サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

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キングスクロス駅9と4分の3番線はたくさんの親子連れで賑わい、別れを惜しむ声や激励の声が溢れていた。

 

 

「…はぁ、プティ送ってくれてありがとう。人が多くて嫌ね、荷物を積んでしまいましょう?」

 

「サルースお嬢様のお加減を害する者がたくさんいらっしゃいます……サルースお嬢様、周囲の音を遠ざけるように調整しても?」

 

 

 

パチンと、プティが指を鳴らすと周囲の不快と感じていた音のみが遠退き、聞きたいものに集中すれば元通り聞こえるといった状況になった。

 

ホームにつけた真っ黒な汽車がここロンドンからホグワーツへと生徒達を運ぶホグワーツ特急だ。

 

ホームとは反対側のコンパートメントで空いている席を探す。

上級生は既に乗り込み学友と過ごしている方もたくさんいるみたいだ。

 

 

 

「ありがとうプティ。とても楽になったわ!ここのコンパートメントは誰もいないみたいね、ここにいたしましょう」

 

最後尾に近い、比較的静かな場所に空席を見つけた。

 

向かい合った座席の上にある網棚は三つあるトランクを乗せても尚余裕がある。

四人位ならゆとりを持って入れそうだ。

 

 

「ありがとうプティ、ここまでで大丈夫よ?父様と母様がまた部屋を吹き飛ばしてるかもしれないから屋敷に戻って頂戴。二人を頼みます、プティにも手紙を書くから心配しないでね?」

 

「サルースお嬢様!辛くなったらいつでもプティを呼んでくださいませ!必ずお迎えにあがります。くれぐれも無理はなされませんようにプティはプティめはお願い申し上げます…!」

 

 

 

大きな瞳に涙を浮かべて頭を下げるプティにつられたのか、家に帰りたい気持ちが沸いてくる。

 

 

……まだ家を出て1時間もたっていないのだが。

 

 

それから、プティに再度無理はしないと約束しランチボックス(三段に重ねられたプティの大作、私は普段サンドイッチ1切れで済ませている)とおやつ(百味ビーンズからドライフルーツ等様々)を手渡され、別れた。

 

 

ポーチから本を取りだしページを捲れば、プティの魔法が効いていることもありすぐに頁に集中することができた。

 

 

――コンコン

 

 

汽車が動き出してすぐのこと、コンパートメントの扉が叩かれた。

 

顔をあげれば、申し訳なさそうな顔をしたハリーがいた。

 

 

「あーこんにちは、サルースさん、だよね?ここ…あいてる?」

 

「こんにちは、ハリー。ええ、どうぞ」

 

「ありがとう、どこも空いてなくて……知っている人がいて良かったよ」

 

 

向かいの席に手を向けて示せば、安堵の笑顔が返ってきた。

確かに、彼は有名だけれど彼自身はこちらを知らない。

視線は多く向けられてもそれらは目があった途端に反らされる類いのものだろう。

あれはそう、向けられる側としては不快なものだ。

 

 

網棚に荷物を上げるのに手惑い、通りがかった上級生に助けてもらったあと、腰を落ち着けた。

随分と重たい荷物だったけど、もしかして私のトランクも下ろすときは大変かもしれない。

 

 

 

 

「サルース、で構わないわ。けれど…あの日あの後ハグリットさんに私の事を聞かなかったの?」

 

「あ、あー、聞いてない。それに僕はあまりこっちの事には詳しくないから聞いてもわからないだろうしね!君…サルースこそ僕にいろいろ聞いてこないよね、それに、そう、額の傷をじろじろ見たりもしないし」

 

 

私の事を聞いてない、か。

まぁそのうち知るだろうけどその後彼がどうするのかは彼次第だ。

わざわざ私が話すことでもない。

 

私の知恵熱の原因たるハリー・ポッターにもう一度会ったら何か感じるものがあると思っていた。

 

だがそんなことは特にないみたいだ。

 

 

 

【物語の主人公】の彼は正義感の強いひとだった。

蛮勇と勇気を履き違えた勇者であったと記憶している。

とはいえ、それはあくまでも【物語】。かの物語に私はいないし、1年目彼は汽車で相席などしない。

 

これはそう、私の人生だ。

私が見て、聞いて、全てを決める。

 

前世か、神のおつげか、私は【物語】を知ってしまった。

知ったまま生まれてしまった。

でも、そ れ が な ん だ ?

