老練虎狼   作:デンデン丸

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久しぶりに活動再開してみます。


序章:拳にて語る
0話


 

 「あぁ……(まつりごと)が悪い、政が悪い……」

 

 『まつりごとがわるい!!まつりごとがわるい!!』

 

 一人の、黒の色付き眼鏡をかけた初老の人物が歩いている、多くの子供達を引き連れて。

 一見、ただの好々爺と子供が散歩をしているように見える、が。

 

 「政が悪い、あぁ、本当に政が悪い……」

 

 “ズン……ズン……”

 

 初老の人物が歩く度に、地が揺れる。そして彼の足跡が、はっきりと、石畳に残されているのだ。

よく見てみると、子供達の中の、青年期かと思われる者達も足音を響かせ、石畳にヒビを入れている。

 

 「せ、先生の悪い癖が始まったぞ!!皆、警備隊が来る前に逃げろ!!」

 「きょ、今日は店じまいだぁ!!」

 

 そんな行列を見た街の人々は逃げ出し、飲食店等の店主達はお客を追い出し、店を閉める。

 初老の人物が進む先は、あっという間に人が割れ、道が開ける。

 

 「政が悪い、政が悪い……」

 『まつりごとがわるい!!まつりごとがわるい!!』

 

 しかし彼に続く子供達はキャッキャと笑う。

 

 彼らが歩いた跡には、文字通りに、跡が残る。

はっきりと石畳に残る足跡や、ひび割れる石畳。

 

 しばらく、彼らはそのまま進み続けた、が。

 

 「よし、帰るか。」

 『はい!!せんせーい!!』

 

 不意に、先頭を往く初老の人物が声を上げた。

 それに元気良く応える子供達。

 

 「では……鬼ごっこをしながら帰るぞ。それ、儂が十数える間に散れ。」

 

 『わぁ!!皆逃げろぉ!!キャッキャ!!』

 

 ここまでのやり取りならば、至って普通の会話であったが。

 次の瞬間、子供達が文字通りに、消えたのだ、影も残さず。

 その場に残ったのは、青年期の者達。

 

 「いつも通り、子に怪我をさせるな。」

 

 『御意!!』

 

 そうとだけ言うと、青年期の者達も消えた。

 

 「さて……そろそろ頃合だな。」

 

 男がそう呟くと、前方後方から、この街、帝都を守る警備隊。その鎧を纏った兵士達が駆けて来た。

 

 「せ、せんせい!!もういい加減にしてください!!」

 

 兵士の一人がそう声を荒げるが、男は首を傾げる。

 

 「はて……?儂はただ歩いていただけだが……」

 

 「ここの路は先日に補修されたばかりなのですよ……!!」

 

 「それが?何か?」

 

 「だぁ~ッ!!毎回毎回路を壊され始末書を書く我々の身にもなってください!!貴方が路を歩くたびに、路に足跡が残るのは!!偶然ではないでしょう!?何回言ったらおやめになってくださるのですか!!」

 

 「ふ~む……そう言われても、儂はただ散歩していただけだ。路の補修に使った材料が悪かったのではないのかね?」

 

 「ぐぬぬぬ……もう――……」

 

 この兵士達の長をしていると思われる者は額に青筋をたて、何か言おうとした、が。

 

 「おいおい!!皆、なにぶるってんだぁ?こんなじじい相手に……」

 

 一人の若い兵士が剣を抜き、薄ら笑いを浮かべ、男に近付いていく。

 

 「お、おい!!新人!!よせ!!その御人は……!!」

 

 「うるっせなぁ。あぁ!?俺の家はオーガ隊長に協力(・・)をしているんだぁ。こんなじじい殺した所で……」

 

 ――刹那、空気が凍った。

 

 「ほぅ。今、ぬしは“殺す”、と言ったな」

 

 先程までの、とぼけた顔をしていた男から、とてつもない圧が滲み出る。

 

 「だ、だったら何だァ!!あぁ、めんどくせぇ!!くたばれやァ!!この老いぼれがァァァ!!」

 

 若い兵士は剣先を男に向け、走り出した、が。

 

 「ぐ、あ……あぁ、あ……」

 

 「殺す、と言った時点で、その行動は終わっていなければならぬ。殺してやる、くたばれ、……数多くの殺害を予告する言葉はあるが、どれも、それを口にした瞬間に、己の牙を相手の喉笛に食い込ませ、引きちぎる。……まぁ最も、理想なのはそれらも口にせずに、ただ黙々と牙を食い込ませる者だ。」

 

 瞬き一つ、その瞬間に男の影は、若い兵士の後ろへと移り、その首を掴んで、宙に浮かばせていた。

カラン、と剣が落ちる音が響き渡り、若い兵士の顔色は見る見るうちに真っ青になり、泡を吹き始める。

 

 「せ、先生!!わ、分かりました!!分かりましたから!!そいつは今月入隊したばかりの新人なんです!!し、しかも貴族のせがれなんです!!そいつを殺されちゃあ、俺らも……!!」

 

 「なぁに、心配いらんさ。殺す気など元からないわ。……それ。」

 

 男はそう言うと、白目を向いて泡を吹く兵士を、放り投げた。

 

 「……昔の儂なら殺していた、がな……今や陽に生きる身だ、身内に手を出されなければ誰も殺さんわ、かかか!!」

 

 男はそうとだけ言うと、再び、政が悪い、と口にしながら、その場から遠のいて行った。

 

 

 「本当に、恐ろしい爺さんだ……。この時世に、あぁまであからさまに……」

 

 それを見届けた警備隊の古参兵達は、ほっと、胸を撫で下ろす。

 

 

 「な、何者なんですか?あの爺さん……?」

 

 泡を吹いている兵士を介抱していた、同じく新人の兵が、そう尋ねる。

 

 「あぁ……これも良い機会だ、新人連中はよぉく覚えておけ。あの御人は――――」

 

 

 

 

 ――……時に、帝暦1024年。

 建国から千年を越え、滅びと腐敗の風がなびき、人の形をした魑魅魍魎が跋扈する、帝都……。

 

 帝国最高の拳法寺、皇拳寺史上、“最強”と謳われ、先代の皇帝の身辺警護を仕切っていた一人の男。

 ついた渾名は、无二打(にのうちいらず)

 

 その拳、ただ一度振るえば全て事足りる。帝具と呼ばれる、始皇帝が造り上げた兵器を扱う強者すら、ただ一つの拳で屠る。

 ――そう謳われ、多くの栄誉を授かった彼はしかし、先代が崩御し、後継者争いの最中の奸計により、宮廷から退き、ただ帝都の一角で細々と余生を送る。

 

 ――――この物語は、復讐劇や英雄譚の類ではない。

 ――――ただ、独りの老骨が己の死に場所を求める、終劇の一幕。

 

 

 

 

 

 

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