老練虎狼   作:デンデン丸

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俗に言うスランプです。本編をどう書こうか迷ってる間に書いたものを外伝として投稿します。単発なので続きません。


IF集 幕間・壱

 

 

 「あれ?先生、今日は一人?珍しいね~」

 

 日が暮れ始めた帝都の一角、たまに通う飯屋で、店主にそう言われ、儂は席に座る。

 

 

 「かかか、何、たまには一人で飲みたくもなる。」

 

 そう言いながら笑うと同時に、酒が目の前に置かれる。

 

 「はっはっは!!路を壊す行進以外でこっちに来るなら大歓迎さ!!……それはそうと、その、言い難いんですがね……」

 

 「……レオーネか。いくらだ?」

 

 「す、すみません……これぐらいです……」

 

 店主はそう言うと、何枚かの領収書を取り出した。

 

 「と、とりあえずは――……」

 

 その中から何枚か取り出す仕草を見せたので、儂はそれを制した。

 

 「かか、店主、そう畏まるな。不肖の弟子がいつも迷惑をかけておる、全額払わせて頂こう。」

 

 しばらく、店主は苦笑いを浮かべ、頬をかいていたが、手元の領収書。

それを全てこちらに寄越した。

 

 

 「これはまた……。レオーネめ、儂の財布を空にするつもりか?かかか!!」

 

 

 そう言いつつも、儂はレオーネが貯めに貯めたツケの全額を取り出し、店主に手渡した。

 

 「すみません、先生。来る都度、今度こそは……と、思うのですが、どうも奴さん相手だと躱されてしまって……」

 

 

 「ふぅむ。奴ほど陰陽の境目がくっきり分かる性分は珍しいからのぉ……」

 

 そう言って、酒を少しずつ飲む。

 

 「あー、それともう一つ、あるんですがね……」

 

 しかし、レオーネのツケを全額払ったというのに、店主の顔色は悪い。

そしてこちらに顔を寄せて小声で言った。

 

 「あの隅っこの席で、嬉しそうにしてる、あの好青年、見えます?」

 

 「む?あぁ、誰かを待っておるようだな。それが?」

 

 「その……少し前に、レオーネと入店してきて……。奴さんはもう出て行ったんですがね……。多分、有り金全部やられてますよ。」

 

 そう言うと、店主と儂は深い溜息をついた。

 

 「そうか……少しばかり、拳骨の一発二発……いや、治らんか。」

 

 「えぇ、流石の先生でも奴さんの性根を叩き治すのは難しいですよ……」

 

 

 もう一度深い溜息をつくと、酒を飲み干し、儂は件の青年の元へと歩んでいった。

 

 

 

 

 

 

 「のぅ、そこの若いの。」

 

 「!!は、はい!!軍の方ですか!!いやぁ、あのおっぱ……お姉さんには感謝だな!!俺、タツミって言います!!それなりに腕に自信はあります!!何でも隊長格から――……」

 

 

 儂が声をかけた瞬間から、目を輝かせ、弾丸の如く言葉を放つ。

 

 

 「いや、そう興奮するな。儂は軍属ではないわ。かか、成程。大体察しがついた」

 

 「……え?軍の人じゃ……ない?じゃあ何で俺に……」

 

 「ぬし、あー……少しばかり胸のでかい女に軍に入隊させてやるやら何やらと言われて、有り金渡したろう?」

 

 「は、はぁ?はい、人脈と金で……って話で。だからてっきり、じいさんが軍のお偉いさんだと思って……」

 

 青年が、一切の曇りの無い眼で此方を見るものだから、儂は更に大きな溜息をついた。

そしてはっきりと、告げた。

 

 「あのなぁ、ぬしが預けた金は今頃、酒になっておるか、賭博の元金になっているかのどちらかだ。――……騙された、と、言うわけだ。気の毒だがな。」

 

 それを聞いた青年は、しばらく呆気にとられ、口を大きく開けていた、が。

 

 

 「い、いやいやいや!!まだわからないし!!渡した額だって、かなりの――……」

 

 そこまで青年が言うと、今度は店主もやってきて、儂の前に酒を置いた。

 

 「先生の言う通り。アンタ、金、持ち逃げされたよ。その手じゃ有名な御人にね。」

 

 「え!?」

 

 「全く、今の帝都で人をホイホイ信じるとはね……。そんで、その有名な御人の師匠が、この人さ。その点じゃあ幸運だったね。今の帝都で屈指の良識人だから、先生は」

 

 「ぜ、全額、丸ごと……?」

 

 「うむ。気の毒だがな。」

 

 「一銭も返ってこないだろうねぇ。」

 

 絶望の表情を浮かべ、真っ白になる青年を見て、儂は店主に耳打ちした。

 

 「店主、此奴の支払いも儂が持つ、何か美味いものでも、ちと作ってくれんか?」

 

 「はいはいっと。先生がまた国の……いや、これ以上言ったら首が飛んじまう。」

 

 

 そうして、しばらく、不肖の弟子の被害者に料理をおごり、儂は軽く酒を嗜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 「あのおっぱい……じゃなくてあの女ァァァ!!」

 

 

 「かかか!!若いのぅ」

 

 すっかり陽は落ち、暗くなった帝都の一角を、儂と青年は歩く。

 

 「あ、そういえば!!その、本当にありがとうございます!!俺、タツミって言います!!料理までご馳走になっちゃって……」

 

 ふと、怒りから覚めたのか。青年、タツミはそう言うと、儂に深く頭を下げた。

 

 「かか、気にするな。ところで……ぬしはこれからの行く宛はあるのか?弟子のせいで無一文になったのだ、少しの面倒くらい受けもたんと道理を違えるわ。」

 

 そう言って煙管をくわえ、火種を落とした。

 

 

 「あ、いや……他に二人、一緒に帝都で合流……する筈だった奴らが居るんです。まずはあいつら探さないと……」

 

 「……合流、とな?ぬし、田舎から出てきた口か?」

 

 「えぇと、はい。もしかしたら、もう軍とかに入隊済ませてたりするかも……。サヨは器用な奴だし……。」

 

 

 その言葉を聞き、紫煙を吐き出す。

 

 「……そう、か。……だがもう夜も深い。ぬしさえよければ儂の家に来るか?同じ年代の子らがいるのでな、退屈はせんと思うぞ」

 

 

 「……」

 

 だが、タツミは目を細め、頬を膨らませる。

 

 「……確かあの女の師匠だって」

 

 「かかか!!信用ならんか!!」

 

 そう言うと、更に目を細めた。

 

 「そういえば、爺さんの名前は?一応は助けて貰ったわけだし、それに何か結構偉そうな雰囲気が……」

 

 「ふむ。そうさのぅ……一応帝都では、こう呼ばれておる――……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……无二打(にのうちいらず)、とな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――……この日、青年タツミは、本来在るべき道とは別の、運命に出会う。

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