 

 

 

……そもそも、私が生まれてこの方読んできたたくさんのお話の中に埋もれていて明確に内容をおもいだせないという事もあるが。

 

 

ともかくのところ、私は私がやりたい事さえ出来ればそれでいいのだ。

 

 

そしてその中に今のところハリーに質問をすることも、額に注目することも入っていないというだけのこと。

 

 

「そうね、ハリーポッター。貴方は私に何を聞かれたいのかしら?例えば…」

 

 

 

――コンコン!

 

 

 

「あ、ごめん。話し中だった?」

 

 

 

2回目の勢いの良いノックの音に扉へと視線を向ければ赤毛の男の子が申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

彼は…【ロナルド・ウィーズリー】ウィーズリー家の末弟だろう。

 

 

「あ、ううん。どうしたの?」

 

「その、良かったらここに入れてくれない?他のコンパートメントは満員で…うん、問題なければ、なんだけど…」

 

 

成る程、私がイレギュラーな訳だ。

1人合点がいったところでハリーから視線が向けられる。

彼は構わないが私はどうか、といったところか。

 

 

 

「私は構わないわ。そちらは?」

 

「僕もいいよ。ほら、荷物あげるの手伝うよ」

 

「ごめん、良かった!ありがとう!」

 

 

所在なさげに立っていた様子から一変、嬉しそうに笑って荷物を上げ始めた。

 

ふむ、私に手伝えること……

 

 

「『浮遊せよ』……うん、上手く行ったわね」

 

 

せっかく杖があって、使える環境になったのだもの。

使い所を見つけたら使ってみたいと思うのは仕方のない事だと思うのだ。

 

トランクへ向けて杖を振れば、抵抗もなく呪文を成功させることができた。

 

 

「わお。君……上級生?てっきり新入生かと思ったよ」

 

「サルースは新入生さ、僕もね。僕はハリー・ポッターよろしく。君は?」

 

「あ……僕はロナルド・ウィーズリー。ロンって呼んでくれ、よろしく」

 

二人ともが私の向かい側へ腰掛けたところで自己紹介となった。

 

 

「私はサルース・バーク。ハリーの言うとおり今年からホグワーツ生よ、よろしくね」

 

 

 

――コンコンコン!!

 

と、また扉が叩かれる。

さっきよりも元気がよろしいみたいだ。

 

 

 

「おい、ロン……おっとお邪魔だったか?」

 

「ハリーも隅に置けないな!もう可愛い子とオトモダチだなんて!」

 

 

赤毛の双子、おそらく上級生だろう。

そしておそらく、ロンの兄だ。

 

 

ヒューと、二人揃って口笛を吹いて見せた。

 

「そんなんじゃないよ!サルースは、えっとただの友達だ」

 

 

心なしか赤い顔のハリーに、ニヤニヤと笑う双子はそんなことは分かっていて言っているのだろう。

ハリーの否定もどこ吹く風と、聞いていない。

 

 

「まだ自己紹介してなかったよな。僕たちフレッドとジョージ・ウィーズリーだ。弟のロンとは挨拶したか?」

 

「したよ」

 

「ロニー坊やはキチンと挨拶が出来たようでお兄ちゃんは嬉しいよ。それで?そちらの美人は?」

 

 

私が今まで出会ったなかで1番賑やかで何がかはわからないがとても楽しそうな様子だ。

うるさいぞ、と怒る弟のことは手を振っていなしているが。

 

 

 

「はじめまして、私はサルース・バーク。褒めてくださってありがとうございます」

 

 

「固っ苦しいのはなしでいこーぜ。じゃあロン俺たちは真ん中の車両辺りに行くぜ、リー・ジョーダンがでっかいタランチュラを持ってるんだ」

 

「じゃ、またあとでな!」

 

 

「「バイバイ」」

「はい、またあとで」

 

 

嵐のような人達だった。

でもしっかりとコンパートメントの扉は閉めて出ていく辺りきちんとしてるのかしら。

 

 

 

 




原作ではハリーと双子のファーストコンタクトはコンパートメントの棚へ荷物を上げる際手間取っていたハリーを助けた場面ですが、今回は助けたのはモブ。双子とのからみはトランクを汽車へ引き上げるところ、ともう少し前になっています。もちろん壁抜けを教え助けたのはウィーズリー夫人。(←原作厨作者のためのメモ書きだと思ってください)
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