サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

13 / 54
13

「──……大鍋の火は止めたのだったっけ……???あ」

 

ふと、浮き上がった意識のままに思ったことを口に出していたらしい。

ベッドから起き上がりながら苦笑が漏れる。

 

緑のカーテンの向こう側から差し込む明かりに今が朝である事がわかった。

 

 

ここは……そう、私の部屋ではなくホグワーツ。

入学式の後、眠ってしまったのだった。

 

 

「……プティ、父様、母様…おはようございます」

 

ぽつりと、言葉を落として帰ってこない声に少し気分が下がった。

 

 

 

 

トランクの中の魔法薬用研究室にある大鍋は家を出るときに火を止めてあるはずだ。

 

夢の中まで調合だなんて、我ながら色気の欠片もない。

 

 

一応トランクの中へ確認…は後でいいわね。

 

…とりあえず制服に着替えてしまおう。

 

 

 

 

ダフネはまだ眠っているのか、カーテンの外に気配はない。

 

時計を確認しても、まだ十分すぎる程に早い時間だ。

 

 

トランクの中へ引きこもるのも魅力的だけれど昨晩からこんなにも私を魅了して止まないこの城の不思議を探しに出掛けるとしましょうか。

 

 

昨日はランチやお菓子の入っていた私の鞄に、今日は必要な教科書や筆記具を詰めていく。

 

 

こちらの鞄は、学用品のために。

ポーチには変わらず色ペンやちょっとした小物(ロン達が見たら羨ましがるようなものも多少はある)をつめるだけにして身仕度は完成だ。

 

 

ふと、部屋を出るときにみえた鏡のわたしが髪を結んでいないことに気付いたけれど……プティがいないと私では束ねるだけになってしまうのでそのまま部屋を出ることにした。

 

 

共有スペースである談話室には既に何人かの生徒が起き出していた。

おはようございます、ごきげんよう、と挨拶を交わしながら歩みを進め、その中を突っ切っていく。

 

 

あと少しで扉、というところで左肩に手がかけられた。

 

 

 

「バークさん?どこへいくつもり?」

 

「おはようございます、先輩。少し朝の散歩へ行こうかと思ったのですが……先輩もお出かけでしたか?」

 

「私は1年生を案内する役目があるから出掛けないわ、もちろん貴女もね」

 

 

 

なるほど、捕まったと言うわけなのね。

 

 

そのまま暖炉の前のソファーへと連行された。

他にいた先輩方は苦笑のもとそれを止めることなく見守っている。

 

 

「毎年、貴女のような好奇心旺盛な子が新学期早々に迷子になってしまうのよ。そういう子達がどこで見つかると思う?」

 

 

正面に腰掛け私の目を覗き込んだ先輩が首をかしげる。

 

 

「禁じられた森や立ち入り禁止の廊下とかですか?」

 

 

「それならまだマシな方よ。トイレの便座や展望台の外側から見つかる時だってあるんだから!」

 

 

 

それは……何がどうしてそうなったのか気になる。

 

「あー……余計に好奇心を刺激してしまったみたいね。とにかく、そうやっていつか出てこない子が出てしまうのではないかって何代か前の先輩方が心配されてね、それからスリザリンではそういう伝統があるのよ」

 

「そう、ですのね。気を付けます先輩方のお手を煩わせることのないように」

 

 

 

にっこりと、笑って見せれば先輩からはため息が返された。

 

ヤレヤレと言わんばかりの周囲の先輩方もこうして毎年、好奇心旺盛な新しい家族を見守っているのかもしれない。

 

 

さて、そんなことをしている間に私の同級生達も起き出してきていた。

 

 

 

「サルースおはようございます、早速何をやらかしたの?」

 

「ダフネ、おはようございます。まだ何もしていないわ」

 

 

先輩との話が終わるのを待っていたらしいダフネが寄ってきて挨拶と呆れた眼差しをくれた。

 

「昨日先輩方が今日は朝の大広間と各授業は道案内をしてくださるって説明の間、立ったまま寝てたでしょう?朝の集合時間も聞いていなかったのではないかと思って、ちょっと早めに起きたのに隣のベッドはもぬけの殻だし……」

