翌、週末の午後。
クィディッチ競技場には、全校生徒来ているのではないかと錯覚するほどに全寮の生徒たちがつめかけていた。
私はパンジー、ダフネと共に、グリフィンドールとハッフルパフの応援席のちょうど間くらいの観戦席でピッチを見下ろしていた。
どちらの応援グッズを身につけることもなく眺めているのはスリザリン生が多いようで、レイブンクロー生は赤色の旗を振っている人が多いようだ。
審判員は前情報の通り、スネイプ教授が務めるらしい。
「あ、見て?今回はダンブルドア校長まで来てるみたい」
「ほんとねぇ……スネイプ教授のご機嫌が悪そうなのはそれが原因?いや、ポッターが関わるといつもあんな顔ね」
ダンブルドア校長がクィディッチを観戦にいらしてるのは、はじめて見た。
あの方も何かを警戒されているのか……聖人のような微笑みで入場してくる選手たちを拍手で迎えている。
「この試合で寮杯の行く末が決まるかもしれないもの、校長先生も気にされているのね」
試合開始直後から、グリフィンドールに対して笛を吹き、ハッフルパフにペナルティーシュートを与えるスネイプ教授に苦笑がもれる。
こんなにも分かりやすく片方のチームに贔屓目丸出しな審判員がいるだろうか!
ハリーは最初の試合の怯え方が嘘のように、今日も生き生きと空へ上がっていった。
スニッチを探しているらしい。
1番高い位置でぐるぐると円を描きながら飛んでいる。
……あの位置なら、下から魔法で狙われることもないだろう。
その後も、特になんの理由もなくハッフルパフにペナルティシュートを与え続けるスネイプ教授に、会場からはブーイングの嵐だった。
……フレッドかジョージがスネイプ教授に本当にブラッジャーをけしかけないか、ハラハラしながら観ることになるとは。
完全に頭に血が上っている二人をチームメイトが収める様子を見ていたら、会場全体がどよめいた。
「ポッターが見つけたみたい!!!!!」
「ちょ、パンジーうるさいわよ……あぁ確かに。アレが落ちてるんじゃなければね」
大歓声とともに目を向ければ、ハリーが急降下をはじめたらしい。
地面に向かっての一直線の急降下は50メートルもあっただろうか。
弾丸のようなそれにここにいる全ての人が注目し、固唾を飲んで見守っていた。
*******
ハリーの大活躍によって、ホグワーツのクィディッチ史上最速で試合にけりがついた。
試合開始から5分もたっていないそれは、ハリー・ポッターの快挙としてスリザリン以外の生徒たちに拍手で迎えられたのだった。
「あーあ。ハッフルパフじゃ無理だったわねー」
「グリフィンドールに得点で抜かれるのは屈辱ね……」
クィディッチ競技場からの帰り道、五分で終わってしまった試合に不満そうなパンジーと、時間の無駄だったと同じく不満げなダフネと共に歩く。
「パンジー、ダフネ、午後は薬草園の方を歩きませんか?」
「いいわね、寮に戻っても暇だし」
「また埃まみれの探検にならないことを祈るわ…」
いつぞやの鏡の裏の秘密の通路を探検したあの日のように、ホグワーツ城探索は今でも二人と時間を見つけては行っている。
時には隠されているのかいないのか、魔法道具ですらないガラクタの押し込められた部屋を宝探ししたり、誰の趣味だかわからない廊下に置かれる珍妙な石像を見つけては秘密が隠されていないか調べたり。
パンジーは、探検家か考古学者になったようだと楽しんでくれているが最近ダフネは飽きてきているらしい。
……私とパンジーだけで野に放つと何をしでかすやら、と心配してついてきてくれている。
「こないだの五月蝿い甲冑の絵みたいなやつは、庭にはいないでしょ」
「確かにアレは面倒だったわね。他の絵の住人にまで煙たがられてたじゃない」
たしかカドガン卿と名乗っていたか。
うろ覚えだが、とにかく決闘がどうのと言って追いかけ回された事件は記憶に新しい。
途中でフリットウィック教授が追い払ってくれなかったらどこまで追いかけ回されたやら。
薬草園をぐるっと歩き、そのまま庭を散歩する。
秘密の抜け道も、宝箱の目印もどうやら隠されてはいないらしい。
ごくあり触れた、ちょっとだけ専門的で貴重な薬草の繁った庭だ。
「庭といえば、お二人ともシャボン玉はご存知ですか?」
「しゃぼんだま…?石鹸か何か?」
「入浴剤とか?」
やっぱり知らなかったか。
スリザリンの皆さんに顕著なのだが、彼らは所謂庶民の遊びを知らないことが多い。
マグルでも知っているものでさえ触れたことがないのがその原因だろう。
シャボン玉くらいなら、マグルに限らず魔法族の一般家庭でも知られている。
「そう思って、持ち歩いておりましたの。はい、こちらをどうぞ!」
ポーチから3つ、ピンクと水色、薄紫の化粧水の小瓶のようなボトルを取り出して見せれば、それぞれピンクと水色を受け取ってくれた。
「なにこれ、いま使うの?」
「中身は……液体、とハケ……ね?」
「ボトルキャップの裏側にハケのような吹き口がついていますよね?ここに中の液を浸して……息を吹き掛けてくださいな」
ふーっと、二人の見本になるように息を吹き掛けてみせる。
と、虹色のシャボン玉が吹き出され風にのって漂う。
「わぁ綺麗ね!!やるやる!」
「変なしかけは……ないようね?それなら私も」
はじめてみたのか、楽しんでくれている二人を眺めながらもう一度、シャボン液に浸して息を吹き掛けることを繰り返す。
今度はそっと、ゆっくり息を吹き込んでいくとさっきとは違って大きなシャボン玉が出来上がった。
目の前の高さで漂うそれに、そっと指で触れ、掴む。
「特別なのはこのシャボン液、私のやつはとっても丈夫なシャボン玉が出来上がるの。たくさん吹けばこれに乗って飛ぶこともできるかも……なんて。あら?」
二人の方を振り替えるとどうやら私の声は聞こえていないらしい。
パンジーのシャボン玉は薄ピンクのハートや星、肉球の形を作っては、パンジーの周りをくるくると周りながら浮いている。
ダフネの方は、吹いたシャボン玉が様々な愛らしい魚の形をとってダフネの周りを泳いでおり、アクアリウムの中に閉じ込められているようになっていた。
それぞれ私の力作だが、二人とも夢中になってくださったようで嬉しい。
「楽しんでくださるのが1番、ですわね」
手の中の水晶玉ほどのサイズのシャボン玉を空へ飛ばし、二人のもとへ向かう。
個々それぞれで使うのも、もちろん楽しいが3つ同時に使えばもっと楽しいのだから。
「お二人とも近くによってくださいな!交換しましょう?」
「いいわよ!私も魚のやりたい!」
「はい、私はサルースのやつやってもいい?」
「えぇ!どうぞ!」
それから、虹色の泡の中を跳ね泳ぐ魚と、それを彩る薄ピンクのモチーフ達が私達三人の周りを漂うのをシャボン液がなくなるまで楽しむのだった。
感想、誤字報告いつもありがとうございます。