サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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翌日、改めて五階にある鏡の廊下へとやって来た私達。

トライ3回目にしてやっと、この先へ行くことができそうである。

 

 

はじめて見つけたとき同様に、装備を整えてから鏡の縁へ指を這わせその裏側にある仕掛けに触れる。

 

カチリと、軽い音を立てて未知への扉が開く。

 

 

「さぁ、行きましょう!パンジー!ダフネ!」

 

「はいはーい、元気なのはいいけどまた倒れないでよね」

 

「そうよ、昨日のこと忘れたとは言わせないわよ?」

 

 

 

「ぅ……はい、心得ておりますわ」

 

 

壁際の燭台に火を灯し、それに追従して下方の燭台へと移っていく灯りを確認してから階段へと足を踏み出す。

下へと弛く螺旋を描いて降りる石段はとても古く所々で端が欠けており、杖先に明かりをつけて一段ずつ照らしてやっと安心できるような有り様だった。

 

両サイドに灯された燭台からは氷柱のように埃が垂れ下がり、薄暗さを増している。

この隠し通路は屋敷しもべ妖精達にも知られていない事が明らかだ。

 

進む毎に空気が冷えていくのもまた、恐ろしげな雰囲気に拍車をかけているようで、後ろのパンジーはどうやらあまり得意ではないらしい。

 

 

 

下からは土の臭いを含んだ風が来ているようだから、やはりこれは外へ繋がっているのだろうか……?

 

 

 

 

 

「うぅ……埃っぽいわね……」

 

「ほんと、なんでそうサルースはどんどん進めるのかしら……何か住み着いていたらどうするつもり?」

 

「え、何かって何よ……なんかいるの?!ちょっと……ダフネ???」

 

「知らないわよ、サルースは気にしてないみたいだし大丈夫だと思うけどね」

 

「えぇー……」

 

 

 

 

二人が何やら心配しているようなので、私が臆せず進んでいる理由を懐から取り出して見せる。

 

 

「お二人とも安心してください。隠れている者への対策はこちらで行っておりますわ。『隠れん防止器』といって潜んでいるものを察知して教えてくれる魔法具なのです」

 

 

もちろん、市販の物の改良型である。

コマのようにくるくる回るのは同じだが何かを察知した場合、けたたましい音を立てるのではなく強めの振動を起こすようにしたのだ。

 

なぜって……?

 

 

隠れている者を驚かせて、相手が逃げてくれるような状況ばかりとは限らないでしょう?

逆上して杖を振られては意味がない。

 

家に設置するような物なら音を立てるままで良いのだけど。

 

 

 

「それから、私がつけているモノクルこれは『探査万能眼鏡』と言います。拡大望遠録画の機能に加えて熱を視る機能もあるので隠れている生き物は見逃さないはずですわ」

 

 

 

「はず、なのね。」

 

「こちらは視界に入っている場所しかわかりませんので……はず、です」

 

「はぁぁ……」

 

 

 

パンジーの大きな溜め息を聞き流し、話ながらも止めていなかった足をさらに下段へと進める。

 

そのまま5階の高さよりもう少し程降りたところで道は平坦になった。

 

 

先程までの階段には壁沿いに蝋燭があったが、ここから先はそれもないらしい。

 

 

完全に上下左右が土壁だ。

 

 

 

……さすがに周囲が崩落したらいまの装備ではどうしようもない上に、後ろの二人は確実に命を落とす事になるだろう。

 

 

 

「『ルーモスマキシマ』……ふむ。先はあるけどこれ以上は危険、ね。二人とも帰りましょう」

 

 

「え、いいの?というかここまで来たなら先まで気になるじゃない」

 

「私はサルースに賛成よ。そもそもさっきまで人の腕にぶらさがって帰りたいってぶつぶつ言ってたのは誰でしたっけ?」

 

 

肩が凝っちゃうわ、なんて言いながらパンジーに掴まれていた方の腕を回すダフネ。

……まるで母様のような口振りだ。

 

 

たしかに、ここまで来たら先が気になるのも頷ける。

 

ここからなら、いけるだろう。

 

 

「それなら、危なくない方法を試してみますね」

 

 

懐から小さなフクロウの人形を取り出す。

杖をあて定められた回数とリズムで触れながら、パスワードを呟く。

 

そうすると、あら不思議。

エサも排泄物や抜け羽の心配もない等身大のフクロウへと変化した。

これは屋敷が一軒建つくらいには高価な魔道具だとだけ言っておこう。

 

……我が家にいるフクロウ達からはとても嫌われているけれど。

 

 

さて、そのフクロウの首へモノクルをかける。

もちろん、録画の機能を起動した状態で、だ。

 

 

「この先をみて、戻ってきてください」

 

 

 

 

これで、魔道具に込められた変身術が保つ間は飛んでいってくれる。

階段の上(鏡のすぐ側)からこれを行っても良かったのだが、それでは楽しくないからやめた。

 

だってこの探検は効率よりも己が楽しめるか否かを優先させたかったのだもの。

 

 

「……サルースのローブの中ってどうなってるのよ?」

 

「さぁ?とにかく高級グッズまみれってことは間違いないわね。あれ2つだけで魔法省の高等事務次官の退職金くらいは確実よ」

 

「うわ…それっていくらよ……うちの寮って貴族が多いけどバーク家って実はぶっちぎり?」

 

 

ひきつった顔でこっちを見ないで欲しい。

フクロウ人形に関しては高すぎて売れたことないのはこういうことか。

 

 

「飛び抜けてそんなことはないですよ?確かに純血貴族と言われるだけあって屋敷も領地もありますけど……魔道具の収入ってそんなにないんですよ。これらを作るための材料代もバカになりませんし、そもそも趣味で作っているようなものがほとんどですから出費のほうが多いくらいですし……」

 

 

私のブランドが軌道に乗るまでは、ほんとに魔法具屋なんて一部の貴族のためだけに存在しているような状態だったのだ。

 

貴族層が使うものとなると、闇の魔法使いと結びつけられやすく私が生まれる頃にはもう細々とやっていくしかない未来だった。

 

 

まぁ……いろいろとうちの家にもあったわけで本格的にお金を生むために製品イメージの改善や幅広い発明品の展開でいろいろ持ち直したけど。

 

 

……ってそんなことはどうでもいいわね。

 

 

ぽつぽつ会話を交わしながらフクロウが戻ってくるのを待つ。

 

 

 

そう長くない時間のあと、バサリと私の目の前に戻ってきたフクロウを小さな人形に戻して懐へ戻しつつモノクルも回収。

 

 

 

「さ、まずは寮へ戻りましょう?」

 

「お楽しみは後からってわけね」

 

「二人とも……というよりはサルースね、この階段戻れるの?」

 

 

 

……下ったら上がらないといけないことを忘れていたわ。

 

 

 

 

 

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