サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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テスト勉強ムードにいち早く染まりつつあるスリザリン寮から、今晩も抜け出し地下牢の魔法薬学教室へと向かう。

 

 

冬場はすきま風で氷柱ができるほど寒くなるこの場所は、日も落ちたこの時間セーターとマフラーがかかせない。

体を暖めるための魔法具も、つけてはいるけれどそれでも寒いのだからよっぽどである。

 

 

*******

 

 

「スネイプ教授?こちらのフラスコ全て片付け終わりましたわ」

 

「うむ。ではこちらで『元気爆発薬』の調合見学に来たまえ。気付いたことがあったらいつもどおり言うように」

 

 

「はい、承知致しましたわ」

 

 

 

今日は二人掛かりで作る程のものではないため、消灯時刻の前まで見学になるとのことだ。

 

 

ところで、この放課後の補講は、私が先生にお願いして始めたものという前提がある。

 

 

そのペースとしては、私が訪れる余裕のある日は、夕食を終えてから寮で少し時間を調整し(たまに大広間でそのまま時間を潰してから)ここへ来る。

 

 

逆に、スネイプ教授のご都合が悪い日は、その日の朝食から夕食中までの間にその旨を記したメモ書きが飛んでくるようになっている。

 

 

 

また三回に一回程度の割合で、教室の前でウィーズリーの双子に遭遇し、私達が魔法薬を作る傍らで何かしらの罰則をうけているようだった。

 

 

要するに、多くの場合私が来たいときに来て、勝手に手伝い、話し、過ごしている。

もちろん、教授からそのようにするよう言われているからだが。

 

 

おそらく、私と双子はこの学校のなかでも特別スネイプ教授と接している時間が長いだろう。

1番多いと言っても過言ではないはず。

 

 

 

「鍋を混ぜる手順に回転の向きと回数が関わるのはマグルで言うところの物理学が、魔法薬を生成するのに関わっている。という論文を目にしましたスネイプ教授はどうお考えですか?」

 

 

「ふむ。月桂樹の効能を論じたものだったか。ドイツの魔法薬学者の論文だったな。それに関して議論するのなら同じくマグルの遺伝子という生物の構造に纏わる学術の論文も読んでおく必要があるだろう。……まぁバーグなら読んでいるか。その上での我輩の意見としては……」

 

 

 

だから、何度も言うがこの教授に悪巧みの余裕があるとは思えないのだ。

 

しみじみ、ここへ来て真剣に鍋を構うスネイプ教授を見ながらつい三人組のグリフィンドールの友人達を思い浮かべてしまった。

 

 

 

鍋の混ぜ方を論じる時間は楽しいし、この人の考えは聞いていてとても勉強になる。

 

 

「……と、まぁ世間一般的な魔法薬学の論説とはかけ離れた理論だが五十年も待たずにこれが主流になるだろう」

 

 

 

科学知識と魔法知識の融合。

私には応用することがまだ出来ないが、スネイプ教授はその一部を掴みかけているらしい。

 

 

「どちらの学問も修めなければならない、というのがネックではありますが……今まで感覚で行われてきたことが明文化するのは技術力の向上、発展に繋がりますね。貴重なお話でした、ありがとうございました。この『元気爆発薬』はノイローゼの上級生用ですか?」

 

 

「あぁ。常日頃から備えておかんから間際になって体調に影響を及ぼすのだ……バーグは勿論学年一位を獲れるのだろうな?」

 

 

 

学年一位……そうですねぇ。

 

ハーマイオニーさえいなければ、勿論と簡単に頷けるのだけれど。

 

 

「えぇ、今年は間違いなく獲りますわ。スリザリンの寮杯も……今のところ余裕綽々とは言えませんし、まだまだ頑張りますわ」

 

 

 

まだ、彼女には負けない。

ホグワーツの試験は100点満点に対して、評価者の判断で加点が追加される上限点数なしの方式だと先輩方がおっしゃられていた。

 

 

完璧よりもさらに上を。

 

 

先輩方から教わった、各教授ごとの出題と加点の傾向をおさえなくては。

 

