。人格はまごうことなきクズそのものであったし、その采配も迷惑極まりないものばかりだったが、一方で彼は公平であった。あの司令官にかかれば、どんな艦娘だろうと等しく使い捨ての消耗品でしかない。

 世間ではそれをブラックだとか言うらしいし、ホワイト曰く艦娘は被害者らしいが、霞から言わせれば艦娘の命などあの程度の扱いでいいのだ。

 そう。駆逐艦、空母、戦艦、潜水艦──全て平等に価値がない! 

 

「戦場に向かって、二度と戻らない艦娘がいる。それの何が問題なのかしらね」

 

 そもそも艦娘は沈むものだ。沈むために我々は存在するというのに、それを忌避し戦場に出さずにおくなど全く以て理解不能である。人類を守る為に沈んだとしても、その遺志は永遠に受け継がれて行くのに。

 

 まぁ、生産コストの問題がある以上、不必要な消耗はできる限り避けるべきだが……しかし現状では自分たちの材料はパワースポットとやらからいくらでも手に入るし、何より深海棲艦を倒すと文字通り湧き出てくるのだ。普通の兵器と比べれば補充は遥かに容易だ。

 どちらかと言えば生産とレベルアップにかかる時間の方が問題であろう。そういう意味においても、自分や不良品どものような高レベルの艦娘は積極的に前線に出し、時間の浪費や味方の消耗を抑えるべきだというのに。

 

「あぁ、嫌だわ。戦場を嫌う艦娘も、それを優しく慰める提督も」

 

 全く以て無駄の極みだ。そもそも、提督らはブラック出身の艦娘らに優しくしているようだが、霞からすれば、大した利益もなく善意を示される方が信用ならない。そんな気色悪い事になるよりも、戦争の為の駒として扱われる方がよほどわかりやすい。

 

「戦場で半端な優しさは敵に付け入る隙を与える甘さにしかならないのに……」

 

 ──優しさは確かに美徳だ。あぁ、その思いやりで救われる者も大勢居よう。だがその気遣いは、戦争という地獄において、時には味方を蝕む毒とも成り得るのだ。そう、『あの時』のように。

 

「あーもう、バカばっかり!」

 

 ──前世で戦友に訪れたかつての悲劇を思い返し、霞はもう一度現状への罵倒を口にするのだった。






本日をもって貴様らは鉄クズを卒業する。
本日から貴様らは艦娘である。
姉妹の絆に結ばれる。貴様らのくたばるその日まで。
どこにいようと艦娘は貴様らの姉妹だ。

多くは海域へ向かう。ある者は二度と戻らない。
だが肝に銘じておけ。

艦娘は沈む。沈むために我々は存在する。

だが艦娘は永遠である。
つまり──貴様らも永遠である!
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