 

 

「ダフネったらとても優しいのね……ありがとう」

 

 

なんだかとても暖かい気持ちが湧いてきたのでダフネの両手を握ってソファーの隣の席へと引っ張り座らせれば、キョトンとした顔で見返された。

 

「ダフネ、おはよう。えーっとバークさんもおはよう」

 

「パンジー、おはようございます」

 

「パーキンソンさん(だったと思う)おはようございます」

 

「……パンジーでいいわよ」

 

「それでは私も、サルースと呼んでくださいね」

 

 

パーキンソンさん改め、パンジーはダフネとお友達だったらしい。

女子寮の階段を降りてくるなり凄い勢いで歩いてきて挨拶をされた。

 

お邪魔したかしら?

 

ダフネの側(私からは微妙に距離のあるところ)からこちらを見下ろしている顔は少し不満げだ。

 

 

「……サルース貴女、髪を昨日みたいに纏めないの?」

 

「お恥ずかしながら、自分では束ねるくらいにしか出来なくて……」

 

「……しょうがないわね!私がやってあげるわよ!!だから髪を触ってもいい?」

 

「!ええ、お願いします」

 

 

不満げだったのは私の身嗜みのせいだったらしい。

全く女の子として勿体ない!とプンプンしながら私の背後へ回りブラシをかけてくれるのだった

 

 

パンジーが私の髪を整えながら編みこんでいる指に眠気を刺激される。

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

さて、大広間へ向かう時間まで(つまりダフネとパンジーが起こしてくれるまで)二度寝を堪能することになった。

 

暖かい暖炉とパンジーの優しい手と、ダフネの体温の効果すごい。

 

 

 

「サルースは純血の貴族なのに、どうして今まで会ったことがなかったの?」

 

大広間で朝食を囲んでいる時のこと、パンジーがカボチャジュースのストローごしにこっちを見ている。

 

言っている意味が良くわからないので、首をかしげて見せたら、ダフネから補足説明が入った。

 

「私達みたいに両親からスリザリンの家……特に純血の貴族と呼ばれる家系の子供達は昔から友達になるために、頻繁にお茶会や誕生日会のような集まりで顔を会わせているのよ」

 

「バーク家がどうしてそういった場に来ないのか、ってことね?……そうね、とても単純で難しい質問だわ」

 

 

パンジーの問いに他の人達も興味があるのか、注目を集めているらしい。

視線を向けないまでも耳を傾けているのが伝わってくる。

 

 

さて、本当に難しい質問だ。

 

 

両親がまともに人間らしい生活を送っていなくて、私はおじ様の店の店番や両親同様作業に没頭していたわけで……社会との交流が皆無だった。

 

外の世界に繋がるのはボージン叔父様とのやり取りくらいだもの。

 

 

「あ……私もしかして聞いちゃいけないこと聞いちゃった…?」

 

 

 

気まずげにこちらを窺う周囲の目に微笑みを返す。

 

そういう類いの話ではないから安心してほしい。

 

 

 

 

「いいえ、ただ私の両親は開発者だからあまり社交には向いていなくて……私もそのお手伝いで物作りをしているの、だからあまり家の外に出たことがないの」

 

 

「家の……ってサルースさんもバークスの品を?」

 

彼は誰だったか、ともかく家業について知っているらしい。

 

 

「えぇ、ゾンコのお店にも品物を出してるわ。……こんなおもちゃが欲しいってアイデアがあったら私にフクロウを飛ばしてくださいませね」

 

 

返事と共にウインクを飛ばせば(ダフネにははしたないから止めなさいと言われた)、顧客の皆さんには伝わったようでニヤリと反応を見せる人たちがいた。

 

 

 

 

 

こんなにも賑やかな朝食ははじめての経験で、私も気分が上がっているみたいね。

 

 

 

 

配られた時間割りに応じて移動を開始するまで、お喋りは途絶えることなく続けられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字報告、感想ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。