 

「……フン。期待している」

 

 

「!えぇ、頑張りますわ!」

 

 

 

スネイプ教授から期待されているのなら、それにお答えしなくては。

 

 

 

*******

 

 

 

 

「ドラゴンについて……ですか?」

 

 

「あーうん。そう、ほらマグルだと魔法イコールみたいなところがあるから……実際のとこどうなのかなーって」

 

 

「そうなの!サルースは見たことあるのかしら?」

 

 

 

 

あくる日の図書館でのこと。

 

私はホダッグ(大きな角の生えた蛙のような生き物で角が魔法薬の材料になる。主に酔い醒ましに使われ、七日間徹夜する魔法省の一部の役人向けにも煎じられる薬のもと)の効率的な捕獲方法と養殖についての本を探して、魔法生物に関する本棚の間をさ迷っていた。

 

 

ここは高学年の先輩方でも、選択授業で魔法生物学を履修されている人しか訪れない場所である……ペットの悩み事がある人もたまにいるけれど、とにかくここで出会う人は限られている。

 

 

のだが、なぜかハリー、ハーマイオニー、ロンの三人組に遭遇した。

 

 

何かと思ったら、ドラゴンについて知りたいらしい。

 

 

 

ちらりと見えたロンが抱える本のタイトルには、『庭小人でもわかる家庭でドラゴンを育てる方法』『火山で生きるドラゴンの生態』『ベイビードラゴンのよちよち手帳』と、ある。

 

私の視線に気づいたのか、サッと背中に腕を回して隠されてしまった。

 

 

 

彼らはまたおかしな事を企んでいるらしい。

 

 

 

「生きているドラゴンだなんて、サーカスにもいませんよ?……ドラゴンの素材ですら貴重すぎて何度かしか触れたことがないもの」

 

「サルースみたいな貴族でもそうなんだ」

 

「マグルが思ってるほど、魔法使いでも簡単に会えるわけじゃないのね」

 

 

 

 

ふむ、と首をかしげた二人はさておき。

 

 

 

「……ロン?ドラゴンの無許可飼育は法律違反だってご存知ですわね?」

 

「当たり前だろ……チャーリー、2番目の兄さんがドラゴンの研究してるんだぜ。さすがにそのくらいは僕でも知ってるよ!」

 

 

 

 

そのわりに……物騒な本を揃えている。

 

そもそも最初のハリーの質問もおかしいのだ。

何故いきなりドラゴンなのか。

 

明らかにしどろもどろ、不味いところを見られたとばかりに口を開いたと思ったら、ハーマイオニーが被せるように質問をしてきた。

 

同時にハリーの足を踏んでたのも見逃してない。

 

 

 

 

まぁ……ドラゴンを発見することはイギリスで生きていたらないことはない。

普通に山奥や渓谷なんかに野生しているし。

 

とはいえ密猟するにもコスパが悪いので裏のルートでもなかなか流れてこないのは確かだ。

 

稀にマグルの目に届くところに出てきてしまう個体がいると日刊予言者新聞がざわつき記憶処理に一部の役人が駆けずり回ることになる。

お茶の間の話題にあがるため、魔法族の一般家庭ではワーロック法とともにメジャーだ。

 

例の石を護るための方法として考えているのだろうか。

 

 

 

「ドラゴンを手にいれるのは、我が家は専門外ですからお話にならないし、恐らくマルフォイ家ですら難しいわ。よっぽど真っ黒な手段か、ダンブルドア校長程の著名で実績のある研究者でも難しいのよ?手にいれようだなんて考えてはダメよ」

 

 

「も、勿論だよ!ドラゴンの卵だなんてそんな危ないもの」

 

「そうそう!まさか暖炉で育てるわけにはいかないからね!」

 

 

 

「ちょっと!」

 

 

 

やけに具体的な例えだ。

 

 

 

「まさか……ですわね?」

 

 

「「「もちろん!!!」」

 

 

 

 

 

本当に三人ともお顔に答えがかいてありますよ。

 

 

 

 

 

 


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